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第十三章
450 ブラックヴァイパー ②
しおりを挟むブラックヴァイパーに潜入できたのは良いが、重要なのはここからである。
まず俺が狂犬のポッチに認められたことで、俺を連れてきたハイロウが声を上げた。
「へ、へへ。強者も無事に連れてこれやしたし、俺たちのアニキを、どうか解放してはくれやせんでしょうか?」
ハイロウは下手に出ながらも、ポッチの反応を窺う。
するとポッチはそれを聞いて、イラついたように舌打ちをすると、ハイロウへと怒鳴る。
「チッ、解放する訳ねえだろ! お前らが連れてきたこの人が金貨百枚分の活躍をしたら、そのときに改めて考えてやる!
もっと早く解放してほしければ、この人のような強者をたくさん連れてきやがれ! そうすればその分だけ、お前らのアニキの解放が早まるだろうからな!」
「ぐっ……な、ならアニキに会わせてくだせえ! ア、アニキはいったいどこにいるんでさぁ!」
ハイロウはアニキとやらが解放されないことを知り、せめて一度会いたいと懇願した。
「うるせえ! 簡単に会わせるわけねえだろ! それにお前らのアニキは、ボスがどこかに連れていっちまったからな! どこにいるかは、俺様も知らねえぜ! ぎゃはは!」
「そ、そんな……」
やはりこうなったか。そう簡単には、解放するはずもないだろう。事前にこうなる可能性については、話し合っていた。
なのでハイロウたちは悔しそうにしつつも、素直にそのまま引き下がる。
それとポッチの言葉に、嘘は見られない。心の表層から読んだ限り、本当にアニキとやらの居場所を知らないみたいだ。
だとすればその居場所は、アニキとやらを連れて行ったという、ブラックヴァイパーのボスに直接訊く必要がある。
まあ、どのみちブラックヴァイパーのボスには会う必要があるし、そのときに確かめればいいだろう。
たとえ仮に心技体同一が効かない相手だったとしても、やりようはいくらでもある。
そんなことを思いながら、まるでハイロウたちの問題を気にも留めないように、俺はポッチへと声をかけた。
「それで、俺の待遇はどうなるんだ? 金は稼げるんだろうな?」
「――ッ!! あ、ああもちろんだ! 月に基本給を金貨一枚。それと活躍に応じて、報酬が追加で出される感じだ! あ、あんたなら、月に小聖貨も夢じゃねえぜ!
それと当然あんたが稼いだ金は、あんたの物だ。こいつらには渡らねえ。あくまでもあんたの活躍度合いで、あいつらの問題が進展するって話しだ!」
ポッチは俺に腕を切断されたのがトラウマなのか、焦ったようにそう口にする。
ふむ。基本給で金貨一枚か。それだけでも、かなりの額だな。一時的な雇われなら、十分だろう。
ちなみに金貨一枚とは、だいたい五十万~百万くらいだ。更に活躍次第で、報酬が支払われるらしい。
小聖貨も夢じゃないということは、基本給よりも活躍次第の報酬の方が、メインになるのだろう。
報酬だけ見れば、中々においしい仕事である。だが俺にとって報酬は二の次だ。
このブラックヴァイパーが、ハンスとどこまで関わっていたのか。そしてジンジフレ教に対して、今後何かしようとしているのか。それを知る必要がある。
あとはついでに、ハイロウたちのアニキとやらを救出する必要があるのだ。なので俺は提示された報酬に対して、納得したような反応をしておく。
「なるほど。では少しの間、世話になる」
「おおっ! そうか! あんたがいれば、百人力だ! 食事や泊まるところについても、当然面倒を見るぜ! 他にも何かあれば、言ってくれ! この狂犬のポッチ様の名前を出せば、下っ端共は動いてくれるはずだぜ!」
俺がそう言ったことに安堵したのか、ポッチは尻尾を振りながら笑みを浮かべた。
とりあえず最低限の信用を得るために、まずはある程度は働こう。
いきなりボスに会わせろと言っても、たぶん無理だろうしな。
それに最終的に何をするかは、既に決めている。なのでそこまで急ぐ必要は無い。
まあ、プリミナたちが返ってくる二、三日後くらいまでには、どうにかしたいところだけどな。
故に俺は、ポッチに何をするべきかまずは訊いてみる。
「それで、実際俺は何をすればいいんだ?」
「ああ、あんた、いやモブメッツさんには、荒事関連を手伝ってもらう。なので俺様と共に、敵対している奴らと戦ってもらうことになるだろう。
最近色々あって、俺様たちの縄張りに入ってくる輩が増えてきたからな。活躍の場は多いぜ!」
おそらくその色々とは、ハンスが消滅したことによって発生したことなのだろう。
ハイロウから聞いた話では、それによって戦力としていたサーヴァントが軒並み失われたみたいだしな。
敵対勢力からしたら、今が狙い目なのかもしれない。
「なるほど。一応注意しておくべきことはあるか?」
「そうだな。キングクラブの幹部どもには、気をつけてくれ。俺様でも手こずる相手だ」
「キングクラブ?」
なんだ。そのそそられるネーミングの勢力は。
「ああ、キングクラブだ。俺様たちブラックヴァイパーは街の東南のスラム街を牛耳っているが、奴らは北東のスラム街を支配しているマフィアだ。
奴らとは長年争っていて、近いうちに訪れる大一番の前に潰しておきたい組織になる。なのにそれも、現状難しいときた。だからこそ、モブメッツさんには期待してるぜ!」
どうやらキングクラブとは、敵対しているマフィアのことのようだ。この街には、ブラックヴァイパーとキングクラブという、二大マフィアがしのぎを削っているのかもしれない。
俺がそのことを思案していると、ポッチが続けて言葉を発する。
「それと外側の街壁にへばりついているスラム街には、ゴブリオックどもがいやがる。奴らは基本的には、数だけが多いザコ共の集まりだ。
そいつらが街の中へと進出するために、ブラックヴァイパーの縄張りに無謀にも、カチコミを仕掛けてきやがる。潰しても潰しても、地下道を作って侵入してくるゴミ共だ!」
なるほど。街の外のスラム街には、ゴブリオックという勢力もいるらしい。
加えてその勢力は、地下道を作って街の中に不法侵入しているようだ。
それをブラックヴァイパーが潰しているのだとすれば、ある意味街を裏から守っているのかもしれない。
「とりあえず、敵対している者たちについては理解した。キングクラブの幹部には気をつけよう。そのために、細かい特徴について教えてくれ」
「ああ、キングクラブの幹部どもは――」
俺はポッチからキングクラブの幹部や、ついでにゴブリオックにいるという、強者などについても教えてもらった。
他にも敵は別の街や領からもやってくるらしく、そいつらを追い払うこともしているらしい。
だとすれば、本当に活躍の場は多そうだ。何度か大きな成果を上げれば、ブラックヴァイパーのボスに会うことも、たぶん可能になるだろう。
そうして俺がポッチから、ある程度の話しを聞き終わった時だった。一人の男が、慌てたようにこの修練部屋へとやってくる。
「た、大変だ! ゴブリオックの奴らがカチコミに来たぞ! 場所は娼館エリアだ!」
「なんだと! よしわかった! 野郎ども! ゴブリオックのゴミ共をぶっ殺しに行くぞ!!」
男の言葉を聞いたポッチは、即座に反応して声を張り上げた。その声に続くようにして、構成員たちが叫ぶ。
「おぉおお!!」
「やってやるぜえ!」
「ゴブリオックのクソ共がぁ!」
「ぶっ殺してやる!」
「ひゃっはぁー!!」
ポッチはあんな性癖でも慕われているのか、一瞬にして構成員たちをまとめ上げる。
「モブメッツさんも、早速だが来てくれ! ゴブリオックのゴミ共をぶっ殺しに行こうぜ!」
「ああ、わかった」
そうして俺は狂犬のポッチたちと共に、カチコミに来たゴブリオックたちと戦うことになるのだった。
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