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第十三章
452 ブラックヴァイパー ④
しおりを挟む強者二人が倒されたことで、後はもう簡単だった。
ゴブリオックの構成員たちは瞬く間に倒されていき、残りはどこかへと逃げていく。
下っ端構成員を全てどうにかするつもりはないのか、深追いをすることはなかった。
またゴブリオックのそこそこ強い者も、正直普通の構成員に毛が生えていた程度である。
俺は当然として、狂犬のポッチや二剣のラブの相手にはならなかった。
ちなみに二剣のラブは、二本の長剣を巧みに使う戦い方をしており、冒険者だとBランクに近いCランクという感じである。
対して狂犬のポッチは、拳と素早い動きで敵を圧倒する戦い方をしていた。元Bランク冒険者なので、普通に強い。
俺に一撃でやられていたが、本来はポッチの相手をまともにできる方が、少数なのである。
そうして娼館エリアでの出来事は、こうして終息を迎えた。
ちなみにスラム街ということもあり、特に衛兵がやってくることは無い。もしかしたら何かしらの取引や賄賂などで、どうにかしているのだろう。
まあそれについては、どうでもいいことである。
「ポッチちゃん。今回は本当に助かったわん! それと、そこのかっこいいお兄さんもありがとねん! あちしは、ブラックヴァイパーで幹部をしている、二剣のラブよんっ! 担当は娼館部門になるわん!」
事態も落ち着いたこともあり、ラブがそう言ってお礼と共に、自己紹介をしてきた。
「構わねえぜ! 俺様は、マロンちゃんが無事ならそれでいい! それとこのお方は、モブメッツさんだ! 強者警戒を持つハイロウというやつが、連れてきた御仁だぜ!」
「普段は旅をしている、Bランク冒険者のモブメッツだ。路銀を稼ぐがてら、少々やっかいになることにした」
ポッチが俺のことを自慢げに紹介したそれに続いて、俺もラブにそう名乗っておく。
「んまっ! 珍しいスキルを持っていたから、特別に役割を与えて見逃してあげたあの子たちねんっ! 残念だわ、あちしが本部にいたら、今頃あちしの部門に入っていたのにんっ。
どうかしらモブちゃん、今からでもあちしのところに来ないかしらん? 来てくれたら、天国を見せてあげるわよんっ!」
俺の実力を目の当たりにしていたからか、ラブがウィンクを飛ばしながら勧誘してくる。当然、お断りだ。身の毛がよだつ。
「遠慮しておく。ポッチの荒事部門の方が、気が楽だからな」
「そうだぜ! たとえマロンちゃんが世話になっているラブだとしても、モブメッツさんを引き抜くのは止めろや!」
「ああんっ、残念だわんっ。でも、もし気が変わったら、いつでもあちしに声をかけてねんっ!」
ラブは体をクネクネとさせながら、残念そうにそう言った。
「わんっ!」
「にゃわんっ!」
俺たちがそんな話をしていると、いつの間にかマロンちゃんとレフが、仲良しになっている。二匹で楽しそうに、戯れていた。
そういえば、ポッチとマロンちゃんの関係について気になるな。いや、何となく予想はできるが、そうなった経緯が知りたい。
確かポッチは、性欲が溜まって仕方がないと言っていたはずだし、自身でロリコンと豪語していた。
しかしマロンちゃんは大型犬であり、明らかに成犬である。またマロンちゃんがいるのなら、性欲が溜まるということには、少々疑問が残った。
故に俺はポッチに対して、マロンちゃんとの関係性について訊いてみる。
「なあ、今更だが、ポッチとマロンちゃんの関係ってなんなんだ?」
「おおっ! 俺様とマロンちゃんの逢瀬や出会いが気になるのか? 仕方ねえなぁ。あれはある雨の日の出来事だった――」
そうしてポッチは、長々とマロンちゃんとの出会いからその後の関係性まで、楽しそうに語った。
概ねその内容は、こんな感じである。
まず雨の日に、捨てられていた子犬のマロンちゃんを拾ったらしい。捨てられていた箱には、マロンという名前が書かれていたようだ。
そのときポッチがマロンちゃんを拾ったのは、一目惚れだったらしい。
それからマロンちゃんを拾ったポッチは、自分で世話をするのが難しいことに気がつく。なにかと対処する荒事が多く、またそもそも世話をできるような性格ではなかったからだ。
なので女性の多い娼館部門を仕切るラブに頼んで、マロンちゃんの面倒を見てもらうことにしたようである。そこなら、マロンちゃんが安全に暮らせると思ったからだという。
結果としてマロンちゃんは、娼館エリアで看板娘的なポジションになり、女性たちから愛されているようだ。
なのでポッチは、マロンちゃんを受け入れてくれた責任者のラブには、それなりに恩を感じているらしい。
その後は定期的に娼館エリアへと通い、ポッチはマロンちゃんとの関係性を深め、ポッチ曰く合意の上で結ばれたらしい。マロンちゃん視点では不明である。
故にポッチにとってマロンちゃんは、恋人ならぬ恋犬という感じであり、特別なようだ。
だからこそあまり無理をさせずに、決まった日に優しく抱くらしい。その結果として精を吐き出すよりも、溜まる方が早いようだ。元々ポッチの性欲が、強いことも影響しているらしい。
それもあって、他で性欲を発散しているようだ。浮気とかそういう自覚は無いとのこと。グレイウルフなどは、単なる性処理道具という認識らしい。
また子犬からの関係性なので、ポッチがロリコンだとしても、成犬のマロンちゃんは例外のようだ。
正直かなり闇と業の深い話だが、ポッチ視点では純愛とのこと。
それもあり、マロンちゃんが犬質にとられたら、何もできなくなったのだという。
これでもしマロンちゃんが成人女性だったなら、もしかしたらラブロマンスになっていたかもしれない。いや、無いか。
それに相手は、当時捨てられていた子犬である。ポッチが犬の獣人ということを踏まえても、普通にヤバイことだろう。
「にゃわわんっ~!」
「わん?」
しかし俺がそう思っている傍らで、レフはその話を聞いてなぜか目を輝かせていた。いったいこの話しのどこに、感動する要素があったのだろうか?
それにポッチはもう手遅れだ。俺たちには救えない存在だろう。堕ちるところまで堕ちている。
唯一の救いは、マロンちゃんの精神に異常がないことだろう。ぱっと見では、人懐っこく賢い犬である。
おそらくポッチのやさしく大事にしているというのは、そこまで嘘や思い込みではないのかもしれない。
そうしてポッチとマロンちゃんの関係性を聞いた頃には、周囲はあらかた片付いていた。
ちなみに貪欲のゴブックと暴食のオーグンは、ラブによってどこかに連れていかれている。
どうやらラブは、拷問も得意らしい。今回の出来事を、洗いざらい吐かせるようだ。
なのでポッチの話の途中から、実はいなくなっている。
正直話すだけで疲れる人物だったので、いなくなったことにホッとしていた。
まさか俺の精神にあれだけの負担を与えるとは、ある意味侮れない存在である。
またポッチの話が終わったタイミングで、ラブの配下が助けに来てくれたお礼に、店で楽しんでいってくれと口にした。
だがここは娼館エリアなので、当然その内容とはそういうことである。
俺はその申し出を断った。加えてそのときレフが俺の足を噛んで引っ張り、行くな行くなと訴えかけていたのである。
レフがそうしなくても、元々俺にそんな気は無い。
それとポッチも人族には興味が無いらしく、拒否していた。
しかし何もお礼をせずに帰すのは不味いらしく、せめて酒だけでも飲んでいって欲しいと頭を下げられてしまう。
流石にポッチもそれを断ることはなく、俺も仕方なくそれに続いた。
そうして案内された建物の中は、行ったことは無いが、キャバクラというイメージがピッタリな場所である。
ちなみにポッチの配下の構成員も、ここよりはランクは下がるが、別の場所で接待を受けているらしい。
そして俺とポッチは、半円状の長いソファに案内された。テーブルには酒のボトルとグラス、フルーツなどが置かれている。
また空いている席には、何人もの女性が同席してきた。どう見ても、キャバ嬢という雰囲気だ。
すると案内してくれた構成員の男が、ここは連れ込み宿も兼ねているので、もし気に入った子がいたら構わず声をかけていいと口にしたのである。
もちろん俺がそれに乗ることはない。俺自身この体になってから性欲は無いに等しいので、手を出す気は全く無い。
何より俺の超直感が、絶対にやめておけと警報を鳴らしていた。
そうして高そうな酒やフルーツ、それとつまみ類を口にする。
ちなみにレフとマロンちゃんもここにおり、それぞれミルクやフルーツなどを与えられていた。
レフはその中でアプルの実を、シャクシャクと良い音を鳴らしながら食べている。
その間に周りの女性たちが、俺に声をかけてきた。しかし俺はそれを適当に流しつつも、変な言質を取られないようにする。
俺の活躍を既に知っているらしく、愛人になんとか収まろうとする者までいたからだ。あとはひたすら褒められたりした。
なお俺にお触りしようとしてきた手は、自然な形で回避したり、やさしく叩いておく。男でも女でも、知らん奴にはあまり触られたくはない。
するとそんな女性の中で、ふと一人の女性が視界に入る。
ふむ。何というか、どこかで見たことがあるような……。
茶色く長い髪と同色の瞳をした、二十代前半と思わしき女性。化粧をしているが、その面影をどこかで見たことがあったような気がした。
会ったことがあるとすれば、五、六年前だよな? だとすれば当時十代半ばくらいということになる。
俺が初めてシルダートの街にやってきたときに、会ったことのある十代半ばの少女……あ、もしかして、あいつか。
記憶の底から浮かんできたのは、タヌゥカの取り巻きの女の一人だった。
確かタヌゥカに奴隷から買われたとか、そんなことを言っていたことを思い出す。それとあの時、色々と暴露してくれた少女でもあった。
そういえばジェイクの話では、借金で奴隷に再び落ちて、返済のために街に買われたんだったか。
しかしそんな奴が、スラム街でマフィアが運営しているこの場所にいる。なら少なくとも現在では、街の手からは離れているのかもしれない。
ということは、一度何らかの手段で借金をどうにかしたのだろう。
すると俺が視線を向けていたことに気がついたのか、女性はニコリと笑みを浮かべると、こちらに話しかけてくる。
「モブメッツさんというのですよね。私はヤレコルといいます。よろしければ、お隣いいですか?」
「ん、ああ、構わない」
俺もヤレコルと名乗った元タヌゥカの女の事情が少々気になったので、そう言って頷いた。
それにより俺の隣でアピールしていた女性が少し悔しそうにしつつも席を立ち、代わりにヤレコルがそこに座る。
ヤレコルは香水をつけているのか、淡い花のような香りがした。
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