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第十三章
456 ブラックヴァイパー ⑧
しおりを挟む「ヴィレッタ様!?」
「てめぇ! 何をしやがった!」
「ヴィレッタ様はご無事か!」
「貴様! ヴィレッタ様から離れろ!」
すると案の定、勘違いした者たちが俺に怒りの矛先を向けてくる。
このままでは確実に、襲い掛かってきそうな勢いだ。
なので一応手加減をして、昏倒させる程度で済ませようと思ったのだが、それは杞憂に終わる。
男たちの怒声により意識を取り戻したのか、ヴィレッタが立ち上がって声を張り上げたのだ。
「待ちなさい! 私は大丈夫よ! この人への危害は許さないわ!」
まさに、鶴の一声だった。それにより、こちらに何かしようとしていた男たちが停止する。
しかしだとしても、今の出来事は異常だと思ったのか、男の一人が反論を始めた。
「ですがヴィレッタ様、今のは普通ではありませんでした。どちらにしても、その男からは離れるべきかと!」
「お黙りなさい!」
「……しょ、承知いたしました」
だがその反論は、即座にヴィレッタによって黙らされてしまう。
「ははっ、ヒヤヒヤしたぜ! ヴィレッタが止めてくれなきゃ、今頃護衛の男どもは大変なことになっていただろうからな!」
「ポッチさん、それよりも闘技部門との関係が面倒なことにならなかった方に、安心してくださせぇ」
「ぎゃははっ、それもそうだな!」
またポッチはそう言いながらも、今の出来事を楽しそうに笑っている。
対してついてきていた配下たちは、争いに発展しなかったことにホッとしているみたいだった。
ふむ、なんとなくヴィレッタの身に起きたことは予想できそうだが、一応訊いておこう。
そして俺もこれまでの冒険の経験もあって、この程度では動じるはずもなく、ヴィレッタへと声をかける。
「一応何が起きたのか、ヴィレッタから説明してもらってもいいか?」
「貴様! ヴィレッタ様に何たる口の聞き方だ! 無礼にもほどがあるぞ!」
しかし俺が口を開くと、この部屋にいた護衛の一人が噛みついてくる。だがそれと同時に、ヴィレッタが𠮟りつけた。
「無礼なのはあなたよ! 私は別に構わないわ! あなたがいては話しが進まないから、この部屋から残りもまとめて出ていきなさい!」
そう言って今度は反論も許さずに、男たちを追い出してしまう。
これでヴィレッタの周囲に護衛はいなくなってしまったのだが、本人は別に気にしてはいないみたいだ。
「さて、これでようやく落ち着いて話しができるわね。まず先ほどのことだけど、端的に言うわ。あなたの生命力と魔力が、あまりにも美味しすぎたのと、気持ち良すぎたのよ。
私はこれまで多くの者たちに生魔ドレインをしてきたけど、モブメッツ君、あなたほどのものは初めてよ。正直至ってしまったわ」
ヴィレッタは頬を赤くしながら、そう口にした。
ふむ。やはりそんな感じだったか。俺はデミゴッドだし、これまでの冒険を乗り越えてきたことで、成長もしている。
だとすれば当然、俺の生命力と魔力は絶品だろう。ヴィレッタの言う『至った』というのはよく分からないが、たぶん満足したとかそういうことだと思われる。
よく見れば先ほどよりも肌がツヤツヤしており、シワも少なくなっている気がした。実際どうなのかは不明だが、五歳くらいは若返ったようにも見える。
「そりゃすげえな! 俺様の時は野性味があふれる生命力が美味だと言って、澄ました感じだったが、モブメッツさんの生命力や魔力は、それほどまでなのか!」
ヴィレッタの感想に、ポッチも驚いているみたいだった。おそらくだが、そもそもヴィレッタがほめるのは、珍しいことなのかもしれない。
「ええ、私の世界が一変するほどだったわ。これから先、誰に生魔ドレインをしても、不味く感じてしまわないか心配になるほどにね。
私のように年齢を重ねて、なおかつ生魔ドレインを使いこなしていなければ、今頃どうなっていたことか……」
どうやら俺の生命力と魔力の質は、自分で思っていた以上に凄いものだったようだ。
色々と感覚が麻痺している俺だが、これから似たようなことが発生した歳には、気をつけた方がいいかもしれない。
ただ見た感じルルリアの聖肉ほどの依存性は、無さそうである。それについては、少しだけ安心した。
すると俺がそんなことを考えていると、ヴィレッタが軽く深呼吸をしたあとに、改めて俺へと向き合う。とても真剣な眼差しである。
だがそれはそうと、先ほどから握手されたままなので、そろそろ放してほしい。生魔ドレインはされていないみたいだが、もう握手する必要はないはずだろう。
振り払ってもいいが、なぜかヴィレッタから力強く握られている。無理に引きはがせば、ヴィレッタに怪我をさせてしまう恐れがあった。
俺も一応年寄りには手荒なことをしたくはないので、口で言って放してもらおう。
そう思って俺が口を開こうとすれば、それよりも先にヴィレッタが言葉を発する。
けれども聞けばその内容は、あまりにも長いものだった。
「私の持つ全てをあげるから、私の元にこないかしら? 定期的に生魔ドレインさせてもらえば、それだけでいいの。私はこれでもお金持ちで、色々な方面で顔が効くわ。それに私はもう69歳なの。後の短い老人の願いを、どうか聞いてくれないかしら?
もちろん私の地位もあなたにあげるし、欲しがっていた推薦もしてあげるわ。それと戦いたがっていたけど、危ないことはしなくてもいいのよ。あっ、もちろんあなたが戦いたいなら、戦ってもいいの。無いと思うけど、危なくなったら必ず助けるわ。
それと私には息子と孫がいるのだけど、あなたの好きにしていいわよ。息子には会ったわよね? 二剣のラブが私の息子なの。そのラブにはあなたと年の近い娘がいるのよ。そうだ。孫娘と結婚、いえ愛人にどうかしら? 顔は私の若い頃にそっくりなのよ。きっと気に入るはずだわ。
それはそうと、ラブは私が30歳のときに産んだの。年を取ってからの子だからかわいくてね、つい甘やかした結果、あんな感じになったのよね。けど男性だけではなく、女性にも興味があったのは幸いだったわ。それとね――」
「話しが長い! それと残念だが、俺は自由が好きなんだ。いずれこの街も去るから、それはできない。それと推薦は戦って勝ち取るから、その配慮は不要だ。あんたのものにはならない。諦めてくれ」
俺はヴィレッタのあまりにも長い話しを途中で打ち切って、そう宣言した。
正直二剣のラブがヴィレッタの息子で、更に孫娘がいることには驚いたが、このままだと永遠に話し続けそうな勢いである。
「はぁ!? ラブの野郎、ヴィレッタの息子だったのかよ!? というか娘がいるとか、あいつオカマでも、普通に女も抱けたんだな。
娼館の嬢はラブが直接指導しているとは聞いていたが、そういうことだったのか。驚きだぜ! いや待て、もしかして、俺様のマロンちゃんにも手を出していないだろうな!?」
どうやらポチもそれを知らなかったらしく、その犬の顔でも分かりやすいくらいに、大変驚いていた。
あとマロンちゃんは、たぶん大丈夫だと思うぞ。ラブがマロンちゃんに向ける眼差しは、犬に向ける至って普通のものだったからな。
そしてそんな中、俺の言葉を聞いたヴィレッタはというと……。
「ひぃいいん! いやだいやだ! モブメッツくんがほしぃのぉ!」
そう言って泣きわめくと、手に持っていた扇子を投げ捨てて、俺の腰へと抱き着くように縋りついてきた。
老婆が行う幼子のような言動と行動に、俺は思わずこう口にしてしまう。
「うわっ、きっつ」
「にゃぁあ!」
またレフも犬であることを忘れて、鳴き声をあげた。
「ギャハハッ! いつも澄ました表情のババアが、まるで少女のようだぜ!」
「俺たちはいったい、何を見せられているんだ……」
「幼児化美魔女ババァ……推せるッ!」
「え? お前、頭大丈夫か?」
するとポッチはそれを見てゲラゲラと笑い、その配下の三人もそれぞれ思い思いに言葉を発した。
状況はまさに、混沌とし始めている。
召喚と混沌の神である俺が、まさか混沌とした状況に悩まされることになるとは……。
年寄りにはあまり手荒なことはしたくないのだが、さて、この子泣きババアをどうしたものか……。
俺は目の前の状況に、頭を抱えたくなるのだった。
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幼児化美魔女ババァという、新ジャンルが爆誕しましたね!(誰得)
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