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2. 激闘の香港
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~中国特別行政区~
香港島、九龍半島、その他200もの島々からなる特別行政区、通称香港。
飛鳥組の中国拠点も、この香港島にあった。
度重なる香港マフィアからの襲撃、商流の妨害に決着をつけるべく、若頭の飛鳥神《あすかじん》は、李龍尊《リロンソン》率いる最大マフィアとの「和解」に踏み切った。
西九龍公路《ウェストカオルーンハイウェイ》の北側。
広い敷地にある、龍尊《ロンソン》の豪邸。
精鋭を揃えた車列が、九龍半島《くりゅうはんとう》へ渡り、その豪邸を目指していた。
「いいかお前ら、号令があるまで、誰も中へ入るな。そして車から出るなよ」
スーツの胸ポケットに刺した、ペン形マイクで告げる神《じん》。
その声はイヤホンを通して全員に伝わった。
神の黒サングラスには、超小型カメラが仕込まれており、彼の目線は全員の黒サングラスの角に映し出されていた。
(便利な世の中になったもんだ)
全て世界的なエンターテイメント会社、TERRAコーポレーションからの提供である。
社長であるトーイ・ラブは、世界的に人気のシンガーソングライターや女優として活躍する他、国連や国政にも関与する特権をも得ており、世界平和活動や援助活動を続けている。
また裏の顔は、機密組織EARTHを率い、宇宙規模の危機に立ち向かって来ていた。
大きな門の前で、車列が停まる。
「合図を待てよ!」
「神さん、合図って…」
「その時がくりゃあ、分かる」
そう言って、一人車を降り、門へと向かう。
「欢迎《ようこそ》」
門が開き、迎えの車のドアが開く。
(馬鹿みたいに広ぇな)
敷地内を車で5分弱。
ど派手な宮殿の前で降りた。
二階から上はビルになっている。
内門が開くと、奥へと手を指し示す。
その方へ躊躇《ためら》う事なく進む。
付き人はいない。
(この先は特別ってわけか…面白い)
身に付けている3丁の銃でさえ、ノーチェックであった。
階段を上がり、両サイドが開けた廊下を歩く。
その先の扉から、葉巻を加えた巨体が現れた。
「よく来たな、飛鳥神」
香港マフィアの元締め、李龍尊《リロンソン》。
「これはまた、随分と健康そうで、何より」
李に続いて、自動小銃を持った輩《やから》が数人出て来た。
「まさか、本気で手打ちなど考えてはいまい」
輩《やから》達が道を開けると、手練れの殺し屋が神の前に立ちはだかる。
「ほぅ、双剣のハク・シギョンか。龍尊《ロンソン》、話をしに来たつもりなんだが…」
(っ…上か)
神《じん》の立つ廊下の屋根に、ショットガンを構えた殺し屋、楽林《ガクリン》がいた。
「今更お前と話す事はない、死ね」
「おいおい、勘違いすんなデブ。俺は、忠告を伝えに来たんだぜ」
もとより、和解などする気はなかった。
「あんた、怒らせちゃいけねぇ奴を怒らせちまった。相手を間違えたな」
神が不敵に笑む。
真下に向けたショットガンの引き金に指が…
「バシュ!」…「ドサッ」
屋根から、頭を撃ち抜かれた楽林が落ちた。
慌てて自動小銃の銃口を上げる輩達だが…
「バシュ、バシュ、バシュ」
瞬時に頭を撃ち抜かれていく。
200m程離れたビルの屋上から、ティークのライフルが、的確に的を射抜いていた。
「杀《ころせ》!」
走り出したハク・シギョン。
その時。
「ガガガガガガッ!」
目先の廊下を、急降下して来た、ジェットヘリの機銃が粉砕した。
煙の中に降り立った影。
それへ、シギョンの双剣が牙を剥く。
一閃。
トーイ・ラブの刃《やいば》が、双剣ごとシギョンの体を切り裂いた。
「死ぬかと思ったぜ、ラブ」
「無茶するわね、良かった~間に合って💦」
「マジか…💧」
「神…怒らせちゃいけない奴って誰よ?」
「やっぱり聞かれてたか💦」
「あのね、それどこの製品かしら?」
ラブが自分のサングラスとイヤホンを指さす。
「だよな。おっと…ラブ、お客さんだぜ」
見ると、ざっと…💦…大勢の手下が周りから迫っていた。
「クッ!」 「バン、バン、バン!」
瞬時に跳び伏せながら、近い敵を仕留める神。
「ダダダダダ…」
複数の自動小銃の音。
が、ラブの姿はもうそこにはない。
気づく間もなく、刃《やいば》が走り抜けていた。
一瞬で、5、6人が倒れる。
怯んだ隙に、徒党の中を切り抜けて行くラブ。
~門前~
「合図だ!…多分…な💦 行くぞ!」
一斉に車から出ようとした瞬間。
無数の銃弾が、車を襲う。
「くそっ!」
防弾仕様のドアを盾に、応戦する。
立地的にこちらが不利である。
「神さん、入れね~よ」
その時。
「ガガガが…!」
ヘリの機関銃が敵を一掃していく。
操縦は、東京お台場にある本拠地ビルTERRAのマザーシステム AIによるものである。
「よし今だ、車で突っ込むぞ!」
7台の車が門を突き破り、敷地内へ入る。
窓から銃を連射しながら、神のいる場所を目指して車列が突き進んで行った。
~敷地内~
「さすが中国、人手が多くてキリがねえな」
ラブの後に続く神。
大勢を相手に離れての銃撃戦は不利。
敵の中に入り、空手と銃の近距離戦を選んだ。
数々の修羅場をくぐり抜けた神である。
他勢に臆する事は決してない。
むしろ、笑みを浮かべている。
「組長!」
そこへ手下が合流した。
一斉に車から飛び出し、弾をかわしながら敵を仕留めていく。
「ここは任せた!いいか、死んだら殺すぞ❗️」
得意文句である。
その隙、敵の手刀が神の横顔を掠めた。
動物的な防衛本能と天性の反射神経でかわす。
「クソヤロウが!拳法より、空手が上だ!」
渾身の一撃がその顔面にめり込み、重なる敵をも吹き飛ばす。
…空手…と言うより、喧嘩道である💧
そのまま、屋敷の中へ走り込む。
中では、ラブが次々と襲い来る敵に、なかなか先に進めないでいた。
既に30人程が転がっている。
「神!丁度良かったわ。コイツらお願いね!私は奴を」
「おぅ!」
…条件反射ってのは厄介である。
「えっ、マジかよ💦」
愚痴りながらも、短剣を交わし、拳術?で確実に敵を仕留める神。
身軽に敵の肩へ乗り、頭部の急所を鋭い蹴りで仕留めながら、階段を目指すラブ。
その時、ヘリのエンジン音がした。
「二人ともここで死ね!今頃は日本の龍辰《ロンシン》も自由になった頃だ。お前達の最後を見せてやれなかったが、まぁいい。告别《さらばだ》!」
銃を奪い、邸内のスピーカーを打ち砕くラブ。
「絶対に逃さない!ティーク!」
言われるまでもなく、対装甲強化弾を装填し、ヘリの燃料タンクを狙う。
(っ!)
瞬時にライフルから手を放し、横に転がる。
「バシュ、バシュ」
ティークのいた場所に弾丸がめり込んだ。
次の攻撃が来る前に、高速で敵に走る。
銃口が向く前に、片手に持った刃《やいば》を横に振り絞る。
(…不覚)
男の怯えた目に、それを感じとった瞬間。
「バシュ」
男の胸を貫通した弾がティークを襲う。
この至近距離では避けられない。
表情一つ変えず、刃《やいば》が下から斜め上へと空を薙《な》いだ。
二つに切られた弾の方向が逸《そ》れて左頬を掠め、一方は右肩に着弾する。
切られた男の上半身がズレ落ちてゆく。
それを千切りながらの連弾が襲う。
「バシュバシュバシュ!」
低姿勢で円弧状に走って交わす。
その目先がコンクリートの黒点に気づく。
(影、上か…)
屋上の給水塔から長い斧が振り下ろされた。
体を反転させ、刃でそれを受け止める。
「グッぁ!」
同時に放った瞬速の蹴りが、内臓を破壊する。
「这个混蛋《このやろう》!」
双子の燐峰《リンポウ》・燐蝶《リンチョウ》。
香港マフィア達を葬り去り、龍尊を守って来た殺し屋である。
「バシュバシュバシュバシュ」
怒りが正確さを欠いていた。
「ブンっ、アガッ!……ズン…」
ティークが投げた斧が顔面を分断し、そのまま後ろへ倒れた。
敵を倒しながら、それを聴いていたラブ。
(アイ、邸宅の図を!)
ラブの頭脳は、マザーシステムAIと繋がっており、瞬時に頭に送られて来る。
「ダンッ!」
壁を蹴り、そばの窓へと跳ぶ。
「ガシャーン」
窓を突き抜け、隣の建物の壁を蹴る。
二つの建物の壁をジグザグに蹴りながら、一気に屋上へ辿り着いた。
「何っ!し、死ね!」
機銃を起こして撃ちまくる龍尊。
弾が掠めても、仁王立ちし、燃える瞳で龍尊を睨みつけるラブ。
「坠入地狱《地獄に堕ちろ》」
「ダンッ!」
(悪い、少し遅れた)
ティークの放った対装甲弾が、風になびくラブの髪を抜けて、ヘリに突き刺さる。
「ズドーン💥❗️」
タンクが爆発し、浮上中の機体が落下した。
「グァぁぁー!」
投げ出された龍尊に機体がのしかかる。
「た、助けてくれ、頼む…」
蔑《さげす》みの目で、一瞥《いちべつ》し、背を向ける。
奴にかける情けはない。
(ラブ、準備完了!)
ティークと同じく、ラブの片腕である、T2である。
「神、出るわよ!」
「了解っ!」(生きてやがったか…ホッ)
玄関側へ飛び降り、振り向きざまに手首に付けた小型装置から、特殊ワイヤーを屋上へ放つ。
その先が開き、屋上の縁に固定される。
丁度、神が出て来た横に、ラブが舞い降りた。
驚く神をよそに、小型手榴弾で入口を塞ぐ。
外は、粗方片付いていた。
「ラブ、乗れ!…ありゃ?」
車のドアを開けて、振り返る神。
どこからか現れたバイクに飛び乗るラブ。
T2である。
「ヤベ…💣」
「ん?何か言った?」
その瞬間。
「ドーン💥ドガーン💥」
敷地内のあちこちで爆発が始まる。
「急げ❗️」神が叫ぶ。
最後に、二人のバイクが門を出る瞬間である。
「ズドドドッドーン🔥」
広い邸宅の敷地全体が、大爆発した。
爆風に舞う二人乗りバイク。
二つ向こうの家の屋根を壊しながら、地面に着地した。
「やっぱ、ちょっとやりすぎたか💦」
「…何が…ちょっとよ、T2❗️ 」
「派手にやったな、また」
「ティーク!あなたはいつも、ちょっとだけ遅いのよね❗️全くもう」
そう言いながらも、一番信頼している、頼もしい仲間であった。
ラブと神に、ほぼ同時に通信が入る。
「神さん、何だか妙なことになってます」
「ラブ様、お楽しみは終わりましたでしょうか?少し…東京が大変な事になってますわ」
『直ぐに帰って来てください』
ラブに安らかな日常はまずない。
そして、鬼島にラブの命を託された飛鳥神。
その先に待ち受ける運命を、知る由《よし》もなかったのである。
香港島、九龍半島、その他200もの島々からなる特別行政区、通称香港。
飛鳥組の中国拠点も、この香港島にあった。
度重なる香港マフィアからの襲撃、商流の妨害に決着をつけるべく、若頭の飛鳥神《あすかじん》は、李龍尊《リロンソン》率いる最大マフィアとの「和解」に踏み切った。
西九龍公路《ウェストカオルーンハイウェイ》の北側。
広い敷地にある、龍尊《ロンソン》の豪邸。
精鋭を揃えた車列が、九龍半島《くりゅうはんとう》へ渡り、その豪邸を目指していた。
「いいかお前ら、号令があるまで、誰も中へ入るな。そして車から出るなよ」
スーツの胸ポケットに刺した、ペン形マイクで告げる神《じん》。
その声はイヤホンを通して全員に伝わった。
神の黒サングラスには、超小型カメラが仕込まれており、彼の目線は全員の黒サングラスの角に映し出されていた。
(便利な世の中になったもんだ)
全て世界的なエンターテイメント会社、TERRAコーポレーションからの提供である。
社長であるトーイ・ラブは、世界的に人気のシンガーソングライターや女優として活躍する他、国連や国政にも関与する特権をも得ており、世界平和活動や援助活動を続けている。
また裏の顔は、機密組織EARTHを率い、宇宙規模の危機に立ち向かって来ていた。
大きな門の前で、車列が停まる。
「合図を待てよ!」
「神さん、合図って…」
「その時がくりゃあ、分かる」
そう言って、一人車を降り、門へと向かう。
「欢迎《ようこそ》」
門が開き、迎えの車のドアが開く。
(馬鹿みたいに広ぇな)
敷地内を車で5分弱。
ど派手な宮殿の前で降りた。
二階から上はビルになっている。
内門が開くと、奥へと手を指し示す。
その方へ躊躇《ためら》う事なく進む。
付き人はいない。
(この先は特別ってわけか…面白い)
身に付けている3丁の銃でさえ、ノーチェックであった。
階段を上がり、両サイドが開けた廊下を歩く。
その先の扉から、葉巻を加えた巨体が現れた。
「よく来たな、飛鳥神」
香港マフィアの元締め、李龍尊《リロンソン》。
「これはまた、随分と健康そうで、何より」
李に続いて、自動小銃を持った輩《やから》が数人出て来た。
「まさか、本気で手打ちなど考えてはいまい」
輩《やから》達が道を開けると、手練れの殺し屋が神の前に立ちはだかる。
「ほぅ、双剣のハク・シギョンか。龍尊《ロンソン》、話をしに来たつもりなんだが…」
(っ…上か)
神《じん》の立つ廊下の屋根に、ショットガンを構えた殺し屋、楽林《ガクリン》がいた。
「今更お前と話す事はない、死ね」
「おいおい、勘違いすんなデブ。俺は、忠告を伝えに来たんだぜ」
もとより、和解などする気はなかった。
「あんた、怒らせちゃいけねぇ奴を怒らせちまった。相手を間違えたな」
神が不敵に笑む。
真下に向けたショットガンの引き金に指が…
「バシュ!」…「ドサッ」
屋根から、頭を撃ち抜かれた楽林が落ちた。
慌てて自動小銃の銃口を上げる輩達だが…
「バシュ、バシュ、バシュ」
瞬時に頭を撃ち抜かれていく。
200m程離れたビルの屋上から、ティークのライフルが、的確に的を射抜いていた。
「杀《ころせ》!」
走り出したハク・シギョン。
その時。
「ガガガガガガッ!」
目先の廊下を、急降下して来た、ジェットヘリの機銃が粉砕した。
煙の中に降り立った影。
それへ、シギョンの双剣が牙を剥く。
一閃。
トーイ・ラブの刃《やいば》が、双剣ごとシギョンの体を切り裂いた。
「死ぬかと思ったぜ、ラブ」
「無茶するわね、良かった~間に合って💦」
「マジか…💧」
「神…怒らせちゃいけない奴って誰よ?」
「やっぱり聞かれてたか💦」
「あのね、それどこの製品かしら?」
ラブが自分のサングラスとイヤホンを指さす。
「だよな。おっと…ラブ、お客さんだぜ」
見ると、ざっと…💦…大勢の手下が周りから迫っていた。
「クッ!」 「バン、バン、バン!」
瞬時に跳び伏せながら、近い敵を仕留める神。
「ダダダダダ…」
複数の自動小銃の音。
が、ラブの姿はもうそこにはない。
気づく間もなく、刃《やいば》が走り抜けていた。
一瞬で、5、6人が倒れる。
怯んだ隙に、徒党の中を切り抜けて行くラブ。
~門前~
「合図だ!…多分…な💦 行くぞ!」
一斉に車から出ようとした瞬間。
無数の銃弾が、車を襲う。
「くそっ!」
防弾仕様のドアを盾に、応戦する。
立地的にこちらが不利である。
「神さん、入れね~よ」
その時。
「ガガガが…!」
ヘリの機関銃が敵を一掃していく。
操縦は、東京お台場にある本拠地ビルTERRAのマザーシステム AIによるものである。
「よし今だ、車で突っ込むぞ!」
7台の車が門を突き破り、敷地内へ入る。
窓から銃を連射しながら、神のいる場所を目指して車列が突き進んで行った。
~敷地内~
「さすが中国、人手が多くてキリがねえな」
ラブの後に続く神。
大勢を相手に離れての銃撃戦は不利。
敵の中に入り、空手と銃の近距離戦を選んだ。
数々の修羅場をくぐり抜けた神である。
他勢に臆する事は決してない。
むしろ、笑みを浮かべている。
「組長!」
そこへ手下が合流した。
一斉に車から飛び出し、弾をかわしながら敵を仕留めていく。
「ここは任せた!いいか、死んだら殺すぞ❗️」
得意文句である。
その隙、敵の手刀が神の横顔を掠めた。
動物的な防衛本能と天性の反射神経でかわす。
「クソヤロウが!拳法より、空手が上だ!」
渾身の一撃がその顔面にめり込み、重なる敵をも吹き飛ばす。
…空手…と言うより、喧嘩道である💧
そのまま、屋敷の中へ走り込む。
中では、ラブが次々と襲い来る敵に、なかなか先に進めないでいた。
既に30人程が転がっている。
「神!丁度良かったわ。コイツらお願いね!私は奴を」
「おぅ!」
…条件反射ってのは厄介である。
「えっ、マジかよ💦」
愚痴りながらも、短剣を交わし、拳術?で確実に敵を仕留める神。
身軽に敵の肩へ乗り、頭部の急所を鋭い蹴りで仕留めながら、階段を目指すラブ。
その時、ヘリのエンジン音がした。
「二人ともここで死ね!今頃は日本の龍辰《ロンシン》も自由になった頃だ。お前達の最後を見せてやれなかったが、まぁいい。告别《さらばだ》!」
銃を奪い、邸内のスピーカーを打ち砕くラブ。
「絶対に逃さない!ティーク!」
言われるまでもなく、対装甲強化弾を装填し、ヘリの燃料タンクを狙う。
(っ!)
瞬時にライフルから手を放し、横に転がる。
「バシュ、バシュ」
ティークのいた場所に弾丸がめり込んだ。
次の攻撃が来る前に、高速で敵に走る。
銃口が向く前に、片手に持った刃《やいば》を横に振り絞る。
(…不覚)
男の怯えた目に、それを感じとった瞬間。
「バシュ」
男の胸を貫通した弾がティークを襲う。
この至近距離では避けられない。
表情一つ変えず、刃《やいば》が下から斜め上へと空を薙《な》いだ。
二つに切られた弾の方向が逸《そ》れて左頬を掠め、一方は右肩に着弾する。
切られた男の上半身がズレ落ちてゆく。
それを千切りながらの連弾が襲う。
「バシュバシュバシュ!」
低姿勢で円弧状に走って交わす。
その目先がコンクリートの黒点に気づく。
(影、上か…)
屋上の給水塔から長い斧が振り下ろされた。
体を反転させ、刃でそれを受け止める。
「グッぁ!」
同時に放った瞬速の蹴りが、内臓を破壊する。
「这个混蛋《このやろう》!」
双子の燐峰《リンポウ》・燐蝶《リンチョウ》。
香港マフィア達を葬り去り、龍尊を守って来た殺し屋である。
「バシュバシュバシュバシュ」
怒りが正確さを欠いていた。
「ブンっ、アガッ!……ズン…」
ティークが投げた斧が顔面を分断し、そのまま後ろへ倒れた。
敵を倒しながら、それを聴いていたラブ。
(アイ、邸宅の図を!)
ラブの頭脳は、マザーシステムAIと繋がっており、瞬時に頭に送られて来る。
「ダンッ!」
壁を蹴り、そばの窓へと跳ぶ。
「ガシャーン」
窓を突き抜け、隣の建物の壁を蹴る。
二つの建物の壁をジグザグに蹴りながら、一気に屋上へ辿り着いた。
「何っ!し、死ね!」
機銃を起こして撃ちまくる龍尊。
弾が掠めても、仁王立ちし、燃える瞳で龍尊を睨みつけるラブ。
「坠入地狱《地獄に堕ちろ》」
「ダンッ!」
(悪い、少し遅れた)
ティークの放った対装甲弾が、風になびくラブの髪を抜けて、ヘリに突き刺さる。
「ズドーン💥❗️」
タンクが爆発し、浮上中の機体が落下した。
「グァぁぁー!」
投げ出された龍尊に機体がのしかかる。
「た、助けてくれ、頼む…」
蔑《さげす》みの目で、一瞥《いちべつ》し、背を向ける。
奴にかける情けはない。
(ラブ、準備完了!)
ティークと同じく、ラブの片腕である、T2である。
「神、出るわよ!」
「了解っ!」(生きてやがったか…ホッ)
玄関側へ飛び降り、振り向きざまに手首に付けた小型装置から、特殊ワイヤーを屋上へ放つ。
その先が開き、屋上の縁に固定される。
丁度、神が出て来た横に、ラブが舞い降りた。
驚く神をよそに、小型手榴弾で入口を塞ぐ。
外は、粗方片付いていた。
「ラブ、乗れ!…ありゃ?」
車のドアを開けて、振り返る神。
どこからか現れたバイクに飛び乗るラブ。
T2である。
「ヤベ…💣」
「ん?何か言った?」
その瞬間。
「ドーン💥ドガーン💥」
敷地内のあちこちで爆発が始まる。
「急げ❗️」神が叫ぶ。
最後に、二人のバイクが門を出る瞬間である。
「ズドドドッドーン🔥」
広い邸宅の敷地全体が、大爆発した。
爆風に舞う二人乗りバイク。
二つ向こうの家の屋根を壊しながら、地面に着地した。
「やっぱ、ちょっとやりすぎたか💦」
「…何が…ちょっとよ、T2❗️ 」
「派手にやったな、また」
「ティーク!あなたはいつも、ちょっとだけ遅いのよね❗️全くもう」
そう言いながらも、一番信頼している、頼もしい仲間であった。
ラブと神に、ほぼ同時に通信が入る。
「神さん、何だか妙なことになってます」
「ラブ様、お楽しみは終わりましたでしょうか?少し…東京が大変な事になってますわ」
『直ぐに帰って来てください』
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