Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜

心符

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3. 警察の威信

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~東京都府中市~

<府中刑務所>
収容受刑者は3000人以上という日本最大のマンモス刑務所である。

書類にサインをし、所持品と報酬を受け取る。
元暴力団霧島組員、堺清治《さかいきよはる》。

5件の傷害罪で10年の刑期を終えた。
身寄りはなく、警察側から幾つかの就職先は紹介されていた。

「はぁ~!ふぅ~」

大きく深呼吸をし、青空を見上げる。
元犯罪者とはいえ、10年の刑務所暮らしから解放された気分は、爽快なものであろう。

「さて、まずは街へ行ってみるか」

再出発を思い、気を改めた時。
白いワゴン車が停まり、ドアが開く。

「堺様、お送りします。お乗りください」

丁寧な言葉に、つい気も緩む。

「いいんですか?警察の方ですか?」

「その様な者です。まずは、久しぶりの東京の街へでもお連れしましょう」

「助かります。お願いします」
(霧島組はもうないしな…)

ドアが閉まる。
と同時に、黒い布袋を被せられた。

「な、何だ!やめろ!」

抵抗も束の間。
抑えられ、首に針を刺されて意識が消えた。




~東京都北区~

駅裏の小さなコンビニ。

朝の通勤、通学の時間帯を過ぎると、客はまばらになり、一人いた客も、立ち読みだけで出て行った。

バイトの若い店員が、監視カメラの死角に座り、スマホゲームを始める。

「ピンポーン」

入店の知らせが鳴る。

(ちっ!しかたねぇ)
カウンターへ戻る。

と、突然腹面の男がナイフを突きつけた。

「早く金を出せ!」

慌ててレジを開け、札を取り男に渡す。
それをポケットにねじ込み、男が出て行く。

覆面を外して角を曲がり、止めてあった車のドアに手をかけた。

「止まれ!」

両側から男が現れ、瞬く間に取り押さえた。

「強盗の現行犯、並びに連続強盗の容疑で逮捕する」

「カチャ」
手錠が掛けられた。

このところ、豊島区、板橋区、北区で連続していたのである。

店からの通報を受け、パトカーが到着した。

「ご苦労。犯人は確保した。被害報告書をよろしく頼みます」

警察庁の手帳を見せて、警官に告げる。

「ご、ご苦労様です。かしこまりました!」

敬礼し、店の方へ走る警察官。

「驚きましたね」

「ああ、本当にこいつだったとはな」

取り抑えた二人の刑事の会話である。



TERRAテラ最上階~


「おはようございます」

「ふぁ~おはようアイ」

カーテンが開き、床から天井までの特殊ガラスに、東京のパノラマが広がる。

その前に全裸で立つラブ。

最上階は、このビルのオーナーである彼女の居住スペース、つまりは家であった。
彼女は、眠る時とこの家にいる間は、何も身につけず、安心と解放感で心を癒やす。

「ラブ様、いつまでも裸でボーっとしておられず、降りて来てくだいませ」

マネージャーのヴェロニカが呼ぶ。
考古学専門で、世界最高レベルの頭脳を持つ。
ラブに命を助けられた際、彼女の秘密を知り、今は亡き片岡 芽依《メイ》の後を継いだ。

「了~解」

(いったい、何が起きてる?)

眼下の警視庁ビルを見下ろし、目を細める。
外れたことのない、嫌な予感が走る。



~警視庁凶悪犯罪対策本部~

朝からビル内は右往左往の大混乱であった。

「おは…ようござ…」

「淳、紗夜!ボーっとしてないで、あなた達も早く準備をして!」

テーブル上から咲の檄《げき》が飛びまくる。

「ミニスカにヒール、お立ち台ガールだな、ヒラヒラの扇子《せんす》でも持たせてやるか?」

「淳、不謹慎よ!」
と言いながら、その姿を想像した紗夜である。

「部長おはようございます、なんですこれ?」

「おお、おはよう。午後から警視総監殿が、今回の事件について、状況確認と励ましに来られることになってな」

「あぁ…なるほど」

「淳、紗夜、君達も担当事件の報告を準備したまえ、不手際のない様にな」

「わ、わかりました!」

「激励ねぇ~」淳のボヤき。

多発している連続殺人事件に対し、マスコミは警察を責めたて、その威信は地に落ちていた。

「淳、ボヤいてないで、分かったことを整理しましょ!」

「はいはい、仕方ねぇ、やるか」

淳一が仕切るのは、あのバラバラ殺人。
見たくない写真の山であった。



10:30

各対策本部の準備は、ほぼ整った。

ふとつけた大きなテレビスクリーンに、皆の動きが止まる。

「今朝、東京北区のコンビニに強盗が入り、その直後、現行犯逮捕されました。犯人はまだ未成年で、連続していた6件のコンビニ強盗についても、犯行を認めているとのことです」

「これって…」気になった紗夜。

「待ち伏せね。どうやったかは、分からないけど、あの少年が強盗をすると疑って、後を付けていたとしか考えられないわ」

「又は、あの店に強盗が入ると知っていた…」
紗夜の脳裏に、一人の少女が浮かんだ。

「まぁ、とりあえず、連続的な犯罪が止められたのは良いことだ。所轄の刑事に負けるな!」

「はい!」

今の富士本には、励ます言葉はそれしか思い浮かばなかったのであった。



13:30

ビル内の広いホールに全部門が集まった。
あちこちで、不平不満の囁きが聞こえる。

(こんなことしてる時間はないのに…)
(今、この時にも犯罪が行われているかも…)
(警視総監って、誰だっけ?)

「静かに!警視総監殿がご到着だ。敬意を持って拍手でお迎えを」

富士本が告げ、壇上右にあるドアが開いた。

アシスタントの女性の案内で、高松 重久《しげひさ》警視総監が入場し、その後にスーツ姿のトーイ・ラブ、そして見慣れない顔ぶれが3人続いた。

予期せぬラブの登壇で場内が騒つく。

「静かに。では早速ではありますが、わざわざお越しくださった、高松警視総監殿に、ご挨拶を賜りたく、よろしくお願い致します」

長年に渡り勤めていた、風井警視総監の辞任により、着任した、実力派の人物である。

ゆっくり、礼をして壇上の中央へ立つ。

「本来なら、こんな年寄りの相手などしてる暇はない。そう思って貰える方が、私は頼もしく思う。捜査の邪魔をして申し訳ない」

思いもしなかった始まりに、騒つく会場。

「静かに!」

「富士本君、いいからいいから。私は型にハマった警察組織など要らぬ。各部署、各所轄、警察、全てが一つの組織…少し堅いな。全員が同じ警察官として、力を尽くして国民を、この国を守る。それが、本来のあり方だと考える」

熱い語りの合間に、大きな拍手が起こる。

「私に拍手などは無用。実は今の言葉は、ある女性に言われたことの受け売りだ」

チラッとラブを見る。
軽くおじきするラブ。

「だが、今まさに、そのことを、この警察の力を持って、悪に立ち向かう時である。その意思と、結束を持ってもらうために、敢えてここに私は立っている。今一度、現在起きている最悪の事態を、部署や担当を越えて共有し、事件解決への全員の決意表明としたい❗️以上」

盛大な拍手が湧き起こる。
そんな中、次にラブが中央へ立つ。

「警察関係者の皆さん、トーイ・ラブです。場違いと思われる方もいるでしょう。警視総監様の様な…え~と …立派な言葉はとても言えません」

静かな笑い。

「私は、高松様の揺るぎない正義感に惹かれ、また、元鷲崎総理大臣の口添えで、捜査協力の要請を頂きました。TERRAコーポレーションの技術と、この体の全てを懸けて、事件解決に全力で取り組ませていただきます」

盛大な拍手や掛け声が湧き上がる。

と、再び警視総監が出てきた。

「私の負けだな、全く、かなわん。

場内に笑いが起こる。

「今回の様な異常事態に対応すべく、私は着任時から、あるプロジェクトを始めていた。それが、シリアルキラー対策プロジェクトだ。本日はそれを率いてくれている、京極博士にも来て頂いた。専門用語は年寄りには分からん。京極さん、よろしく頼む」

呼ばれた男が中央へ立つ。

「私こそ場違いかも知れませんが、ご容赦を。京極恒彦《きょうごくつねひこ》と申します。」

「やっぱり…」

会場の最後尾の席で、ヴェロニカが呟く。

「知り合いか?」(T2)

「いいえ、分野がかなり違いますので。ただお噂だけは聞いていますわ」

「私の専門分野は、Ergonomicsエルゴノミクスと Psychotronicsサイコトロニクス、つまり、人間工学と心理工学です。半年前に、高松様からプロジェクトの話を頂き、犯罪防止に役立てるならと、承諾いたしました。そこにいる、心理学の権威、滝川守《たきがわまもる》博士と、精神医学の権威、安斎裕子《あんざいゆうこ》博士と3人を中心としたチームで研究しています」

(なるほどね…)ラブも初耳であった。

「簡単に言えば、犯罪者の心理や行動パターンを警察のデータから分析して、その規則性を解明し、事前に犯行を防止する。そういった兆候の見られるつまり、人をケアする。
と言うことです」

(もしかして…)紗夜が報道の記憶を辿る。

「皆さん今朝のコンビニ強盗は、ご存知だと思います。北区、豊島区、板橋区で連続していたコンビニ強盗について、過去の膨大なデータから、犯人の特徴や行動を分析し、3区内のあらゆる監視カメラのデータで、該当する人物を絞り込んで尾行した結果です」

(やっぱり)紗夜の勘が当たった。

「なぜ事前に?と思われるかもしれませんが、あなた方警察官なら分かりますよね。事件にならないと動けない。逮捕出来ないんです。幸いと言うと語弊がありますが、今回の連続強盗は、一度も人に危害を加えてないからできたことです。凶悪事件の兆候が見られた場合には、事前に接触し、防止したいと考えています」

席に戻る京極と入れ違いに、高松警視総監。

「彼らも、今回の連続殺人事件に、協力して貰います。犯行の手口から、逆に犯人像や特徴を見出せるかもしれない。とにかく❗️」

騒ついていた場内がピタリと静まる。

「警察の威信にかけても、必ず犯人を逮捕し、庶民の安全を確保することに、全力を尽くす様、お願いする」

「詰まる所は、警察の威信でございます…か」

ヴェロニカが軽く毒付く。

「では、各対策本部から、それぞれ報告を」

壇上の者は、スクリーンが見える座席へ移る。
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