Reincarnation 〜TOKYO輪廻〜

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4. Reincarnation

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壇上の者は、スクリーンが見える座席へ移動し、ラブは仲間のもとへ着席した。

「お疲れ様でございます」

「ほんと疲れるわ、慣れないスーツって💦」

「あのプロジェクトのことは?」

「初耳よ。理論的には分かるけど…果たして狙い通りの結果が出せるかは疑問ね」

「猫の手も借りたいってやつじゃねぇか」

聞こえた何人かが振り返る。

「T2!…すみません」

「あ、い、いえ…別に💦」
まさかラブがいるとは思ってなかった。

「始まりますわよ」


『第12号:幼女食人連続殺人事件』

「刑事課の神崎昴です」

4件の中で最も残虐な事件である。

「これまでに発見されているのは、今朝の1件を加えて…10件で、被害者は…25名」

疲れ切ったか細い声で伝える昴。
それを咎《とが》める者はいない。

【共通点】
①12才以下の子供がターゲットである。
②全てが江戸川区内で発生。
③全裸でテーブルに手足を釘で固定され、
 生きたまま、目の前で体の一部を切り
 取られて、食べられるのを見せている。
④テーブルにはワイングラスがあり、
 血液が入れられている。
⑤家族は椅子に縛られ、子供の死後に殺害。
⑥犯行時刻は22時~24時
【手ががり】
❶25~26㎝のビジネスシューズの靴跡
❷ワイングラスのDNA

説明しながら、凄惨な現場の写真がスクリーンに写されていた。

途中、警察官が何人も部屋を飛び出し、トイレへ駆け込んだ。

死体を見慣れている者でも、その限界を超えている映像ばかりであり、無理もない。

「被害者の共通点はなく、子供を狙った無差別殺人と考えられます。目撃者情報で、共通するものはなく、唯一のDNAも、警察のデータには一致するものはありません」

「ポイントは、江戸川区と洋食ね。何か意味がある気がするわ」

咲の勘も鋭い。

「なぜ、地域が分かっていて、止められないんだ?」

「江戸川区に、12才以下の子供を持つ家庭がいくつあると思いますか?全国の警察官を動員しない限り、防げません。更に、今は他の事件でも人手が足りないのに…」

悔しさと怒りが込み上げてくるのを、必死で抑える昴。

「富士本君、彼にはもう限界じゃないかね?」

「高松総監、心遣いありがとうございます。ですが、彼の心は強い。あの拳を見てください」

握り締めた拳から、血が流れていた。

「毎回毎回、治る間もなく握り締めているんです。今、彼を外すことはできません」

(アイ)ラブが情報を求める。

(江戸川区の対象数は、約1万7000件です)

「昴さん。江戸川区の全対象の監視は、私に任せてください。2日もあれば、設置します」

「ラブさん、本当に可能かね?警察官は回せないがと思うが…」

「高松さん、設備は我が社に十分あります。警察の方は必要ありません。お任せください」

(アイ、リストを地区別に小分けして、マイクロカメラと防犯発信機をお願い)

(了解しました)

この時、ヴェロニカはじっと京極を見ていた。
(変化なし…か)



『第13号:指切り連続殺人事件』

「刑事課長代理、鳳来咲です」

「彼女は、自分のスタイルを貫いてるね~」

ミニスカにハイヒール、そして黒サングラス。
T2が感心する。

「もしかして…私に何か言いたいのT2🔥」

「帰ってからにしてくださいな」
慣れてるヴェロニカが、サラリとあしらう。

「現在のところ、発見されている遺体は12体。被害者は全て女性で、共通点は認められてないわ。遺体は全て都内の公園に遺棄されてるけど、殺害現場は別のどこか。車を使って運んでいるとは思うんだけど、不審者や不審な車の情報は全くないのよね」

発言中は自分の世界に入り込むため、ヒールの音がコツコツ動く度に、男性陣の視線がそれを追う。

(全く、こいつらときたら………)

ふと横を見る富士本。
お隣の警視総監様も、同じ男性であった💧

【共通点】
①死体遺棄の場所は都内の公園。
②被害者は若い女性。
③被害者は指を1本切り取られている。
④殺害現場は別の場所
【手がかり】
❶同じスポーツシューズかスニーカー。
❷代々木公園で採取した繊維

「記録では、通報数より遺体の数が多いが?」
視線は別にして、見るべきものと聞くべき点はシッカリしている総監。

「警察犬を投入して、都内各地の公園を順番に捜索したところ、追加で発見されたのよ」

「では、まだまだ被害者はいると?」

「そうね、まだ3分の1くらいだから、私の勘では20体以上はあるかと」

場内が騒つく。
目を閉じるラブ。

「ラブ様、これでしょ」
ヴェロニカが書類を渡す。

「今朝の時点で、失踪届けが出されている都内の若い女性は、93名でございます。ただ…実際にはその3倍はいると考えられますわ」

気になる点は労を惜しまず調べ、また、ラブの考えそうなこともほぼ分かっていた。


「ポイントは、なぜ指と公園に拘るか?ね」

憶測で騒つく会場。

「淳、次お願い」
意見無しと判断し、咲が進める。


『第14号:連続死体解体遺棄事件』

「刑事課の宮本淳一です。被害者は現在9人で、いずれもバラバラの状態で発見されています。まぁ…過去のバラバラ殺人とは大きく異なり、解体と言った方が正しい状態です。被害者の年齢や性別には一貫性はなく、殺害現場と解体現場も手がかり無しです」

【共通点】
①被害者は完全に解体されている。
②被害者の一部が欠けている。
③練馬区、杉並区、世田谷区で発見。
【手がかり】
❶切り口から、凶器はメスと推定できる。
❷骨も医療用の電動ノコギリと推定できる。
❸犯人は高度な医療知識を持つ者

「欠けている部位に特徴は?」

「目、鼻骨、爪、背骨、など様々ですが、一番多いのが肋骨です」

「バラバラなら、犬などの動物が持ち逃げした可能性もあるのではないかね?」

「はい。可能性はあります。ですが…それなら普通は、肉や臓器を選ぶのでは?と思います」

事件報告が続く毎に騒めきが増す。

「何の為に一部を持ち去るか?がネックね」


「紗夜、ラストお願い」
 


「目と皮膚と爪に骨…か…なるほど」

呟いたラブがヴェロニカを見る。

「私もそう確信しておりますわ」

(頼りになる仲間だわ)



『第15号:老人施設連続不審死事件』

「刑事課の宮本 紗夜《さや》です」

(あれが、例の…)
(バカ、読まれるぞ)

気にせずに、紗夜が始める。

「現在都内の老人ホームや介護施設を順次廻って確認していますが、届け出がされていない不審死と思われるものが多数あり、今のところ44名の老人が、薬の多量投与された後に亡くなっていることが分かっています」

「違法レベルではない…と聞いているが?」

「はい総監。確かに致死量ではありません。ただし、通常の投与量ではないことは明らかで、医療ミスとは考えられない発生数です」

「投与した看護師はわからんのかね?」

「それが…調べて分かったのですが、ホームや施設の管理はどこも杜撰《ずさん》で、投与者名も不明確なんです。また、都内に3つある大きな介護団体・医療機関を、どの場所も利用していて、リストで確認しましたが、現場施設に共通して関与している者はいませんでした」

「では、複数犯…もしくは、リストにない誰かってことね」

【共通点】
①被害者は老人。
②発生場所老人ホーム、介護施設。
③死因は、薬の過剰摂取。
④外部団体・機関の介入。
⑤杜撰な管理(侵入者もあり得る)。
【手がかり】
❶医療知識、特に薬剤師並みの知識人。
❷侵入し易い現場。
❸杜撰な管理を知っている。

「厄介だな…今の調査状況は?」

「まだ、都内の老人ホーム、介護施設の10%程度です…」

「で、では被害者はまだまだ…」

「はい。今までの比率で想定すると、数百人に及ぶ可能性が…あります」

場内がどよめく。

「え~以上が、今起きている猟奇的連続殺人事件の状況です。何か意見や気づいたことがあれば発言を」

各対策本部の責任者4名(昴、咲、淳一、紗夜)は、壇上に残る。


「ハイ!よろしいかしら?」

ここぞとばかりに手を上げ、承諾もないうちに、前へと歩き出す。

「ど…どうぞ」

「TERRAのヴェロニカと申します。まず一つ。プロジェクトメンバーの京極教授、滝川博士、安斎博士は、なぜ発言なさらないのでしょうか?」

(そうだ、いるだけじゃ意味がない)
(博士とか、ビビってるんじゃないか?)

陰口と批判的な目が多い。

「代表して、答えましょう、ヴェロニカ博士」

京極恒彦が立ち上がる。

「私達は、提示された事実を他の症例と合わせて、分析した結果を求めます。憶測での発言は先入観になり、分析の妨げになりますので」

「なるほど。では、分析している犯罪データは、日本のものでございましょうか?」

「もちろん。警察から提供頂いたものなので」

壇上で目を閉じている、紗夜の頭が瞬間傾く。
それに気づいた富士本が、京極を見る。

(今のは偽りか…)

「警視総監様、少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」

「かまわんよ。君の頭脳は世界最高レベルと聞いている。実はかなり前に、君のお母さんに会ったこともある。彼女も素晴らしい頭脳の持ち主であった」

「では、少々捜査を混乱させてしまうかもしれませんが、重要なことですので」



「警視庁史上最悪の事件。と言いますが、世界的に見れば、この様な事件はたくさんございます。京極様、あなたはご存知のはず」

動揺せず、掌を差し出し、軽くおじきをする。
「どうぞ、続けて」の意味である。

「これら4件のシリアルキラーは、全て海外で実在したものと同じでごさいます」

「シリアルキラー…切り裂きジャックの様なものかね?」

「あれは、現実性が乏しい逸話にすぎません」

モニター用パソコンに、メモリースティックを差し込むヴェロニカ。

「まずは、指切り連続殺人事件。これと同じ事件が、モスクワで『チェスボード・キラー』と呼ばれた殺人鬼、アレクサンドル・ピチュシキン。遺体は公園に埋められ、指を切り取られています」

モニターに史実と写真が映る。

「確かに、同じだ…」場内が騒つく。

「通称の由来は、切り取った指を、ピンでチェスボーに刺していたことから来てございます。マス目は64。彼は逮捕されるまでに63人を殺害しており、後一人の…」

「で、では今回も64人まで続くのか?」
会場の一人が思わず問う。

「それは分かりません。もしかすると、既に達成しているかも知れませんし、日本の将棋盤なら81マス、囲碁盤となれば、更に…」

騒めきが、どよめきに変わる。

「次に、連続死体解体遺棄事件は、アメリカウィスコンスィン州で『ブレインフィールドの解体職人』と呼ばれた殺人鬼、エド・ゲイン。彼は、9人を解体し、死体から奪った皮膚や骨で記念品を作っています」

「こ、これも同じだ…」

少し間を置き、続ける。
静まりかえる会場。

「次の老人施設連続不審死事件は、通称『ヘルスケア・キラー』。カルフォルニア州の呼吸療法士により、推定で200人以上を殺害しております」

「に、200人だと!」

「はい。ただ…今回の様に微妙な殺害方法であるためと老人が多いことから、殺人と分かるのが遅れ、正確な被害者は不明でございます」

「……」

「最後に、第12号:幼女食人連続殺人事件」

(ふぅ~)昴を見るヴェロニカ。

「通称『ブルックリンの吸血鬼』アルバート・フィッシュ。アメリカ史上最悪の殺人鬼よ。ニューヨーク州で約400人の児童に暴行や殺人をおこない、殺した場合は、時間をかけてその全部位を食べています」

また何人かが、堪えきれず部屋を出て行く。

「彼の場合は、その食人の方法や味などを手紙に細かく書いて、担当警察官に送りつけたりもしております。腎臓を同封して」

富士本の背筋に寒気が走る。

「確かに、全て酷似しているが、模倣犯と言うことなのか?」

寒気を振り切る様に、富士本が答えを求める。

「これは…模倣犯の域を超えてますね」

心理学の滝川が、指摘した。

「模倣犯の場合は、ただの快楽殺人に過ぎません。ここまで同じ手口で、連続させることができるとしたら…」

「精神的憑依…犯人は完全に彼らに成り代わっている可能性があります」

精神医学の安斎である。

「多重人格も、その一つと言われていて、知らない言語を話したりするケースも少なくありません」

「憑き物…と言うことか?安斎さん」

「富士本さん、科学者にその答えは無理でございます。」

ヴェロニカがフォローし、安斎が軽く頭を下げる。

「皆様、西洋に悪魔憑きや、神の生まれ変わりなどの表現がある様に、この日本には、輪廻と呼ぶものがございます」

「輪廻…」紗夜が呟く。

「諸外国でも最近は『Reincarnationリインカーネイション』と言う言葉が使われる様になりました」

「Reincarnation…輪廻転生《りんねてんしょう》…ですか?」

「ええ、滝川さんの心理学の中でも、避けては通れない壁ですわね」

「た…確かに」

「京極教授様、これらの海外のシリアルキラーも含めて、行動分析をよろしくお願いいたします。以上でございます」

壇上から降りるヴェロニカに、賞賛の拍手が鳴り響く。

(浅はかな…事態は何も変わってないのに)

ラブが立つ。

「静かに!」の一喝で、ピタリと止んだ。
規律、これが日本の警察が優秀と言われる一つの理由である。

「既に江戸川区の12歳以下の子供がいる家には、防犯機器のセットが始まりました。明日には完了します」

昴が頭を下げる。

「それから咲さん、あなたが強いのはわかりますが、残忍な犯人ですので、ティークをつかせます」

「あら、あのクールな方ね、サンキュー」

ヴェロニカが妬くが、仕方ない。

「よし、諸君!私は君らを信じる。解散❗️」


かくして、再び捜査開始である。

Reincarnation、輪廻転生。
この言葉が、頭に響いたまま…



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