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第四章
ルドベキア
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『あなたのお母さんと、お父さんは、この店で知り合いました。』
熱い夏の日曜日。
当時大学生であったお母さんは、この店で「アルバイト」をしていました。
そこへ、汗をびっしょりかいた男性(お父さん)が入って来たのです。
『あらまぁ。そんなに汗をおかきになって。何を急いでいらっしゃるのかしら?』
お婆ちゃん(当時はお母さん)が、穏やかに話しかけました。
『いやぁ、暑いですね~。実は、今朝海外から帰って来たのですが、部下が、田舎の事情で、急に会社を辞めることになっておりまして…。これから駅で見送るのですが、せめて花束でもと・・・。』
会社は、駅のすぐ向こう側にありました。
『それはそれは、自ら部下の為に汗をかいていらっしゃるとは、立派なことでございます。まぁ、少し落ち着いて、冷たいものでもお飲みになってくださいな。』
『あっ、いや・・・少し急いでいるので。』
『大丈夫でございますよ。電車は次から次へと参ります。旅立ちは慌てるものではありません。少しぐらい待ってもらいましょう。』
『は?・・・はぁ、そりゃあ確かにそうですが・・・。』
お婆ちゃんには、昔から人を落ち着かせ、穏やかにさせる力みたいなものがありました。
『それに花はですね、ただあげればいいってものではないのですよ。贈る人の贈られる人への感謝や期待、お祝い、そういった想いが込められてこそ、「花」としての役目を果たすものなのです。』
お父さんは、完全に撃沈されていました。
『わ・・・分かりました。ではお言葉に甘えて、少し休ませてもらいます。』
『はい。どうぞどうぞ。』
そうして、「カフェ」へと導かれたのでした。
『季節子(ときこ)さん、餞(はなむけ)に良い花を見繕ってください。この人にふさわしい花をね。』
お婆ちゃんは、お母さんにそう言って指示を出し、冷たいお茶と、小さな鉢植えをテーブルに置いたのでした。
『綺麗ですね。何と言う花ですか?』
なぜ花を?と思いつつも、花屋であることに納得した彼はたずねました。
『これは「ルドベキア」と言う大変凛々しい花です。』
『はぁ…聞いたことないですね、お恥ずかしながら。でも、何だか好きですよ。この花、どことなく立派で。』
『そうでしょうとも。この花の花言葉は、「公平、正義、正しい行い」でございます。これは、あなたなのですよ。』
唐突な結論に、彼は驚いた。
『えっ?…いやいや、私なんてそんな立派な者じゃありませんよ。』
『ほほほ。ご自分で、「私が正義だ」なんて言う人ほど、怪しい者です。貴方は何も言わず、しっかりと自分の信念を貫いておられます。厳しい風にも負けずに、飄々と立つ、この花の通りでございますよ。』
長く伸びた茎の先に、黄色くはっきりとした花。
彼はしばし、その花に見入っていました。
『ありがとうございます。実は、昇進の話があったのですが、まだ若輩者の私としては、受けあぐねていたのです。この花のおかげで、自分に自信が持てた気がします。』
お婆ちゃんは、満足そうに目を輝かせる彼を、とても嬉しく思ったのでした。
『ルドベキア』
キク科の多年草又は1年草
原産地:北アメリカ
花:7~10月
色:黄 オレンジ
熱い夏の日曜日。
当時大学生であったお母さんは、この店で「アルバイト」をしていました。
そこへ、汗をびっしょりかいた男性(お父さん)が入って来たのです。
『あらまぁ。そんなに汗をおかきになって。何を急いでいらっしゃるのかしら?』
お婆ちゃん(当時はお母さん)が、穏やかに話しかけました。
『いやぁ、暑いですね~。実は、今朝海外から帰って来たのですが、部下が、田舎の事情で、急に会社を辞めることになっておりまして…。これから駅で見送るのですが、せめて花束でもと・・・。』
会社は、駅のすぐ向こう側にありました。
『それはそれは、自ら部下の為に汗をかいていらっしゃるとは、立派なことでございます。まぁ、少し落ち着いて、冷たいものでもお飲みになってくださいな。』
『あっ、いや・・・少し急いでいるので。』
『大丈夫でございますよ。電車は次から次へと参ります。旅立ちは慌てるものではありません。少しぐらい待ってもらいましょう。』
『は?・・・はぁ、そりゃあ確かにそうですが・・・。』
お婆ちゃんには、昔から人を落ち着かせ、穏やかにさせる力みたいなものがありました。
『それに花はですね、ただあげればいいってものではないのですよ。贈る人の贈られる人への感謝や期待、お祝い、そういった想いが込められてこそ、「花」としての役目を果たすものなのです。』
お父さんは、完全に撃沈されていました。
『わ・・・分かりました。ではお言葉に甘えて、少し休ませてもらいます。』
『はい。どうぞどうぞ。』
そうして、「カフェ」へと導かれたのでした。
『季節子(ときこ)さん、餞(はなむけ)に良い花を見繕ってください。この人にふさわしい花をね。』
お婆ちゃんは、お母さんにそう言って指示を出し、冷たいお茶と、小さな鉢植えをテーブルに置いたのでした。
『綺麗ですね。何と言う花ですか?』
なぜ花を?と思いつつも、花屋であることに納得した彼はたずねました。
『これは「ルドベキア」と言う大変凛々しい花です。』
『はぁ…聞いたことないですね、お恥ずかしながら。でも、何だか好きですよ。この花、どことなく立派で。』
『そうでしょうとも。この花の花言葉は、「公平、正義、正しい行い」でございます。これは、あなたなのですよ。』
唐突な結論に、彼は驚いた。
『えっ?…いやいや、私なんてそんな立派な者じゃありませんよ。』
『ほほほ。ご自分で、「私が正義だ」なんて言う人ほど、怪しい者です。貴方は何も言わず、しっかりと自分の信念を貫いておられます。厳しい風にも負けずに、飄々と立つ、この花の通りでございますよ。』
長く伸びた茎の先に、黄色くはっきりとした花。
彼はしばし、その花に見入っていました。
『ありがとうございます。実は、昇進の話があったのですが、まだ若輩者の私としては、受けあぐねていたのです。この花のおかげで、自分に自信が持てた気がします。』
お婆ちゃんは、満足そうに目を輝かせる彼を、とても嬉しく思ったのでした。
『ルドベキア』
キク科の多年草又は1年草
原産地:北アメリカ
花:7~10月
色:黄 オレンジ
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