Flower Story

心符

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第七章

ハイドランジア

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あれから8年が過ぎた。

20歳の私は、前途有望な美大生?。

今では、お父さんのもとを離れ、一人アパートに住み、バイトしながらの忙しい学生生活を送っていた。

中学、高校と友達も増え、お婆ちゃんの店へ行くことはほとんどなくなり、大学に入ってからは、一度も足を運んでいなかった。

あれから私は、やっぱりお母さんを恨んだ。

そんなお母さんを、一度も悪く言わないお父さんも嫌だった。

そんな状態で、お婆ちゃんの店へ行く気には、なかなかなれなかったのです。

最後にお婆ちゃんに会った時も、あのフクシアの花は、いつもと同じ様に手をつないで咲いていました。

でもさすがに、お婆ちゃんを信じる・・・とは、もう言えなかったのです。


『どうしたの凛花? 全然描けてないじゃん。』

お昼前の美術の授業。

友人の沙耶花が話かけてきた。

机上の花瓶にさされた花に向かって、みんなそれぞれのテーマを描いている。

『テーマを描けって言われてもね・・・。』

机上の花を見つめる。

真っ赤なチューリップと一緒に、アジサイの様な淡いピンクの花が、窮屈そうにさされていた。

『私のイメージはこうよ。情熱的なチューリップ。これが私ね。それを優しく包み込んでくれるあのアジサイみたいなのが、愛する彼。あんな男が欲しいわ。』

相変わらずの能天気である。

『あなたって、ほんとに幸せね。』

『でしょ~!私もそう思うの。・・・ん?・・・なんで?』

『あのね・・・「チューリップ」は「永遠の愛」の象徴なの。でもね・・・アジサイみたいなのは、「ハイドランジア」って言って、花言葉は「移り気、浮気」なのよね~。あなたの理想の彼は、浮気者よ。全く・・・なにを描けって言うのやら。』

『え~!そうなの?全然知らなかった。前言撤回するわ。しかし、凛花って花のことになると、異常に詳しいよね。気の毒なくらい。ほんと、感心するわよ。』

『それって褒め言葉?それとも哀れみの言葉?』


その時、半ばあきれた顔の沙耶花の向こうで、警備員が教授に話しかけていた。


『如月さん。如月凛花さんいますか?』

(えっ?私?)

『はい。凛花います。』

教室がクスっと笑った。

『ちょっと、こっちへ来てください。』

呼ばれて教室の外に出ると、お父さんが立っていた。


『凛花・・・。』

お父さんの、いつになく暗い表情に、次の言葉を聞くのが怖くてわざと明るく話した。

『何よ。突然こんなとこまで来て。今、人生の天国と地獄をどうやって絵にしようかと頑張ってたとこなのよ。』

『お婆さんが・・・今朝、亡くなったんだ。』

『・・・』

恐らく、お父さんの顔を見た瞬間に予想していたと思う。

でも、リアルに聞かされると、やはり信じられなかった。

『そ・・・そんな・・・。お婆ちゃんが・・・。』

『今から、一緒に行こう。』


「後悔」その文字が頭に浮かんだ。

あんなに好きだったお婆ちゃん。

もっと早く、行けば良かった。

まだまだ聞きたいこと、教えて欲しいことが、たくさんあったのに・・・。


こうして私は、ミスマッチの花モデルを後にした。


『ハイドランジア』
ユキノシタ科の落葉低木
(アジサイの改良品種)
原産地:ヨーロッパ
花:5~7月
色:ピンク 白 赤 青 紫
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