Flower Story

心符

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第十章

ブーゲンビリア

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それから直ぐに、私は大学を辞めた。

もともと、美大の先には、何の未来も見えてはいなかった。

さすがに、お父さんは反対したが、私の「凛」とした態度に最後は折れた。

大きな?会社の社長令嬢が花屋?という偏見に、私は猛然と反論したのです。

決め手になったのは、フクシアの花でした。

私は、「秘密」は除いて、「二人の花」の話を、お父さんに教えました。

『この花が咲いている限り、お父さんとお母さんの愛は続いている。そう言ったお婆ちゃんとこの花を、いつか私も信じられるようになりたいの。だから、今はもう、何も言わないで。好きにさせて。』

父は、涙ながらにうなづいたのである。



ということで、マンションで、お父さんの「世話」をしながら、店に通った。



ある夜のこと。

『ヒメ! ちょっとうるさいよ。』

私の家族は、もう一人・・・正確にはもう一匹いました。

私が中学生の時、お父さんが世話になった得意先の会社が倒産し、親しかったその経営者が自殺をしたのでした。

事がおさまった頃、お父さんは、その家を訪ねたのでした。

そうして、母と子の二人暮らしとなったその家から、一匹のシャムの子猫をもらってきたのです。

名前は、そこの女の子がつけた様で、ヒメと言います。(小説『ネコの涙』)

お母さんのいない私の寂しさが、少しでも紛れればと考えたのでした。


ペットが飼えるマンションは少なく、そのせいで、ここのほとんどの家庭が何かを飼っていました。

最近のヒメは、ベランダ越しに、隣の家の雄猫とラブラブだったのです。

『全くもう・・・。お前はいったい何を考えているのかねぇ。』

「カシャ。」

私は何の気なしに、携帯でヒメの写真を撮りました。

と、その時、携帯に「彼」の着信が入った。


『は、はい。もしもし。私。』

『こんな時間にすいません。お客さんから電話で、明日の朝9時に花束の注文がありました。作っておきますので、お願いできますか?』

『あ、分かったわ。間に合う様に店に行くわ。まだ店にいたの?』

『はい。もう帰ります。』

彼は、大学に通いながら、空いた時間に勤めてくれていた。

夜は、お父さんの「世話」があるため、ほとんど彼に店を任せていたのである。

『そう。ご苦労さま。帰り気をつけてね。おやすみ~。』

携帯を閉じて、ベッドへ倒れこむ。

(は~・・・。)

最近は、彼の顔が頭から離れなくなっていました。

(彼は、私のことをどう思っているんだろう・・・。)


(私にもお婆ちゃんの様な力があればいいのに・・・。もう少し早く教えてくれれば、大事な鉢を燃やしちゃったりしなかったのにな。)

ふと、あの鉢を写真に撮ったことを思い出し、携帯を開いた。

(ん?何これ?)

携帯の写真フォルダには、撮った覚えのない花の写真がいくつかあった。

『あれ~。おかしいな、ヒメの写真は?』

一番最近撮った写真には、ピンクのブーゲンビリアが写っていた。

(ブーゲンビリア?・・・って、確か恋の花。花言葉は・・・・・・!!)

これが、私のその後の生き方を、大きく変えた瞬間でした。

(そう言えば、この前も・・・)

3日前、店が暇な時に、私は思い切って、彼にきいた。


『藤咲さんって、好きなコとかいるの?』

彼は、少し困った顔をして、

『もちろん。いますよ。』

話かけておきながら、ショックでそれ以上話を続けられなかった。

丁度その時、お客さんが入ってきたので、私は救われた。

彼は、私の傷ついた心も知らず、相変わらずのスッキリした優しい顔で、お客さんと話している。

私も、とりあえず仕事をした。

携帯Webに掲載するための花の写真を撮りながら、

(この、この、小悪魔め!)

そう思って、ジャスミンに向けて押した携帯に写ったのは、真っ赤なシクラメンの花であった。


あの時は、いつか撮ったデータが、バグって出てきたのかと思った。

しかし、今回のブーゲンビリアは、撮った憶えがない。

『赤いシクラメンは、「嫉妬」・・・あの時私は、彼の言葉に・・・。ブーゲンビリアは、「あなたしか見えない」・・・って!ヒメ、メロメロじゃん!!』

(しかし、そんなことって!)

私は、自分に向かってシャッターを切った。

「カシャ!」

『ゲっ!!』

そこには、ヒメと同じ花が咲き乱れていた。


『ブーゲンビリア』
オシロイバナ科の低木
原産地:中央,南アメリカ
花:6~7月
色:ピンク 紫 白

『シクラメン』
サクラソウ科の多年草
原産地:地中海沿岸
花:12月~4月
色:赤 ピンク 黄 紫 白
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