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第十三章
スターチス
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パーティが終わり、家に帰り着いた。
持ち帰ったヒメへのお土産をお皿に移し、差し出した時。
玄関のチャイムが鳴った。
『は~い。ちょっと待ってね~♪。』
かぶりつくヒメを後に、玄関へと行き、ロックを外す。
セキュリティ万全のマンションである。
直接玄関まで来られる人は、家主のパスをもらっている人なのである。
『お待た・・・せ・・・!?』
私は、そのまま後ずさった。
『お、お父さん!来て!!』
慌ててお父さんがやって来る。
『これは・・・先生。』
(えっ?せん・・・せい?)
多少の歳は経ったものの、この訪問客は、お母さんを連れて行った、「あの男」だった。
『どういうことなの?お父さん。』
『まぁ、とりあえず中へ。』
『待って!! どうしてこんな奴を家に入れるの!!私たちからお母さんを奪った奴よ!!』
『凛・・・花。お前・・・そんな風に思っていたのか? そうじゃないんだ。説明するから、とりあえず中へ。さぁ。先生もどうぞ。』
~居間~
気まずい雰囲気が漂っていた。
『凛花、この人はね、アメリカで脳のことを研究している脳外科の先生なんだよ。お母さんを奪うどころか、一生懸命に助けてくれてるんだよ。』
「不倫」「不倫」「不倫」
そう言われても、「不倫」という言葉が、すぐには頭から追い出せなかった。
『お辛いでしょうから、私から話しましょう。』
「不倫」が話し始めた。
『凛花さん。あなたのお母さんは、脳の機能が少しずつ低下していく難病にかかってしまったのです。私が診察した時には、もうかなり進んでいました。』
(脳?病気?それと不倫がどう関係あるのよ。職権乱用?)
混乱していました。
『時々、急に何も分からなくなったり、時には自分の名前さえも、どうしてそこにいるかも分からなくなる。そういった症状から、発症に気付くパターンが多く、未だに原因が解明できていない病気なのです。』
(そう・・・言えば・・・。突然行方不明になったり、私をまるで知らない子の様に話したり、怒ったり・・・)
『記憶がなくなるの?アル・・・ツハイマ?』
『はい、アルツハイマーと良く似た病気ではあります。最初はそんな軽い症状から始まります。しかし、徐々に進行し、記憶を失うばかりか、体の機能を行うことでさえ、脳がやめてしまうのです。』
『それって・・・。死ぬってこと?』
『最悪はそうなります。』
『そんな・・・そんなこと!涼しい顔して言わないでよ!!私のお母さんだよ!!簡単に殺さないでよ!!!』
病気のことも、この男のことも、お父さんのことも、お母さんの気持ちも・・・分けが分からなかった。
『凛花、先生はね、自分のお母さんをこの病気で亡くしてるんだよ。』
『えっ…。』
『はい。母の頃には何も分かっておらず、手の施しようがなかった…。私は必死に研究して、こんな悲しい病気をなくす為に頑張ってきたのです。』
『じゃあ…治るの?治せるの?』
『…残念ながら、まだ進行を遅らせることにしか至っていないのです。』
「先生」の握りしめた拳が、膝の上で震えていました。
『じゃあ…お母さんは…』
『先生、帰国された理由を話してもらえますか。』
『はい。もう…限界かと思うのです。』
『そんなぁ!』
『凛花! 黙って聞きなさい!』
泣き叫ぼうとする私を、お父さんが一喝した。
『先生、続けて下さい。』
『本来ならすでに、感情も何も残ってはいないはずなんです。でも何かがちがうんですよ。時折開く彼女の目が、私に何かを訴えてる様に思えるんです。』
『まだ…意識は?』
『目は開きます。ですが…脳波上はすでに…。ですから、目を開くこと自体、あり得ないことなんです!』
『お父さん…。お母さん、私を待ってる…。きっと私が来るのを待ってるのよ!』
何故かはわからない。
けど、その時私はそう感じた。
『そんな…まさか?』
『私も、そう思います。根拠はないのですが、何かを伝えたがってるとしか、思えないのです。』
『お父さん。行こう。お母さんに会いに行こう!』
『…わかった。行こう。先生…』
『お二人の分、明日の昼の飛行機をもう予約してあります。私は少し日本での用事を済ませて、夜の便で行きます。凛花さん。分かってくれてありがとう。私は、引っ張ってでも、君を連れて行くつもりできたのです。』
『先生…。ごめんなさい。酷いこと言って。お母さんを…ありがとうございました。』
『仕方ないことだよ。では、向こうで。』
その夜は全く眠れませんでした。
~次の日~
空港。
搭乗口が開くのを、二人はじっと待っていました。
『お父さん。今でもお母さんを愛してる?』
『な!…突然どうしたんだ? そりゃあ、もちろんだよ。バカなことをきくんじゃない。』
『そっか。』
「カシャ!」
『おいおい。何してるんだ。いきなりは反則だろう。Vサインする間ぐらい与えろよ。』
『ハハハ。お父さんったら、全く。』
写真には、華やかな青紫の花が咲いていました。
「永遠に変わらない心」
それを表す愛の花。
「スターチス」の花が…。
『スターチス』
イソマツ科の多年草
原産地:ヨーロッパ
花:5~6月
色:紅 ピンク 青紫 紫 黄 白
持ち帰ったヒメへのお土産をお皿に移し、差し出した時。
玄関のチャイムが鳴った。
『は~い。ちょっと待ってね~♪。』
かぶりつくヒメを後に、玄関へと行き、ロックを外す。
セキュリティ万全のマンションである。
直接玄関まで来られる人は、家主のパスをもらっている人なのである。
『お待た・・・せ・・・!?』
私は、そのまま後ずさった。
『お、お父さん!来て!!』
慌ててお父さんがやって来る。
『これは・・・先生。』
(えっ?せん・・・せい?)
多少の歳は経ったものの、この訪問客は、お母さんを連れて行った、「あの男」だった。
『どういうことなの?お父さん。』
『まぁ、とりあえず中へ。』
『待って!! どうしてこんな奴を家に入れるの!!私たちからお母さんを奪った奴よ!!』
『凛・・・花。お前・・・そんな風に思っていたのか? そうじゃないんだ。説明するから、とりあえず中へ。さぁ。先生もどうぞ。』
~居間~
気まずい雰囲気が漂っていた。
『凛花、この人はね、アメリカで脳のことを研究している脳外科の先生なんだよ。お母さんを奪うどころか、一生懸命に助けてくれてるんだよ。』
「不倫」「不倫」「不倫」
そう言われても、「不倫」という言葉が、すぐには頭から追い出せなかった。
『お辛いでしょうから、私から話しましょう。』
「不倫」が話し始めた。
『凛花さん。あなたのお母さんは、脳の機能が少しずつ低下していく難病にかかってしまったのです。私が診察した時には、もうかなり進んでいました。』
(脳?病気?それと不倫がどう関係あるのよ。職権乱用?)
混乱していました。
『時々、急に何も分からなくなったり、時には自分の名前さえも、どうしてそこにいるかも分からなくなる。そういった症状から、発症に気付くパターンが多く、未だに原因が解明できていない病気なのです。』
(そう・・・言えば・・・。突然行方不明になったり、私をまるで知らない子の様に話したり、怒ったり・・・)
『記憶がなくなるの?アル・・・ツハイマ?』
『はい、アルツハイマーと良く似た病気ではあります。最初はそんな軽い症状から始まります。しかし、徐々に進行し、記憶を失うばかりか、体の機能を行うことでさえ、脳がやめてしまうのです。』
『それって・・・。死ぬってこと?』
『最悪はそうなります。』
『そんな・・・そんなこと!涼しい顔して言わないでよ!!私のお母さんだよ!!簡単に殺さないでよ!!!』
病気のことも、この男のことも、お父さんのことも、お母さんの気持ちも・・・分けが分からなかった。
『凛花、先生はね、自分のお母さんをこの病気で亡くしてるんだよ。』
『えっ…。』
『はい。母の頃には何も分かっておらず、手の施しようがなかった…。私は必死に研究して、こんな悲しい病気をなくす為に頑張ってきたのです。』
『じゃあ…治るの?治せるの?』
『…残念ながら、まだ進行を遅らせることにしか至っていないのです。』
「先生」の握りしめた拳が、膝の上で震えていました。
『じゃあ…お母さんは…』
『先生、帰国された理由を話してもらえますか。』
『はい。もう…限界かと思うのです。』
『そんなぁ!』
『凛花! 黙って聞きなさい!』
泣き叫ぼうとする私を、お父さんが一喝した。
『先生、続けて下さい。』
『本来ならすでに、感情も何も残ってはいないはずなんです。でも何かがちがうんですよ。時折開く彼女の目が、私に何かを訴えてる様に思えるんです。』
『まだ…意識は?』
『目は開きます。ですが…脳波上はすでに…。ですから、目を開くこと自体、あり得ないことなんです!』
『お父さん…。お母さん、私を待ってる…。きっと私が来るのを待ってるのよ!』
何故かはわからない。
けど、その時私はそう感じた。
『そんな…まさか?』
『私も、そう思います。根拠はないのですが、何かを伝えたがってるとしか、思えないのです。』
『お父さん。行こう。お母さんに会いに行こう!』
『…わかった。行こう。先生…』
『お二人の分、明日の昼の飛行機をもう予約してあります。私は少し日本での用事を済ませて、夜の便で行きます。凛花さん。分かってくれてありがとう。私は、引っ張ってでも、君を連れて行くつもりできたのです。』
『先生…。ごめんなさい。酷いこと言って。お母さんを…ありがとうございました。』
『仕方ないことだよ。では、向こうで。』
その夜は全く眠れませんでした。
~次の日~
空港。
搭乗口が開くのを、二人はじっと待っていました。
『お父さん。今でもお母さんを愛してる?』
『な!…突然どうしたんだ? そりゃあ、もちろんだよ。バカなことをきくんじゃない。』
『そっか。』
「カシャ!」
『おいおい。何してるんだ。いきなりは反則だろう。Vサインする間ぐらい与えろよ。』
『ハハハ。お父さんったら、全く。』
写真には、華やかな青紫の花が咲いていました。
「永遠に変わらない心」
それを表す愛の花。
「スターチス」の花が…。
『スターチス』
イソマツ科の多年草
原産地:ヨーロッパ
花:5~6月
色:紅 ピンク 青紫 紫 黄 白
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