異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第2章 富士・富士宮防衛戦

第5話 日の出だけが変わらない朝に

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 ・・5・・
 孝弘達四人が異世界からの帰還後初めて本格的に参戦した戦いは、後に『富士・富士宮防衛戦』と戦史書籍に記録されている。
 陸軍・魔法軍合計五〇〇〇の兵力に対してCTの数は初期で一五〇〇〇から二〇〇〇〇。いくらCTが個体では弱兵と言えども四倍の差は厳しいものがある。直前に約三〇〇〇の兵力を富士戦線に抽出されているから尚更差が広がっていた。

 にも関わらず戦場にいた将兵に士気の低下が見られなかったという。
 理由は明確なものだった。故郷の防衛という目的が明らかなこともあるが、他の大きな要因として孝弘達四人の存在であり、彼等が第一特務連隊特派分隊としてやってきたからである。
 この頃の第一特務連隊はその兵力の半数以上を崩壊寸前の山梨県側戦線に置いており、残存地域の維持と一部地域の奪還に力を注いでいた。よって富士宮・富士防衛線には兵力を割けてはおらず、第一特務連隊以外の特殊部隊や高練度部隊も危機的な北海道戦線や各所防衛線で戦闘を続けており、新たな精鋭部隊の投入は難しかった。
 そのタイミングでの、四人とはいえ第一特務連隊人員の投入。七条璃佳大佐が叔父にあたる裕貴准将に「期待していい人材」と伝えたものだから、将兵の士気が維持出来たのである。

 さて、璃佳大佐が現場への期待値を上げに上げた四人であるが、命令指揮系統は璃佳大佐にある事から現地部隊から直接命令を受ける形ではない。その彼女が下した任務は『現地部隊に対して火力援護しつつ、迫るバケモノ共を殲滅せよ。手段はあまり問わないからある程度は好きにやってよろしい』だったから至ってシンプルだった。あまりの自由性に大輝ですら「大雑把すぎねえ?」と苦笑いし、裕貴准将は姪がすまないけどよろしく頼むよ。とやり取りがあったくらいである。

 璃佳大佐の自由奔放さはともかくとして。
 CTが戦線に迫る予想到達時刻は午前六時。接敵の時間は目の前に迫っていた。

 ・・Φ・・
 10月2日
 午前5時半過ぎ
 富士宮北部第一防衛線近辺
 周りを見渡せるマンションの屋上


 一〇月二日の早朝。この日もよく晴れており、東から昇る太陽が眩しかった。
 昨日七条璃佳大佐から任務を受けた孝弘達がいるのは、防衛線をある程度見渡せる高さのあるマンション。そこから見える景色はかつてあったはずの姿は全く無くなってしまっていた。
 三ヶ月前までは人の営みがあったであろう田園地帯や、所々に広がる住宅地に人が住み活動する気配は皆無である。誰一人として存在しない無人地帯がただただ広がっていた。唯一変わらないのは自然と、太陽の光だけ。孝弘はそれらを見て改めて今が戦争中なのだと実感し、アルストルムの戦場を思い出していた。
 彼等の視線の先にある一帯には、CTの侵攻に備えて塹壕や落とし穴、有刺鉄線が設置されている。地中には通常地雷だけでなく魔力を込めておくことで爆発する魔石使用の魔法地雷も埋設されていた。

「孝弘、現在時刻〇五三五よ。CT到達想定時刻まであと約三〇分。『賢者の瞳』のレーダーによると、あと二〇分もすればCTが有視界距離に入るわ」

「了解。皆、敵を目視してから敵を見定めて攻撃に移るから、それまで待機。水帆、戦闘前までの観測はよろしく。戦闘が始まったら初撃を除いて好きにぶっぱなしてもらっていいぞ」

「任せなさいな」

「大輝、今回は攻撃役だけどもし近接戦闘に移行したら全員の防御補助を強めに頼む」

「おうよ」

「知花。戦闘が始まったら精密観測を頼む。攻撃も並行して行っていいから負担が少し大きいけれど、任せたよ」

「うん、了解したよ」

 孝弘はテキパキと三人に指示を出していき、三人は早速装備の点検や魔力チェックなどを行っていく。

 『賢者の瞳』を四人はある程度使いこなしているのだが、このような便利な機械はアルストルムに無かったものの大学時代までに似たような訓練端末を四人は触ったことがあったし、簡易的な操作なら昨日から今日までの間に確認をしている。また、『賢者の瞳』はAR端末であるから基本操作原理は民間端末と似ている所も多い。さすがに複雑な操作までは覚えきっていないものの、困らない程度には操作できていた。

「ジャミングとマジックジャミングで多少見えないところもあるけれど、広域探知だと約一八〇〇〇だね。絶対これじゃ済まない気がするけれど……。米原くん、どの魔法攻撃にするの?」

「派手にやるつもりだ。だから上級魔法をぶっぱなそう」

「いいわね。腕が鳴るわ」

「ヒュー。景気よくやろうぜ。野暮かもしんねえけど、理由を聞いていいか?」

「軍は数で不利な上にここ二ヶ月は後退続き。俺達が第一特務からの派遣って事になっているから士気の維持は出来ているけど、全員が全員維持出来るとは限らない。けど、ここで期待されてる俺達がド派手に攻撃して敵を吹き飛ばせば士気も上がるだろ?」

「立派な心がけね。けど本音は?」

 水帆は言いつつも、孝弘の発言の真意に勘づいたのか、によによと笑いながら聞く。

「約一八〇〇〇も敵がいて、そこから増える可能性があるなら効率良くなるべく多く倒したい。見栄えが良くCTを吹き飛ばせば士気が上がるのは本音だぞ」

「でしょうね。一〇〇や五〇〇ならともかくとして、この数じゃ最初からずっと中級魔法でちまちまなんてやってたら日が暮れちゃうわ」

「ちげえねえな。キリがねぇ」

「てわけで、初撃は四人で連結型上級魔法で。火属性爆発系。面制圧で大量の炎弾を降らせよう」

「おーけー、分かったわ」

「以降は先に話した通りの方針で。後はそうだな……、敵が接近してきて必要になれば近接戦闘だな。全中後衛の配置はアルストルムの時と同じで」

 おおよその方針が決まったのは午前五時五〇分。そろそろCTの大群が有視界距離になる頃だった。

 日の出直後の眩しい光が周辺を照らす。一種、幻想的な景色。
 だが、似つかわしくなく禍々しい大群が遂に姿を現した。

「あれが約一八〇〇〇のCT……。骨が折れそうだな……」

 孝弘はゴクリと唾を飲む。
 彼らとて大軍を相手にする事は何度もあった。とはいえ万を越える相手に慢心するほど悠長な性格はしていないし、慢心が致命傷になる事も知っている。

「予定通り、まずは連結型上級魔法でいこう」

 孝弘の言葉に四人は頷く。
 ベルが鳴り、幕が上がる。

 『富士宮北部防衛戦』の始まりである。
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