異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第2章 富士・富士宮防衛戦

第9話 四人の戦果に七条璃佳は

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 ・・9・・
 10月3日
 午後二時半過ぎ
 山梨県韮崎市中心部
 JR東日本中央本線・韮崎駅
 中央高地方面防衛軍・魔法軍第1特務連隊本部


 孝弘達がいる富士・富士宮方面での戦いが勝利に終わった翌日の一〇月三日。
 富士宮から北に約七五キロメートル離れた山梨県側の戦線、通称『中央高地戦線』でも動きがあった。

『中央高地戦線』は戦争が始まって二ヶ月が経過し北杜市と一部地域を残して山梨県のほぼ全域をCTの制圧下に置かれていた。いくら戦線整理の為に後退したとはいえ、このままだと山梨県全域を占領され、次は諏訪湖周辺に向かわれてしまう。
 そこで日本軍は『中央高地戦線』を担当する中央高地方面軍約一五〇〇〇に加えて、一旦戦況が落ち着いた新潟方面から約一五〇〇の増援を送る。

 それが孝弘達に無茶振りの作戦を命じた、七条璃佳が率いる魔法軍第一特務連隊だった。
 元より反攻作戦を行うつもりだった中央高地方面軍にとって、璃佳達は心強い援軍であり、事実として二日から始まった韮崎奪還戦は璃佳達第一特務連隊が八面六臂はちめんろっぴの活躍をした。
 北杜市の拠点より一斉に反撃を開始。第一特務連隊を先頭に徹底的な火力投射と第一特務連隊の過剰とまで言えるほどの魔法火力投射でわずか一日で韮崎市を奪還せしめたのである。
 これによって、中央高地戦線においても約二〇〇平方キロメートルではあるがCTの手から取り戻したのである。

 富士・富士宮方面の戦闘に並んで勝利を掴んだ中央高地方面軍。その立役者が一人、七条璃佳は自身が率いる連隊の本部にいた。


 ・・Φ・・
「――以上が昨日からの戦闘の報告になります。我々第一特務連隊からも一二名の戦死者と三三名の負傷者が出ましたが、士気は上がっております。作戦は成功と言っていいかと」

「まあ、まずまずだね」

 七条璃華は、副官であるメガネを掛けて知的な印象を受ける熊川彰くまがわあきら少佐からの報告を受けてそれなりに満足気にしていた。小柄な彼女が連隊本部作戦室の椅子に座っており、隣に控える熊川は身長一八〇センチの長身の男性であり年齢が三〇代前半であることから、誰も知らない人が見れば歳が離れすぎている兄妹か学校の教師と生徒のように見えなくもない。ただ二人は軍服であるし、周りにいる将兵にとってはいつもの風景なので誰も気にするはずがなかった。

「しかし、方面軍全体での死傷者は約四五〇か……。先が思いやられるね」

「確かにやや多い印象ではありますが、中央高地戦線に大型目標が少々目立ったからではないでしょうか?」

「それもあるけどね。あれから二ヶ月が経って、敵が学習してる気がする。当たり前と言っちゃ当たり前なんだけどさあ」

「送り込んでくる側が学んだのでしょう。あの門が単に開いただけではないのは既に常識になりつつありますし、絶えず流れ込んでくるバケモノ共の振り分けでもしてるんでしょうか」

「たぶんね。確かめる手段はあっても敵地ど真ん中の襲撃が出来ないから分かんないけど」

「緒戦で空爆したら貫通型大型爆弾の効果があまりにも薄かった上に、手痛い反撃を食らいましたからね。あちこちで戦っているから余裕が無いのもあるんでしょうけど」

「このままじゃジリ貧ってわけ。ジリ貧をなんとかすんのが私達だけどね」

 作戦室にいる連隊士官達は璃佳の言葉に頷く。韮崎を奪還した事で自信に繋がっているのか、はたまた元から士気の高い第一特務連隊だからだろうか、ジリ貧と分かってても諦めるような者はここにいなかった。

「ま、そん中で彼等も良くやってくれたと思うよ」

「連結型上級魔法を約一分弱継続させ、単独で大隊規模のCTを吹っ飛ばし、魔法対物ライフルで一体だけでも魔法小隊が潰されかねない超大型目標八体を八発の弾丸で撃破でしたか。Sランク能力者はやはり凄まじいですよ。A+の自分でも、報告だけで隔絶した強さを感じました」

「私にとっても想定以上だったかな。てわけで、彼等の話をしたいから連隊長室に行こうか」

「はっ。了解しました」

「つーことで、私は一旦席を外す。諸君らもどっかで休息を取りなよ?   も少ししたら、手配したコーヒーやココアに軽食が届くから休んどきな」

『ありがとうございます!』

 戦場において食は娯楽。璃佳がコネも含めて優先手配したモノが届くと知った室内の将兵は喜色の笑みを浮かべて敬礼した。
 笑顔で答礼した璃佳は席を外し、駅の二階に置かれた臨時の連隊長室に移る。
 彼女が場所を変えたのは孝弘達の情報に機密が含まれているからだ。一部の者に限ってある程度の話までは知られつつあるが、流石にこれから話す内容はあそこでは話せない。
 熊川がドアを閉めて防音魔法を用いてから、璃佳は口を開く。

「さっき、私は想定以上って言ったよね」

「ええ。それがどうかしましたか?」

「あれね、戦果の面だけじゃないのよ。私の想定以上に、ってこと」

「……その心は?」

 璃佳の発言に真意を図りかねたのか、熊川は少し間を置いて問うた。

「彼等はホンモノだよ。古川少将閣下の報告を読んだけどさ、彼等は『帰還組』の中でも逸材中の逸材。元民間人なんて生ぬるい表現じゃなくて、軍人であり超高位能力者。早い話、私と同類」

「大佐と同類とは。まさか大佐からそのような発言が聞けるとは」

「そう評価せざるを得ないでしょう?    『帰還組』は内政担当だった者はこの戦いに身を投じちゃいないし、むしろ遠ざかろうとしてる。戦闘組は半分がPTSD心的外傷後ストレス障害になって帰ってきて、やっぱり戦いから遠ざかろうとしてる。当然だけど」

「戦闘組は各々が辛い経験をしたからでしょう。誰だってなると思いますよ。しかも彼等はいきなり異世界に飛ばされ、戦わざるを得なかった。ならない方が珍しいかと」

「そそ、だから彼等は逸材なの。だって、普通有り得る?    帰還当日に戦闘し、その日に古川少将閣下に勧誘されて翌日には了承。バケモノのクソ共が動いた要素もあるだろうけど、普通は家族のもとに帰りたいって言うって。彼等は家族や友人の安否調査を引き換え条件の一つにして戦うって決めたらしいから大したもんだよ」

「確かに……」

 熊川は首を小さく縦に振る。
 彼も孝弘達の事が書かれている報告書に目を通していたが、四人の特異性についてはかなり強く感じていた。
 それだけではない。今回の戦果も大概だ。
 四人の合計撃破数も目を疑う数値だったが、熊川が注目したのは戦闘時の彼等の行動と様子である。

 曰く、約二万の大群を前にして動じる様子は無かった。

 曰く、独断専行は一切無く大尉という階級に準じた発言と振る舞いをしていた。

 曰く、戦闘時における法撃の用い方は非常に的確かつ効率的であった。

 曰く、基本五属性全てを用いる魔法能力者がとり、その魔法能力者の法撃威力は信じられないくらい高かった。

 曰く、四人での役割分担は最適化されており、あれだけの法撃などを行いながら万が一に備えて周辺の部隊に追加の魔法障壁を展開する余裕すらあった。

 曰く、司令部に送られてくる情報とやりとりは民間人だとは思えない。明らかに手練の現場指揮官や情報士官のそれだった。

 曰く、魔法対物ライフルで彼が担当する全ての超大型CTに対してヘッドショットだった。


 その他多数。
 まだ一日しか経過していないというのに挙げればキリがない程の報告が届いている。
 これら目を疑う様々な報告が各方面から出ている以上、事実であると判断せざるを得ない。
 そして、熊川は軍人としてこう思った。

 この第一特務連隊へ正式に配属させて、共に戦うに最適な人材達。
『帰還組』戦闘側にあるような諸問題がほぼ無い、完成された軍人。

 であると。
 どうやら熊川の考えと同じことを、璃佳は思っているらしい。

「熊川少佐。あの四人、絶対にウチに引き入れる。今回の戦功も踏まえて、しかるべき階級にさせる。そして、彼等が一番戦いやすく私達が最も戦果を上げられる方式になるよう私が動く。あの四人がいるだけで、作戦の幅は大いに広がるし、戦死傷率も低下させられるし」

「了解しました。連隊全体の調整を行いましょう。上との掛け合いはお願い致します」

「任せてちょうだい。『帰還組』四人を抱えられる位には戦功も貯まってるし、そうじゃなくても七条の名前を使って絶対に何とかするわ」

 璃佳は可憐な少女のようにニコッと笑う。
 だがすぐに、軍人らしい引き締まった顔つきに戻ると。

「こんなクソみたいな世界だもの。彼等が軍人になると決めたのなら、私も七条の名にかけて彼等が最も能力を使い任を果たせる環境を作ってあげようじゃない。彼等が言う、『大切な人を守る為に戦う』って認識、私も同じで気が合うし、気に入ったからさ」

 孝弘達が知らないところで、四人の道筋はまた大きく変わろうとしていた。






※ここまでお読み頂きありがとうございます。
作品を読んで面白いと感じたり良い物語だと思って頂けましたら、お気に入りなどして頂けると、とても嬉しいです。
引き続き作品をお楽しみくださいませ。
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