異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

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第3章 中央高地戦線編

第1話 中央高地方面への転戦

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 ・・1・・
 10月6日
 午前10時過ぎ
 富士宮・ショッピングモール内の司令部


 富士・富士宮方面の戦いが勝利に終わり、中央高地方面の戦闘も同様に勝利を掴んでから数日が経過した一〇月六日。富士宮北部防衛線における戦いで多大な貢献をした孝弘達は一躍時の人と化していた。

 あの日の戦いは二ヶ月負け続きだった日本軍にとって久しぶりの勝利――局所的な勝利はあったがほとんどが民間人避難の為の時間稼ぎだった――であり、わずか数キロメートルの前進ではあるものの、数字以上の効果を各戦線にもたらしたのである。
 士気の向上。上層部にとっては一部地域における反攻作戦の本格実施検討。防戦一方だった日本軍の志向が少しであっても変わったことは、一筋の光が差したと言えるだろう。

 さて、その一筋の光の真ん中にあるのが富士・富士宮方面の司令部。舞台中央にいる人物こそが孝弘達だった。
 あの戦闘を終えてから軍人達が孝弘達に向ける視線は、第一特務連隊所属という畏敬の念だけでなく『英雄』としての扱いが加わった。孝弘達が通ると、士官から兵に至るまで敬礼をするのである。古川少将に呼ばれ司令官室に向かっている今も、孝弘達を見つける度に将兵達は笑顔で敬礼をしていた。
 孝弘達はというと、ややむず痒い思いだった。
 この手の眼差しはあちらアルストルムである程度は慣れたとはいえ、こちらでも同じことになるなど帰還前には思ってもいなかったからである。
 とはいえ、四人はこういう時は演技に徹する方がいいとも知っていた。自分達がそのように振る舞い士気が上がるのならばいいに越したことは無いからである。

 自分達にあてがわれている区画から古川少将の司令官室に着くと、歩哨の兵士から敬礼を受け四人は答礼する。

「古川少将閣下、第一特務連隊所属米原孝弘以下総員、到着致しました」

「入りなさい」

「はっ。失礼致します」

 孝弘達が入室すると、古川少将はにこやかに四人を迎える。歩哨の兵士がドアを閉めると、孝弘達は古川少将に敬礼。古川少将も答礼する。防音魔法はもちろんかけられていた。

「楽にして良し。急な呼び出しですまなかったな」

「いえ、問題ありません。でも慣れております」

「ああ、そうだったな。どうにも、まだ君達を軍人として扱うのを慣れていないようだ。呼び出した用件の前に、まずは改めて先の作戦の感謝を自分からも伝えたい。本当にありがとう」

「軍人として当然の任を果たしたまでです。想定以上の戦果に、想定外の事態ではありましたが、結果的に作戦に寄与出来たのであれば喜ばしい事でありますので」

「そう謙遜せんくても良い、米原大尉。日本軍全体にとっても、中央高地方面の勝利と合わせて富士・富士宮方面の勝利は与えている影響は大きい。東北・信越方面の友軍も励まされたと聞く。君達はそれだけの事を成し遂げてくれたのだよ」

「ありがとうございます」

 孝弘が礼を言うと、古川少将は口角を緩めつつ頷く。それから本題を切り出した。

「では早速、呼び出した件を伝えよう。いくつかあるから、一つずつ。一つ目は君達の処遇について。先の作戦の活躍を踏まえ七条璃佳大佐が魔法軍本部に推薦状を送ったと聞いた。『第一特務連隊所属に関する推薦状』『昇進推薦状』の二件だ。いずれも本部は即時許可。君達は正式に『第一特務連隊連隊長直属連隊員』として配属され、階級も『魔法少佐』となる。おめでとう」

『ありがとうございます』

 四人は声を揃えて感謝の意を伝えるが内心では、あの大佐が早々に根回しをしたんだろうなと思っていた。
 彼等の予測は正解で、璃佳は先の戦いにおける孝弘達の活躍を名目に自分のコネと立場を使って四人を自分の部隊にねじ込んだのである。魔法軍本部にとってもいかに扱いを慎重にせざるを得ない『帰還組』とはいえSランク魔法能力者という貴重も貴重な戦力を遊ばせる余裕は無く、孝弘達自身も戦う意志があるのなら好都合と、あっさり璃佳の推薦に許諾の判を押した。七条本家からの提言もあるから首を横に振る理由など無かったのである。

「うむ。ついては昨日届いたばかりの第一特務連隊所属員特注の軍服を諸君らに渡す。来月には特務連隊とひと目で分かる漆黒の軍用コートも届くだろう」

「おお、すげえ。右胸に特務連隊のエンブレムも刺繍されてら。っと、失礼致しました、古川少将閣下」

「構わんよ、川島少佐。『帰還組』とはいえ、元は魔法学生。それが憧れの一つであるのに変わりはない」

 大輝だけでなく、他の三人も似たような反応をしたのは無理もない。

 第一特務連隊は特殊部隊であり、魔法軍将兵の多くが憧れの視線を送ったりここに所属をするのを目標としている将兵はいくらでもいる。『杖を胸に置く魔女』のエンブレムマークとその下に書かれている『First Special Regiment(第一特務連隊)』の文字はその証なのである。

「特務連隊の名に恥じぬよう、今後も軍務を果たします」

「うむ。七条璃佳大佐にもそう伝えておこう、高崎少佐。次の話に移ろう。これは直接諸君らには関係無いが、戦線の押し上げを目的として静岡方面から一個旅団約五〇〇〇の増派が決まった。後方から静岡に新編成部隊が到着したこともあるが、諸君らと将兵等の活躍により富士は興国寺城跡付近まで、富士宮も数キロ前進した。これを機に沼津を奪還し、富士宮方面も許す限りではあるが奪還領域を広げたいと軍上層部は考えている」

 古川少将から聞いた話に、四人はまあそうなるだろうなと思っていた。
 CTが理由不明の後退をした事で現在富士と富士宮周辺部には空白地帯が生じている。何故か掴めない以上は警戒しなければならないが、軍の上層部としては奪還域を広げるチャンスと捉えるのが常識だからである。

「古川少将閣下。差し支え無ければお聞きしたいのですが、本部は沼津だけのつもりではありませんよね……?    例えば、三島とか」

「察しが良いな、関少佐。貴官の言う通りだ。三島は敵の魔法粒子撹乱で衛星から情報が得られないから不明ではあるが、近いうちに沼津より奥の三島方面へ無人機による高高度偵察と飛行魔法兵による強行偵察が予定されている。我の兵力を持って彼の戦力に対応可能であれば、作戦は実行されるだろう。……実の所、残念ながら諸君らは関係しなくなってしまったが」

「ということは、富士からの移動ですか?」

「ああ、そうだ米原少佐。貴官らに命令書が届いている。無論、送ってきた先は第一特務の七条璃佳大佐だ」

 孝弘は古川少将から命令書を受け取ると、左右から三人も中身に目を通す。そこにはこう書いてあった。

『米原少佐、高崎少佐、川島少佐、関少佐、以上四名を富士宮方面から中央高地方面軍へ配置転換とする。明日、〇九〇〇まるきゅーまるまるに富士宮から可変回転翼機にて北杜方面に向かうよう。なお、貴官等の専用武装は要望あれば可能な限り手配するから心配ご無用。貴官等の益々の活躍を期待する。――日本魔法軍第一特務連隊連隊長・七条璃佳』

「随分急ですが戦時です。確かに受け取りました」

 孝弘達の敬礼に古川少将は答礼すると、

「短い間だったが、貴官等に会い共に出来たことを嬉しく思う。中央高地方面も激戦地であるが、貴官等なら大丈夫だろう。富士宮から健闘を祈っている」

『はっ!』

「あともう一つ。貴官等の希望の一つを七条璃佳大佐は早々に動いてくれたようだ。こちらも渡しておく」

 古川少将が渡したもう一通の紙。そこにはこうあった。

『追記。君達の親族は全員生存していたよ。別宅か自宅かの違いはあるけれど、五体満足で生きてた。すぐには会えないかもしれないけれど、時期が許すようになったら会えるよう手配をするね。君達の上官より』

「そっか。良かった……。良かった……!」

 孝弘は軍人ではなく私人として感情を露わにした。水帆、大輝、知花も同じくそれぞれが安堵するか笑みをこぼすかしていた。彼らにとって、家族の存命は何よりも喜ばしい事だった。

「友人達まではまだ追跡出来ていないが、じきに分かるだろう。この時世だ。全員が存命とまで保証は出来んが、分かった時には大佐に聞くといい」

『はいっ!!』

 家族が生きており友人達についてもそのうち分かるとなれば、四人にとっての憂いはかなり減ったと言えた。であるのならば、ある程度は安心して中央高地方面に向かえる。
 その日の夜、ささやかながら四人の見送りの会が開かれた。もちろん、彼等の友人である翔吾も出席して。
 そして翌日の朝。孝弘達は璃佳が手配した可変回転翼機で山梨県北杜市に向かうのであった。
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