異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃

文字の大きさ
150 / 250
第10章 北関東・会津郡山方面奪還作戦編I

第17話 当たっていた孝弘の勘

しおりを挟む
 ・・14・・
 1月25日
 午前9時過ぎ
 福島県会津若松市・第3戦線前線司令部


 DHDとの戦いを終えた翌日の二五日。孝弘は璃佳のいる前線司令部になっている大天幕にいた。昨日の件の報告のためである。

「昨日は第一戦線への報告も含めてご苦労だったね。そして、よくやってくれたよ。また一つ勲章が増えるんじゃない?   第一戦線司令部だけじゃなくて、今川大佐からも感謝の意が伝えられたよ。命を救われたって」

「ここの進発が少しでもズレてたら間に合いませんでした。まさにギリギリでしたよ。助けられてよかったです」

「皆失っちゃいけない人だけど、今川大佐は特に失ってはならない人だからね。Sランクの戦死は士気に大きな影響を与えるからさ。昨日のアレは、それが有り得たくらいの出来事だった」

「DHDの光線系魔法の直撃は即死を意味しますからね……。魔法障壁は頼もしいですが、同時に脆い存在です。この世界にHPなんて便利な概念はありませんから」

「全くだね。さて、立ち話もなんだから座りなよ。ソファが無くて悪いけど」

「ありがとうございます。……キャンプ用の折りたたみ式椅子なんてありましたっけ?」

「廃墟と化した近くのホームセンターにあったから持ってきた」

「ああ、そういう……。いいものありましたね。座り心地が良さそうです」

「あとこれ、コーヒー。外は相変わらず寒いからさ」

「ありがとうございます」

 孝弘は璃佳からステンレスマグに入れられたコーヒーを受け取ると座ってから一口飲み、ほぅ、と息をつく。璃佳も対面にあるキャンプ用の折りたたみ式椅子に座る。

「報告書を早速ありがと。第一戦線から届いたものはある程度目を通したけれど、こっちもあとで読まさせてもらうね」

「よろしくお願いいたします。ということは呼ばれたのは別件でしょうか」

「そそ。本当は昨日のうちに伝えようと思ってたんだけど、DHDの襲来があったでしょ?   伝えずじまいだったからこのタイミングでと思ってね。その用件ってのがこれ。資料送るね」

「ありがとうございます。…………なるほど。関中佐に依頼してBCTCRに送ったCTのデータについてですね」

「うん。貴官が気付いて関中佐がデータ収集と簡易分析を行い、それを佐渡がさらに解析をした結果のヤツ。結論から言うと、キミの勘は当たった。だから伊丹に精密分析を頼んだよ」

「やはり当たりましたか……」

「残念ながらね」

 孝弘がため息をつくと、璃佳は肩を竦めて苦笑いをする。
 勘が当たった。というのは孝弘が会津盆地の戦闘で感じたCTの攻撃力・防御力・速力といった能力全般である。自分達の法撃はともかくとして、友軍のアサルトライフルがやや効きにくくなっている点は本当だったのである。

「まだ簡易分析の段階だから確定じゃないし取ったデータも多くはないけれど、従来のCTに比べて防御力が約一〇パーセントから一五パーセント強化。攻撃力は物理攻撃が約一〇パーセント程度強化。母数が少ないからまだ未確定だけど、法撃力は一五パーセント程度位上がってるみたいだね。速力についてはヘルハウンド型に顕著で、約一〇パーセントの上昇。とまあ、こんなとこかな。さらにデータが収集されれば確定値は出せると思う。ちなみに強化型ともいえるCTの割合は今のところ約三割から四割ってとこかな」

「あの数で三割から四割は厄介ですね……。しかも増えるか減るかも分からないときたとなれば」

「早急に対策を練る必要が出るね。ありとあらゆる方面に影響が生じることになるから」

 後にCT二型と呼称される強化型のCTが三割から四割もいるのなら、日本軍は作戦全般を見直さざるを得なくなるのだ。将兵への情報共有は勿論、敵に与えるべき攻撃手段の一部見直しからCT一体あたりに叩き込むべき砲弾や銃弾の数量増加に伴う補給計画の変更まで多岐に渡る。参謀本部の頭痛の種が増えるわけだ。

 参謀本部の頭痛の種が増えるだけならまだマシだ。きっと参謀本部の面々も同じことを言うだろう。何故ならば最も影響を受けるのは孝弘達のように前線にいる将兵だからである。

 今までの感覚で銃撃したら、法撃をしたら耐えられた。反撃の隙を与えてしまった。その結果は明快。死を意味する。戦死傷者の増加に繋がる。銚子転移門が消失したことで無限湧きの心配は無くなったものの無尽蔵と錯覚したくもなるCTの数を踏まえれば、戦死傷者の数が増えるのは非常に好ましくないのだ。
 孝弘や璃佳が事態を深刻に捉えているのはそれだけでは無かった。

「問題はこの強化型CTが今後どれくらいの割合になるか、です。今の割合を維持なら百歩譲ってマシですが、今後全てのCTが強化型CTに置き換わった場合を想定すると……」

「それだけ砲弾薬がいるし、私達能力者が一会戦あたりに消費する魔力も増大する。かな」

「はい。国内だけでもこれだけの問題が湧き上がります。一番マズイのは、強化型CTが日本国内のみに留まらず諸外国でも観測された場合です」

「最悪の事態を想定しなければならない戦線も出てくるだろうね。私達日本軍や欧州戦線、中国が担当している戦線のように押し返し始めた所や、禁忌の切り札を使ってまで押し返そうとしている北米戦線はまだいいよ。今実例に上げた戦線は軍事大国や魔法大国がいるから、打つ手はまだある。でも、それ以外の地域はギリギリ耐えている状態。下手すれば――」

「戦線が崩壊しますね。そして、どこかの戦線が崩壊すれば今はなんとか出来ている戦線にも悪影響を及ぼします。例えば中東戦線です。エジプトや中東諸国が潰れればその先にあるのは欧州南部など。ヨーロッパ戦線の状況が悪い意味でひっくり返ってしまうでしょう」

 たかがCT強化型。されどCT強化型である。仮確定ではあるものの約一割個体能力値が上昇するだけでこれだけの問題が出てくるのだ。CTの数がたかが知れているのであれば大した問題にはならない。しかし現実には、アフリカの大部分が通信途絶となり他の地域でも全容が掴めないところが多数あるとなれば、CTの数は最早どれだけいるかなど分からないのだ。

 現時点で全世界における推計CT数は約数千万。そして、CTは倒しても転移門から流入する限りは数は元通りになるかむしろ増える。
 もし新たに流入するCTの全てが強化型ならば、それは悪夢以外の何物でもない。だから一割の強化とて決して侮れるものではないのである。

「米原大佐、貴官は世界にかけがえの無い武器をもたらしてくれた。情報っていう最も重要な武器をね。現時点で強化型CTの情報は国外に出ていない。出ていないだけで勘づいている軍人は世界各地にいるかもしれないけれど、この情報は一分一秒を争うもの。気付く気付かないで全く戦い方が変わってくるからね。だから、よく気付いてくれたよ。ありがとう」

「とんでもないです。国内だろうと国外だろうと、自分の勘が役に立つのならばそれに越したことはありませんから」

「間違いなく、全世界にとって大助かりだよ。――国外については伊丹に取り扱いや使い方を任せるとして、現場の私達は即時この情報を共有していくからそのつもりで。ま、十中八九私達魔法軍の役割はもっと増えるだろうね」

「力を持つ者の義務と割り切ることにします。一人でも多く、生き残るためにも」

「そうだね。一人でも多く、生き残るために」

 CT強化型という新たな情報。
 日本軍参謀本部はこのデータを仮確定の段階で世界各国に即時共有した。

 やはりと言うべきか、欧州戦線などでも強化型CTの存在は現場レベルでは推測という形で上がってきていたらしく、日本軍がもたらした事によって確信に変わっていった。

 そしてこの情報が速やかに共有された結果、死なずに済んだ部隊がいくつもあり救われた民間人の命が多数あったことを、情報の起点の一つである孝弘達が知るのは随分と後になってからの事だった。









※ここまでお読み頂きありがとうございます。
作品を読んで面白いと感じたり良い物語だと思って頂けましたら、いいね(♡)やお気に入りを頂けると、とても嬉しいです。
引き続き作品をお楽しみくださいませ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...