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第1章転生編
第15話 謁見と改革の内容
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・・15・・
エルフォード・アルネシア。七十一歳。人類側諸国の中でも産業革命によって工業化を推進したアルネシア連合王国の君主だ。既に七十代に突入しているにも関わらず壮健で衰えを知らない人物でもある。その証拠に国王陛下の見た目は六十代半ばと言われても違和感が無いほどだ。
国王陛下への評価は珍しい事に貴族、庶民の身分関係無しに共通している。何れも名君と称されているからだ。陛下が即位されて三十年以上経過しているけれど、その間に数々の政策を行っている。やはり代表的なのは経済の発展だろう。
アルネシア連合王国が産業革命に突入してから、この国の産業構造は大きな変貌を遂げた。魔石を用いた魔法蒸気機関の発明をしたのは平民であるけれど、身分の差無く有用であれば導入するという姿勢を取った国王陛下は勅令を持って魔法蒸気機関の開発と導入に国家予算を投入。民間への補助も行った結果、連合王国は現在のように他国に先んじて工業化が進んでいる。
工業化が進めば国は富む。国が富めば貴族だけで無く庶民も潤う。現在の連合王国貴族の領地経営が概ね順調で、一般市民の暮らしぶりも良くなっているのは先進的な視点でこの国を統べてきた国王陛下によるところが大きい。
産業革命により庶民の中に資本家層が生まれ資本主義に移行しつつあるので市民も権力を持ちつつあるけれど、連合王国は議会の設置――貴族のみの上院と、多額の納税をする者が議員のほとんどを占める下院という形が現在の連合王国議会だ――など段階的に王政の中身を変えて市民の不満は極力抑えるようにしている。当然貴族には特権が脅かされる懸念も出ているけれど、貴族も利益が得られる工業化への補助金支給による負担軽減など多岐に及ぶ国の手厚い支援で適度にガス抜きをしているらしい。
これが国王陛下の功績だけれども、この国の王が名君で良かったと心底思う。これで暗君だったら最悪だからね。
さて、その国王陛下が面を上げよと言ってから僕達は顔を上げたけど、まず最初に国王陛下が話しかけてきたのは僕だった。
「アカツキ・ノースロード。まずは此度(こたび)の魔物討伐は見事であった。民だけでなく部下を守る姿勢は貴族の鏡、自らも前線に立ち戦う姿は軍人の鏡。理想を体現した行動は賞賛に値する。大儀であった」
「お褒めに預かり、光栄でございます。国王陛下」
「ロータスよ。そちの孫は良く育っておるな」
「感謝の極みです、陛下。儂自身もこれ程までに成長しているとは思っておりませんでした」
「はっはっはっ!余は誇らしいぞ。未来ある若い臣下であり、次期ノースロード領主になるであろうお前が領を統べ、軍を統率するのであればこの国は安泰であろうな」
「恐縮にございます。しかし、自分は貴族として、上官として当然の事をしたまでですから。そもそも、本作戦たる魔物討伐にあたっては元凶の魔人を逃してしまっております。自分の不甲斐なさのせいです」
国王陛下からは行いをべた褒めされたけれど、魔人を捕えられなかったのは事実。ありのままを僕は述べていく。
国王陛下も魔人という単語が出るとやや柔らかかった表情が厳しくなった。陛下はよく整えられた艶のある立派な顎髭(あごひげ)を触りながら。
「ふうむ。妖魔共は長年姿を見せなんだというのに、魔人が我が国に現れるだけでなく敵対行動を取ったことは真に厄介であるな。アカツキよ。お前は連合王国軍人において、二百五十年の平穏を破った魔人を目撃した軍人であり貴族であるが、彼奴等(きゃつら)はどうであった?率直に答えよ」
「はっ。私が目撃した魔人は肌は白く、瞳は金色。紫色の髪を長く伸ばし、黒翼を背に待つ双子の少女の魔人でありました」
僕の発言に、その場にいた大臣達は魔人だと……。と驚愕する。
「黒翼の少女とな。よい、続けよ」
「はい。この双子の魔人でありますが、魔物を多数召喚しながらも攻撃魔法は強力でした。本職は召喚士(サモナー)と推定されるにも関わらずです。残念ながらも戦闘により戦死者も出ております。推測するまでもなく双子の魔人の魔力は非常に高いでしょう。魔人の魔力は平均して我々人類の五倍、魔法に長けるエルフに匹敵すると言いますが、あの二人は人間の五倍どころではないでしょう」
「サモナーでありながら高火力魔法をも繰り出す、とな。ますます厄介な存在であるな……」
「陛下。僭越ながら申させて頂きますと、陛下のご想像以上に事態は深刻であるでしょう」
不敬を承知で僕は陛下に対して発言をする。事実、陛下のお側に控えていた外務大臣の表情が険しくなっている。だけど、僕はそれをあえて無視した。
二十代の若者にそう言われた陛下であるけれど、不機嫌になる事は全くない。むしろ僕の発言に興味を抱いたようで。
「ほう。余に面と向かって率直に意見を述べる者などそうそうおらぬ。面白い。根拠を述べてみよ」
「陛下のご寛大な心に感謝致します。では、早速」
僕は呼吸を整え、今回の魔人出現がいかに危険を孕んでいるかを話し始める。
「まず問題なのは、魔人が東部国境ではなく私達のノースロード領にまで入り込んできた事です。魔物を召喚するまで二人という少数での潜入ですから発見されにくい点はありますが、だとしても国境からノースロード領リールプルまではかなり距離があります。これを定期巡回している軍にも見つからずに動くのは難しいと私は考えます。ではなぜ可能かとなりますが、それは双子の魔人の練度が高い軍人かその類であり、高度な魔法能力者であるのが何よりの理由でしょう」
「双子の魔人は軍人であるか……。確かに訓練されておらねば、敵地への潜入なぞ出来ぬわな」
「はい。魔物を召喚、使役するサモナーとしての能力が高いのは脅威です。まだ調査を終えておりませんが、双子の魔人が召喚した魔物の数は百を越えています。これは高位魔法能力者でなければ行えません。そこへ輪にかけて高火力の攻撃魔法。これ程までの魔人が脅威で無いのならば、何が脅威と言えるのでしょうか」
「なるほどの。ではアカツキ。彼奴等の今回の目的は何であるか答えよ」
「恐らくですが、この国に混乱をもたらそうとする破壊工作であるでしょう。さらには敵状視察も兼ねているかもしれません。二人は任務は完了したと言っておりました。――これら敵地奥深くにての本行為は、必然的に難度が跳ね上がります。となれば、あの双子の魔人は特殊部隊に所属している可能性も考えられます」
「特殊部隊ときたか。筋の通った、軍人らしい発想であるな。ならば、さらに問いを重ねよう。彼奴等が特殊部隊の軍人であるとして、妖魔共は何を企んでおると考える?破壊工作をして終わりではあるまい」
「はい。ですので、結論から申します。妖魔帝国側の目的。それは人類側諸国への再侵攻。つまり、第二次妖魔大戦の開戦であるでしょう」
妖魔帝国の再侵攻。第二次妖魔大戦という僕の言葉に謁見の間は騒然となった。
「再侵攻に第二次妖魔大戦だと!?いくら今回の功労者でノースロード家の次期当主とはいえ、アカツキノースロード!陛下の御前で妄言が過ぎるぞ!」
これまで陛下の前だからと黙っていた外務大臣は痺れを切らしたのか鋭い目を釣り上げて叫ぶ。ははーん、外務大臣の思考が読めてきたぞ。平和に毒されて保守に凝り固まっている人物だねこりゃ。目の前が敵国との国境だというのに、開戦しないだなんて根拠どこにあるのか逆に僕は聞きたいんだけどな。
でも、ここで感情的になっては国王陛下への心象も悪いので僕は淡々と話すことにした。
「恐れながら、エディン侯爵閣下。相手はあの妖魔帝国です。我々が情報収集などの偵察が行える範囲は限られており、敵本拠であろう山脈の向こう側は未だに謎に包まれたまま。分からない尽くしの敵国に対してはあらゆる可能性を想定するべきだと考えるべきでは?」
「ぐう……。だが、だがだぞ!連中は二百五十年も何もしてこなかったんだぞ!?」
「逆に考えてみませんか?二百五十年も何もしてこなかった『だけ』、だと」
「何もしてこなかっただけだと!?何故だ!?」
「それは私にも分かりません。しかし、止まっていた砂時計が流れ出したのだけは事実でしょう」
「…………」
「エディン侯爵。お前の負けだ。彼の方がよっぽど頭が切れている。専門家には勝てないんだ。外務大臣を国王陛下より畏れ多くも任せられているお前なら分かるだろう?」
ここにきて今まで沈黙を貫いていた軍部大臣のマーチス・ヨーク侯爵が口を開く。正直この助け舟は助かった。これ以上は水掛け論になりかねなかったからだ。
「……すまん。マーチス侯爵の言う通りだ。…………アカツキ少佐、と呼べばいいだろうか。貴君の突拍子もない発言に思わず感情的になってすまなかった」
あれ、思ったより素直に謝罪したな外務大臣は。頭は固いけれど、悪い人では無いってことなのかな?
「いえ、私もエディン侯爵閣下の立場ならば同じように思っていたでしょう。外務大臣として国を憂うお気持ちは十分に察しております。そうでありますよね?国王陛下」
「そちは余の心でも読んでおるのか?何、この程度で余は怒らぬから安心せい」
「国王陛下、申し訳ございませんでした……」
「よいよい、エディン外務大臣。そちが驚くのも無理からぬ事であるし、国を思うての言動であることも知っておる。――して、話を戻すがアカツキよ。妖魔帝国の再侵攻、第二次妖魔大戦が起きると仮定してそちはどうする?ここまで言ってのけたそちのことだ。よもや、何も考えておらぬとは言わせぬぞ?」
流石は名君と呼ばれる国王陛下。非常に察しが良かった。国王陛下は鷹のように鋭い目つきで僕をじっと見る。
さあ、ここからが勝負所だ。限られたにも程がある時間しか無かったけれど、現状考えうる限りの改革案を話す時がきた。ここで成功するか失敗するかで、この国の運命が決まる。この国の運命と言うことは、僕の運命にも直結するんだ。
心は極度に緊張し、心臓は波打つように早くなるけれど、なんとかそれを落ち着かせて僕は口を開いた。
「はっ。はい。魔人と遭遇後に僅かばかりの時間と未熟な思考ながらも最大限の対策を考えてしました。ぜひ、ご覧下さい。もちろん、説明もさせて頂きます」
僕は言うと、カバンから用意してきた書類を取り出し、宮内大臣は受け取るとそれを国王陛下に渡す。
「対妖魔帝国を主としたアルネシア連合王国における改革案要項、か。中身を余が目を通すのも良いが、やはりそちの口から実際に聞いてみたい。全て申せ」
「はい。それでは、改革要項案の内容を申させて頂きます。改革案は七点になります」
内容は全部暗記してある。僕は滞りなく、述べ始めた。
「一つ、輸送能力向上における経済活性だけでなく有事における軍輸送能力向上の為に、アルネシア連合王国内の鉄道網構築。二つ、陸軍の戦力増強を目的とした最新式ライフルD1836の一括大量導入。三つ、現在導入の進められているガトリング砲や後装式駐退機付大砲のこちらも一括大量導入。四つ、三つまでの兵器導入に伴い軍全体の戦法の変更。五つ、現在一部でしか運用されていない魔法無線通信を領主屋敷や師団単位から最低でも連隊単位での導入。さらに、性能を低下させても良いので数万人規模の市など民間にも導入し有事における情報伝達網の整備。六つ、五つ目の情報網整備に伴い陸軍及び海軍本部内に統合情報管理司令本部の創設。また、統合情報管理司令支部を方面軍単位にも設置。七つ、武器弾薬や食糧が無ければ戦争には勝てませんので、鉄道網構築と並行して有事に万全かつ円滑な対応が可能になるように兵站の改善。以上が私が考案したアルネシア連合王国内における七大改革、略称A号改革になります」
エルフォード・アルネシア。七十一歳。人類側諸国の中でも産業革命によって工業化を推進したアルネシア連合王国の君主だ。既に七十代に突入しているにも関わらず壮健で衰えを知らない人物でもある。その証拠に国王陛下の見た目は六十代半ばと言われても違和感が無いほどだ。
国王陛下への評価は珍しい事に貴族、庶民の身分関係無しに共通している。何れも名君と称されているからだ。陛下が即位されて三十年以上経過しているけれど、その間に数々の政策を行っている。やはり代表的なのは経済の発展だろう。
アルネシア連合王国が産業革命に突入してから、この国の産業構造は大きな変貌を遂げた。魔石を用いた魔法蒸気機関の発明をしたのは平民であるけれど、身分の差無く有用であれば導入するという姿勢を取った国王陛下は勅令を持って魔法蒸気機関の開発と導入に国家予算を投入。民間への補助も行った結果、連合王国は現在のように他国に先んじて工業化が進んでいる。
工業化が進めば国は富む。国が富めば貴族だけで無く庶民も潤う。現在の連合王国貴族の領地経営が概ね順調で、一般市民の暮らしぶりも良くなっているのは先進的な視点でこの国を統べてきた国王陛下によるところが大きい。
産業革命により庶民の中に資本家層が生まれ資本主義に移行しつつあるので市民も権力を持ちつつあるけれど、連合王国は議会の設置――貴族のみの上院と、多額の納税をする者が議員のほとんどを占める下院という形が現在の連合王国議会だ――など段階的に王政の中身を変えて市民の不満は極力抑えるようにしている。当然貴族には特権が脅かされる懸念も出ているけれど、貴族も利益が得られる工業化への補助金支給による負担軽減など多岐に及ぶ国の手厚い支援で適度にガス抜きをしているらしい。
これが国王陛下の功績だけれども、この国の王が名君で良かったと心底思う。これで暗君だったら最悪だからね。
さて、その国王陛下が面を上げよと言ってから僕達は顔を上げたけど、まず最初に国王陛下が話しかけてきたのは僕だった。
「アカツキ・ノースロード。まずは此度(こたび)の魔物討伐は見事であった。民だけでなく部下を守る姿勢は貴族の鏡、自らも前線に立ち戦う姿は軍人の鏡。理想を体現した行動は賞賛に値する。大儀であった」
「お褒めに預かり、光栄でございます。国王陛下」
「ロータスよ。そちの孫は良く育っておるな」
「感謝の極みです、陛下。儂自身もこれ程までに成長しているとは思っておりませんでした」
「はっはっはっ!余は誇らしいぞ。未来ある若い臣下であり、次期ノースロード領主になるであろうお前が領を統べ、軍を統率するのであればこの国は安泰であろうな」
「恐縮にございます。しかし、自分は貴族として、上官として当然の事をしたまでですから。そもそも、本作戦たる魔物討伐にあたっては元凶の魔人を逃してしまっております。自分の不甲斐なさのせいです」
国王陛下からは行いをべた褒めされたけれど、魔人を捕えられなかったのは事実。ありのままを僕は述べていく。
国王陛下も魔人という単語が出るとやや柔らかかった表情が厳しくなった。陛下はよく整えられた艶のある立派な顎髭(あごひげ)を触りながら。
「ふうむ。妖魔共は長年姿を見せなんだというのに、魔人が我が国に現れるだけでなく敵対行動を取ったことは真に厄介であるな。アカツキよ。お前は連合王国軍人において、二百五十年の平穏を破った魔人を目撃した軍人であり貴族であるが、彼奴等(きゃつら)はどうであった?率直に答えよ」
「はっ。私が目撃した魔人は肌は白く、瞳は金色。紫色の髪を長く伸ばし、黒翼を背に待つ双子の少女の魔人でありました」
僕の発言に、その場にいた大臣達は魔人だと……。と驚愕する。
「黒翼の少女とな。よい、続けよ」
「はい。この双子の魔人でありますが、魔物を多数召喚しながらも攻撃魔法は強力でした。本職は召喚士(サモナー)と推定されるにも関わらずです。残念ながらも戦闘により戦死者も出ております。推測するまでもなく双子の魔人の魔力は非常に高いでしょう。魔人の魔力は平均して我々人類の五倍、魔法に長けるエルフに匹敵すると言いますが、あの二人は人間の五倍どころではないでしょう」
「サモナーでありながら高火力魔法をも繰り出す、とな。ますます厄介な存在であるな……」
「陛下。僭越ながら申させて頂きますと、陛下のご想像以上に事態は深刻であるでしょう」
不敬を承知で僕は陛下に対して発言をする。事実、陛下のお側に控えていた外務大臣の表情が険しくなっている。だけど、僕はそれをあえて無視した。
二十代の若者にそう言われた陛下であるけれど、不機嫌になる事は全くない。むしろ僕の発言に興味を抱いたようで。
「ほう。余に面と向かって率直に意見を述べる者などそうそうおらぬ。面白い。根拠を述べてみよ」
「陛下のご寛大な心に感謝致します。では、早速」
僕は呼吸を整え、今回の魔人出現がいかに危険を孕んでいるかを話し始める。
「まず問題なのは、魔人が東部国境ではなく私達のノースロード領にまで入り込んできた事です。魔物を召喚するまで二人という少数での潜入ですから発見されにくい点はありますが、だとしても国境からノースロード領リールプルまではかなり距離があります。これを定期巡回している軍にも見つからずに動くのは難しいと私は考えます。ではなぜ可能かとなりますが、それは双子の魔人の練度が高い軍人かその類であり、高度な魔法能力者であるのが何よりの理由でしょう」
「双子の魔人は軍人であるか……。確かに訓練されておらねば、敵地への潜入なぞ出来ぬわな」
「はい。魔物を召喚、使役するサモナーとしての能力が高いのは脅威です。まだ調査を終えておりませんが、双子の魔人が召喚した魔物の数は百を越えています。これは高位魔法能力者でなければ行えません。そこへ輪にかけて高火力の攻撃魔法。これ程までの魔人が脅威で無いのならば、何が脅威と言えるのでしょうか」
「なるほどの。ではアカツキ。彼奴等の今回の目的は何であるか答えよ」
「恐らくですが、この国に混乱をもたらそうとする破壊工作であるでしょう。さらには敵状視察も兼ねているかもしれません。二人は任務は完了したと言っておりました。――これら敵地奥深くにての本行為は、必然的に難度が跳ね上がります。となれば、あの双子の魔人は特殊部隊に所属している可能性も考えられます」
「特殊部隊ときたか。筋の通った、軍人らしい発想であるな。ならば、さらに問いを重ねよう。彼奴等が特殊部隊の軍人であるとして、妖魔共は何を企んでおると考える?破壊工作をして終わりではあるまい」
「はい。ですので、結論から申します。妖魔帝国側の目的。それは人類側諸国への再侵攻。つまり、第二次妖魔大戦の開戦であるでしょう」
妖魔帝国の再侵攻。第二次妖魔大戦という僕の言葉に謁見の間は騒然となった。
「再侵攻に第二次妖魔大戦だと!?いくら今回の功労者でノースロード家の次期当主とはいえ、アカツキノースロード!陛下の御前で妄言が過ぎるぞ!」
これまで陛下の前だからと黙っていた外務大臣は痺れを切らしたのか鋭い目を釣り上げて叫ぶ。ははーん、外務大臣の思考が読めてきたぞ。平和に毒されて保守に凝り固まっている人物だねこりゃ。目の前が敵国との国境だというのに、開戦しないだなんて根拠どこにあるのか逆に僕は聞きたいんだけどな。
でも、ここで感情的になっては国王陛下への心象も悪いので僕は淡々と話すことにした。
「恐れながら、エディン侯爵閣下。相手はあの妖魔帝国です。我々が情報収集などの偵察が行える範囲は限られており、敵本拠であろう山脈の向こう側は未だに謎に包まれたまま。分からない尽くしの敵国に対してはあらゆる可能性を想定するべきだと考えるべきでは?」
「ぐう……。だが、だがだぞ!連中は二百五十年も何もしてこなかったんだぞ!?」
「逆に考えてみませんか?二百五十年も何もしてこなかった『だけ』、だと」
「何もしてこなかっただけだと!?何故だ!?」
「それは私にも分かりません。しかし、止まっていた砂時計が流れ出したのだけは事実でしょう」
「…………」
「エディン侯爵。お前の負けだ。彼の方がよっぽど頭が切れている。専門家には勝てないんだ。外務大臣を国王陛下より畏れ多くも任せられているお前なら分かるだろう?」
ここにきて今まで沈黙を貫いていた軍部大臣のマーチス・ヨーク侯爵が口を開く。正直この助け舟は助かった。これ以上は水掛け論になりかねなかったからだ。
「……すまん。マーチス侯爵の言う通りだ。…………アカツキ少佐、と呼べばいいだろうか。貴君の突拍子もない発言に思わず感情的になってすまなかった」
あれ、思ったより素直に謝罪したな外務大臣は。頭は固いけれど、悪い人では無いってことなのかな?
「いえ、私もエディン侯爵閣下の立場ならば同じように思っていたでしょう。外務大臣として国を憂うお気持ちは十分に察しております。そうでありますよね?国王陛下」
「そちは余の心でも読んでおるのか?何、この程度で余は怒らぬから安心せい」
「国王陛下、申し訳ございませんでした……」
「よいよい、エディン外務大臣。そちが驚くのも無理からぬ事であるし、国を思うての言動であることも知っておる。――して、話を戻すがアカツキよ。妖魔帝国の再侵攻、第二次妖魔大戦が起きると仮定してそちはどうする?ここまで言ってのけたそちのことだ。よもや、何も考えておらぬとは言わせぬぞ?」
流石は名君と呼ばれる国王陛下。非常に察しが良かった。国王陛下は鷹のように鋭い目つきで僕をじっと見る。
さあ、ここからが勝負所だ。限られたにも程がある時間しか無かったけれど、現状考えうる限りの改革案を話す時がきた。ここで成功するか失敗するかで、この国の運命が決まる。この国の運命と言うことは、僕の運命にも直結するんだ。
心は極度に緊張し、心臓は波打つように早くなるけれど、なんとかそれを落ち着かせて僕は口を開いた。
「はっ。はい。魔人と遭遇後に僅かばかりの時間と未熟な思考ながらも最大限の対策を考えてしました。ぜひ、ご覧下さい。もちろん、説明もさせて頂きます」
僕は言うと、カバンから用意してきた書類を取り出し、宮内大臣は受け取るとそれを国王陛下に渡す。
「対妖魔帝国を主としたアルネシア連合王国における改革案要項、か。中身を余が目を通すのも良いが、やはりそちの口から実際に聞いてみたい。全て申せ」
「はい。それでは、改革要項案の内容を申させて頂きます。改革案は七点になります」
内容は全部暗記してある。僕は滞りなく、述べ始めた。
「一つ、輸送能力向上における経済活性だけでなく有事における軍輸送能力向上の為に、アルネシア連合王国内の鉄道網構築。二つ、陸軍の戦力増強を目的とした最新式ライフルD1836の一括大量導入。三つ、現在導入の進められているガトリング砲や後装式駐退機付大砲のこちらも一括大量導入。四つ、三つまでの兵器導入に伴い軍全体の戦法の変更。五つ、現在一部でしか運用されていない魔法無線通信を領主屋敷や師団単位から最低でも連隊単位での導入。さらに、性能を低下させても良いので数万人規模の市など民間にも導入し有事における情報伝達網の整備。六つ、五つ目の情報網整備に伴い陸軍及び海軍本部内に統合情報管理司令本部の創設。また、統合情報管理司令支部を方面軍単位にも設置。七つ、武器弾薬や食糧が無ければ戦争には勝てませんので、鉄道網構築と並行して有事に万全かつ円滑な対応が可能になるように兵站の改善。以上が私が考案したアルネシア連合王国内における七大改革、略称A号改革になります」
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