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第5章 新召喚武器召喚編

第3話 王命召喚

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7の月25の日
アルネセイラ・王城内大廊下

 マーチス侯爵から話を聞いた三日後。僕はマーチス侯爵と共に王城に赴き、宮内大臣の案内で国王陛下がおられる謁見の間に向かっていた。

「まさか国王陛下より直々に召喚石を頂いた上で、武器召喚を行うことになるとは思っていませんでした」

「国王陛下は戦況をお聞きなさる時にアカツキ王宮伯爵の事を気にかけておられた。特にヴァネティアの件では気が気でない様子であったのは帰国直後の謁見前の際に話した通りだ」

「オレも当時の事はよく覚えている。あのアカツキが負傷だと!? 双子の魔人に拷問で!? ええい忌々しい魔人め快楽であやつを嬲るとは不届き千万だ!! と激昴されておられたな……」

「そうでしたか……。国王陛下には相当に心配をおかけしたようで申し訳ない限りです……」

「アカツキ王宮伯爵。自分はむしろ、あの魔人共の蛮行を受けても生き延びて帰ってきたと思っているくらいだ。故に謝罪などはいらない」

「ありがとうございます、宮内大臣」

「そろそろ謁見の間だ。無事に回復した姿を見せて欲しい。さすれば陛下もご安心なされる」

「はっ。了解しました」

 謁見の間の前にある大扉に着くと、宮内大臣は僕達が着いた旨を陛下にお伝えすると、扉の向こうからは威厳に満ちた声が聞こえる。
 謁見の間に入ると、玉座に座る国王陛下の顔つきは普段の厳格なものから穏やかなものへと変わった。
 僕とマーチス侯爵は玉座の前まで歩き、かしずくと。

「アカツキ・ノースロード。陛下の命により参上致しました」

「マーチス・ヨーク。同じく参上致した次第」

「二人共よくぞ参った。アカツキよ、左腕の加減はどうであるか」

「動かすのに違和感は残っておりますが問題ありません。療養期間を長めに頂いたお陰でかなり良くなりました」

「おお、そうであるか。帰国後に姿を見せてくれた時はまだ痛々しい様子であったからな……。そちの怪我が良くなったのならば余も安堵するものよ」

「ありがとうございます。また、本日は私めに褒賞を授けてくださるとの事。陛下の寛大なお心に大変感謝しております」

「そう畏まらずともよいぞアカツキ。かねてより余はそちに何か褒美をやらねばならぬと思っておったからな」

「陛下のご配慮、感謝の極みです」

「良い良い。一ヶ月後には『鉄の暴風作戦』が始まる。当作戦においてそちは参謀長であるのだろう?」

「はい、そうであります陛下」

「そのような要職に就く魔法能力者が召喚武器の丸腰で送るなどヴァネティアの件がある以上余は耐えられん。そちにはルブリフやヴァネティアのようにその頭脳を持ってしてこの戦いも勝利へと導いてほしいと思っておるのだ。何せ二百五十年前の雪辱を晴らす戦いなのだからな」

「私はあくまで作戦立案をするだけです。それらを正確に効果的に実行してくれているのは最前線に立つ兵士達。この戦い、勝利の暁には彼等にも必ず御恩を授けてくださるようどうかお願い致します」

「謙虚な上に兵士達に対しても心配りを忘れぬとは軍人の鏡であるな。のう、マーチス?」

「はっ。私が見込んだ以上の人物であり、此度の作戦においても彼ならば我が軍に勝利をもたらしてくれると確信しております」

「うむ、真にそうである。さて、話を召喚武器についてへ移そう。そちはヴァネティアの戦いにおいて勇気を奮い双子の魔人と戦ったが召喚武器を失ってしまった。報告を耳にした時は余も我が事のように悲しんだものである」

 陛下は言葉の通り、まるで自分に起きてしまった事のように悲しそうな顔を見せる。宮内大臣の話は決して誇張ではないのが見て取れた。

「その節には大きなご心配をおかけしました。申し訳ありません」

「気に病まずともよいアカツキ。これまでのそちの働きは勲章だけでは足らぬと思っておったのだ。では何が良いだろうかと考えていおったのだが新たな召喚武器をそちに授けるのはどうであろうかと考えついたのだ。しかし、ただ召喚石を授けるだけでは良くないだろうと感じておっての。であるのならばと思考を巡らせる内に余は閃いた。これならばそちは喜んでくれるとおもっておるのだが」

「ただの召喚では無いということでしょうか? 是非お聞かせください」

 ただの召喚ではない武器召喚方式。一体どんなものだろうか。僕は気になったから陛下に質問した。
 すると陛下は微笑んでこう言った。

「うむ。ただの召喚ではあらずよ。これならばそちに対する褒美にも見合うと思う。それは、王命召喚である」

「王命召喚ですか!?」

 僕は陛下の口から出た単語に驚愕する。
 王命召喚。それはもう一つの武器召喚方式のことだ。
 武器召喚には二つの方法がある。一つはこの世界の軍人なら誰でも知っているお馴染みの召喚方式でこっちは単純に召喚と呼ばれている。
 例えばアルネシア連合王国の場合は連合王国軍統合本部に召喚所が置かれている他、ノイシュランデ等の主要都市に計六ヶ所の召喚所が設置されている。殆どの召喚武器はここで召喚されているわけだね。
 そして二つ目の召喚方式が、今陛下が仰られた王命召喚――共和国や連邦だと大統領召喚って名前になっているけれど――。こっちは召喚所は一ヶ所のみで、アルネシアの場合は王城内にある召喚の間で行われる。通常の召喚と違い武器召喚が行われるようになった頃から今でも最短四年に一回しか行えない制限付き武器召喚方式で、故に大体は国家に大きな貢献を果たした者に対して行われるものだ。召喚に関しても召喚者では無く国王の名において行われる。ちなみにだけど、この方式だとなんと確率が変動するんだよね。
 通常召喚ではAランクの召喚武器が出現する確率はおよそ0,05%、Sランクであれば0,02%、SSランクだと0,01%とソーシャルゲームなら運営に対して非難が殺到する確率だ。確実にクソゲーと呼ばれるだろう。
 これが王命召喚だとAランクは確定で、Sランクが約3%、SSランクが1%になる。制限付き武器召喚だから母数が少ないので国によって多少の偏りがあるものの、大体はこの確率に落ち着くらしい。
 しかし特殊な召喚方式である王命召喚においてもSSランクは百分の一でしか出ないんだから、いかにSSランクが貴重なのか痛感するよね……。
 とはいえ、四年に一回しか行えない上に出現確率が大幅に上昇する武器召喚の権利を僕が与えられるなんて想像もしていなかった……。

「畏れながら国王陛下。王命召喚はここで使ってしまえば四年後まで使用不可能である切り札的な召喚方式です。私めのような者が選ばれてもよろしいのでしょうか……」

「何を言うておるアカツキよ。先の大戦では散々苦渋を飲まされていたが、開戦から二ヶ月。まだ魔物共しか現れておらぬが侵攻を防いだどころか奴らを駆逐した上に領土奪還作戦を立てられるようになった下地と作戦を作り上げたはそちぞ? 他に誰が適切であるというのか? おるのならば名前をあげてみよ。余は思いつかぬぞ」

「それは……」

「アカツキよ、謙遜も程々にしておいた方が良いぞ。素直に受け取ってくれると余も嬉しいのだがの」

「と、とんでもございません。有難く頂戴致したく存じます」

「うむうむ、それで良い。そちの驚く顔も見られたし喜んで貰えるのならば余は満足であるぞ」

「驚く顔……?」

「すまんアカツキ。国王陛下には王命召喚の件は伏せておくように仰せつかっていた。驚かせたかったというのが一番ではあるが、国民向けに事後公表するつもりでいるらしくてな」

「は、はぁ……」

 マーチス侯爵の謝罪に僕はそう言うしかなかった。
 驚かせたかったからって。相変わらず茶目っ気は健在なんですね陛下……。すっごいしたり顔ですもん……。

「はっはっはっ! 無論、マーチスの言うように国民向けに対する点はある。Aランクであってもそちの所有しておった物と同じランクであるから落胆にはならんし、もしSSランクが現れてくれれば国民だけでなく軍の意気高揚にも繋がる。事後なら事前に発表してより効果があるからの。なあに、側近達には話した上での行動故にそちは心配する必要はないぞ」

「あ、ありがとうございます陛下……」

「うむ! その言葉が聞きたかった! ではアカツキよ。早速召喚の間に参ろうぞ。準備は既に出来ておるからな!」

 意気揚々と言う陛下。
 未だに驚愕から抜けられない僕はマーチス侯爵達と謁見の間に向かうこととなった。
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