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第9章『春の夜明け作戦』編
第6話 キシュナウ市街戦2〜現れしはキシュナウ妖魔軍司令官の副官〜
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・・6・・
「精密解析を開始。――敵後方からの増援は約六百。内、百は比較的高練度の可能性が高く指揮官と推測される対象は高位能力者と思われます。要注意対象をマーク」
「了解したよ。――総員、正面から一個大隊規模の敵が接近! 内百は比較的高練度! 隊列は分散させて広場中央まで下がり、魔法障壁を展開しろ!」
「了解しました!」
「今更増援か!」
「お前ら、ぶち抜かれないように魔法障壁を展開しろ!」
「広場中央まで後退! 隊列は密集させるなよ!」
エイジスによる精密解析がなされ、終わると僕の視界には通常に比べ濃い赤い点も表示される。
敵部隊を瓦解させた事により広場の殆どを制圧したけれど、このままにしておくと味方に損害が生じる可能性があるから、僕はすぐに大声を出した。
白兵戦も一旦落ち着いた頃なので情報はすぐに伝わる。戦闘によってややバラけていたフォーメーションはすぐに指示通りのものになる。
中距離、遠距離の支援射撃部隊も状況を察して即時射撃準備を始める。元からここにいた部隊も持ち込んでいた野砲など重火器の装填を終えていた。
「接敵まであと七百。間もなく通りの角から出現、今」
「撃てえぇぇ!!」
「斉射ァ!」
後方の砲射撃部隊は探知魔法を行使している魔法能力者からの情報を元に攻撃を開始。砲弾と魔法弾が頭上を越えて敵がいるであろう場所へ飛んでいく。砲弾は辛うじて崩壊を免れて建築物に直撃し、直後火属性と風属性の魔法弾が着弾する。
「……やれてないね」
「ええ、後方五百はともかく、前方の百は健在のようね」
「敵魔法障壁により防がれ、――! 高反応魔力波を感知。類型闇魔法、上級クラスと推測」
エイジスが感知したそれは、僕の視界にも映っていた。漆黒の禍々しい大きな魔法陣。行使者の前方に顕現し、あそこから放つということは……!
「あれか! 総員、障壁最大展開! エイジス、防御を最大出力」
「サー、マスター」
「避けられるけれど、避けられないわね」
「そういうこと!」
リイナも即時展開出来る分だけ魔法障壁を展開し、僕は広範囲魔法障壁の呪文を短縮化して詠唱する。
恐らく相手は遠距離闇魔法攻撃を行ってくる。左右のレンジは短いだろうから回避すればいいけれど、そうすれば後ろにいる味方に被害が及ぶ。エイジスがいる以上、ここに留まるのは僕の役目だ。
「来ます」
「っ!」
敵から放たれたのは、案の定遠距離型の闇魔法だった。まともに食らえば全てを飲み込み存在を消してしまうであろう黒い光線は三人で展開した魔法障壁の半分を破壊し残り三割まで大きなヒビを入れるものの、僕達に届く事はなかった。
それでも敵の攻撃による圧は凄まじく、衝撃を肌で感じた。
「敵十二名魔法剣を抜剣、加速して接近。内後方一人は魔力が最も突出している者。迎撃開始」
「鋭き氷の鋒は数多。凍てつきなさい、氷剣乱舞!」
「焔よ踊れ。炎刃演舞」
敵は後方からの支援魔法攻撃と魔法弾と合わせて猛スピードで接近。味方もさせるものかと支援砲射撃が飛び、それらは当たるか分からない少数より後方の多数に届き敵に損害を与える。しかし、敵後方からの攻撃の対象の一部は後ろにいる味方に命中し若干だけど負傷者が発生した。
対して僕、エイジス、リイナは、エイジスの分厚い魔法障壁に守られ難なく後方からの攻撃を防ぎ、エイジスの攻撃の半分は敵後方へ、もう半分は既に抜剣を終えて白兵戦を仕掛けてこようとしている十二名に命中。続けてリイナの放った二十数の氷剣、僕が詠唱した踊るように不規則に回転する十数の炎剣が当たって七名が脱落。それでも五名が残る。
「距離三百」
「魔法剣に障壁を付与して斬って相殺とはまた器用な事をするね。だが、それがどうした! エイジス!」
「前方五名に攻撃余裕分を行使。攻撃」
エイジスの圧倒的な火属性による魔法火力は敵五人がいた場所に大爆発を巻き起こす。
「来る!」
それでも敵は全滅していない。一人残っている。しかも狙いは!
「させるかよ」
煙と粉塵から飛び出してきたのはあの中で一番強力な魔人。真っ黒な軍服の階級は大佐だが見た目は若い、くすんだ金髪の男。
エイジスがいる僕より先に倒せると判断したからだろう、そいつの目標はリイナだった。
ちっ、動きが早い!
エイジスの攻撃予測情報により敵の動線がある程度読めている僕は、一度は着剣していたツイン・リルを抜剣し、そうはさせまいとリイナの前に立って相手を阻む。
「ちぇいやあぁぁぁぁ!!」
「ぐぅぅ!」
さらに加速して前方へ跳躍して最接近した金髪の男は片手魔法剣をあらん限りの力で振り下ろし僕が展開していた魔法障壁五枚を破壊。勢いは殺さたもののかなりの衝撃をツイン・リルで抑え、両手に痺れを生じさせた。
なら、こうしてやる!
「なっ!?」
込めていた力を一瞬だけ緩め一歩だけ下がると、予想外の行動に驚愕の表情を浮かべた敵は体のバランスを崩す。すかさずそこへ、身体強化によって動きの早くなった体躯を用いて回し蹴り。男は身体強化を付与していなければ即死クラスのダメージを受けて左方向へ吹き飛ぶ。しかしあの様子だと強化魔法を掛けているからすぐに立ち上がるだろう。
「うん、やっぱり」
痛覚の苦しみを表情に出しながらも立ち上がる男を睨みつつ、横目を見やると既に上官を助けようと後方から進出してきた敵二十数名が接近していた。
だけどこれには近距離特化部隊の兵士達やリイナが対処行動を開始。再び集団白兵戦へと移行していた。こうなると後方にいる支援射撃部隊は砲射撃が出来なくなる。よって登場早々に半壊していた敵後方部隊へ狙いを変えていた。
他の相手はリイナや部下達に任せるとして、僕はこの男を相手にしないと。こいつが立ち上がるまでに距離を保ち、破壊された魔法障壁を時間がかぎられるので三枚程度再度構築し、エイジスは最大の七割まで障壁を再構築する。
男は回転蹴りのダメージをそれなりに受けているらしく口から血を吐き捨てて、僕とエイジスを睨みつけると。
「貴様が人形の飼い主、アカツキ・ノースロードか……。貴様やあの女を殺す為の全力さえ防がれるとは、まったくもって忌々しいな……!」
「お前達に殺されるつもりはさらさらないからね。ところであの様子だと賭けに出たんだろうけど、残念だったな。ここからどうするんだい? リイナや部下達がお前達の部下を次々と倒していっているけれど、逃げなくていいの?」
「部下がこうも容易く潰されるとはな……。ああ、人間を舐めすぎたのは認めよう」
リイナは僕が一緒に訓練することを提案し、始めてから実力をさらに伸ばしていてA+ランク魔法能力者の中でも遠距離近距離隙無しの実力者にまで成長していた。近接戦闘は僕が教えたものだけでなくそれを応用した戦い方を身につけていて、今も飛来する魔法を身体強化で俊敏になった体躯で回避するか魔法障壁で受け止めて巧みに戦い、部下達もリイナを主軸として連携して相手を押している。
それでも男は諦めるつもりはないらしい。
「だが、おめおめと逃げるなぞするものか! 決まっているだろう。端から捨てると決めたこの命尽きるまで、レフノロスキー閣下の副官たるルフコフが貴様の前に立ち塞がるのみよ!」
「へぇ、副官様は孤立しても僕と戦うと」
キシュナウの総司令官の副官を名乗るくすんだ金髪の男は吼えると、片脚をバネにして一挙に距離を詰めてくる。魔法障壁を展開するつもりもないのか、恐らくは魔法剣に予め付与してあるのか、はたまた魔法剣で叩き切るつもりなんだろう。
相手は片手剣で僕はツインダガーだ。レンジは奴の方が長いから相手が接近を意図した瞬間に後ろへ下がる。
「はっ、甘いわっッッ! 漆黒の球よ、飲み込め!」
「そこからまだ詰めてくるんだ。面白いね。だけどさ、当てられると思って?」
「ちぃ! ちょこまかと!」
「だって当たりたくないじゃんか」
「あくまで近寄らせないつもりか!」
「当たり前だろ」
男はさらに加速して片手剣を横薙ぎするもかすりもせず、すかさず今度は闇魔法を詠唱して複数の黒い球を発現。僕が回避しきれないように飛ばしてくるけれど、それらは魔法障壁を防御では無く移動手段として出現させて全て避けていく。
その間にエイジスは僕と自身を護る魔法障壁の最大展開を終えて、オフェンスモードへ移行。金髪の男に対して牽制を行って、五メーラ以下に詰め寄られないよう火属性や氷属性だけでなく、土属性魔法も使って行く手を阻む。
「僕だけに気を取られると死ぬよ?」
「なっ!? クソがッ!」
奴の側面から、一瞬の隙を狙って後ろにいる部下が放つ風魔法の魔法弾が飛び、寸前の所で回避するが身体のバランスを崩す。そこへさらに数発が飛来するが、男は実力者だけあって咄嗟の判断で短縮詠唱の闇魔法の相殺した。
「探知捕捉済みの小隊規模、間もなく到着。」
「対処を頼むよ」
「サー」
広場中央ではリイナ達が乱戦を、広場左寄りでは僕と男の事実上の一騎討ち――互いに少数の味方の後方支援を受けているけれど決定打にはならない――をしていた所、戦いつつも察知していた小隊規模の敵が到着する。これはエイジスに任せて、僕は目の前の男に意識を集中させる。
エイジスがいる以上は彼女のあらゆる恩恵は受けられるし、そこそこのやり手とは言ってもこれまで鍛えてきたのだから単独でもやれる自信はあるからね。
「せっかくの援軍が現れたとこ悪いけど、希望は打ち砕かせてもらうよ」
「ちぃ! しかし最期まで諦めてなるものか! 剣よ、闇を纏い死神の鎌となれ!」
「背が低いのは悪いことばかりじゃないって、ね!」
「なんだと!?」
相対距離は二十五メーラ程度。相手はまたしても突撃すると、同時に魔法剣から真っ黒な闇の鎌が飛び出す。
しかしそれを僕は姿勢を極めて前傾姿勢に傾けるとそれは頭上数シーラを通過していく。その状態で僕は最大加速。瞬きの間に男の目の前まで接近する。
「胴体ががら空きだよ?」
「させるかァ!!」
「――なぁんてね」
男は正面から斬撃してくると考えたのか魔法剣を構えるけれど、しなかった。左脚で跳躍すると右斜め前へ。向かった先にはこのタイミングで現れるようにしておいた魔法障壁。そこへ着地した瞬間、男目掛けて空中吶喊!
貰った、とニタリと笑う。
速攻に対応しきれない金髪の男を通過する瞬間に構えていない奴の左腕を、左手に持つ風魔法を付与して極めて鋭利になっているツイン・リルの片方で跳ね飛ばす。
「ああぁぁがぁぁぁぁぁ!?」
「次」
片腕を切断されてはとても痛みに耐えられない。切られた箇所から大量出血をし魔法剣を持つ腕で押さえてしまい叫び声を上げる男の後方五メーラ着地すると反転。続いて無防備になっている男の膝から下を切り落とす。
「大佐ぁぁぁ!!」
「そんな!?」
「人間風情がぁぁ!!」
「余所見したらダメよ。あんた達の相手は私よ?」
片脚も切られた事でその場に転倒する瞬間を目撃してしまった男の部下達は救援に駆けつけようとするも、リイナが見逃すはずもなく目にも止まらぬ早さであっという間に三人を斬り伏せ、さらに二人を氷魔法の剣で貫く。
「小隊の掃討を完了しました、マスター」
「良くやったよ、エイジス」
敵はリイナや部下達に進路を塞がれ、援軍にかけつけた敵小隊もエイジスが殲滅。そして副官の男も片腕片脚を失いのたうち回るのみ。
最早勝敗は決したも同然で、エイジスはリイナ達が相手にしている魔人達に最後の追い討ちをかける中、僕は金髪の副官へと近づく。
窮鼠猫を噛むをされるのも嫌だから、念には念をと風魔法で魔法剣を持つもう片腕も吹き飛ばしておくと男は言葉にならない悲鳴を出していた。
「あ、が、ぁ……」
「総司令官の副官だっけか。勝負ありだ」
「ぐ、ふ……。人間……、アカツキ……。俺を倒したところで、まだレフノロスキー、閣下は健在……。戦いは、終わらんぞ」
「……なるほどね。命を捨ててってそういう事か」
「ふっ、くははっ……! 人間共に、災い、あ――」
副官のルフコフが最後まで言い切る前に、風魔法の刃を背中から心臓へと突き刺しとどめを刺す。ゲームみたいにセリフを言い切らせるなんてわざわざしないっての。
「ルフコフ大佐ぁぁ!」
「もうダメだ! 退却! 退却!」
「大佐が引き連れてきた精鋭を逃がすかっての。エイジス」
「了解、マイマスター」
心の支えだった自分達の副官が目の前でやられ六百あった増援も六分の一以下になってしまっており、敵部隊は作戦意義を失ったからと後方支援担当から近距離戦の生き残り全てが敗走を始める。だけど奴の言葉から何を意図していたかを知っている僕はエイジスに命じて敵を屠っていく。投降するならともかく、この後奴らに生き残られて友軍が殺されてしまう可能性を摘み取っておきたいからだ。
結局退却をした敵部隊はリイナや部下達の攻撃も加わった事で僅か数名を除いて掃討。
膠着状態だったキシュナウ北中部の要衝たる広場一帯は敵の援軍襲来を挟んだものの制圧を完了し、両翼の味方も戦闘を終えて合流。
こうして旅団第一連隊にとっての初陣を勝利で飾り、キシュナウ市内の占領地域の拡大に大きく貢献した。
しかし、ルフコフ大佐とその部下達の命を捨てた時間稼ぎにより、敵総司令官レフノロスキー少将を始めとする司令部はその間に中部の地下司令部を放棄して市街南部へと後退。
キシュナウ市街戦はまだまだ続く。
「精密解析を開始。――敵後方からの増援は約六百。内、百は比較的高練度の可能性が高く指揮官と推測される対象は高位能力者と思われます。要注意対象をマーク」
「了解したよ。――総員、正面から一個大隊規模の敵が接近! 内百は比較的高練度! 隊列は分散させて広場中央まで下がり、魔法障壁を展開しろ!」
「了解しました!」
「今更増援か!」
「お前ら、ぶち抜かれないように魔法障壁を展開しろ!」
「広場中央まで後退! 隊列は密集させるなよ!」
エイジスによる精密解析がなされ、終わると僕の視界には通常に比べ濃い赤い点も表示される。
敵部隊を瓦解させた事により広場の殆どを制圧したけれど、このままにしておくと味方に損害が生じる可能性があるから、僕はすぐに大声を出した。
白兵戦も一旦落ち着いた頃なので情報はすぐに伝わる。戦闘によってややバラけていたフォーメーションはすぐに指示通りのものになる。
中距離、遠距離の支援射撃部隊も状況を察して即時射撃準備を始める。元からここにいた部隊も持ち込んでいた野砲など重火器の装填を終えていた。
「接敵まであと七百。間もなく通りの角から出現、今」
「撃てえぇぇ!!」
「斉射ァ!」
後方の砲射撃部隊は探知魔法を行使している魔法能力者からの情報を元に攻撃を開始。砲弾と魔法弾が頭上を越えて敵がいるであろう場所へ飛んでいく。砲弾は辛うじて崩壊を免れて建築物に直撃し、直後火属性と風属性の魔法弾が着弾する。
「……やれてないね」
「ええ、後方五百はともかく、前方の百は健在のようね」
「敵魔法障壁により防がれ、――! 高反応魔力波を感知。類型闇魔法、上級クラスと推測」
エイジスが感知したそれは、僕の視界にも映っていた。漆黒の禍々しい大きな魔法陣。行使者の前方に顕現し、あそこから放つということは……!
「あれか! 総員、障壁最大展開! エイジス、防御を最大出力」
「サー、マスター」
「避けられるけれど、避けられないわね」
「そういうこと!」
リイナも即時展開出来る分だけ魔法障壁を展開し、僕は広範囲魔法障壁の呪文を短縮化して詠唱する。
恐らく相手は遠距離闇魔法攻撃を行ってくる。左右のレンジは短いだろうから回避すればいいけれど、そうすれば後ろにいる味方に被害が及ぶ。エイジスがいる以上、ここに留まるのは僕の役目だ。
「来ます」
「っ!」
敵から放たれたのは、案の定遠距離型の闇魔法だった。まともに食らえば全てを飲み込み存在を消してしまうであろう黒い光線は三人で展開した魔法障壁の半分を破壊し残り三割まで大きなヒビを入れるものの、僕達に届く事はなかった。
それでも敵の攻撃による圧は凄まじく、衝撃を肌で感じた。
「敵十二名魔法剣を抜剣、加速して接近。内後方一人は魔力が最も突出している者。迎撃開始」
「鋭き氷の鋒は数多。凍てつきなさい、氷剣乱舞!」
「焔よ踊れ。炎刃演舞」
敵は後方からの支援魔法攻撃と魔法弾と合わせて猛スピードで接近。味方もさせるものかと支援砲射撃が飛び、それらは当たるか分からない少数より後方の多数に届き敵に損害を与える。しかし、敵後方からの攻撃の対象の一部は後ろにいる味方に命中し若干だけど負傷者が発生した。
対して僕、エイジス、リイナは、エイジスの分厚い魔法障壁に守られ難なく後方からの攻撃を防ぎ、エイジスの攻撃の半分は敵後方へ、もう半分は既に抜剣を終えて白兵戦を仕掛けてこようとしている十二名に命中。続けてリイナの放った二十数の氷剣、僕が詠唱した踊るように不規則に回転する十数の炎剣が当たって七名が脱落。それでも五名が残る。
「距離三百」
「魔法剣に障壁を付与して斬って相殺とはまた器用な事をするね。だが、それがどうした! エイジス!」
「前方五名に攻撃余裕分を行使。攻撃」
エイジスの圧倒的な火属性による魔法火力は敵五人がいた場所に大爆発を巻き起こす。
「来る!」
それでも敵は全滅していない。一人残っている。しかも狙いは!
「させるかよ」
煙と粉塵から飛び出してきたのはあの中で一番強力な魔人。真っ黒な軍服の階級は大佐だが見た目は若い、くすんだ金髪の男。
エイジスがいる僕より先に倒せると判断したからだろう、そいつの目標はリイナだった。
ちっ、動きが早い!
エイジスの攻撃予測情報により敵の動線がある程度読めている僕は、一度は着剣していたツイン・リルを抜剣し、そうはさせまいとリイナの前に立って相手を阻む。
「ちぇいやあぁぁぁぁ!!」
「ぐぅぅ!」
さらに加速して前方へ跳躍して最接近した金髪の男は片手魔法剣をあらん限りの力で振り下ろし僕が展開していた魔法障壁五枚を破壊。勢いは殺さたもののかなりの衝撃をツイン・リルで抑え、両手に痺れを生じさせた。
なら、こうしてやる!
「なっ!?」
込めていた力を一瞬だけ緩め一歩だけ下がると、予想外の行動に驚愕の表情を浮かべた敵は体のバランスを崩す。すかさずそこへ、身体強化によって動きの早くなった体躯を用いて回し蹴り。男は身体強化を付与していなければ即死クラスのダメージを受けて左方向へ吹き飛ぶ。しかしあの様子だと強化魔法を掛けているからすぐに立ち上がるだろう。
「うん、やっぱり」
痛覚の苦しみを表情に出しながらも立ち上がる男を睨みつつ、横目を見やると既に上官を助けようと後方から進出してきた敵二十数名が接近していた。
だけどこれには近距離特化部隊の兵士達やリイナが対処行動を開始。再び集団白兵戦へと移行していた。こうなると後方にいる支援射撃部隊は砲射撃が出来なくなる。よって登場早々に半壊していた敵後方部隊へ狙いを変えていた。
他の相手はリイナや部下達に任せるとして、僕はこの男を相手にしないと。こいつが立ち上がるまでに距離を保ち、破壊された魔法障壁を時間がかぎられるので三枚程度再度構築し、エイジスは最大の七割まで障壁を再構築する。
男は回転蹴りのダメージをそれなりに受けているらしく口から血を吐き捨てて、僕とエイジスを睨みつけると。
「貴様が人形の飼い主、アカツキ・ノースロードか……。貴様やあの女を殺す為の全力さえ防がれるとは、まったくもって忌々しいな……!」
「お前達に殺されるつもりはさらさらないからね。ところであの様子だと賭けに出たんだろうけど、残念だったな。ここからどうするんだい? リイナや部下達がお前達の部下を次々と倒していっているけれど、逃げなくていいの?」
「部下がこうも容易く潰されるとはな……。ああ、人間を舐めすぎたのは認めよう」
リイナは僕が一緒に訓練することを提案し、始めてから実力をさらに伸ばしていてA+ランク魔法能力者の中でも遠距離近距離隙無しの実力者にまで成長していた。近接戦闘は僕が教えたものだけでなくそれを応用した戦い方を身につけていて、今も飛来する魔法を身体強化で俊敏になった体躯で回避するか魔法障壁で受け止めて巧みに戦い、部下達もリイナを主軸として連携して相手を押している。
それでも男は諦めるつもりはないらしい。
「だが、おめおめと逃げるなぞするものか! 決まっているだろう。端から捨てると決めたこの命尽きるまで、レフノロスキー閣下の副官たるルフコフが貴様の前に立ち塞がるのみよ!」
「へぇ、副官様は孤立しても僕と戦うと」
キシュナウの総司令官の副官を名乗るくすんだ金髪の男は吼えると、片脚をバネにして一挙に距離を詰めてくる。魔法障壁を展開するつもりもないのか、恐らくは魔法剣に予め付与してあるのか、はたまた魔法剣で叩き切るつもりなんだろう。
相手は片手剣で僕はツインダガーだ。レンジは奴の方が長いから相手が接近を意図した瞬間に後ろへ下がる。
「はっ、甘いわっッッ! 漆黒の球よ、飲み込め!」
「そこからまだ詰めてくるんだ。面白いね。だけどさ、当てられると思って?」
「ちぃ! ちょこまかと!」
「だって当たりたくないじゃんか」
「あくまで近寄らせないつもりか!」
「当たり前だろ」
男はさらに加速して片手剣を横薙ぎするもかすりもせず、すかさず今度は闇魔法を詠唱して複数の黒い球を発現。僕が回避しきれないように飛ばしてくるけれど、それらは魔法障壁を防御では無く移動手段として出現させて全て避けていく。
その間にエイジスは僕と自身を護る魔法障壁の最大展開を終えて、オフェンスモードへ移行。金髪の男に対して牽制を行って、五メーラ以下に詰め寄られないよう火属性や氷属性だけでなく、土属性魔法も使って行く手を阻む。
「僕だけに気を取られると死ぬよ?」
「なっ!? クソがッ!」
奴の側面から、一瞬の隙を狙って後ろにいる部下が放つ風魔法の魔法弾が飛び、寸前の所で回避するが身体のバランスを崩す。そこへさらに数発が飛来するが、男は実力者だけあって咄嗟の判断で短縮詠唱の闇魔法の相殺した。
「探知捕捉済みの小隊規模、間もなく到着。」
「対処を頼むよ」
「サー」
広場中央ではリイナ達が乱戦を、広場左寄りでは僕と男の事実上の一騎討ち――互いに少数の味方の後方支援を受けているけれど決定打にはならない――をしていた所、戦いつつも察知していた小隊規模の敵が到着する。これはエイジスに任せて、僕は目の前の男に意識を集中させる。
エイジスがいる以上は彼女のあらゆる恩恵は受けられるし、そこそこのやり手とは言ってもこれまで鍛えてきたのだから単独でもやれる自信はあるからね。
「せっかくの援軍が現れたとこ悪いけど、希望は打ち砕かせてもらうよ」
「ちぃ! しかし最期まで諦めてなるものか! 剣よ、闇を纏い死神の鎌となれ!」
「背が低いのは悪いことばかりじゃないって、ね!」
「なんだと!?」
相対距離は二十五メーラ程度。相手はまたしても突撃すると、同時に魔法剣から真っ黒な闇の鎌が飛び出す。
しかしそれを僕は姿勢を極めて前傾姿勢に傾けるとそれは頭上数シーラを通過していく。その状態で僕は最大加速。瞬きの間に男の目の前まで接近する。
「胴体ががら空きだよ?」
「させるかァ!!」
「――なぁんてね」
男は正面から斬撃してくると考えたのか魔法剣を構えるけれど、しなかった。左脚で跳躍すると右斜め前へ。向かった先にはこのタイミングで現れるようにしておいた魔法障壁。そこへ着地した瞬間、男目掛けて空中吶喊!
貰った、とニタリと笑う。
速攻に対応しきれない金髪の男を通過する瞬間に構えていない奴の左腕を、左手に持つ風魔法を付与して極めて鋭利になっているツイン・リルの片方で跳ね飛ばす。
「ああぁぁがぁぁぁぁぁ!?」
「次」
片腕を切断されてはとても痛みに耐えられない。切られた箇所から大量出血をし魔法剣を持つ腕で押さえてしまい叫び声を上げる男の後方五メーラ着地すると反転。続いて無防備になっている男の膝から下を切り落とす。
「大佐ぁぁぁ!!」
「そんな!?」
「人間風情がぁぁ!!」
「余所見したらダメよ。あんた達の相手は私よ?」
片脚も切られた事でその場に転倒する瞬間を目撃してしまった男の部下達は救援に駆けつけようとするも、リイナが見逃すはずもなく目にも止まらぬ早さであっという間に三人を斬り伏せ、さらに二人を氷魔法の剣で貫く。
「小隊の掃討を完了しました、マスター」
「良くやったよ、エイジス」
敵はリイナや部下達に進路を塞がれ、援軍にかけつけた敵小隊もエイジスが殲滅。そして副官の男も片腕片脚を失いのたうち回るのみ。
最早勝敗は決したも同然で、エイジスはリイナ達が相手にしている魔人達に最後の追い討ちをかける中、僕は金髪の副官へと近づく。
窮鼠猫を噛むをされるのも嫌だから、念には念をと風魔法で魔法剣を持つもう片腕も吹き飛ばしておくと男は言葉にならない悲鳴を出していた。
「あ、が、ぁ……」
「総司令官の副官だっけか。勝負ありだ」
「ぐ、ふ……。人間……、アカツキ……。俺を倒したところで、まだレフノロスキー、閣下は健在……。戦いは、終わらんぞ」
「……なるほどね。命を捨ててってそういう事か」
「ふっ、くははっ……! 人間共に、災い、あ――」
副官のルフコフが最後まで言い切る前に、風魔法の刃を背中から心臓へと突き刺しとどめを刺す。ゲームみたいにセリフを言い切らせるなんてわざわざしないっての。
「ルフコフ大佐ぁぁ!」
「もうダメだ! 退却! 退却!」
「大佐が引き連れてきた精鋭を逃がすかっての。エイジス」
「了解、マイマスター」
心の支えだった自分達の副官が目の前でやられ六百あった増援も六分の一以下になってしまっており、敵部隊は作戦意義を失ったからと後方支援担当から近距離戦の生き残り全てが敗走を始める。だけど奴の言葉から何を意図していたかを知っている僕はエイジスに命じて敵を屠っていく。投降するならともかく、この後奴らに生き残られて友軍が殺されてしまう可能性を摘み取っておきたいからだ。
結局退却をした敵部隊はリイナや部下達の攻撃も加わった事で僅か数名を除いて掃討。
膠着状態だったキシュナウ北中部の要衝たる広場一帯は敵の援軍襲来を挟んだものの制圧を完了し、両翼の味方も戦闘を終えて合流。
こうして旅団第一連隊にとっての初陣を勝利で飾り、キシュナウ市内の占領地域の拡大に大きく貢献した。
しかし、ルフコフ大佐とその部下達の命を捨てた時間稼ぎにより、敵総司令官レフノロスキー少将を始めとする司令部はその間に中部の地下司令部を放棄して市街南部へと後退。
キシュナウ市街戦はまだまだ続く。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
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社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
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