異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第11章 リチリア島の戦い編・後〜闇には闇を、狂気には狂気を〜

第5話 化物の名は『ソズダーニア・アジン』

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 化物は再び咆哮を上げる。余りの大きさに空気はビリビリと振動し、あからさまな威圧を見せる。妖魔帝国兵達は化物の威容におお、と声が上がった。シャラクーシ防衛線において人類側を粉砕したアレらより一回りも二回りも大きい化物に頼もしさを感じたからである。
 人類側の兵達は対照的に恐怖した。四メーラに届かんとする体躯が目の前にいるのは前世の創作で例えるのならば怪獣を相手にするのと似たようなものである。シャラクーシの記憶が新しい彼等にとっては尚更だった。
 しかし、フィリーネは動揺していなかった。

 「相変わらず耳障りな音ね。けど、ワクワクするわ」

 「お嬢は怖くないんで……?」

 「相手が何だろうと殺せるのでしょう? 不死身でもあるまいし、最終的に勝てばいいのよ」

 「諦めろ、ヨルン少佐。少将閣下は強い敵ほど心躍る質たちだ」

 「何言ってるのよ。あんた達も戦うのよ」

 「ま、そうなりますわな」

 「自分は常に少将閣下のお傍にいる身ですので」

 「当たり前じゃない。――総員通達! 五〇〇メーラ下がりなさい! お前達には手に負えないのは間違いない相手よ!」

 「おやおや、集団戦と火力がモノを言う時代になりつつある今の戦争において果し合いに持ち込むつもりですか。三対一で戦うと。面白い。そういうの、私は大好きですよ。がしかし! 貴様等を纏めて潰してやるのに変わりはありませんがねえ!」

 フィリーネは二人だけ自分のそばに残すと、直前まで戦闘していた部下達に離れるよう命令を飛ばす。このまま視線の先にいる化物と戦闘なった場合、クリスやヨルンはともかく他の部下達が参戦しても足でまといになるだけだからだ。
 モイスキンは彼女の意図を汲み取っていたが、これを受け入れた。むしろ待ち望んでいた。他の有象無象など彼にとってはどうでもいい。変化した化物が、完成品の一つが三人を屠るのを信じて疑っていないからだ。彼はフィリーネと同じように部下達に五〇〇メーラ下がるように命じる。作り上げられた空間は縦横一キーラの空間。即席の決闘場のようになった。
 フィリーネはモイスキンが決闘じみた形を了承したのに内心助かったとも感じていた。戦っていた兵士達の体力が限界を迎えているのは知っていたかであり、ここで一度彼等が戦闘をせずに済むのは精神的にはともかく体力的には回復させる時間を作られたからである。
 無論、フィリーネ達が負ければ強者を一挙に三人喪失することになるから戦線は瓦解してしまう。しかし、彼女は戦う前から勝利するのは自分達と考えていた。
 態勢が整うと、フィリーネは黒双剣を抜剣してかは先程からずっと思っていた事を口にする。

 「あんた、さっきからガタガタうるさいのよ。減らず口を縫ってやろうかしら?」

 「挑発ですか? 愉しいですねえ。自信過剰な貴様をバラバラに刻んでやりたい位です。やるのは私ではなく、コレですが見るのも一興というもの。さあ、『ソズダーニア・アジン』。あの三人を惨殺し我々に勝利をもたらすのです!」

 「グルルルルアアアアア!!」

 リチリア島の戦いの勝敗を決するであろう決闘は、声を高らかに上げたモイスキンの命令によって火蓋が切られた。
 先手は『ソズダーニア・アジン』。フィリーネの黒双剣が抜剣された事により独自魔法の効き目は皆無である巨軀きょくから信じられない程の初期加速でフィリーネ達に迫った。
 化物の目標はフィリーネ。振り上げた拳を叩きつけるように振り下ろすが、これを瞬脚と身体強化魔法を三重展開した三人は難なく避ける。『ソズダーニア・アジン』の拳が直撃した地面は大きく凹んだ。魔法障壁があったとしても全破壊されかねない威力だ。

 「くひひ、次はこっちよ!」

 フィリーネは着地した瞬間に片脚をバネにして駆ける。あっという間に化物の目の前まで接近すると、シャラクーシの時であれば量産品を一刀両断した太刀筋でエックス上に斬る。

 「グルアァ!」

 「ちっ、効かないか。硬すぎるわね……!」

 化物は回避することなく両腕で受け止めた。与えられた傷は僅かでかすり傷程度しか無かった。生身の体とは思えない、現実離れした防御力である。
 フィリーネはモイスキンが個体名称で言っただけあって只者ではないと感じ、すぐに後退した。

 「素晴らしい! 流石は個別品! 陛下が名付けられた完成品です! さあ、どうしますか!」

 「ああもう、うっさいわねあいつ。クリス大佐、ヨルン少佐。奴にマトモなダメージは食らわせられない。弱点を探りつつ援護なさい」

 「了解」

 「分かりやした」

 フィリーネは戦法を切り替え、二人は頷く。
 シャラクーシを蹂躙した化物を遥かに上回る攻撃力と桁違いの防御力を持つと分かった以上無闇な接近は禁物である。
 三人は化物と距離を取りつつ牽制に法撃。隙が生じるのを狙う形へと変えた。

 「火よ爆ぜよ! 奴を燃やせ! 『轟爆フレイム・エクスプロージョン』!」

 まずはヨルンの火属性爆発系魔法。彼は珍しい杖を使わない詠唱を行って火球を複数飛ばす。

 「主よ、悪なる者を貫く力を与え給え! 『聖光セイント・レイ』!」

 ヨルンの魔法は化物に直撃し、続けてクリス大佐が光属性光線系魔法を使う。
 爆発系魔法で視界が遮られ、通常であれば魔法障壁ごと貫通するに十分の威力を誇るクリスの魔法も命中した。
 そこへ再び接近を試みたのはフィリーネである。

 「二人の攻撃ですらほぼノーダメージとか、まさに化物ね……! けど!」

 煙が晴れると化物が姿が現れるが受けたダメージは殆ど無いようであった。せいぜい表皮が焦げているくらいである。妖魔の化物なら光属性に対して弱いはずというクリス――正確には人類共通――常識は覆されていた。

 「これなら! せやぁぁぁ!」

 フィリーネは舌打ちをしながら正面からの攻撃から側面へと直前に変更し、左脚で地面を踏んでから斬撃。
 だが化物は巨体を半歩だけ下げてこれを容易く回避。逆に右腕を横に振るった。

 「グルァ!」

 「あっぶな?!」

 フィリーネは上体を逸らしてギリギリの所で巨腕の一撃を凌ぐ。大きな風圧を感じるほどのソレは直撃していたら魔法障壁五枚があるとは言っても軽傷では済まされなかっただろう。

 「『踵両刃ヒール・ツインダガー』展開」

 彼女は回避行動からすぐに攻撃行動へと移る。
 速やかに踵へ風魔法の刃を纏わせると敵が無防備の下半身、特に膝の部分を狙って蹴撃を繰り出す。

 「ルガァ!」

 「んなっ?!」

 すると化物はニチャアと笑うと脚部のバネなしに跳躍してみせた。フィリーネも流石にこの突拍子もない行動と実現してみせた『ソズダーニア・アジン』の身体能力に驚愕する。

 「ドゥルアアァァ!!」

 「くっ!」

 数メーラまで上昇した降下の際に拳を地面に突きつけ力任せの拳撃を行う。落下エネルギーに巨腕の攻撃力である。マトモに受ければ即死だが回避は容易い為、フィリーネは後ろへ下がる。
 拳と地面が衝突した瞬間、とてつもない音が発せられ先程以上に地面が陥没する。だが隙が大きく生じた。
 これをクリスとヨルンは見逃すはずがない。

 「ぜやああぁぁぁぁ!」

 「どりゃあああぁぁぁ!」

 まずはクリス大佐が自身の片手剣召喚武器で剣戟を加え、さらにヨルンが右の拳を身体強化魔法を極限まで付与した上で鋭利さを高めた風魔法を纏わせると拳撃を行う。
 クリスの攻撃は化物の胴体に当たり、ヨルンの拳も腹部に命中。化物はうめき声をあげて後ずさる。

 「斬る斬る斬る!!」

 「グガルァ!」

 「その腕貰ったあぁぁ!!」

 二人が攻撃したことにより少しだけよろめいた所へ、フィリーネは目にも止まらぬ速さで双剣で斬り続け化物は悲鳴を上げる。
 最後の一撃は厄介な攻撃を行使してくる腕、特にダメージが蓄積されている右腕を狙った。それは斬撃の感触を確かに抱かせるものであり、フィリーネの目論見通りようやく『ソズダーニア・アジン』の右腕の腱を切断する事に成功した。

 「グガァァァ!!」

 「っと、暴れないでよ危ないじゃない」

 化物にとって初の大きな痛覚にソレは暴れ回り、フィリーネは軽やかに身を動かして避けてみせた。
 そして追い討ちと言わんばかりに彼女は呪文を唱えた。

 「座標固定。我の前に平伏せ。『重力圧縮コンプレッション・グラビティ』」

 「グギャアアアァァァァ!!」

 「ざまぁないわね」

 フィリーネが詠唱したのは闇属性重力操作系魔法。対象の空間のみに対して常人なら圧死する程の重力を与え殺害させる術式である。
 いくら『ソズダーニア・アジン』とはいえどもこの魔法を受けては無傷では無かった。強烈なGに耐えられず脚が地面にめり込み、続けて強制的にうつ伏せの状態にさせられる。

 「クリス大佐!」

 「お任せあれ! 悪なる者を捕縛せよ、『聖縛ホーリー・バインド』!」

 フィリーネの命令に即座に答えたクリスは化物が身動きが取れない間に通常の拘束術式より強力な中級光属性魔法の拘束魔法を詠唱。四肢を光の縄で地面と固定し束縛をする。

 「これでトドメね。まったく、完成品と言う割には呆気なかったわ」

 フィリーネはため息をついて化物へ歩を進める。抜剣から数分しか経過しておらず狂気に呑み込まれるような感覚はまだ無い。それでも斬りたくて殺したくてたまらない感情は溢れ出そうであった。
 フィリーネは化物の目の前まで近付き、嘲笑する。
 しかし彼女のこの行動は間違いであった。
 何故か。固定観念に囚われていた故に一つの懸念すべき可能性が頭から抜け落ちていたからである。
 それを見ていたモイスキンはほくそ笑んだ。まんまとハマってくれたといった様子であった。
 だから彼は、わざとらしい演技調でこう言った。

 「ああ、そうそう。そうでした。すっかり忘れてましたよ」

 「はあ? 今更何を?」

 「『アジン』はですねえ、魔法が使えるんです」

 「フィリーネ! 今すぐそこから離れろ!」

 ニタリと笑うモイスキン。
 すぐ意図を察知したクリスからの警告。
 だが遅かった。

 「ろずどえあ・えぐずぶろーじよん」

 「な――」

『ソズダーニア・アジン』は確かにそう言い放った。
 フィリーネが咄嗟に回避行動を取った瞬間、魔法は発動。
 彼女の魔法障壁を半分以上呑み込んですぐに大爆発を引き起こす。

 「フィリーネェェェェ!!」

 「お嬢ぉぉぉぉぉぉ!!」

 爆発の直撃を受けたフィリーネは、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
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