異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第12章 ブカレシタ攻防戦決着編

第8話 オーガ・キングとの激闘

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 ・・8・・
 エイジスとの情報共有画面にタイマーが起動。残り七分。オーガ・キング1は雄叫びをあげる。

「サアコイニンゲンドモ! ワレガ全力ヲダシテヤル!」

「木偶の坊は黙ってろ! リイナ! 弱点を見つけるまでは速度重視でいくよ!」

「了解したわ! 任せて!」

「エイジス、攻撃の際のダメージ推定をして弱点を探って!」

「サー、マイマスター」

 僕とリイナはアレン大尉達の援護の中、オーガ・キング二体の中でも近い方のオーガ・キング1に向けて突撃。周辺では友軍と敵軍が衝突していた。中距離程度ならばそれなりに発達をした銃同士での撃ち合いとなるけれど、近距離ともなれば白兵戦。これは第一次世界大戦の頃ですら頻発していた事象なのだからこの時代であるのならば尚更だ。
 戦場の性質上飛び交う銃弾を僕達は避け、オーガ・キングは命中するも鎧か鋼の肉体が弾きものともせずに突っ込んでくる。それを目にしながらほとんどダメージの無い箇所を把握していく。
 エイジスは有難い事にオーガ・キングが殆ど痛みを受けない箇所を仮想現実画面にてカラーリングをしてくれていた。
 彼我の距離は百メーラを切った。
 ついにオーガ・キング1の大斧の範囲内の近くまで接近した所で奴は大きく振り上げる。

「リイナ、今!」

「ええ!」

 隙の大きい動作だ。動作を読むのは容易い。振り下ろされる直前に僕とリイナは左右に散開する。

「鋭き氷の鋒は数多! 『氷剣乱舞』!」

「炎球よ、舞え! 『炎球乱舞ファイア・ダンス』!」

 リイナは氷魔法の剣を発現させ下半身を中心に、僕は中級火属性魔法を発動して炎球を十数発現させると胴体と鎧の隙間を中心に命中させる。
 的がデカいから当てるのなんて目をつぶっても出来る。

「ヌゥ! ヤハリ吠エルダケニ雑魚デハナイヨウデアル! ダガ温イ! 凍エモセヌ!」

「ちぃ! 中級すらほぼ無傷みたいなもんなんてどれだけ硬いんだか!」

「魔法障壁無しでこれだなんて……! けれど、ゾクゾクするわ!」

『ダメージ判定終了。鎧の硬度著しく高く、本体そのものもほぼ同等と推定。動物としての弱点を中心に命中を推奨』

『やっぱりか。けど、殆どが覆われてる。となると』

『頭部や首などを狙う必要あり。動作を鈍らせるしかありません』

 エイジスは即時にダメージ演算を終えて思念会話で情報を提供する。つくづく舌打ちしたくなるようなチートみたいな存在だ。Aランク以上の魔法能力者じゃないとマトモに渡り合えないねこいつは。

「フハハハハハ! ニンゲンドモノ勇猛、天晴レナリ! ナラバ次ハ我ト!」

「我ノ番デアル!」

 オーガ・キング達は召喚された立場ではあるけれど、王である自らと戦える好敵手と出会えたからか余程嬉しいのだろう。高笑いをしながらオーガ・キング2の方も迫ってきた。

「少将閣下に近付けさせるかあ! 小隊統制法撃!」

『了解!』

 オーガ・キング1が大斧だけでなく動きが大雑把ではあるものの体術を使い攻撃してる最中、オーガ・キング2まで加わるのを防ぐ為にアレン大尉達は一斉法撃をする。属性は火と風の混合。

「ウヌゥ! 貴様ラモナカナカニヤリオルナ!」

「有難く受け取っておく! だが、少将閣下と大佐には指一本触れさせん!」

「素晴ラシキ忠義ナリ! 敵デアッテモ賞賛ニ値スル!」

「良キ配下ヲ持ッテオルナ可憐ナニンゲン! 我ガ斧デ叩キツブシタクナル!」

「旦那様、可憐って褒められているわよ」

「全然嬉しく、ないっての!」

 悪態をつきつつ地面を大きく抉るような大斧の攻撃を避け、あえて得物を突き刺したまま器用に蹴撃を放ってくるソレも回避。続いて利き手であろうとは逆の左腕で大斧を持つと、横薙ぎに振るってくる。そいつもバックステップで難無く回避すると、オーガ・キング1は不敵な笑みを見せてきた。

「面白キ! 面白キナリ! 貴様ト呼ブノハ失礼デアルナ。ニンゲン、名ヲ何ト言ウ?」

「名前? 聞いてただろう?」

「ツマラヌ事ヲ言ウナ。王タル我ガ認メル程ノニンゲンダ。名ヲ聞キタクモナロウモノ」

「…………アカツキ。アカツキ・ノースロードだ」

「女ノニンゲント、小サキ華麗ナ装束ノ女ハ?」

「リイナ・ノースロードよ」

「エイジス。マスターに仕える者です」

「ホウ! 夫婦カ! ソレニ従者ト! 道理デ巧ミナ連携ヲ見セテオルワケダ! 我ハ召喚サレタ故ニ、カツテノ名モ忘レテシモウタ! 赤ノ王ト呼ブガ良イ!」

「そりゃどうも!」

「覚えておくわ!」

「名を記録しておきましょう」

「良イ! 良イゾ!」

 名を交わしながらも僕とリイナ、エイジスは法撃の手を緩めず、赤の王とやらのオーガ・キング1も斧と体術による攻撃動作を止めることはない。
 互いに一撃は決められていない。僕達は徐々にこいつの弱点を絞っていき、なるべくダメージの与えられる箇所を狙っていくけれど巨体からは信じられないくらいに寸での所で交わすか、持ち前の持久力で耐えられてしまう。
 オーガ・キングの方も当たれば終わりの僕達がスピード重視で回避行動を取るから一発を食らわせられずにいた。
 オーガ・キング2を相手にしているアレン大尉達も今の所は誰かが死んだという様子は無い。ただ、時々飛んでくる流れ弾によって魔法障壁が破られ、そこにオーガ・キング2の大斧の攻撃による衝撃波で吹き飛ばされる部下がいた。直撃ではないギリギリでこれだ。既に三名が負傷して離脱していた。
 問題は兵同士でぶつかり合っている大多数の方だ。妖魔帝国軍の兵士達は王の顕現により士気を完全に取り戻してこの状況下で接戦にまで持ち込んでいた。
 味方にも死者と負傷者が多くなり始めている。対等な状況となると魔力において有利な妖魔帝国兵と戦うには厳しい点が露呈していた。防衛側にあるここが落ちたら後がないという点もあるのだろう。
 残り時間は三分半。赤の王と激しい戦闘を繰り広げつつも、自分の魔力と他の戦線を気にする。

『他戦線、状況芳しくありません。一番持ちこたえているのは本戦線。――注意。残存魔力、六五パルセント。現状の水準での戦闘続行では十分も持ちません』

『くそっ、こんな時にSSランクの召喚武器持ちでありながら低い自分の魔力を恨みたくなるよ。エイジスのお陰で半減効果があるってのに』

『相手が悪いだけですマスター。気に病まないでください』

『……そうだね』

『警告。次の攻撃が来ます』

『了解!』

 たった三分半の戦闘で三割強の魔力を消費している現実に、自身の魔力保有量の少なさを実感する。SSランク召喚武器であるエイジスを所有しているとはいっても、元々の魔力は大してない。いくら訓練を重ねて魔力保有量を増やしていても、同じように訓練していてSランク魔法能力者の水準にまで保有魔力が近付いているリイナと比べると彼女の方が多くて、エイジスの半減効果があって実質では僕が少し上というくらい。同じSSランク持ちのマーチス侯爵には遠く及ばないし、エルフのアレゼル中将とは倍以上の差がある。
 チャイカ姉妹との二度目の戦闘の時もそうだった。前世の創作の主人公のように底無しの魔力があるわけじゃない。エイジスがいるからこそ小説の主人公のように戦えるだけで、しかしこの世界にはHPなんて便利な概念は無いから魔法障壁が無かったら銃弾ですら死ぬ。死と隣合わせの戦場。
 けれど、下がるわけにはいかなかった。

「リイナ、残存魔力は」

「残り七割くらいね。まだまだ戦えるわ。あと何分かしら?」

「三分。2の方をアレン大尉達が相手にしつつ援護をくれているからいける」

「なら大丈夫ね」

 相変わらず赤の王の猛攻が続く中で牽制の法撃を繰り出す僕とリイナにエイジス。
 エイジスは友軍の兵士達が苦戦している事から攻撃可能なリソースを向こうにも割いているから、これ以上の期待は酷だろう。そもそも弱点を特定する方にも労力を割いているわけだし。

「アカツキトヤラ、戦場イクサバデ話シテオル暇ハアルノカ? 我ヲ貫クニハ力ガタリヌゾ?」

「んなの百も承知だっての!」

「何カヲ気ニシテオルヨウダガ、イツマデモ平行線ノ殺シ合イデハツマラヌ。一ツ見セテヤロウ」

 残り二分を切って、口角を曲げた赤の王は大斧を握る手を強めた。
 こいつ、一体何をする気なんだ?

「王ノ力ヲ現ス。我ガ斧ヨ、サラナル力ヲ纏エ」

「警告。オーガ・キング1の斧に魔力を感知。推定、威力強化系の魔法に近似」

「リイナ、次の攻撃に警戒!」

「分かったわ!」

「総員最大警戒! オーガ・キング1の身体強化系統含む攻撃!」

「オオ、赤ノハアレヲ使ウカ!」

 赤の王が手に持つ大斧に赤黒いオーラが纏われると、僕とリイナにエイジスはこれまでに消耗した魔法障壁を最大展開にまで戻す。
 だけど、赤の王もこちらの警戒行動を読んでいた。

「地ヲ割ル一撃ヲ! 『衝破ショウハ』ァァァ!」

 奴は地を踏むと、大きな体躯とは思えない程に跳躍し僕達のいる地点に目掛けて全身の力を込めて大斧を振り下ろしてきた。

「エイジス!」

「了解。魔法障壁密度最大硬度」

「ドゥルァァァァァ!!」

 赤の王が咆哮した瞬間大斧は直前まで僕達がいた所に突き刺さり、地面はまるで大型の爆弾でも落下したかのように抉れ割れる。

「ぐぅぅぅぅぅ!!」

「くぅぅぅ!!」

 事前の回避行動で直撃こそ免れたものの恐るべき攻撃による衝撃波は凄まじく、斧の攻撃が当たった訳でもないのに僕とリイナにエイジスが展開していた魔法障壁は音を立てて何枚も割れる。半分以上の魔法障壁が破壊されたその威力、モロに食らっていたら跡形も残らなかっただろう。
 僕達は耐えた。けれども、周りはそうでは無かった。

「あああぁぁぁぁ!!」

「あがぁぁぁぁ!!」

「ダメージレポート! 少将閣下、小隊四名が衝撃波に吹き飛ばされ負傷!」

「死者は!?」

「不明! 他の友軍にも損害有り!」

「アレン大尉、部下を付けて負傷者を後送! 残りはあと少し耐えて!」

「了解!」

 アレン大尉達の小隊の中で四人の重軽傷者が発生してしまった。距離はある程度離れていたにも関わらず、なのにだ。魔法能力者がかばいきれなかった非魔法能力者に至っては破片の直撃でかなりの負傷者が出ている。それを好機と捉えた妖魔帝国兵はさらに勢いづいていた。
 それでも友軍は妖魔帝国兵の白兵戦による衝撃を抑え切る。オーガ・キングが放った技に対してもアレン大尉達の小隊も含めて全体の立て直しは早かった。

「フム、コレモ耐エ切ッタカ!」

「悪いけど死にたくはないからね!」

「旦那様も私も、エイジスもこんな所で倒れる程度じゃないもの」

「当たればなんということはありません」

「フハハハハハハハッ!! 素晴ラシイ!! ソウデナクテハナ!」

「やられっぱなしは趣味じゃないからね! 次はこっちの番だ!」

「来イ! 全テ受ケキッテヤロウ!」

 支援砲撃まで残り一分。空を見上げると既に上空からの弾着観測を担う召喚士飛行隊員の動物が控えていた。
 そろそろ奴らをその場に留めさせないと。カノン砲と野砲による砲撃がどれだけのダメージを与えられるかは分からないけれど、支援砲撃の直後にはオーガ・キングを倒す程の一撃を与えなければならない。
 その為の余力を残しつつも、まずはやらないと!
 叶うならば、砲撃の前に片方は倒せるくらいには!

「リイナ、エイジス。時間を作って」

「ええ。いくわよ」

「了解、マイマスター。オフェンスリソースをオーガ・キング二体へ。多重法撃、開始」

 リイナとエイジスは僕の意図を読んでくれた。
 まず法撃を行ったのはエイジス。これまで複数に割いていた法撃を二体にのみ集中。全ての攻撃をオーガ・キング1と2へ向ける。

「ヌオォォォ!?」

「エエイ、ツブテノヨウナ攻撃ヲコウモサレテハ鬱陶シイ!!」

「当たり前じゃない。だって、次は私だもの。――銀世界、極地をも凍てつかせる二対の光をここに。『アブソリュート・デュオ』!!」

 続けて放たれるのは、リイナの独自魔法『アブソリュート・デュオ』。狙ったのはこれまでのダメージ蓄積が大きい赤の王の方だった。

「ヌガァァァァァァァァ!!」

「ナァ!? 赤ノォォォ!?」

「ふっ、牽制していただけではないのよ。ほんのちょっとずつでも、食らわせ続ければ私の独自魔法なら貫けるもの。絶対零度を味わいなさいな? そして――」

 リイナの『アブソリュート・デュオ』はほんの僅かながらも同じ箇所に攻撃を当て続けたことによって、赤の王の両肩を氷の光線は貫き身体を凍結させていた。身体が凍っていく激痛にはさすがのオーガ・キングも耐えられるものではなく、膝から崩れ落ち大斧を手から離す。
 当然、この大きなチャンスを逃すはずもない。

「僕だ。――風の刃よ、踊れや踊れ。肉も骨も、命を斬り刻め。『風刃輪舞曲ウィングエッジ・ロンド』!!」

 僕の周囲に現れたのは緑白色の多数の魔法陣。
 風属性上級魔法の『風刃輪舞曲』はブカレシタの戦いの前に修練して獲得した新しい魔法だ。
 この魔法の特徴は二つ。
 一つは数十もの風の刃を顕現させる点。
 もう一つは、一度きりでなく魔力を消費し続ければ発動を止めない限り継続して攻撃出来る点だ。
 威力は上級に相応しく名の通り風刃が踊る魔法。今の状況にはうってつけだった。

「小隊総員、オーガ・キング2を1へ接近させるな! 斉射ァァ!」

「マスターの邪魔はさせません」

「ウガァァァァ!! アアガァァアァア!!」

「赤ノッッ!! グウヌゥゥゥ!!」

 幾十もの鋭利な風の刃は、赤の王たるオーガ・キング1だけでなく2にも襲い、さらに2の方にはアレン大尉達の魔法銃撃やエイジスの法撃が浴びせられる。
 オーガ・キング1は凍結して脆くなっていた両肩の部分が風の刃によって切断され、両腕は胴体から切り離される。オーガ・キング2も猛攻撃によって近付くどころか呻き声を上げて苦しんでいた。
 あと三十秒。これなら赤の方は砲撃でトドメになる。抵抗されることなく、確実に殺す為には一つ。
 損壊しかけの胴体の鎧も壊す事だ。

「リイナ」

「了解、旦那様」

『風刃輪舞曲』を発動したまま僕はリイナの方を向き、リイナも頷き。
 一斉に駆けた。
 目掛けるは、赤の王。僕は『ツイン・リル』に炎と風を纏わせ、リイナは『アブソリュート』へ冷気を纏わせた。

「風斬」

「血潮さえ凍りなさい」

「グォォォォォォォ!!」

 僕は右から『ツイン・リル』を、リイナは左から『アブソリュート』を横から振りついにオーガ・キング1の胴体の鎧を破壊した。
 残り五秒。赤の王の命運は尽きたも同然になった。
 そして、ゼロ秒。僕は合図となる炎属性の魔法を一発だけ放った。

「後退! 総員下がれ!」

「弾着まで約十秒」

 アレン大尉達はオーガ・キング2から離れる。
 待望していたカノン砲による支援砲撃を前にまずは狙いを済ませていた野砲が火を吹いた。途中から状況を読んでダメージがやや少ないオーガ・キング2へ向けられる。
 低くくぐもった叫び声がオーガ・キング2から聞こえる。
 弾着まで五秒。死を悟ったのか、赤の王はこんな言葉を最期に残した。

「ァァ、愉シカッタゾ。青ノ、スマヌ」

「弾着、今」

 直後、エイジスの発言と同時に二発のカノン砲の砲弾はオーガ・キング二体へと命中した。
 とてつもない爆発音と煙が発せられる。
 オーガ・キング1はこれで確実に死んだだろう。オーガ・キング2も無事ではないはずだ。
 友軍からは歓声が上がり、妖魔帝国兵達は支えになっていたオーガ・キング達を失い絶望する。
 それでも手は抜かないつもりでいた。

「生命反応有り。オーガ・キング2は生きていますが、かなりのダメージの模様」

「なら、トドメだ。アレン大尉!」

「了解しました! 統制魔法銃撃始めェェ!」

 まだオーガ・キング2がいた辺りに立ち込める粉塵が晴れていないけれもど、僕達は一斉に追撃をする。友軍は妖魔帝国兵達が攻撃しようとしているのを防ごうと銃撃や法撃に砲撃の手を緩めない。
 勝利は目前。
 だけれども、オーガ・キングの耐久力は、そして精神力の強さは想定以上だった。

「――最大警告!!」

「赤ノヲ、ヨクモォォォォォォォ!! セメテキサマラダケデモ、コノ青ノ王ガ殺シテヤルッッ!!」

「なぁっ!?」

「ウソでしょ?!」

 粉塵から飛び出してきたのは傷だらけになりつつもまだまだ動けるオーガ・キング2だった。オーガ・キング1と似たようなオーラを大斧から纏わせ、跳躍して僕達の目前まで迫ろうとしていた。
 まずい、さっきよりも距離が近いから間に合わない!
 しかも目標は僕よりも近くにいたリイナ。回避行動した所で直撃するかどうかのギリギリで、彼女の方が魔法障壁の残数が少ない。

「えっ……」

 突然の事でリイナは身動きが取れなかった。
 このままだと、リイナが危ない!
 大切な人を喪ってたまるか。死なせてたまるか。その心が僕に咄嗟の行動を取らせていた。
 即時に身体強化魔法をかけ、リイナのもとへ。
 僕の小さな体躯でもこれならリイナを死地から突き放せられるはず。

「マスター!! いけません!!」

「旦那様っっ?!」

 エイジスの静止は聞こえていた。目の前に僕がいたリイナは僕が何をしようとしているか悟っていた。
 僕がリイナを突き飛ばすと、時が止まっているかのように彼女の表情がよく見れた。
 僕は、彼女に微笑む。彼女は叫ぶ。
 あぁ、魔法障壁だけで耐えきれるかな。急ごしらえで何枚か追加したけれど、もしかしたら死ぬかもしれないなあ……。
 時が流れるのが遅く感じる。
 リイナは安全圏内とはいかないけれど、魔法障壁の枚数からして死にはしないだろう。
 あの人は言っていた。大切な人を守る為に戦うと。
 良かった。リイナは救えそうだ。
 けれど、あの人はこうも言っていた。自分の命を粗末にするなと。
 ……ごめん、リイナ。こうするのが、最善だったんだ。
 目前に大斧が迫る。バックステップは取ってみたけれど、直撃するかもしれない。
 オーガ・キング2は、青の王は嗤う。仕留められると。

「マスターァァァァァ!!!!」

 エイジスが、感情の乏しい彼女が慟哭を上げていた。
 瞬間、炎属性の爆発と大斧が地面を叩き割る衝撃が同時に襲う。
 次々と魔法障壁が割れる音が耳に入り、続いて景色が一挙に後退した。
 防ぎきれない威力によって、意識は、遠のいていく。ああ、やっぱり吹き飛ばされたか。

「旦那様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 耳に入ったのは、リイナの泣き叫ぶ声だった
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