異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第13章 休戦会談と蠢く策謀編

第23話 堕天戦乙女が生きる場所

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 ・・23・・
 6の月25の日
 妖魔帝国・帝都レオニブルク中央東部街区
 ゾリャーギ私邸付近


 アカツキが決意を新たに胸へ宿し、戦間期においてやれる手段を取ろうと計画を練り始めた頃。六の月も下旬となり長袖程度で過ごせるくらいになった妖魔帝国の帝都レオニブルクには協商連合から遠路妖魔帝国まで辿り着いたフィリーネがゾリャーギと共にいた。
 フィリーネがどのようにして自殺したように見せかけてここまで来れたのか。それらはゾリャーギを始めとするロンドリウムに潜入していた諜報員達とフィリーネ自身の能力によるものであった。
 まず断崖絶壁から飛び降りたフィリーネは極力水面へ突入する際の衝撃を抑える姿勢を作り、水面に落ちた瞬間に悟られないギリギリの魔法障壁を展開した。この時フィリーネはいくら魔法障壁でダメージを軽減させたとはいえ打撲程度の怪我は負っていた。しかし、前世から軽傷程度なら慣れたものであるからこそ大したことでは無かった。
 直後、水中を泳ぎ死角となる場所まで移動。待機していたゾリャーギの部下であるチェスカが保護。速やかに現場から離脱したのである。これがフィリーネの死体が見つからない理由である。死んでいないのだから当然ではあるのだが。
 その後は比較的順調だった。驚くべき魔法の才能を持つフィリーネはゾリャーギに変装魔法を教えられてから見事に使いこなし、別人として彼等と共にロンドリウム協商連合を離脱。共和国を経由して法国まで到着すると、法国南東部からこの国に潜入している諜報員が手配した船を用いて沖合へ。事故を装って沈没させた上で妖魔帝国が開発していた新型艦船、潜水艦――とはいえ技術的限界で潜航深度は浅く時間もかなり限られている――にて長い航海を経てついに妖魔帝国の土を踏み今に至るのである。
 当時の事をフィリーネは思い出し、乗っている馬車の窓から街角を眺めながら口角を少しだけ曲げて笑っていた。
 ゾリャーギは彼女の様子を見てやや楽しそうな声音で、

「どうした、フィリーネ。人類諸国の勢力圏から離れてから随分と上機嫌になったじゃないか」

「あの後に私が死んだと報道されて、英雄のクソ野郎が手紙を読んだ姿を想像するとたまんなく愉快でね。笑みがこぼれちゃうの」

「ったく趣味が悪いっちゃありゃしねえぜ。文面は聞きたくもねえけどよ、どうせお前の事だ。ぜってえ深い傷を残させただろうよ」

「もっちろん。とびっきりの言葉を並べてあげたよ。少なくとも、時折私の顔が思い浮かぶくらいにはね。けひひっ」

 フィリーネの予測は半分は当たっていた。少なくともアカツキがこの世界でも喫煙を始める程には不安定要素を含ませたのであるし、生きていく上で忘れる事はないだろう。
 不気味に笑うフィリーネに対し、ゾリャーギは人類諸国の英雄へ同情するように、

「あー、あー。可哀想な英雄だこと。ま、あいつの事だからそれでへこたれることはねえだろうけどよ」

「まあね。その程度で折れるような奴じゃないだろうね」

「じゃなきゃあんな重責は背負えねえだろうさ。第一、折れる前に支えてくれる奴もいるだろうしな」

「ほんっっとうに憎々しいくらいにね。でも私の狙いは今じゃない。再会する時よ。目に思い浮かぶもの。あいつの、信じられないって顔が」

「本当にいい趣味してるよな、お前……。嫌いじゃないけどよ」

「あらありがと」

 二人は物騒な内容ではあるが雰囲気は穏やかに話していると、馬車はゾリャーギが住む私邸に到着する。
 彼は貴族ではないからさほど大きな屋敷ではない二階建ての私邸は、皇帝直属の諜報員だけあってゾリャーギが一人で住む――たまに誰か女性を連れ込む事はあるが定住しているのは彼だけ――には十分すぎる広さを持っていた。

「へえ、小綺麗だしそこそこの大きさはあるじゃない。あんたはかなりの期間ここに住んでいなかったのに、よく掃除が行き届いているし」

「これでも妖魔帝国皇帝陛下直属の諜報機関の一角を担っているからな。離れている間でもいつ帰ってきてもいいように掃除は依頼してあるんだぜ」

「ふうん、要職は伊達じゃないわけね。私のお陰でもっと出世するだろうけど」

 くすくすと笑うフィリーネに、ゾリャーギは満更でもない表情を見せる。
 というのも、フィリーネの発言は何ら間違っていないからだ。彼等がレオニブルクに到着する三日前、皇帝直筆の手紙がゾリャーギのもとに届いたのである。
 そこには、

『よくやったぞゾリャーギ! 人類諸国の英雄が一人を叛逆の英雄としてよく連れてきてくれた! 貴様には栄光の階段が約束されるだろう。期待していろよ! 追記。フィリーネ・リヴェットに関しては俺の命令があるまで貴様の自宅に住まわせておけ。不自由はさせるな。今後、奴が我々にとっての英雄になる可能性を大いに秘めているからな。奴の召喚武器については案ずるな。どうせ後で取り返せばいい。』

 と綺麗で読みやすい字で書かれていた。
 いくらフィリーネの不安定な精神状態につけ込んだとはいえ、誰から見ても困難な任務であったのだ。それを彼は見事にやってみせた。
 軍であれば昇進確実の功績であるし、皇帝の嬉々溢れる文面からも間違いなく昇進するてあろう。
 どのような名誉に権力や地位が手に入るかなど想像するだけでゾリャーギは楽しみで仕方が無かったのである。
 フィリーネについてはゾリャーギも端からそのつもりだった。この任務は極秘で行われており、顔が分からないよう黒のベールを被らせ喪服のような漆黒の服を着させたのも周りに誰か分からないようにする為である。
 何せゾリャーギが連れ出してきたのは妖魔帝国にとってリチリアの地で戦友を死体の山にさせたフィリーネである。あの地にいた者を除きいくら顔がほとんど割れていない――これも報道管制のお陰ではある――彼女とはいえ、この措置は妥当であった。
 馬車は門を過ぎすぐに正面玄関へ着く。
 ゾリャーギが降り、フィリーネをエスコートする。
 メイドや執事はおらず、だが彼はいた。
 だから彼は、微笑みこう言った。

「ようこそ我が家へ、フィリーネ。今日からここが、お前の家だ」

「我が、家……。私の……」

「そうだ。これからお前は、妖魔帝国で生きる。皇帝陛下からどのようなお達しが下るかはまだ分からねえ。だが俺の家は、お前の居場所だ」

「居場所……。何であんたは、そこまでしてくれるの?」

「任務であるのは確かだ。妖魔帝国がいずれ人類諸国を蹂躙するのにお前の復讐を利用するのに疑いはない事実だ。だがよ、裏切ったとはいえその先に住処も安寧の地もねえのは寂しいだろうし辛いだろ? 俺は少なくともそんな使い方はしたかねえし、どうせならお前に最大限の力を発揮して貰って復讐を果たして欲しいんだよ。それが国益にも繋がるからな」

「そっか……。でも、それはただの照れ隠し?」

「…………どう思って貰っても構わねえよ」

「……ふふ。ありがとう」

 そうはいいつつもゾリャーギは頬をかきながら照れ隠しをする。
 少しだけ笑ったフィリーネには、ほんの少しだけ瞳に光が宿った。
 たった数ヶ月だが、二人が交流を重ねた結果なのかもしれない。
 彼が上手いこと部下や迎えに来た海軍の軍人達を言いくるめて彼女の生きてきた道を伝えた結果、余りにも惨い仕打ちに妖魔帝国の者達とはいえ同情したから居心地は存外悪くは無かった。
 さらにゾリャーギがフィリーネの面倒をよく見ていたのもあるだろう。トラウマが再発し、過呼吸を起こし泣き叫ぶ事もままあった彼女を介抱したのはゾリャーギだったし、軍人達もそれを知ってかゾリャーギを呼びに行くなどしていた。

 ああ、なんと皮肉な事であろうか。
 ロンドリウムで生きた頃、彼女にどこにも無かった居場所がここにあった。生きる意味を手に入れた。
 それが人類諸国を滅ぼす復讐という形であろうとも、これまで無かったカタチをフィリーネは手に入れたのである。
 渇望してやまなかったものが、ここにあったのである。
 だが、最終目的が仄暗いのに変わりはない。フィリーネにあるぽっかりと開きすぎた心の穴が塞がる事は二度と叶わないだろう。
 だとしても、少なくともここにはフィリーネがいていい居場所があるのは真実であった。

「片付けが終わったらとりあえず飯を食おうぜ。腹が減って仕方ねえ。材料はあるから何か作るとすっかな」

「私が作るよ。あの時、料理は出来るって言ったでしょ?」

「毒は盛らねえだろうな?」

 おどけた様子で言うゾリャーギに、ジト目で視線を送るフィリーネは、

「毒を盛る相手はあんたでも無いしこの国でもないわ。人類諸国よ。それも、猛毒をね」

「恐ろしい限りだぜ。将来連中をのたうち回らせそうだぜ」

「のたうち回る? ひひひっ、そんなの甘っちょろいよ。じわじわと味あわせ、惨たらしい死を与えてやるわ」

 人類諸国にとって、フィリーネが妖魔帝国側に堕ち自身に刃が向けられると知るのはずっと先の事。
 自らが犯した大罪に気付き、罰を受ける頃には最早遅い。
 果たして世界の運命は二人の転生者とそれぞれが生きる国々に委ねられるのであった。

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