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第24章 オチャルフ要塞決戦編(後)
第2話 危急の事態でも統合軍はくじけず
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・・2・・
『帝国軍による第一二軍隷下第一軍団に対する薄明奇襲攻撃』
三の月二十六の日に起きた帝国軍の奇襲攻撃は、統合軍第一二軍隷下第一軍団司令部の所在位置の地名から、通称『オチャルシュア奇襲攻撃』と呼ばれている。
『オチャルシュア奇襲攻撃』は、帝国軍の大胆な作戦としても有名である。
何せ、帝国軍は第一軍団司令部への奇襲に二つの手法を用いたからだ。
一つ目は、夜闇に紛れて少数の精鋭部隊が第一軍団の司令部付近まで潜入していたこと。
二つ目は、数十の洗脳化光龍の背に乗り移動し、目標地点の付近まで接近し急降下の後に、高度数十メーラから降下しながら魔法障壁を足場にして着地。この時点で一つ目の手法で潜入していた部隊が奇襲を開始していた為に司令部近辺はさらに混乱に陥ったのである。
なお、この奇襲を行ったのはリシュカの懐刀たる『断頭大隊』の選抜部隊、二〇〇名。夜闇に紛れて潜入したの者が一七〇名、空挺降下した者が三〇名だった。
もしこの作戦が昼間に行われていたのならば、地上はともかく空挺降下は航空部隊によって奇襲を防ぐことが出来ただろう。しかし、この時は夜明け前。全天候型の戦闘機は実戦投入されていない。
結果、第一軍団司令部は救援部隊が到着するまで高練度の断頭大隊選抜部隊によって人的から通信機器など物的に至るまで一方的な損害を被ることになる。
不幸はそれでは終わらない。
この奇襲攻撃とほぼ同時に対岸にいた帝国軍の数個師団が渡河を開始したのである。これも万全な状態であれば十分な渡河阻止攻撃を行うことが出来ていた。
しかし、軍団級の司令機能が一時的とはいえ喪失したという事実は現実にあまりにも大きく作用した。本来持つべき攻撃力を発揮出来ず、統合軍は帝国軍の渡河を許してしまい帝国軍数個師団の新たな橋頭堡が構築された。
ただ、統合軍とて帝国軍より先に近代化を果たし洗練された軍隊である。
薄明でこれから明るくなるという時間帯であり、天候も悪くはなかった為に朝に備えてエンジンを温めていた戦闘機をスクランブル発進。さらに総司令本部から近い砲火力展開部隊は少ない情報から攻撃を開始。また第一軍団が所在していた地点からそう遠くない場所には第二能力者化師団がおり、エイジスのレーダーですぐに察知したアカツキから即時第一軍団の救援命令が通達。すぐさま動ける部隊を急行させるなど、現状で取れうるあらゆる手段で対抗。最悪の事態を防ぐ事には成功した。
だがしかし、帝国軍が新たな攻勢地点を得たのには違いなく、また戦域北東部に帝国軍の拠点が生まれた事で統合軍は当初の計画より早く第三防衛線近辺の統合軍部隊が帝国軍と相対する事になってしまったのであった。
・・Φ・・
3の月26の日
午後4時40分
統合軍要塞内情報統合司令センター
「死傷者約四〇〇〇に、北東部戦域の約四分の一は帝国軍が制圧。クソッ、帝国軍にまんまとしてやられたよ……」
僕は椅子に座り目の前に置かれている戦況図を見ながら悪態をつく。
夜明け前に行われた帝国軍の奇襲は寝耳に水だった。いや、正確に言えば全く予測をしていなかった訳では無い。何せあっちにはリシュカ、あの人がいるんだ。近現代戦で司令部急襲を目的とした空挺降下なんて事例は幾つもあるし、その為に対策も講じていた。
ただ、それが重点的に行われていたのは今僕達がいる総司令部近辺の話で、他の地点には洗脳化光龍対策としての対空機銃の配置くらいだ。
前世なら航空目標には対空ミサイルがあったけど、残念ながらこの世界にはLシリーズロケットはあるものの追尾式は存在しない。追尾可能なのは魔法による法撃だけなんだ。
だから自ずと対抗策は低中高度における対空機銃と法撃だけ。
けど、奇襲されては効果も薄くなるか破壊の憂い目に遭う。
その結果がこれだ。午後にはなんとか帝国軍の進軍を抑える事が出来たけれど、戦域北東部に新たな橋頭堡を構築されてしまった。
「第三防衛線の目の前になる対岸まで食い込まれるのは防いだけど、もし帝国軍の完全な制圧地域になったら一気に第四防衛線まで帝国軍の砲撃有効射程距離になるし、新たな戦線を作られることになる……。部隊の再配置だけじゃなく、能力者化師団のうち第二能力者化師団全兵力は前面に出すしかないか……」
「参謀本部も大慌てだわ。帝国軍の夜襲部隊が『断頭大隊』と聞いてやっぱりとは思ったけれど、まさか総本部じゃなくて北東部戦域を叩いてくるなんてね」
リイナは地図上の、戦域の四分の一が帝国軍の手に落ちた辺りを人さし指でトントンと叩きながら言う。
「実現可能性の問題だろうね。『断頭大隊』を動かしたのと、このやり口からして間違いなく命じたのはリシュカ。手際よく帝国軍の五個師団が渡してきた点からも、元から作戦そのものは練っていたんだろうさ」
「今回は相手が一枚上手だったようね……」
「全くだ……。執拗に僕を狙ってきていたし、総司令部急襲自体は十分に作戦としての意味があるから実行するかもしれないと思っていたけど、読み違えた。恐らく、側近に彼女を冷静にさせる誰かがいたのかもしれない。もしくは、単純に実現可能性の問題で総司令部急襲案は破棄してこの案にしたか……」
「質問。マスターなら総司令部と北東部戦域どちらを採用しますか?」
「断然北東部戦域だ。総司令部奇襲作戦の効果は絶大だけど、戦域中央がまだ第三防衛線から遠い上に、貴重な精鋭部隊を片道切符で送るわけにはいかない。大隊規模とはいっても、大体何でも出来る部隊は貴重だからね」
「恐らくリシュカ・フィブラもそう思って実行したのでしょう。ですが、北東部戦域における二つの手法を用いた奇襲作戦はワタクシも直前まで見破れませんでした……。最低レベルでの探知にも引っかからないとなると、『断頭大隊』の魔力隠蔽技術はただでさえ脅威レベルが高かったにも関わらずさらに技術水準を上げたと思われます」
「ムィトゥーラウまでのリシュカとは大違いってとこか……」
「サー。その通りですマスター」
リイナやエイジスとの会話が一区切りつくと、僕は一度思考の海に身を浸す。
これからどうするべきか。部隊の配置は。『断頭大隊』など見直すべき敵特殊部隊への対策は。約二十日を耐えきるだけでなく、反転攻勢分の兵力を温存するにはどうすればいいか。
ダメだ、考える事が多すぎる。一人で抱え込むもんじゃないね。
「リイナ、エイジス。僕は参謀本部の面々と会議をする。ついてきてくれるかい?」
「もちろん。帝国軍の侵攻阻止と応急的な対策はさっきでようやく片付いたけど、本格的に考えなくちゃならないものね」
「同意。会議の結果はマーチス元帥閣下にも報告が必要でしょう。円滑にお伝えする為にもワタクシも同行します」
「ありがとう。じゃあ、思い立ったら即行動だ。たぶんだけど、参謀長達も同じことを思ってるはずだから」
僕は席を立ち、別の区画にある参謀本部へと向かった。
悠長にしている時間はどこにも無い。
あの人が慢心をせず狂気に陥らず、冷静さを取り戻したというのならば、ここからは互いの戦術の読み合いだ。
であるのならば、僕はいつも通りの事をするだけだ。
一人ではなく、参謀本部だけじゃない。周りの力を借りて、必ず戦争に勝つ。
『帝国軍による第一二軍隷下第一軍団に対する薄明奇襲攻撃』
三の月二十六の日に起きた帝国軍の奇襲攻撃は、統合軍第一二軍隷下第一軍団司令部の所在位置の地名から、通称『オチャルシュア奇襲攻撃』と呼ばれている。
『オチャルシュア奇襲攻撃』は、帝国軍の大胆な作戦としても有名である。
何せ、帝国軍は第一軍団司令部への奇襲に二つの手法を用いたからだ。
一つ目は、夜闇に紛れて少数の精鋭部隊が第一軍団の司令部付近まで潜入していたこと。
二つ目は、数十の洗脳化光龍の背に乗り移動し、目標地点の付近まで接近し急降下の後に、高度数十メーラから降下しながら魔法障壁を足場にして着地。この時点で一つ目の手法で潜入していた部隊が奇襲を開始していた為に司令部近辺はさらに混乱に陥ったのである。
なお、この奇襲を行ったのはリシュカの懐刀たる『断頭大隊』の選抜部隊、二〇〇名。夜闇に紛れて潜入したの者が一七〇名、空挺降下した者が三〇名だった。
もしこの作戦が昼間に行われていたのならば、地上はともかく空挺降下は航空部隊によって奇襲を防ぐことが出来ただろう。しかし、この時は夜明け前。全天候型の戦闘機は実戦投入されていない。
結果、第一軍団司令部は救援部隊が到着するまで高練度の断頭大隊選抜部隊によって人的から通信機器など物的に至るまで一方的な損害を被ることになる。
不幸はそれでは終わらない。
この奇襲攻撃とほぼ同時に対岸にいた帝国軍の数個師団が渡河を開始したのである。これも万全な状態であれば十分な渡河阻止攻撃を行うことが出来ていた。
しかし、軍団級の司令機能が一時的とはいえ喪失したという事実は現実にあまりにも大きく作用した。本来持つべき攻撃力を発揮出来ず、統合軍は帝国軍の渡河を許してしまい帝国軍数個師団の新たな橋頭堡が構築された。
ただ、統合軍とて帝国軍より先に近代化を果たし洗練された軍隊である。
薄明でこれから明るくなるという時間帯であり、天候も悪くはなかった為に朝に備えてエンジンを温めていた戦闘機をスクランブル発進。さらに総司令本部から近い砲火力展開部隊は少ない情報から攻撃を開始。また第一軍団が所在していた地点からそう遠くない場所には第二能力者化師団がおり、エイジスのレーダーですぐに察知したアカツキから即時第一軍団の救援命令が通達。すぐさま動ける部隊を急行させるなど、現状で取れうるあらゆる手段で対抗。最悪の事態を防ぐ事には成功した。
だがしかし、帝国軍が新たな攻勢地点を得たのには違いなく、また戦域北東部に帝国軍の拠点が生まれた事で統合軍は当初の計画より早く第三防衛線近辺の統合軍部隊が帝国軍と相対する事になってしまったのであった。
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3の月26の日
午後4時40分
統合軍要塞内情報統合司令センター
「死傷者約四〇〇〇に、北東部戦域の約四分の一は帝国軍が制圧。クソッ、帝国軍にまんまとしてやられたよ……」
僕は椅子に座り目の前に置かれている戦況図を見ながら悪態をつく。
夜明け前に行われた帝国軍の奇襲は寝耳に水だった。いや、正確に言えば全く予測をしていなかった訳では無い。何せあっちにはリシュカ、あの人がいるんだ。近現代戦で司令部急襲を目的とした空挺降下なんて事例は幾つもあるし、その為に対策も講じていた。
ただ、それが重点的に行われていたのは今僕達がいる総司令部近辺の話で、他の地点には洗脳化光龍対策としての対空機銃の配置くらいだ。
前世なら航空目標には対空ミサイルがあったけど、残念ながらこの世界にはLシリーズロケットはあるものの追尾式は存在しない。追尾可能なのは魔法による法撃だけなんだ。
だから自ずと対抗策は低中高度における対空機銃と法撃だけ。
けど、奇襲されては効果も薄くなるか破壊の憂い目に遭う。
その結果がこれだ。午後にはなんとか帝国軍の進軍を抑える事が出来たけれど、戦域北東部に新たな橋頭堡を構築されてしまった。
「第三防衛線の目の前になる対岸まで食い込まれるのは防いだけど、もし帝国軍の完全な制圧地域になったら一気に第四防衛線まで帝国軍の砲撃有効射程距離になるし、新たな戦線を作られることになる……。部隊の再配置だけじゃなく、能力者化師団のうち第二能力者化師団全兵力は前面に出すしかないか……」
「参謀本部も大慌てだわ。帝国軍の夜襲部隊が『断頭大隊』と聞いてやっぱりとは思ったけれど、まさか総本部じゃなくて北東部戦域を叩いてくるなんてね」
リイナは地図上の、戦域の四分の一が帝国軍の手に落ちた辺りを人さし指でトントンと叩きながら言う。
「実現可能性の問題だろうね。『断頭大隊』を動かしたのと、このやり口からして間違いなく命じたのはリシュカ。手際よく帝国軍の五個師団が渡してきた点からも、元から作戦そのものは練っていたんだろうさ」
「今回は相手が一枚上手だったようね……」
「全くだ……。執拗に僕を狙ってきていたし、総司令部急襲自体は十分に作戦としての意味があるから実行するかもしれないと思っていたけど、読み違えた。恐らく、側近に彼女を冷静にさせる誰かがいたのかもしれない。もしくは、単純に実現可能性の問題で総司令部急襲案は破棄してこの案にしたか……」
「質問。マスターなら総司令部と北東部戦域どちらを採用しますか?」
「断然北東部戦域だ。総司令部奇襲作戦の効果は絶大だけど、戦域中央がまだ第三防衛線から遠い上に、貴重な精鋭部隊を片道切符で送るわけにはいかない。大隊規模とはいっても、大体何でも出来る部隊は貴重だからね」
「恐らくリシュカ・フィブラもそう思って実行したのでしょう。ですが、北東部戦域における二つの手法を用いた奇襲作戦はワタクシも直前まで見破れませんでした……。最低レベルでの探知にも引っかからないとなると、『断頭大隊』の魔力隠蔽技術はただでさえ脅威レベルが高かったにも関わらずさらに技術水準を上げたと思われます」
「ムィトゥーラウまでのリシュカとは大違いってとこか……」
「サー。その通りですマスター」
リイナやエイジスとの会話が一区切りつくと、僕は一度思考の海に身を浸す。
これからどうするべきか。部隊の配置は。『断頭大隊』など見直すべき敵特殊部隊への対策は。約二十日を耐えきるだけでなく、反転攻勢分の兵力を温存するにはどうすればいいか。
ダメだ、考える事が多すぎる。一人で抱え込むもんじゃないね。
「リイナ、エイジス。僕は参謀本部の面々と会議をする。ついてきてくれるかい?」
「もちろん。帝国軍の侵攻阻止と応急的な対策はさっきでようやく片付いたけど、本格的に考えなくちゃならないものね」
「同意。会議の結果はマーチス元帥閣下にも報告が必要でしょう。円滑にお伝えする為にもワタクシも同行します」
「ありがとう。じゃあ、思い立ったら即行動だ。たぶんだけど、参謀長達も同じことを思ってるはずだから」
僕は席を立ち、別の区画にある参謀本部へと向かった。
悠長にしている時間はどこにも無い。
あの人が慢心をせず狂気に陥らず、冷静さを取り戻したというのならば、ここからは互いの戦術の読み合いだ。
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