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第二十九話 ドラゴンとの戦い

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「ドラゴンだー!」

多くの兵士に動揺が走った。

「鎮まれーー! 鎮まれー!」

勇者様が大声を上げる。
これで兵士達が落ち着きを取り戻した。

「ここは俺が引き受けたー。皆、街へ避難しろー!!」

その言葉を聞くと兵士も冒険者も我先に逃げ出した。
勇者が一人で戦うつもりらしい。

「ゼルバン様、ホベルトさん、サビアさん、シロイさん、ティコーさん、皆さんも避難してください」

僕は、避難をうながした。
だが、誰一人動こうとしない。

「あ、あの逃げてください」

「ふふふ、真実を見ておかないと、誰が何をしたのか分かりません。また、勇者がドラゴンを倒したなどと、言いかねませんからなー」

ゼルバンさんが、言い終ると笑っている。

「ぷひゅっ」

うちの三人衆が吹き出している。
くそー、読まれている。

バサバサバサ

真っ赤なドラゴンが地上に降りて来る。
ステータスが見えるのか、真っ直ぐ勇者の前に降り立った。

「たいした自信だな、人間の勇者よ」

すごい声だ。勇者からは、かなり離れた物陰にいる僕たちの、鼓膜がビリビリ鳴っている。

「ふん、このまま帰るのなら見逃してやる」

勇者は怯む様子も無くドラゴンに答えた。

「なにか、俺様を倒す方法があるのなら、やってみろ」

「ふふふ、後悔するなよ。滅龍魔法!!」

勇者は両手を前に出し、大声を出した。
勇者渾身の滅龍魔法だが、なんだか様子がおかしい。
ドラゴンの胸の前に、二十センチ位の煙が出ただけで、ドラゴンにとっては痛くもかゆくも無いようだ。

「ぐははは、なにかやったのか」

「な、な、な」

勇者はその場にストンと尻餅をついた。

「アクエラさん、ユーリさん」

僕の声を聞くと二人はドラゴンに向かって走り出した。

「よくそれで俺様の前に出られたものだ」

ドラゴンは腕を上げ勇者に振り下ろした。
ユーリさんがその腕を片手で受け止め、そのすきにアクエラさんが勇者を僕たちのところに運んだ。
勇者様は余りの恐怖に失神したようだ。実に丁度いい。

「誰か勇者様を街へ運んで貰えませんか」

僕は言い終わるとドラゴンの方に歩き出した。
結局ティコーさんが台車に乗せて、勇者様を運んでいる。

「な、中々やるようだな、だが俺様は少しも本気を出していない」

ドラゴンはユーリさんから腕をどけると、少し驚いた様子でそう言った。

「だが、俺様は、ドラゴンの王だ。ドラゴンの中でも最強だ。お前らごとき虫けらもどうぜんだ」

「うわーあ」

その言葉を聞くと突然、ユーリさんと、アクエラさんが悲鳴をあげた。
そして耳をふさぎ真っ赤な顔をして座り込んだ。

「ふふふ、力の差は歴然だ。一秒もかけずに殺すことが出来る」

「ぎゃあああーー」

ユーリさんとアクエラさんが又悲鳴を上げた。
するとそれを見て、ドラゴンが気をよくしてまた口を開いた。

「ぎゃーーー」

ドラゴンの言葉をさえぎるように悲鳴を上げた。

「あのー、ローズさん、大丈夫でしょうか。さっきから悲鳴が、聞こえますが」

ホベルトさんが今の状況を心配して、ローズに質問しています。
そして、又、二人は大きな悲鳴をあげた。

「クスクス、大丈夫です。恥ずかしがっているだけですから」

「はずかしがっている?」

「ええ、あの台詞は二人が、私とノコ様と戦うときに、ノコ様に言った言葉とほぼ同じですから」



「だめでありんすー、ユーリさんあのよたろうを黙らしておくんなんしー、はずかしすぎでありんすー」

アクエラさんの言葉を聞くとユーリさんは、ドラゴンの腹に拳をめり込ませた。

ぐおおおーー

手加減をしたのでしょう、ケガはしていません。

ガン

ユーリさんは続いて延髄を蹴り飛ばした。
ドラゴンはそのまま地面に倒れ込み失神した。

バキン

今度はドラゴンの中指を叩き折った。

「ぎゃああああ」

ドラゴンが余りの痛みに意識を取り戻した。
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