北の魔女

覧都

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第五十六話 あいの気遣い

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薄暗い牢の中を、頭のてっぺんの毛が薄い猫背の見すぼらしい、牢番が歩いてくる。

手には三つのお盆を重ねて持ち、顔にうっすら笑いを浮かべている。

「ひっひっひ、お前達、奥のかべに背中をつけるだ」

ガイとロイとサイが牢の奥へ移動する。

「晩飯を持ってきてやっただ」
「ありがたくいただくだ」

カーアーペッ、カーアーペッ
丁寧に三つのお盆の上のパンと碗に痰を吐きかける。

「ほらよ」

床にお盆を置いた。



三人は朝、大立ち回りをしてから、何も口に入れていない。

「くそー、なんなんだあいつは」

サイが怒りをぶつける。

「水は飲めるぜ」

ロイが湯飲みをのぞき込む。

お盆にはパンと碗、湯飲みがあり、パンと碗には痰が吐きかけられたが、湯飲みには吐きかけられなかった。
湯飲みの中を見ると、水と大きな黒い虫が入れられており、ガチャガチャ動いている。

「湯飲みの水は、虫が生きているから少なくとも毒は入ってないぜ」
「でも、腹を壊すから、飲んでも一口だけかな」

そう言うとロイが水を一口飲んだ。

まねをしてガイとサイも一口飲んだ。

「ぐは、なんだこりゃ、泥水の味がする」

ガイが大声を出す。

「どうする、ガイさん、サイさん、パンは食うかい?」

「いや、止めておこう」

ガイとサイの声がそろった。

「それがいい」

ガイさんもサイさんも、きついだろうなー。
おれは、横になって休んでいるけど、あの二人ずっと立ちっぱなしだ。
ロイはガイとサイの牢を見た。

このまま、三日もすれば、腹が減りすぎて動けなくなるな。
そんな時攻撃されたらまともに戦えないだろうな。
ロイは、敵の策に嵌まったことを、痛感していた。

「なーガイさんやっちまったね」

「うむ、考えが甘かった」
「相手の方が一枚も二枚もうわてだった」

ガイが、暗い声でロイに答えた。

「今思えば、メイさんの忠告を聞いておくべきだった」

「うむ、今更だけどね」

三人は甘く考えていたことを後悔した。
今回の敵は、力だけではなんともならないことに恐怖する。
そして巻き込んだ女性陣が、急に心配になった。
女性陣が、戦いをあきらめ、この戦いから手を引いていることを強く願っていた。

この後、ガイとサイは牢の鉄格子に体を預け立ったまま、うつらうつら眠りに入りそうになるが、足から力が抜けるとガクっと、体が沈み目が覚める。
それを繰り返していた。
そして、向かいの牢の中でぐーすか眠っている、ロイを恨めしそうに見つめるのだった。






魔王の森のミドムラサキは横になりながら今日一日のことを思い出していた。

クロの移動魔法で進むようになり、ミドムラサキは暇になった。
最初は森をぼーっと眺めていた。
時々森の巨木がミシミシいって倒れるのが、不思議だったがそれ以外は特に何も無く、ぼーっとしている。

「ムラサキ様、移動します」
「よろしいですか」

「うむ」

これでまた、あいの元へ移動する。
相変わらず異常な距離を移動する。

あいは、走り出す。

ミドムラサキは何気なくあいの姿を目で追った。
あいは数歩走るとミドムラサキの方を振り返っている。
目が合うとあいは嬉しそうに頬を赤くして微笑んだ。

あい様はさっきからずっとこんなことをしていたのか。

ミドムラサキは驚いた。
森の魔人ミドムラサキは、孤独の中で生を受けた。
その後、シロの配下になったがシロから特に気にされる事は無かった。孤独のままずっと生きてきた。

私をこんなに気にかけ振り返って下さっている。
ささやかな心遣いだが、ミドムラサキの心には大きく届いた。

あいは、ミドムラサキを見過ぎて、巨木にぶつかった。
あいは後ろに吹っ飛ばされた。
巨木はバキバキ、ズズズン、折れてしまった。

ミドムラサキは少しおろおろしたが、すぐに走り出したあいを見てほっと胸をなで下ろした。

ミドムラサキからはあいの姿は見えなくなった。
だが、あいからは見えているようで、巨木がミシミシいって倒れている。

「あい様、見過ぎです」
「私は大丈夫ですから、前をしっかり見て走って下さい」

ミドムラサキは聞こえるはずもないのだが、叫んでいた。

「ムラサキ様」

「うむ」

あいの元へ移動する。
あいは、ミドムラサキの姿が見えなくなると超速度で走っていたのだろう、ゼーゼーいいながら、汗を大量にかいていた。
相変わらず、すごい距離を移動していた。



ミドムラサキは今、あいに後ろから羽交い締めにされて横になっている。
あいは、横に誰かがいると抱き枕にしてしまう。

「ミドムラサキさん、ありがとう」

「え、何のことですか」

「虫も、動物も近くから離れていきました」
「おかげで快適に眠れそうです」

あーそうか、気づいて貰えた。
ミドムラサキは、森の知力の低い生き物を自由に動かす能力がある。
その力で回りの生き物を遠ざけたのだ。
ミドムラサキは、抱きしめて貰えていることと合わせて、嬉しかった。
そして、心地よい気持ちの中、眠りに落ちていった。

ミドムラサキにとって今日一日はいままでで一番、心が温かで、嬉しい気持ちになれた一日だった。
人は、これを幸福とか幸せとかいうのだが、ミドムラサキにとっては初めてのことで、どういう気持ちか一口で表現できなかった。





後イ団女性陣三人組はクロの移動魔法で人気の無い場所に移動していた。
真っ暗で広い、アギのアジトの、地下空間だ。

メイが指先にロウソク位の火を出しあたりを照らした。

回りには鉄の檻が幾つかあった。

「ひっ」

鉄の檻から悲鳴が上がる。

何事かと檻の中を見るとボロボロの人間の姿があった。
一つの檻に数名ずつ入れられている。

顔中が腫れ上がり、開いた口には歯がまばらにしかなかった。
体も傷だらけで骨が飛び出している者もいた。

女性は近くにあったぼろ切れを引っ張り、体にかけ、その肌を隠した。

レイの目が一つの檻に目が釘付けになる。
その檻には二人の女性が入っていたが、もう目がうつろになり、ぼろ切れで体を隠す動作すらする気力が無かった。

「治癒」
「クロさん、ここの人達をグエン商会へ移動させて下さい」

レイが冷静だったのはここまでだった。

「うわあああー」

扉を激しく開けると、飛び出していってしまった。

メイとハイが見つめ合う。
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