北の魔女

覧都

文字の大きさ
上 下
140 / 180

第百四十話 マリアの危機

しおりを挟む
オリ国、国王のマリアの身にも危機が迫っていた。
ゴルド国から刺客が放たれ国王の暗殺を狙っている。
放たれたのは魔王軍最高幹部第二席ケーシー配下の幹部魔人二名で、ケーシーの信頼厚い魔人である。
当然オリ国国王マリアはその事に気づいていない。

ヤパ国の親友ノル国王、イナ国の親友サキ国王に勧められて、国王になったのだが、今は少し後悔している。
忙しいのだ、各地からの陳情に目を通し、来客との対応、あっという間に一日が過ぎる。
楽しみは、パレイ商会で皆が集まるお食事会、ゴルド国の対策会議と称して週一ぐらいで開催されている。

「マリア様」

「はい、クロさん」
「始まりましたか」

「始まりました」
「ケーキの試食と言っておられます」

「わかりました、イコマ、あとは頼みましたよ」

後ろを歩いている初老の相国イコマにあとを頼みマリアはパレイ商会にすっ飛んでいった。

「やれやれ、困ったものです」
「でも、まあ、マリア様は」
「良くやってくれています」
「この位は丁度良い息抜きでしょう」

相国イコマは、代々の国王に仕える信頼厚い宰相で、マリアの事は生まれたときから一緒のおじいちゃんのような存在である。



オリ国王の私がパレイ商会につくと、丁度ノル国王もついた瞬間だった。

「ぎゃーー」
「もう来たのですか」
「まったく、王様は暇なのですかー」

「いくらまなちゃんでも聞き捨てなりません」

私とノルちゃんの声がそろった。
そして二人で怒ったふりをする。
そのあとすぐ、イナ国の国王サキちゃんも到着して。

到着順の一位二位三位を国王が独占した。

「こ、これじゃあ、国王が暇と思われてもしかたがありませんね」

私が言うと三人で爆笑した。

「これがイチゴのショートケーキです」

まなちゃんが、イチゴのショートケーキのたくさん入った箱を出すと、すかさずノル国王が食べ始め、すぐに二個目に手を出した。

「ノルちゃん、知りませんよ、これから色々出す予定ですから」
「他の物が食べられなくなっても」

「ふん、これ以上おいしい物など考えられない」
「私は、これだけでよい」

「じゃあ、このモンブランは食べないのですね」

まなちゃんは薄い茶色のケーキを出した。

「あ、味見ぐらいする」
「ぎゃーーうまい、私はこっちの方がうまいーー」

「まだ色々出そうと思っていますからね」

まなちゃんが言っているにもかかわらず、ノル国王は二個目を食べ終わり三個目を食べ始めた。

「あのーまなちゃん、私は甘味の前に」
「うな重が食べたいのですが」

サキ国王が小声で頼むと。

「私もーー」

ノル国王まで頼んでいる。
私も頼みたいので、少し赤面しながら小声で。

「あ、私もお願いします」

「じゃあ俺たちも」

私が頼むと、遅れて来た人達も、うな重を頼みだしました。

「私はご飯なしジャーー」

美少女のメイさんは、ご飯を食べると他の物が食べられなくなるようで、いつもご飯なしで食べています。



「では、食べながら聞いて欲しい」

ノル国王が主要な人がそろった時に話し始めた。

「ゴルド国が、力技だが国内をほぼ平定した」
「何か、動きを起こすかもしれないので」
「マリアちゃんとマイちゃんは特に気を付けて欲しい」
「皆もゴルドの動向には注意してほしい」

マイというのは私の妹で、オリ国の王妹になります。
私は結婚をしていないので、私が死ぬと妹のマイが次の国王となります。

「マイ、あなたは本当に気を付けてくださいね」

私はおいしそうにうな重を食べている、妹のマイに近づいて話しかけました。

「私は大丈夫です、ハイさんがいつも一緒にいてくれますので」

妹の言葉を聞いて、マイの横にいる絶世の美女ハイさんを見ると、あの食べ物をポリポリ食べています。

「そ、それは、まさかチョコレートですか」

「いくらお姉様でもあげませんよ」

「い、良いですよ、私だってまなちゃんにもらってきますから」

私がまなちゃんの所に行くと、ノル国王とクロさんと密談をしていました。
とてもチョコレートを頂戴と言える雰囲気ではありません。

「まなさま」
「魔王の森で町作りが」
「始まっています」

白い少女のクロさんがまなちゃんとノル国王に報告しています。

「ノルちゃん何か知っていますか」

「私はまだ何も知りません」

「あいちゃんでしょうか」

まなちゃんが少し期待をするような顔でクロさんを見つめます。

「あい様の姿はありませんでした」


「まだ、あいちゃんは見つからないのですか」

とうとう私が話しに割り込んでしまいました。

「……」

誰も何も答えませんでした。
まだ、見つかっていないみたいです。
とても空気が重くなってしまいました。
しまったーー、チョコレートが遠のいてしまったー。

しかたがないので机の上に置いてある、上が焦げ茶色で下が黄色い食べ物をもらって席に着きました。

「ハー、残念」

チョコレートのことを考えながら口に入れました。

「ぎゃーーーあーー」
「ななな、何ですかこれはおいしすぎます」

上に乗っているのはチョコレートです。
黄色いところは、口に入れるととろりと溶けて、濃厚なミルクの味と砂糖の甘さで、とってもおいしい。
でも、チョコレートをポリポリ食べたーーい。





「ちっ、やっと帰ったか」

暗くなった王宮の脇、国王の部屋を見あげる二つの人影があった。
夕方薄暗くなってからずっと待っていたのだ。

国王の部屋に明かりが点くと、いっきに窓枠に飛び乗り窓を破壊して侵入した。

「すごいわね」
「注意を受けたその日に刺客が来るなんて」

寝間着姿のマリアは普通を装っていたが、足が震えていた。

「人間ごときが余裕じゃねえか」

魔人が二人そろってマリアに襲いかかった。

ドカアーン

マリアの寝室の壁が吹き飛んだ。
一人は、外へ吹き飛び、一人は室内に残った。

「ふっふっふ」
「オリ国、王家は」
「北の魔女の森の魔人ゲダ様が」
「護衛しているんだよ」

「ゲダ、油断はいけません」
「相手がどの位の強さかわかるまでは」
「油断しないでください」

マリアの背中に冷たい汗が流れた。
王城には結界が張ってあり、魔力を持つ者の侵入を許さない。
それを無視して侵入出来ると言うことは、強力な魔力を持つ魔人なのだろう。
ゲダはどこから来る自信か、完全に油断している。

「ちっ」
「わかった、わかった」
「一撃で殺せって事だろー」
「テメーごときのせいで」
「怒られちまったじゃねーか」

マリアは全然チガーーウと心の中で叫んだ。
ゲダは倒れている魔人に襲いかかった。

ドゴ――ン

今度はゲダが蹴り飛ばされた。
ドアの横に大穴を明けて吹き飛ばされた。

マリアは今、誰にも守られておらず、敵の魔人が攻撃してきたら、一撃で殺されてしまう。
敵の魔人がマリアを目だけを動かして見る。
マリアは体がガタガタ震えた。

「フー中々強い奴だが」
「俺よりも弱いな」

ゲダがドアの横の壁に空いた大穴から、ゆっくり戻って来た。
ゲダはオリジナルの魔法、精神支配を使える。
相手の体に触れて発動させる。
相手が、自分より大きく魔力が上わまわっていなければ支配が可能である。
相手の魔人から攻撃を受けたときその魔法、精神支配で動けなくしたのだ。

戻ったゲダが拳で殴ると、魔人は頭をつぶされ外へ吹き飛ばされた。

「外も終ったぜ」

ゲダの配下の魔人ライが戻って来た。

「お、終ったぜ、じゃありません」
「殺してしまったのですか」

「あったりめーだ」
「だれが生かしておくかってんだ」

「こういう時は生かしておいて」
「尋問して何処の誰か、なにが目的か」
「知りたい情報を引き出すものです」

「はーーはっはっは」
「そんなの魔人にゃー関係ねー」
「危害を加える者は返り討ちだ」
「あきらめなー」


「あきらめなーじゃありません」

マリアは頭を抱えた、だがゴルドの暗殺者だと、おおよそ見当は付いている。
しおりを挟む

処理中です...