魔王

覧都

文字の大きさ
8 / 208

第八話 船員と和解

しおりを挟む
荷物運びが終ると、船員達が笑顔になっていた。
俺は、何だか気持ちがよくなっていた。
イルナがいなくて俺一人なら、決してこんなことはしていなかっただろう。

「いたそうだなー―」

イルナは足を引きずる船員達を見てつぶやいた。
まあ、俺に喧嘩を売ったんだ自業自得だ。

「父ちゃん、船員さんの足って治してあげられないの」

イルナが足を引きずる船員を見ながら、悲しそうな顔をして俺を見た。

「そんなことぐれー、朝飯前だ!」

「すげー、すげーよ、父ちゃん! そんなことができるのか」

イルナが驚く姿に気分がよくなって、船員全員を直してやる気になった。

「ふふふ、なあ爺さん、船員達の足を治してやりたいのだが、どうかな」

「はぁ……」

爺さんが大きな口を開けて驚いている。
俺は近くの箱に腰掛けた。

「足の悪い奴を集めてくれ」

爺さんと船員が手分けして、けが人を俺の前に集めた。

「アスラ殿これで全部だ」

「ふむ、治癒」

俺は、集まっている百人以上のけが人に向って手を広げ、治癒魔法をかけた。

「うおおおおおーーー」

歓声があがった。
どうやら全員治ったようだ。

「すごいもんじゃのう。海軍におった時も上位神官が同行していたが、一日三人の治癒で魔力が枯渇しておったのだが……」

爺さんがしきりに感心している。



「おい、がき!!」

昨日の親方が嫌な笑いを浮かべまたあらわれた。
そして、大きく手を振り出した。
ガチャガチャという音と共に数十人の兵士が現れた。

「ちっ、領兵だ」

爺さんが少し焦っている。
領兵が来たと言うことは俺の事が領主の耳に入ったと言うことだ。
領内で領主の権限は絶大だ。
逆らうことは死を意味すると言っていい。
そういう事は俺も良く理解している。

だが、それは領主より弱い奴の場合だ。
悪の親方に力を貸す領主など、少し厳しい罰が必要だ。

「な、何の用だ」

昨日の体のでかい髭面の船員が前に出てくれた。
それだけでは無い、船員達が皆俺を囲むように守ってくれている。
こんなことは今まで一度もなかった。
いままでなら、仲間と思っている奴に真っ先に突き出されていた。

「爺さん邪魔だ、船員をどけてくれ」

「なっ……」

爺さんが少し怒った顔になった。
せっかく皆が命をかけてかばっているのに、なんて事を言うんだということだろう。

「ふふふ、皆には心から感謝している。だが領主ごときに俺が遅れをとることは無い。心配せずに任せてくれないか」

俺は余裕のある表情をして、にこりと笑顔を作った。

「みんなー―、俺たちが邪魔になっている。道を空けるんだー―」

髭面の大男が船員をどけてくれた。

「て、てめー、頭大丈夫か。兵士だぞ。手を出せば確実に死刑だぞ」

親方が少し焦っている。

「小僧、きもがすわっているなー。本気か」

兵士の隊長が前に出てきた。
見た目は強そうだ。

「やかましいなー。お話をしにきたのかよー」

「ふふふ、殺しても構わん捕まえろ!!」

兵士は抜剣すると斬りかかってきた。
別に雑兵の剣ごときで傷一つ付かないとは思うが、一応避けておいた。
兵士の動きは止っているように遅い。
俺は、兵士の両足を、丁寧に蹴り飛ばしてやった。

「ぎゃああー」
「ぎゃっ」
「いでーーー」

隊長をのこして兵士全員が倒れたまま動けなくなっている。
親方は両足だけで無く、両手もへし折ってやった。
これで、少しは懲りるといいのだが。

「き、きさま、こんな事をしてどうなるかわかっているのか」

「わかっているさ。領主が命だけは助けて下さいと言うのさ。生かすか殺すかはその時の態度次第だ。お前は助けてやる。今から小僧が一人で、屋敷に行くから全兵士で守りを固めておきな」

この言葉を聞くと隊長は、走り出した。

「爺さん、すまねえがイルナを頼む」

「アスナ殿本当に行かれるのですか」

「ふふふ……」

俺は返事をせずに笑った。

「このまま、逃げれば……」

言いかけて爺さんは、無駄だと気が付いたのか言うのをやめた。

「領主は、あの城にいるのか」

すでに日が暮れかかってあたりは薄暗くなっている。
そこに明るく浮き上がっている城の姿が見える。
爺さんはうなずいた。

それを見て、俺は走り出した。
途中で隊長を追い抜いたが、隊長はそれすら気が付かないようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...