7 / 208
第七話 一つの条件
しおりを挟む
俺とイルナとランロンは甲板で仰向けになっている。
夜空には欠けた月が真上に有り、大量の星がすごく綺麗だった
時々軽く吹く風も心地よかった。
だが、船酔い中の俺とイルナは気分が最高に悪かった。
「なあ、あんちゃん、水はないのかな。喉が渇いたよ」
大量に胃液を海にぶちまけたから、六歳位の幼児のイルナは喉が乾いたのだろう。
「ふふふ、俺は今日までモンスター退治の毎日だ。収納魔法で、大量の飲み物も食べ物も持っているぞ。酒でもビールでも何でもある」
「み、水でいいよ」
「ふふふ、それには一つ条件がある」
いくら幼児でも、この世にただのものなど一つもない。
それはちゃんと教えなくてはならない、教育というやつだ。
「気持ちわりいなー。どんな条件だよー」
「ふふふふふふ、それは、俺の事を、あんちゃんではなく、父ちゃんと呼ぶことだ」
あれ、俺は何を言っているんだ。
とっさに出て来た。
思えば、二十九歳の俺は、嫌われもので友達も結婚も出来なかった。
ずっと一人で生きてきたからか、家族持ちを羨ましく思っていたのかもしれない。
「はあーっ、嫌だよ。あんちゃんみたいな子供を、父ちゃんなんて呼べるかよー、かっこわりー」
「父ちゃんと呼べば、美味しい飲みものを何でも飲ませてやる。それだけじゃねえ、何でも言うことを聞いてやる」
「あのさあ、なんでそんなに、父ちゃんって呼ばせたいんだよう」
「ふふふ、ずっと一人だったからか、家族がほしいのかもなー」
「ちぇっ。聞くんじゃ無かった」
「いや、いい、呼ばなくていい。忘れてくれ……」
急に恥ずかしくなった。
「……」
そのあと、ちびのイルナは黙り込んで何か考えているようだった。
「あのさあ、何でも言うことを聞いてくれるのか」
イルナが、すごく嬉しそうな顔をしている。
悪い予感しかしない。
「だからそれは、もう無しだ」
「父ちゃん頼むよー―」
こ、このちびーーーーー。
「な、なんだ言ってみろ」
「うーーん、その前に水をくれよ」
俺は美味しい水の入った革袋を出してやった。
うまそうにごくごく喉をならしてイルナは水を飲んだ。
「おいら、かあちゃんがほしい」
「はぁあ……」
「なあ、駄目なのか」
「ふふふ、たぶんな。嫌われ者だからな……」
語尾がだんだん弱くなった。
「父ちゃんのかいしょなしーーーー」
イルナは船から飛び降りた。
そして不思議そうな顔をして立ち止まっている。
イルナを追いかけて俺も船から飛び降りた。
「なあ、地面が揺れている」
「ふふふ、本当だ」
ずっと船で揺られていた為に地面がゆれて感じていた。
この後、俺たちは、陸地で朝まで眠った。
朝、目が覚めると船員達はすでに作業を始めていた。
だが、なぜか多くの船員が足を引きずっている。
「なあ、父ちゃん手伝ってあげなよ」
「なんで、俺がそんなことをしないといけないんだ」
「ちぇっ、母ちゃんも探せねーくせに。おいらの頼みを何でも聞いてくれるんじゃ無かったのかよう」
「わかった、わかった」
あきらめて働く船員の方を向くと、爺さんが大きな荷物を両肩に担いで歩いている。
荷物が重いのかヨタヨタしている。
「なあ爺さん、俺にも、荷物運びを手伝わせてくれ」
「アスラ殿、よいのか」
「ああ、構わねえ。なんだか大勢の船員の足が悪いみたいだから手伝ってやる」
なんだか爺さんが驚いたような顔をしている。
「父ちゃん、船員の足が悪いのは、父ちゃんがやったんだぜ。忘れたのかよう」
「あーー、覚える気が無いから気が付かなかった」
今度は、爺さんとイルナとランロンまで驚いている。
「爺さん、その荷物を運べばいいんだな」
爺さんが持っている荷物と同じものを持ってみた。
あんまり重さを感じない。
バランスが有るから十個ほど持って、走って運んでやった。
「うおおおおおーー」
まわりの船員から驚きの声が上がった。
「アスラ殿、これは持ち上がりますかな」
爺さんが馬車の荷台の、四角い箱を指さした。
これもあまり重さを感じなかったので、軽く持ち上げて運んでやった。
「すげーーー、すげーーー」
「あれが一人で持ち上がるのかー。すごすぎるだろーー。信じられねー―」
船員達の驚きの声が聞こえる。
船からの荷物を馬車へ、馬車の荷物を船へと二十往復位しただろうか。
「この船の積荷は全て終りましたぞ。助かりましたアスラ殿」
爺さんが深々と頭を下げる。
「なーに家を借りているしな、お安いご用だ」
「ふふふ、あと五隻ありますが……」
爺さんが俺を見つめる。
「……」
俺は小さな荷物を真っ赤な顔をして運んでいるイルナの顔を見た。
イルナはニタリと薄気味悪い顔をして笑った。
「ちっ、やりゃあ、いいんだろ、やりゃあ」
夜空には欠けた月が真上に有り、大量の星がすごく綺麗だった
時々軽く吹く風も心地よかった。
だが、船酔い中の俺とイルナは気分が最高に悪かった。
「なあ、あんちゃん、水はないのかな。喉が渇いたよ」
大量に胃液を海にぶちまけたから、六歳位の幼児のイルナは喉が乾いたのだろう。
「ふふふ、俺は今日までモンスター退治の毎日だ。収納魔法で、大量の飲み物も食べ物も持っているぞ。酒でもビールでも何でもある」
「み、水でいいよ」
「ふふふ、それには一つ条件がある」
いくら幼児でも、この世にただのものなど一つもない。
それはちゃんと教えなくてはならない、教育というやつだ。
「気持ちわりいなー。どんな条件だよー」
「ふふふふふふ、それは、俺の事を、あんちゃんではなく、父ちゃんと呼ぶことだ」
あれ、俺は何を言っているんだ。
とっさに出て来た。
思えば、二十九歳の俺は、嫌われもので友達も結婚も出来なかった。
ずっと一人で生きてきたからか、家族持ちを羨ましく思っていたのかもしれない。
「はあーっ、嫌だよ。あんちゃんみたいな子供を、父ちゃんなんて呼べるかよー、かっこわりー」
「父ちゃんと呼べば、美味しい飲みものを何でも飲ませてやる。それだけじゃねえ、何でも言うことを聞いてやる」
「あのさあ、なんでそんなに、父ちゃんって呼ばせたいんだよう」
「ふふふ、ずっと一人だったからか、家族がほしいのかもなー」
「ちぇっ。聞くんじゃ無かった」
「いや、いい、呼ばなくていい。忘れてくれ……」
急に恥ずかしくなった。
「……」
そのあと、ちびのイルナは黙り込んで何か考えているようだった。
「あのさあ、何でも言うことを聞いてくれるのか」
イルナが、すごく嬉しそうな顔をしている。
悪い予感しかしない。
「だからそれは、もう無しだ」
「父ちゃん頼むよー―」
こ、このちびーーーーー。
「な、なんだ言ってみろ」
「うーーん、その前に水をくれよ」
俺は美味しい水の入った革袋を出してやった。
うまそうにごくごく喉をならしてイルナは水を飲んだ。
「おいら、かあちゃんがほしい」
「はぁあ……」
「なあ、駄目なのか」
「ふふふ、たぶんな。嫌われ者だからな……」
語尾がだんだん弱くなった。
「父ちゃんのかいしょなしーーーー」
イルナは船から飛び降りた。
そして不思議そうな顔をして立ち止まっている。
イルナを追いかけて俺も船から飛び降りた。
「なあ、地面が揺れている」
「ふふふ、本当だ」
ずっと船で揺られていた為に地面がゆれて感じていた。
この後、俺たちは、陸地で朝まで眠った。
朝、目が覚めると船員達はすでに作業を始めていた。
だが、なぜか多くの船員が足を引きずっている。
「なあ、父ちゃん手伝ってあげなよ」
「なんで、俺がそんなことをしないといけないんだ」
「ちぇっ、母ちゃんも探せねーくせに。おいらの頼みを何でも聞いてくれるんじゃ無かったのかよう」
「わかった、わかった」
あきらめて働く船員の方を向くと、爺さんが大きな荷物を両肩に担いで歩いている。
荷物が重いのかヨタヨタしている。
「なあ爺さん、俺にも、荷物運びを手伝わせてくれ」
「アスラ殿、よいのか」
「ああ、構わねえ。なんだか大勢の船員の足が悪いみたいだから手伝ってやる」
なんだか爺さんが驚いたような顔をしている。
「父ちゃん、船員の足が悪いのは、父ちゃんがやったんだぜ。忘れたのかよう」
「あーー、覚える気が無いから気が付かなかった」
今度は、爺さんとイルナとランロンまで驚いている。
「爺さん、その荷物を運べばいいんだな」
爺さんが持っている荷物と同じものを持ってみた。
あんまり重さを感じない。
バランスが有るから十個ほど持って、走って運んでやった。
「うおおおおおーー」
まわりの船員から驚きの声が上がった。
「アスラ殿、これは持ち上がりますかな」
爺さんが馬車の荷台の、四角い箱を指さした。
これもあまり重さを感じなかったので、軽く持ち上げて運んでやった。
「すげーーー、すげーーー」
「あれが一人で持ち上がるのかー。すごすぎるだろーー。信じられねー―」
船員達の驚きの声が聞こえる。
船からの荷物を馬車へ、馬車の荷物を船へと二十往復位しただろうか。
「この船の積荷は全て終りましたぞ。助かりましたアスラ殿」
爺さんが深々と頭を下げる。
「なーに家を借りているしな、お安いご用だ」
「ふふふ、あと五隻ありますが……」
爺さんが俺を見つめる。
「……」
俺は小さな荷物を真っ赤な顔をして運んでいるイルナの顔を見た。
イルナはニタリと薄気味悪い顔をして笑った。
「ちっ、やりゃあ、いいんだろ、やりゃあ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる