魔王

覧都

文字の大きさ
23 / 208

第二十三話 聖女の一日

しおりを挟む
王都の中央に王城があり、その東側に宮殿がある。
宮殿の東に勇者の屋敷が有り、今は第一王子派が根城としている。
王城の西側に神殿が有り、その西側に聖女邸が二軒並んでいる。
今はあるじのいない屋敷だが、ずっと聖騎士の四番隊が管理し、あるじが来るのを待っていた。

「この左側が先代の天帝の聖女様のお屋敷で、右側が先代の天神の聖女様の家です。どちらも、いつでも入居可能ですが、どちらになさいますか聖女様」

エマさんという聖騎士隊の隊長は、いつも丁寧に話してくれる。

「おいらは、天神の聖女だから、右側でいいよ」

「ちっ」

ライファという副隊長は、おいらが気に入らないらしく、舌打ちをした。
エマさんと比べると態度が悪いし、むかつく。

「どうぞ聖女様こちらへ」

エマさんが、お屋敷の扉を開けてくれた。

「わああー、ひろーーい、そして綺麗だ。まるでお城みたいだ」

「ちっ」

「やい、やい、さっきから、お前、態度悪いんだよなー―」

おいらは、父ちゃんとかあちゃんから無理矢理引き離されて、少しいらだっていたので、つい、思った事が口から出てしまった。

「それは、私にいっているのか、ちび」

「ちびとは、おいらに言っているのか、ライファ!」

ライファという聖騎士は、おいらが気に入らないらしい。
でも、ちびは許せない。少しは大きくなっている。

「ライファ、やめなさい。聖女様もおやめ下さい」

エマさんが困っている。でもやめる気はない。

「ふふふ、聖女の実力を知りたいようなら、良い機会だから教えて上げるよライファさん」

「聖女様おやめ下さい、ライファが強さでは我、四番隊一の強さなのです。とてもかなわないと思います」

「ふん、レベル1の聖女が偉そうにするんじゃねえ」

「ああ、鑑定ですか。あなたの鑑定では私はどうなっているのですか」

「ふふふ、私は聖騎士だ。ちゃんと鑑定も使える。お前の鑑定結果は、聖女、イルナ、レベル1、十二歳だ」

「残念ね、正解は、天神の大聖女、イルナ、レベル1、12歳よ。そして、あなたは中級聖騎士、ライファ、レベル30、19歳。そしてエマさんは、下級聖騎士、エマ、レベル32、22歳ですね」

「下級、中級、そして天神の大聖女、私の鑑定では、わからない」

エマさんと、ライファさんが驚いている。

「遠慮はいらねー、かかってこい!!」

おいらは、育ちが悪いので、がらの悪い言い方で挑発した。

「なまいきな、多少違っていても、レベル1はレベル1だろーが、なめるなーー」

鋭い目つきで俊敏そうな、ライファさんが襲いかかって来た。
遅い、レベル2ダンジョン一階層のゴブリンよりはるかに遅い。
全ての攻撃を余裕で避けることが出来る。

「あのーー、本気でお願いします」

「くそがーー!!」

少しだけスピードが上がったけど、それでも遅すぎる。

「もう、だいたいわかりました。相手になりません」

おいらは、ライファさんの胸の真ん中を、手のひらでそっと押した。

「うわああああああーーー」

恐ろしい勢いで、扉から飛び出し、広い庭の真ん中まで転がっていった。

「なっ」

エマさんが目を丸くして驚いている。

「聖騎士とはこれ程、弱いものなのですか?」

おいらは驚いてエマさんに聞いて見た。

「我、第四聖騎士団は、女性だけの隊ですが、弱い部隊ではありません」

「と、いうことは、普通の人間が弱すぎるということですね」

「ち、うっ……」

エマさんが何か言おうとしていうのをやめてしまった。

「失礼しましたー! 大聖女様―!!」

ライファさんが目をキラキラ輝かせて走ってきた。

「うわーーーっ、た、助けて下さいエマさん」

何を考えているのか、ライファさんがおいらを抱きしめてスリスリしてくる。

「ライファ、やめなさい。大聖女様に忠誠を誓いますよ」

「はっ」

二人は私の前にひざまずくと、騎士のしきたりにのっとり、忠誠を誓ってくれた。
まあ、形式的な事だとは思うけど悪い気はしなかった。

「ところで、大聖女様。私達二人は護衛でもありますが、お世話係でもあります」

「は、はい」

「まずは言葉遣いをなおしていただきます」

「えっ、別においらは、これでいいよ」

「だめです」

「うわあー、エマさんがかあちゃんの様にこえーー」

「ぷーーっ、あの大聖女様はどうしてその様にお強いのですか」

ライファさんが、笑いながら別人の様に丁寧な言葉遣いで聞いて来た。

「おいらなんか、父ちゃんに比べたら、強い内には入らねえよ。父ちゃんはおいらの千、いや万倍は強いよ」

そう言ったら、エマさんが凄い顔をしてにらんできた。
ライファさんの目がキラキラしている。
父ちゃんのファンがこんな所に出来てしまったようだ。

「おいらではなく、私です。父ちゃんではなく、お父様です」

エマさんが、おかあ様のようなきびしい顔をして見てきた。
うっう、先が思いやられる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...