魔王

覧都

文字の大きさ
32 / 208

第三十二話 再会

しおりを挟む
わたしは受付のおねーさんの所へこどもの様に走って行きます。

「お、おねーさーん、これー」

もう完全に子供です。

「あー、これS級冒険者限定ですね」

「えっ」

「エルナさんは、F級なので受ける事は出来ません」

「えっ」

「あと、これが代金になります。白金貨二個です」

「ちょっと待って下さい」

エマさんが少し怒っています。
おねーさんが少し挙動不審になっています。

「な、何ですか」

「少し、少なくないですか?」

「エルマさん、わたしはこれでいいです。はい、エルマさん」

受付のおねーさんがほっとしています。
随分ぼられたのかもしれません。
わたしはエマさんに一個白金貨を渡しました。

「うふふ、半分こ」

「あ、ありがとうございます」

エマさんが、目をキラキラさせて喜んでくれています。
あ、それどころではありません、港町救出です。

「じゃあ、わたしはこの町を救えないのですか」

「そうですね。S級じゃないと受けられません。決まりですので……」

それは、わかります、弱い冒険者の命を守るシステムです。でも……

「エルマさん、どうしましょう」

「クスクス、行きたいのなら勝手に行けば、よいではありませんか」

「その手がありました」

わたしが笑顔になって移動魔法を使おうとしたら。

「私を忘れて行かないでくださいね」

「あ、はい」

あと少しで忘れて行くところでした。
危ない危ない。



あー、潮の臭いがする。
なつかしい、何もかもが懐かしい。
港町の我が家の見える所に移動しました。
走って、ぼろい木造船の甲板にのぼってみました。
誰もいなくて寂しく感じます。

「……あー父ちゃんとかあちゃんに会いたいなー。ねえエマさん、このまま、私は逃げてしまうことが出来ますけど、逃げたら困りますか?」

「うふふ、第四騎士団が全員死刑になるぐらいで済みます。お逃げになりますか」

「うふふ、逃げる気なら、もっと前に逃げていますよ」

「わかっています。イルナ様はお優しいですから」

私が逃げて父ちゃんのところに戻っても、すぐに発見されて、父ちゃんと教団がたたかう事になる。
そうなると、あること無いことを言われて、父ちゃんは悪名をほしいままにする。
だから、大人しくするしかないんだ。
そんなことはわかっている。わかっているさ……。

「イルナ様、あまり時間がありませんよ」

「うん」

町の中央広場に移動した。
領主屋敷のほうから声が聞こえる。
領主屋敷の中庭に移動する。
なぜか町中の人が集まっている。

「な、なんで、皆いるんだーー!!」

「ふふふ、隣町もトロールに襲われていて、避難出来なかったのじゃ」

「じ、爺ちゃーーん」

思わず爺ちゃんに抱きついてしまった。

「誰だ!!」

人混みをかき分けて赤髪で片目に眼帯をしている、大きな女が現れた。

「おお、御領主殿!! 王都から助けが来ましたぞ。これで助かりましたぞ」

新しい領主のようだ、領主というよりまるで海賊だ。

「何が助かっただ! F級冒険者じゃないか。ギルドは舐めているのか」

「な、何をいうんだ。イルナ様をバカにすることは許さんぞ」

エマさんが瞬間的に怒っています。

「何をどう許さないと言うんだ、領内で私を侮辱すれば不敬罪で死刑だぞ」

「エマさん、時間の無駄です戦いましょう」

私とエマさんは領主邸から出てモンスターの前へ飛び出しました。
外にはフェンリルが二頭います。
腹を空かせているのか、よだれを垂らしてこちらを見ました。

「ぎゃーーーー」

エマさんが一頭、私が一頭瞬殺しました。
ロッドでポコンと叩いただけで、コロンと倒れました。
生身のモンスターは切ると血が出て気持ち悪いので、ロッドでたたいて倒しました。

「うおおおおおおーーーーー」

その様子を見ていた人から歓声があがった。

「凄いもんじゃのう、アスラ殿を見ておるようじゃ!」

「爺ちゃん、おいらは時間が無いから、このまま隣町も助けてくるよ」

「うむ、気を付けてな」

「今度ゆっくり遊びに来るからねーー」

「提督、あの者は誰だ」

領主が爺ちゃんに聞いている。

「あれは、わしの可愛い孫じゃ。じゃが、わしが知る中で、世界で三番目に強い自慢の孫じゃ」

爺ちゃん、ちゃんと聞こえたよ。ありがとう。

「イルナ様ー、走って行くのですか」

エマさんが追いかけてきた。

「そうですよ。行ったことが無いですから。この道を真っ直ぐ行くだけです。先に行きますねーー」

隣町の救出は、帰る時間の三分前に終りました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...