魔王

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第三十三話 新たなる配下

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「おい、ロアド領、オウブ将軍が攻めて来たらしいぞ」

僕たちはロアド領の隣、チョカイ領の街の食堂にいる。
食堂内はザワザワしだした。

「オウブさん、はやいですね。まだ四十日程しか、たっていませんよ。大丈夫でしょうか」

「うふふ、お手並み拝見ですね」

フォリスさんが笑っています。
まあ、僕たちがいるのですから、ピンチになれば助っ人します。

「おい、あんた達は行かないのか。防壁の上で見ることが出来るらしいぞ」

のんびりしていたら、おじさんが心配してくれた。

「では、僕たちも行きましょうか」

チョカイ領の街は、少し海から離れた平原に有る。
街ごとぐるりと高い壁がおおっている。
暇な町人が壁の上にゾロゾロ集まっていた。
領主チョカイは武人の様で、銀色に輝く鎧を身につけて、街の門の前に二千人程の兵を集め、オウブ軍を迎え撃つようだ。

「うわーーはっはっはーーー」

壁の上の町人から笑いが起ります。
それも、そのはずオウブ軍はオウブ将軍を含めて十人です。

「なーーーーっ」

僕はあせった、二千人対十人では、皆殺しにされて終わりです。
外壁から飛び降りようとしたら、フォリスさんに肩をつかまれた。

――な、何でっ!!

そう思って、フォリスさんを見たら、首を振っています。
そして、余裕の笑顔になりました。

「ふふふ、大丈夫ですよ。のんびり見ていましょう」



「チョカイ!! いま、降伏するなら、けがをしなくて済むぞー」

オウブさんの大きな声が聞こえます。

「ふざけるなー!! いくらお前が強くても、この数の差をどうするつもりだー、弓隊かまえー」

チョカイ軍は、軽弓兵と歩兵で編成されている。
弓隊が矢をつがえる。
射程に入れば矢の雨を降らせるつもりなのだろう。
恐らく領主チョカイはオウブの最期を、領民に見せつけようとしているのだろう。

「後悔するなよチョカーーーーーーーイ!! スザク隊全軍アスラバキだーーー!! いけーーー!!!!」

「んっ」

走り出した兵士は、スザクのようだ。
チョカイ軍の弓隊は一斉に弓を放った。だが、スザクにはあたらなかった。スザクの走る速さは、チョカイ軍の想定をはるかに越えていたのだ。
矢が上空にあるうちにスザク達はチョカイ軍の中に飛び込んだ。

「ぐわあああ!」
「うがあああ!」
「ぎゃっ!」

チョカイ軍から叫び声が次々あがる。
スザクは、チョカイ軍の攻撃をすべてはじき返している。
瞬く間にチョカイ軍は、足の骨を折られ倒れていった。
チョカイは最期に両足を折られ倒れた。
壁の上の見物人達が鎮まりかえった。

「ぐうううーー」

倒れたチョカイはオウブさんを、うなりながらにらんでいる。
オウブさんは、チョカイを一撃で殺せる位置まで近づいた。

「のああああああーーー」

僕は、背中をフォリスさんに押されて、城壁から落とされた。
最初は驚いて叫んでしまったけど、着地はしっかり風魔法を使ってふわりと降りた。
僕が着地をするとスザク達が駆け寄ってきて、まわりで楽しそうに駆け回っている。

まるで犬が飼い主のまわりを駆け回っている様だ。
ダンジョンで会ったときは、憎らしい敵モンスターだったけど、配下としてこんなになつかれると、可愛く感じる。
スザク全員を座らせて、交互になでてやった。

「見ろ、あの方が魔王様だ」

「こ、子供ではないか」

「オウブさん、もう治癒してもよろしいですか」

「いえ、まだ降伏していません」

「ふふふ、全快して向ってくるようなら、スザクに皆殺しを命じたら良いのではないですか。……治癒」

僕は、全員を治癒した。

「うっ、か、体から痛みが消えた……」

「兵士の皆さんも全快しているはずです。どうしますか」

「うぬ」

チョカイさんは、まだ迷っているようだった。
その時、僕の後ろから大きな声がした。

「何をしている。大魔王様の御前である。頭が高いぞ!!」

フォリスさんが大声を出したのだ。
その言葉にスザクとオウブさんが素早く反応し平伏した。
そして、うやうやしくチョカイさんが平伏した。
それにならって、兵士達が次々平伏した。
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