魔王

覧都

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第三十六話 前魔王の話

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「あの、こちらの方は……?」

チョカイさんから与えられた、貴族屋敷に移動すると、侍女さんがコデルさんを見て質問してきた。

「こちらは、森の魔女コデルさんです」

「えーーっ、森の魔女様ですか」

侍女さんはコデルさんを知っているようだった。
けっこう有名人なのか?

「あの、コデルさんを知っているのですか」

「……まさか、アスラ様はコデル様を知らないのですか」

知らないと恥ずかしいほどの、有名人らしい。

「すみません、魔人の国の事はあまり知らないのです」

「コデル様は、前魔王の側近の魔法使いだったお方ですよ」

「え、前魔王を知っているのですか」

僕と、フォリスさんの声がそろった。

「知っている。何じゃ、魔王もフォリスちゃんも前魔王の事に関心があるのか」

「はい、知りたいです」

また、また、フォリスさんと声がそろった。

「ふむ、あの者は最悪じゃった。魔人を嫌っておったのかのう、残忍じゃったな。面白半分で次々死刑にしておった。その刑の執行がまた残忍じゃった。目を背けたくなるほどの刑を執行して、それを見ながら笑顔で食事をしておったのだ。国民も多くの者が残虐に殺された」

「……」

「じゃから、人間の世界から勇者が来て、魔王を倒してくれた時には、側近は皆ほっとしておった。じゃがその後、勇者と共に人間が攻めてきた。勇者が生きている間中魔人は攻められ続け、国土の九割を失ったのじゃ。魔王がいた方がよかったのか、いない方がよかったのか、わしにはわからぬ。今でも魔王を知る者の中には魔王を嫌っている者は多い。わしも嫌いじゃ。」

僕は、その前の魔王が人間で、天帝の勇者だった事を知っている。
だが、それを言うことが出来なかった。

「さて、魔王アスラ殿、そなたはどの様な魔王を目指すのじゃ」

コデルさんが鋭い目つきで僕を見た。

「そうですね、僕が欲しいのは名声と、人々からの賞賛です」

「ほう、お金や、女では無いのか」

「お金は、すでに嫌と言うほど持っています。ふふふ、女の人はよくわかりません。嫌われていましたからね」

「ふむ」

コデルさんはそう言いながら、更に鋭い目つきで僕を見つめる。

「魔王の存在が、勇者に知られれば、すぐに殺されるでしょう。それまでに魔人の国の国力を上げて、出来れば僕が生きている内に娘を取り戻したいと考えています」

「で、わしは何を手伝えばよいのじゃ。魔王が望むならイルナちゃんはわしが一人で取り戻してやるぞ」

「いいえ、無理矢理取り戻す事は出来ません。アスラの名に傷が付くからです。イルナは僕の名にキズが付くことを嫌がっています。だから、アスラの名に恥じない救出方法で救出したいと考えています」

「なるほど、それ故の魔人国統一か。遠回りするのじゃのう」

「コデルさんには移動魔法で人々の運搬をお願いしたいと考えていたのですが……」

「ばかもーーん、それは宝のもちぐされじゃーー、ふざけるなーーー!!」

コデルさんを怒らせてしまったようだ。

「で、では、ルチョウ領を攻めるのを手伝っていただけますか」

「ふむ、本当は、そういう事に力を貸さぬ為に、森に入ったのじゃがな。イルナちゃんを助ける為ならしょうが無い」

会った事も無いのに、コデルさんは、イルナのことがいたく気にいったようだ。

「あ、ありがとうございます」

「で、ルチョウ領にはすぐに行くのか。わしは魔王領ならどこでも移動魔法で行く事が出来るぞ」

「本当ですか、でも使者を送ってから、攻めたいと思いますので……」

「それなら、わし達がその使者になればよいじゃろう」

コデルさんが言い終わったら、目の前に城門があった。

「本当は、城の中に移動することも出来るのじゃが、ちゃんと城の前に移動してやったぞ」

「……」

僕たちが言葉を失っていると、コデルさんは衛兵の前に歩み出た。

「わしたちは、魔王様からの使者だ。領主に取り次ぐのじゃ」

「な、何だと!! ふざけているのか」

衛兵達が集まってきた。
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