魔王

覧都

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第四十話 王都へ

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「うっ、うっ、うっ」

ルチョウさんが僕とイルナの話、フォリスさんの身の上話を聞いて、泣いている。
コデルさんが満足そうにうなずいている。

「アスラ様が魔王であることも、前魔王とは違うこともわかりました。このルチョウ、魔王様の陣営に加わり犬馬の労もいとわず、全力で働かせていただくことを誓います」

「は、はい、よろしくお願いします」



何故か、僕の身の上話は魔王国に広まっていく。
そして、何度も話す僕の身の上話と、フォリスさんの身の上話は、イルナの身の上話にかき消されていく。
そのため、イルナの話しは独り歩きをして、可哀想な魔王の娘イルナの話しとして、魔人の国中に広まることになる。

その後魔人達の心は、いつしか聖女イルナを人間の世界から、助けてやりたいと、思うようにまでなるのだ。



「では、僕たちはオウブさん達が心配ですので、リョウメイ領へ行きます」

「待って欲しい、私も行く」

「えっ」

「私は、魔王都の社交界で何度もリョウメイとは会っておる。私が行った方が話しは、はやいだろう」

「では、街の門の前に移動する、準備はいいな」

コデルさんが移動魔法を使った。

目の前に門の壊れた、城塞都市が現れた。
その、門の前に人垣が出来ている。

「ふむ、わかった。魔王様に一度あわせてくれ」

門の前で、まわりの兵士より一際美しい甲冑を着けている人が、魔王に会わせてくれと言っている。
まさか丁度良いところに、着いてしまったのだろうか。
でも、ここで、軽々しく「僕が魔王です」というのも軽すぎて嫌なので黙っておいた。

「おお、猛将オウブ殿ではないか」

「おお、ルチョウ殿」

「もう戦いは終ってしまったのか。さすがオウブ殿ですな」

「いやあ、シュブさんのおかげです」

「んっ、シュブ?」

つい声が出てしまった。
オウブさんが、自分の横のシュザクをシュブと呼んだのだ。

「おお、アスラ様、俺のシュザクに、シュブと勝手に名前を付けてしまいました。はははは」

「ふふふ、俺のシュザクはシュカイと名付けた」

オウブさんとチョカイさんは、シュザクに名前を付けてくれたようだ。
良く見ると、シュブさんとシュカイさんの腰に剣が刺さっている。
武人は、戦の時には戦場に、命の次に大事な愛剣を持ってくる。
それを、シュザクに与えたのだ。

それは、シュザクを自分の命の次に、大切な物として扱ってくれるということなのだ。
二人の心意気を感じて僕は感動してしまった。

「オウブさん、チョカイさん、シュザクに名前を付けてくださいまして、ありがとうございます」

僕は、二人が椅子に座っているので、両手を一杯に広げて抱きついてしまった。
その時、鼻水が少し出たので、すすった。

「うおおおーー、アスラ殿――」

オウブさんとチョカイさんが抱きついて来た。

「リョウメイ、これが魔王様だ。配下のシュカイに名前を付けたことに感動して泣いて下さるような、そんなお方なのだ」

え、僕は泣いてはいませんよ。
鼻水が垂れたからすすっただけです。

「うおおおおおーーー、魔王様ーー、このリョウメイ感動いたしました。今日より忠誠を誓い、誠心誠意お仕えいたします」

なんだかわかりませんが、リョウメイさんが忠誠を誓ってくれました。ありがたいことです。

「リョウメイ、忠誠を誓うならこれも聞いておけ、どうぞ魔王様!」

ルチョウさんが、僕の生い立ちの話しと、イルナの話しをせがんできた。
仕方がないので、僕が受けてきた濡れ衣の話しや、それを誰も聞いてくれなかった話し、イルナとの幸せに感じていた暮らし、そして突然のイルナとの別れを話した。
そして、フォリスさんが家族を奪われ、領主に理不尽なめにあった話しをした。

「うおおおおおおおーーー」

凄い泣き声になった。
周りにいた五千を超える兵士、暇で城壁の上から様子を見ていた市民の方々が全員泣いている。

コデルさんやルチョウさんまで泣いている、あなた達は初めてじゃ無いでしょ!

「可哀想―、イルナちゃん、イルナちゃーーん!!」

イルナはここにはいませんよ。
なんだか、イルナが凄い人気になっている。

「と、こんな感じです」

回りの人達が、泣きながら臣下の礼を取ってくれました。

「次はアルアド領ですな。このリョウメイ先陣つかまつります」

「はい、では、オウブさん、チョカイさん、リョウメイさん、アルアド領の攻略をお願いいたします」

「はっ」

「あ、そうだ、リョウメイさん、ルチョウさんにも、シュザク一人、スザク十人をそれぞれに預けます。いろいろ役に立ってくれると思います。よろしくお願いします」

「はっ」

「ルチョウさんには、仕事をお願いします」

「何でしょうか」

僕は地図を出した。
そして、辺境五領と、魔王都の中央を指さした。
ここに僕の城を作って下さい。

「え、ここは、魔王直轄地です」

「ならば、問題ないでしょう。僕は魔王です」

「ふふふ、そうですな」

「はい、そうです。城の形は大きな、かっこいい船のような形にして下さい。完成したら、その船の甲板で、親子三人星空を見るのです。きっと、船酔いはしません」

「うわあーーん」

フォリスさんが声を出して泣き出してしまった。
それを見て、まわりの魔人達まで、もらい泣きしている。
このあたりの魔人達は、いい人ばかりなのかもしれない。

「う、ぐっ、わ、わかりました、このルチョウ、最高の魔王家族の居城を作りたいと思います」

涙を拭うこと無く、ルチョウさんが引き受けてくれた。

「アルアド領を、素早く落とし、我らもすぐに参加いたします」

オウブさんが言うと、チョカイさんもリョウメイさんもうなずいている。

「では、お願いします。僕は一度、魔王都を下見に行きたいと思います」

「えっ」

皆が、驚いていたが、僕は魔王都へ行くことを決心していた。
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