魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
42 / 208

第四十二話 安い商館

しおりを挟む
翌日、フォリスさんがとてもご機嫌です。

「うふふ、やっぱり良い買い物でしたね」

魔王都の中で巨大な六階建ての商館を入手したのだ。
商館は相場の半値以下の金額だった。
買う時にまわりの店員の様子がおかしかったのが気になる。

まさか、あれが出るのだろうか。
といっても、うちにはランロンという仲間がいる。ほとんどあれだ。
だから、あれなら気にならないだろう。

「浄化」

フォリスさんの手から、金色の魔法陣が出る。
商館の一階はワンフロアーで、天井も高い。床から順に天井まで、ピカピカの新品のように綺麗になった。
綺麗になった部屋に、机と椅子を出して、全員でお茶にした。

「フォリスさん、なぜ、こんな大きな商館を買ったのですか」

この商館は、フォリスさんの提案で買ったのだ。

「もちろん、商品を売って、お金を稼ぐ為です」

「えっ、僕のお金ならまだ、全然減っていません」

「うふふ、この国からお金を奪い取る為です」

フォリスさんには何か考えがあるようです。
ここは、一つ大賢者様の知恵をお借りするとしましょう。

「何をするつもりですか?」

「はい、説明します。もうじきこの国は、戦争を始めます。攻める先は、もちろん魔王様の居城です。ですから、戦争に必要なものをあらかじめ買い占めておいて、考えられないくらいの高い金額で売ろうと考えています」

「武器とか治療薬とかですか」

「その通りです。平和で安い今のうちに入手しましょう。今から武器屋と薬屋を、回りたいと思います」

フォリスさんが言い終わるのと同じ位のタイミングで、がらの悪い男達が、六人入ってきた。

「じゃまするぞ! なんだまだ商品が入ってねーじゃねえか」

「あなた達はなんですか!」

フォリスさんの機嫌が急に悪くなった。

「俺たちは、闇の双龍という組織のもんだ。この裏で商売している。まあ、ど田舎の金持ちが安さに目がくらんで、ここを買って後悔するのさ、運が悪かったと思ってあきらめな」

男は腕の、二匹の龍の入れ墨を見せてきた。
ここが安かった理由がわかった。
でも、たぶん運が悪かったのは、あんた達だと思うよ、気を付けてね。

「別にそれが、運が悪いと思えませんが……」

フォリスさんが、とぼけているのか本気なのか、男達に答えた。

「おい、メガネをつれてこい」

メガネをかけた痩せた女性が腕をつかまれて入ってきた。

「この女は不正が出来ないように、経理で置いて行く。面倒はお前達で見ろ。そして利益の八割を俺達がいただくという寸法だ。良心的だろう、二割も残すんだからな」

「何で、あなた達にお金を払う必要があるのですか」

すでに、どういうことなのかは、わかっているみたいだ。
フォリスさんと、コデルさんが悪い笑顔をしている。

「おい!!」

かけ声と共に男達が、ガラスを割り始めた。
机もひっくり返されて、椅子がたたき壊された。
部屋中の物を壊し尽くすと、笑いながら近づいてきた。

「わかったか。てめーらみてーな奴は、俺たちの言うことを黙って聞いてれば良いんだ!」

「ひゃーはははー」

男達は全員で笑っている。
こいつらは、いつもこんなことをやっているのだろう。

「あのー、アスラ様、もう良いですか」

きっと腹が立っていると思いますが、フォリスさんは静かに聞いて来た。

「フォリスさん、アスラバキでお願いします」

僕は、アスラバキという言い方は嫌いなのですが、自分で使ってしまった。

「はい」

とても嬉しそうに、男達の手足を全部折っていく。

「ふふふ、皆さんには、謁見の間に行ってもらいましょう」

僕は、手足が折れて動けなくなった男達を、魔王の玉座の上に丁寧に送り届けてやった。

「ま、まさかこのために、玉座の間へ行ったのか」

コデルさんが驚いている。

「まさか、違いますよ。でも悪い人は、玉座に座ってもらって、十回死刑になってもらいます」

「あ、あのー、こんな恐ろしいことをしたら、どうなるか」

メガネさんが震えている。

「大丈夫です。それより、あなたはもう自由です。どこへでも行ってください」

「む、無理です。家族が人質になっています」

メガネさんが悲しそうな顔をして首を振ります。

「では、それも解決しないといけませんね」

「はい」

フォリスさんが嬉しそうに返事をする。

「メガネさん、家族がどこにいるのかわかりますか」

「わかりますが、大勢の見張りがいて、助けられるはずがありません」

「様子だけ見に行って、無理なら諦めるということでは、ダメですか」

「そ、それなら」

では、サッサッと済ませてしまいましょうか。



メガネさんに案内してもらって、家族が監禁されているという郊外の倉庫に着いた。
なるほど、人相の悪い人が出入り口に数人います。

「中にも大勢います」

メガネさんは、助けるのをあきらめてもらおうと、言ってきたと思う。
それを、聞いてもうちの人達はまるで動じない。

「あ、あの、大勢います」

メガネさんは、聞こえていないと思ったのか、もう一度言ってくれた。いい人みたいですね。

「二十人位いるねえ。でもレベルは全員十以下じゃ」

ランロンが中を見てきてくれた。
壁も通り抜けられるようだ。すげー。

「さて、フォリスさんどうしましょうか」

僕は、作戦をフォリスさんに任せた。
しおりを挟む

処理中です...