魔王

覧都

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第百三十七話 乙女の瞬間

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砦へは、先頭にチガーさんとレオナさんが率いる親衛隊、騎兵五十人。
僕たちもここに同行しています。
その後ろに、二千人の傭兵部隊、街に駐留していた三千人の正規兵が続きます。
厄介なのは傭兵の多くが、賊の一味ということでしょうか。

砦に近づくと賊達は、砦の前で僕たちを待ち受けています。
一万人以上のガラの悪い連中が、圧倒的な兵力差なので余裕の笑顔です。
彼らの後ろにはドラゴンも八匹控えています。
ドラゴンたちはまだ砦の中にいて、姿は見えません。

「では、いってきます」

「えっ」

僕がフォリスさんとアドと三人で行こうとしたら、チガーさんとレオナさんが驚いています。

「あー済みません、言い忘れていました。チガーさん、レオナさん達には、ショートさんとジュウベイさん、ツヅルさんの護衛を御願いします」

「三人で行く気なのですか?」

二人の声がそろった。

「当たり前だ! 弱い奴らがチョロチョロしたら邪魔なだけだ。女は黙ってそこで待っていろ!」

フォリスさんが厳しい顔でレオナさんをにらみ付けました。
そしてツカツカと近寄るとレオナさんの頬に手を当てた。
あーー、わかってしまった。女の人が乙女になる瞬間がー。
レオナさんの目がうるうるして、頬が赤くなっています。
こ、今度誰かで試してみよう。

と、おもったら。
チガーさんがレオナさんを良いなーという顔で見ているので、僕も同じようにして見ようと思った。チガーさんの頬に手を当てようと手を伸ばした。
チガーさんは背が高いので、手が届かなくて頬は無理だった。しまらない、はなしです。
仕方が無いので、胸に手を置いた。
チガーさんがみるみる真っ赤になった。
レオナさんより真っ赤になっている。

「さあ行くニャ!!」

アドが呆れたような表情で歩き出した。
僕とフォリスさんは少し遅れてアドの後ろを歩き出した。
賊達は、子供三人が群れを出て近づいてくるのを見て、笑い出しました。

「ひゃーはははー、兵隊さんは子供三人で何をさせる気だーー!!」

アドは、ゆっくり歩きながら九字の印を結び叫んだ。

「分身の術!!」

すると、アドの体が二つになり、四つになり、八つになり……。

「くっ……」

フォリスさんが苦しそうな声を出し座り込んだ。
僕は驚いてフォリスさんを見つめた。
フォリスさんの肩がガタガタ震えだした。
フォリスさんは大丈夫なのだろうか?

「ぎゃーーーーっ」

フォリスさんが叫び声を上げた。

「はっはっはっー、ひーっひっひーっ」

最早倒れ込んで、右へ左へ、ゴロゴロ転がり出した。
うーん、これは苦しんでいるのでは無く、笑っていますね。
フォリスさんが笑いながら指をさしました。
僕は恐る恐る、指の先を見ました。

「ぎゃーーはははははー」

ふ、不謹慎ですが、僕も可笑しくって立てなくなりました。
目の前に、アドの軍団がいます。
二千人は超えているのでは無いでしょうか。

「全員いくニャーー!!」

一万人の賊は、僕とフォリスさんが笑い転げているうちに、一瞬でアスラバキになりました。
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