魔王

覧都

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第百三十六話 砦へ

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「うおおおーーー!!!!」

雄叫びと共にさっきのネズミの様な勢いで、二人が転がり込んできました。

「うおおおー、御主人様ー!!」

チガーさんとレオナさんの声がそろった。二人は鉄格子の前で、崩れ落ちるようにひざまずいた。
僕はチガーさんの前に近寄って鉄格子の間から手を伸ばし、頭を易しく撫でた。
横を見たらフォリスさんも、同じように慈愛に満ちた表情で、レオナさんの頭を撫でている。

「誰がこのような失礼な仕打ちを……。主犯者の首を不敬罪で討ち取り、直ちに持って参ります」

チガーさんの目が血走り怒りに燃えています。

「いいえ、その必要はありません。皆さん職務に忠実な、よい兵士ですよ。それより朝食をご一緒しましょう。私が言うのも変ですが、ここのご飯はとても美味しいです。その後は、砦で賊退治をいたしましょう」

「はっ、直ちに準備させます。何か食べたい物はありますか」

「サバのみそにーー!!!」

フォリスさんとアドが声を上げました。
よっぽど気にいったのでしょう。朝から贅沢です。
レオナさんが獄舎を出て行くと、チガーさんが牢の中に入ってきました。
ちゃっかり横に、ツヅルさんが座ってチガーさんに話しかけました。

「あのう、チガー様とアズサ様はどの様な関係なのですか?」

「はっ!」

チガーさんが驚きの表情になった。

「申し訳ありません。勝手にご主人様などと……」

チガーさんが本当に申し訳なさそうに謝ってきた。

「気にしないで下さい。それより、私みたいな子供ではチガーさんと釣り合いません。他の方にした方がいいと思います」

「わがあるじは、アズサ様以外考えられません。どうか、ご主人様と呼ばせて下さい」

僕はアドを見た。

「ふふふ、アドのご主人様はアスラにゃ。獣人は自ら認めた者を、あるじと呼びたいものニャ」

「わかりました。チガーさんが望むなら……」

僕が言い終わらないうちに、外からものすごい勢いで戻ったレオナさんが、この機会を逃してはならないと、フォリスさんに話しかけた。

「フォルス様!! 私にもフォルス様をご主人様と呼ばせて下さい!!」

「しょうが無いですねー」

そう言うと、フォリスさんは笑顔でレオナさんの頭を優しく撫でた。
美少年と美女の美しい主従が完成してとても絵になります。

「アズサ様とフォルス様が、チガー様とレオナ様のご主人様になってしまいました」

ジュウベイさんとツヅルさんが、驚いています。

「あの、お二人は魔人の国のどの様なお方なのですか」

ツヅルさんが、薄ら僕たちの素性に気が付きかけていますね。
でも、魔王ですとも言えません。

「ふふふ、ツヅルさんの思っているままの方じゃろうて」

ショートさんが、これ以上追求しないように気を使ってくれました。
僕はショートさんにペコリと頭を下げた。

「アズサ様、よろしいですか」

チガーさんが姿勢を正して話しかけてきた。

「はい、何ですか」

「王都から兵士二万人が進軍しています。あと二日ほどでここに到着します。それを待ってから砦に向ってはいかがでしょうか」

「王様も本気なようですね。ならば余計に今日済ませましょう」

「えっ」

「その方が、犠牲が少なくて済みますし、何より私達が自由に出来ますから」

僕たちは、朝食を済ますと、いよいよ賊とドラゴンの待つ砦に向いました。
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