魔王

覧都

文字の大きさ
上 下
135 / 208

第百三十五話 帰還

しおりを挟む
「きゃーーっ!!」

なんか久しぶりの朝の始まりです。
フォリスさんの悲鳴です。
六日ぶりにアドが帰還しました。
今日のお土産は犬くらいの大きさの、手足を折って動けなくしたネズミです。
フォリスさんの体の上に置いて、鼻の穴をヒクヒクさせて尻尾が嬉しそうに揺れています。

「ふふふ」

アドは褒められたいと思っていますね。これは。

「治癒!」

フォリスさんに、治癒をかけてもらったネズミが、狂ったような勢いで走り出しました。
牢の鉄格子に恐ろしい勢いで一回ぶつかり、外へ逃げて行きました。
だ、大丈夫でしょうか。

「アドちゃーん、二度とやらないでーー!!」

アドがすごく嬉しそうです。
それ、少しも褒められていませんから。
アドは僕の方に走ってきました。
そして、抱きつこうとします。

「ちっ、アズサにゃ」

すごく嫌な顔をして急停止しました。
どうやらアドには、アズサがアスラと同一人物には見えていないようです。

「さて。アドちゃんもそろったし、朝ご飯を食べたら砦に行きましょうか」

「えーーーっ」

ジュウベイさんとツヅルさんが驚いています。

「そ、そんな、お散歩に出かけるような軽い感じで……」

ジュウベイさんが少し、涙ぐんでいる様に見えます。
普通に考えれば、恐怖ですよね。

「そうですね。危険なので三人はここにいた方が良いかもしれません」

「はわわわーー、ち、違います。行かないとは言っていません。ちょっと恐かっただけです」

ジュウベイさんが慌てています。
逆に僕の方が驚きました。

「よいのですか。まあ、近くの方が守りやすいです。ジュウベイさんの安全は私が保証します」

「はい、ありがとうございます。アズサ様にそう言ってもらうと、何が来ても守ってもらえそうな安心感があります」

「うふふ、ジュウベイさんは、もはや魔王様の宝物です。誰の命より優先してお守りしますよ」

「あの、アズサ様。私はアズサ様にお仕えしたいのですが、お許し頂けませんか? さすがに直接魔王様は恐れ多いです」

「うふふ、よろしいですが、苦労すると思いますよ」

フォリスさんとアドの肩が震えています。

「わーわーーっ!!」

外が騒がしくなりました。

「隊長はいるかーー!!」

「あれは、親衛隊長のチガー様です」

牢の小窓から入ってきた声を聞いてツヅルさんが言いました。
ツヅルさんの目がキラキラ輝いています。

「くそーー、ここまで馬を飛ばしてきたはずなのに、わが、あるじ様に出会うことが出来なかった。いったいどこに行ったんだ」

「あ、あれは、親衛隊副隊長のレオナ様です。私の憧れのお方です」

ツヅルさんの目がウルウルしています。

「き、聞いて下さい。あの二人はこの国で五本の指に入る強さなのです。はーっ素敵です」

ツヅルさんが子供の様にはしゃいでいます。

「おお、隊長! 人を探している。滅茶苦茶可愛い男の子と女の子だ。知らんか?」

「……」

ここの守備隊長はすぐに僕たちの事と気が付いた様だ。
しおりを挟む

処理中です...