魔王

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第百四十話 報告

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騒ぎが一段落すると、随分急いで来たのか二万の兵士の内、騎馬隊がやってきた。
すでに砦が壊され、賊が倒されているのを見て驚いている。
僕たちはこの地の兵士と、やってきた騎馬隊の部隊長に全てを任せて、獣人の王都へ報告の為に移動した。

「ご苦労であった」

僕たちは、お風呂に入り正装し、獣王様の前に案内された。
小さな玉座の間で、数人の重臣と、護衛にチガーさんとレオナさんが控えている。
僕たちが入ると、ねぎらいの言葉と共に、平伏はいらないと手で合図をした。

「ありがとうございます」

僕が深々と頭を下げると、王様は少し申し訳なさそうな表情になった。

「頭など下げて下さるな。下げたいのはわしの方じゃ」

そして、満面の笑顔になると続けた。

「その方達に褒美を授けたいと思うが、何か欲しいものはあるかな?」

配下ならここで一度断るのでしょうが、僕は欲しすぎて我慢が出来ないので、そのまま欲しいものを伝えようと思います。

「ここにいるジュウベイさんをわが国の料理長に迎える事をお許し下さい。あとはツヅルさんをジュウベイさんの補佐としてわが魔王国にお迎えするのを許して頂きたいのですが」

「はっ!! それだけでよいのか?」

「十分でございます」

欲張ってはいけません、王様は気難しいもの、ちょっと機嫌を損ねれば全てがパーです。
この二人は稲作と、うな重をわが国にもたらしてくれます。
それ以上何を望むというのでしょうか。

「入りなさい!!」

王様の招きで真っ白な髪の、アドくらいの歳の可愛い少女が入ってきた。
そして、僕の横に立ち、王様にペコリとお辞儀をして、僕にもお辞儀した。

「あの、こちらは?」

「そのものはピギーと申す。わしの孫じゃ」

「はあ、そうですか」

「魔王様に預ける、まあ、簡単に言えばわが国からの人質じゃ」

「えーーっ」

「かわいがってもらえると良いのじゃが」

その言葉を聞くと、ピギーちゃんが赤くなった。
うーん、僕より大人です。
必要無いと言いたいのですが、即断るのも失礼な気がします。
どこか言いやすい感じのところで切り出しましょう。

「使者殿、魔王様の事を少し訪ねても良いかのう」

「はい、私達で答えられることなら」

「うむ、今回の魔王様はどの様なお方なのじゃろうかのう」

王様が不安そうな顔をした。

「と、いわれますと」

「うむ、わしが知る限りでは、四代目の魔王様は朝目覚めると、美女を一人洗面台に寝かせ、腹を割りその中で手をあらって、この温度が丁度良いと笑って言っておったという。五代目は八つ裂き王で、いわれ無き罪で国民の半分を八つ裂き刑にしたと聞いておる。今回の魔王様がどの様なお方なのか? 実のところ恐れておる」

「僕は、親を失い飢えて街でスリや盗みを働いてでも、必死に生きている子供達に、うな重を食べさして、その時の笑顔を見たいと思います。そしてそんな笑顔をしたまま暮らしていける国を目指します。今は、はやく国へ帰って重臣達に四種の丼と寿司、うな重を食べさせたいと願う魔王ですよ」

「……アズサ殿、やはりあなたが魔王様なので……」

王様が驚いている。
やばいので、王様の言葉をさえぎるように言った。

「と、魔王様が言っているのを聞きました」

どうだろうか、誤魔化せたかな。

「はーーはっはっはっ、そうですか。魔王様はその様なお方じゃったか」

王様が言うと、全員が変な感じで笑っている。
フォリスさんも笑っている。
大丈夫そうです。うまく誤魔化せました。
ひょっとして僕は誤魔化しの天才かもしれません。

「だから、人質など不要だと思います」

よし!
自然な流れで人質は断ることが出来ました。

「娘は五代目の魔王の嫁になり八つ裂きにされた。ピギーよ、今度の魔王様は優しいようだ。嫁になっても八つ裂きにはされんじゃろう。かわいがってもらうのじゃぞ」

うん?
何だか話しがややこしくなっていませんか。
まいりました。
フォリスさんが心配そうな顔で僕を見ています。
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