魔王

覧都

文字の大きさ
145 / 208

第百四十五話 朝日の中に

しおりを挟む
「おーい、あんた、そんなところに女一人じゃあ、飢えた兵士に酷い目に遭わされるぜ」

私は、この数日眠りが浅い。
もうじき魔王軍が攻めて来るので、精神が緊張しているのでしょうか。
今朝も眠れないので、領都の防壁で朝日を見ようとのぼってきました。
まだ太陽は出ていませんが、地平線が薄ら赤く光り、高さ十五メートルの防壁から見る景色はとても美しい。

「あっ、領主様」

「あ領主様じゃねえぜ、女聖騎士さんに来てもらっているんだ。ちゃんと護衛をしてもらいな」

「はい、ありがとうございます」

超悪人顔の領主様だけど、顔に似合わず優しい。
私の事を本気で心配しているようです。

「はーーっ、あんた滅茶苦茶綺麗だな。うちの領内にあんたみたいなべっぴんさんがいたとは、驚いたぜ」

まさか、領主さんは私に気が付いていないのでしょうか。
すごい勢いで見てくる。
今の私は、テラさんが用意してくれた服を着ている。
このあたりの人がよく着ている、広い袖で長いスカートの衣装です。

「あっ!!」

一瞬すごい風が吹きました。
下から吹いてきた風に、髪がサーッと持ち上げられ大きく揺れます。
そしてスカートを上に持ち上げました。
嫌な風です、一生懸命スカートを押さえていますがなかなかやみません。

「う、うつくしい……」

この人本気で言っているのでしょうか。
ふと気づくと、地平線から、太陽が頭を出しています。
空と大地がキラキラと赤く光り、とても美しい。
きっとこの景色の事を言っているのですね。

「本当に美しいですね」

まだやまない風に、スカートを必死で押さえながら、地平線を見てつぶやきました。

「はーはっはっはっ、俺は景色じゃ無くて、あんたに言ったんだがな」

「なーーーっ」

私は初めて男の人にこんなことを言われた。
顔がほてって、真っ赤になります。

「うおっ、あんた、かわいいなー。名前を教えてくれないか」

私が赤くなるのを見て、可愛いなんていっている。
これも初めて言われた。
私はいつも目をつり上げて人をにらみ付けている。
付いたあだ名が氷のライファだ。

「あの、領主様、本気で言っているのですか。私はライファです」

「なっ、なにーー!! うおっ本当だ」

凄い勢いで驚いて、数歩後ろによろけた。
でも、視線だけは動かさず私をじっと見つめている。

「くすくす」

あんまりにも驚いているので、思わず可笑しくなってしまった。

「ふふふ、ライファちゃんは、甲冑をつけている時は髪をまとめている為かすごい吊り目だから、わからなかったぜ。普段着姿のライファちゃんはそこまで吊り目じゃないのかー。まあ、吊り目の方が俺は好みだがな」

「……」

私は聞こえないふりをして、少しずつ大きくなる太陽の方に視線を移した。
平地とはいえ起伏や林があり、そこから濃い影が長く伸び、薄暗い空にはオレンジ色が差し込み、とても幻想的です。

「聖騎士っていうのは神職だから、好きな男は作らないのか」

「うふふ、聖女様が誰かと結婚したいと言っていました。聖女様が結婚するのなら、私もいいのかなーなんて。――私にはあこがれの人がいるのですよ」

「だっ、誰なんだ。そんな幸せ者は」

なんだかすごい勢いで聞いて来ます。
ビックリしました。

「まだ、話したことも無いですが、聖女イルナ様のお父様が私の思い人です」

「子持ちのおっさんかよ。しかも話したことも無いって、乙女かよ」

領主様が、呆れたような顔をしています。

「あれは何ですか!!」

私は朝日の中心を指さした。
朝日の中に砂埃が上がっています。

「ふむ、東からの兵団だな。王都のからの援軍か? 嫌な予感しかしねえ」

こんな時間に行軍しているということは、休み無く一晩中歩いていたのでしょうか。全く兵士のことを考えていませんね。
領主様の顔が急に曇った。
恐い顔が悲鳴を上げたいほどの恐い顔になった。
今の私は、この顔が意外と恐く感じ無いようになっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...