魔王

第百八十二話 圧勝

「うわあああぁぁぁぁぁーーーー！！！！」

悲鳴が少しずつ小さくなります。
オウブさん、チョカイさん、ギールさんが剣を振ると、敵兵はバタバタ倒れていきます。
敵の数は十倍程度です、一人で十人倒せば戦いは終ります。

「あ、あのーー」

「はい、何ですか？　ヘンリーさん」

「魔王軍はいったい何人で戦っているのですか？」

「五千人弱です」

「えええーーっ！！」

Ｓ級冒険者さん達が全員で驚いています。

「十倍以上の兵士を圧倒しているのですか？」

悪人顔の冒険者が質問します。

「そうなりますね」

「すげーっ！　すごすぎる。魔王軍強すぎる！」

全員が驚いています。
まあ、今回は優勢ですが、前回はこてんぱんにやられています。でも、それは内緒にしておきましょう。



「まおーーさまーー！！」

ギールさんが、手に何かをブラブラさせて笑顔で帰って来ました。
この人の笑顔が見られて、僕もほっとしています。
僕達のいる舞台に上がってくると、それを足下にドンと置き平伏しました。

「きゃーーーーっ！！」

フォルスさんが、女の子の悲鳴を上げています。

「あの者達は何ですか？」

ギールさんは、舞台の下にひざまずく冒険者が気になるようです。

「はい、冒険者です」

「まさか、魔王様に失礼を、はたらいたのでは無いですか」

ギールさんは言うがはやいか、ひざまずく冒険者の前に、抜刀して飛び降りました。

「ひっ！！」

一番の悪人顔の冒険者の前に立つと、剣を振り下ろそうとしました。

「待って下さい！　その人達は、魔王国の大切な冒険者ギルドの管理者になる人達です。剣をしまって下さい」

「はっ！」

そう言いながら、剣をゆっくり鞘に収めつつ、冒険者の顔を一人ずつ、にらみ付けていきます。
どうやら、彼らがしたことに気が付いているようです。
冒険者達は、激戦から帰って来たばかりで、興奮冷めやらぬギールさんの剣幕に押され、おびえているように見えます。

「ふふふ、ギールさんにかかるとＳ級冒険者も形無しですね。その人達はギールさんに、しばらく預けたいと思います。冒険者ギルドの本部はエドバン商会の裏が開いていますので、そこにしようと思います。お願い出来ますか？」

「お願いなどと恐れ多い、やれと御命じ下さい。しかし、お優しいですな、このような者達にまで配慮なされるとは」

「えっ」

「ふふふ、どうせ右も左もわからぬ者達に、元王国の人間の私に案内させようと、ご配慮なされたのではありませんか？」

「ふふふ、魔王様はお優しいのですよ」

フォルスさんが嬉しそうに会話に入ってきた。

「なっ！！」

Ｓ級冒険者達が、驚いている。
そして、自分たちの行いを恥じているように感じます。
中には涙ぐんでいる人もいますね。

「それは、そうとさっさと、これをかたづけて下さい！！」

フォルスさんは少しお怒りです。
敵総大将が頭だけになって、フォルスさんを見つめています。

「ふふふ」

僕とギールさんは、フォルスさんの嫌そうな顔を見て笑い出してしまった。

「魔王様！！！」

「オウブ戻りました！」
「チョカイ戻りました！！」

二人の大将軍も戻って来ました。

「敵は、壊滅！！　我軍の損害は無しと、相成りましたー！！」

二人の声がそろいます。

「えええーーっ！！　十倍の敵に、損害無しだってーー」

Ｓ級冒険者達が驚いています。
でも、驚くような事ではありません。当然の結果です。

こうして、魔王軍は大河の西岸まで軍を進めた。