魔王

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第百八十一話 言い知れない恐怖

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「ちっ、独り占めさせるかよー!!」

次々冒険者が襲いかかりました。

コツ
コツ
コツ

剣で木を叩いたような音がします。

ドサッ、ドサッ、ドサッ

「ぐわあああーーー」
「ぎゃあああああああーーー」

襲いかかった十三人の冒険者が一瞬で片腕を切り落とされました。
残った手で切られた手の傷口を押さえていますが、血が糸を引いて流れ落ちます。
僕はそれを見て、いつものエリクサーを一本用意しました。
でも、それをフォルスさんは手で制止します。

「これは俺が、治癒効果向上の付与を加えた薬です。傷口の消毒と止血が出来ます。使って下さい」

フォルスさんが出したのは、金色の霧に包まれた美しい容器です。
それを動かなかった冒険者のリーダーと、魔王に襲いかからなかった冒険者達に数個渡しました。

「……」

リーダーはあまりの光景に返事も出来ず、目を見開いて驚いています。

「さあ、残った仲間と手分けして傷口に塗って下さい。速くしないと死んでしまいますよ」

フォルスさんは完全には治さず、片腕を失うことを、魔王を襲った罰とするようです。

「ふふふ、あなたの返事が良かったようですね」

僕が言うと、リーダーは最初何の事かわからなかったようだが、意味がわかると慌てて薬を仲間に塗り始めた。
薬を塗り終わった者達は皆、傷口はふさがった様子ですが、いたみがまだあるのと、腕を失ったショックで、その場から動けないでいた。



「魔王軍ギール! 敵将討ち取ったりーーーーー!!!!!!」

ギールさんの絶叫が聞こえました。
向こうも終ったようですね。
将が撃たれ敵軍は混乱におちいったようです。
ギールさんもオウブさんもチョカイさんもバッサ、バッサ、敵兵を軽々切り伏せます。
恐ろしい切れ味の剣を使っているようです。

なーーーっ
あの剣、ドワーフの王様からもらった、国宝にしようと思っていた剣だ。
返さずにちゃっかり自分の物にしています。

――仕方ないですねー、今回の手柄の褒美としましょうか。

「す、すげーーー」

天帝の騎士団が見る見る減っていく様子を見て、冒険者達がまばたきを忘れて見つめています。
櫓の上からはいつのまにか人影が消えています。
よく考えると、今回の戦いで領兵は一兵も減っていません。
僕は体がブルッと震えるのを感じた。
リョウキという男に、僕は言い知れない恐怖を感じました。

「さて、あなた達に質問があります」

僕はうつむき顔に影を落とすと、声のトーンを落として言いました。
もちろん相手を怖がらせる為です。

「か、かわいいーー」

くっ、失敗しました。

「皆さんは魔王様を殺そうとしました。通常は死罪です。ですが生きるチャンスを上げます」

「な、何でしょうか。まさか天帝の勇者を暗殺せよと……」

「ふふふっ、あなた達では無理ですよ。そんなことではありません。魔王国にも冒険者ギルドを作りたいと考えています。そこで初代ギルドマスターをやってもらいたいのです」

「なっ!」

これには、フォルスさんまで驚いています。

「どうですか? 返事は敵を壊滅させた魔王軍が返ってくるまでです。よく考えて下さい」

「やる。それで命が助かるなら是非やらせてくれ、どうせ腕が無くちゃあ、冒険者は続けられねえ」

最初に襲いかかった悪党顔の男が言います。
いまいち信用できませんが、全員その言葉に合わせてうなずいています。

「即答ですか。よく考えて下さい。人間の世界を裏切ることになりますよ」

「もともと俺たちは、金をもらったら魔王国で暮らすつもりだったのさ。もう王国は……」

悪党顔の冒険者が全部言わずに言葉を飲み込んだ。
どうやら天帝の勇者の独裁は、ひどく人々を苦しめているようですね。
いよいよ、対決を早めないといけないようです。

「あなたは、この冒険者のリーダーですね。全員をしっかりまとめて下さい。ギルドマスター長に任命します」

「はっ、このヘンリー、魔王様に忠誠を誓い誠心誠意お仕え致します」

ヘンリーさんは僕に向って、宣誓しました。

「あっ、魔王様はあっちです」

僕はクザンを指さしましたが、バレバレでしょうか。

「ふふふ」「へへへへっ」

何だか冒険者の中から失笑がこぼれます。
さすがS級冒険者ですね。さとい!

「皆さんの身柄は、ギールさんに預けます。しっかり働いて下さい」

「はっははーーっ」

全員がその場で僕に向って平伏した。
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