魔王

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第百八十話 魔王を襲う伏兵

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「オウブさまーー……」

「チョカイさまーー……」

二人の直属のシュザク、確か、シュブさんとシュカイさんですね。

「どうしました?」

二人の将軍が燃えさかる炎の中で、声をそろえてやさしく質問します。

「ふ、服が下着まで燃えてしまいましたーー! わあああああーーーー!!」

二人のシュザクが泣いているように聞こえます。

「はーはっはっはっ! なんだそんなことですか、この戦いが終ったら新しい、もっといいのを買ってあげますよ」

「そうじゃ、買ってやるとも。悲しまなくてよい。それより先頭より遅れてしまった。先を急ごう」

「はい!!」

どうやら悲鳴は二人のシュザクさんだったようです。
大事無くて良かった。
先頭を行くギールさんが、心配をして足を止めていましたが、ふたたび走り出しました。
激しい炎の中から、ギールさんの部隊のスザク達が続々と出てきます。

スザク達の真っ赤だった鎧が、すすで真っ黒になっています。
黒い姿のスザク達は、魔王軍らしくて、とても暗くおどろおどろしい。
遅れてオウブ隊、チョカイ隊も真っ黒に汚れて、真っ黒な煙の中から少しずつ姿を現わします。

「な、なんなんだ、なんなんだお前達はーー!!!」

敵総大将が、少し慌てています。

「我が名は、魔王様直属スザク隊を率いる。ギールだー!! 汚名返上の為、貴様を討ち取る!! 覚悟しろーーー!!!!!」

「ぬうう、王国騎士団の裏切り者がー! 返り討ちにしてやる! かかれーー!!!」

「うおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」

天帝の騎士団はさすがに人数が多い、声が大きいですね。
地面がビリビリ震動します。
いよいよぶつかります。



「くっくっくっくっ」

「!?」

「余裕を持ちすぎだぜ。前ばかり見てねえで、周りも良く見なきゃあなあ」

言われてまわりを見ると、守備に残していたスザクが、五百メートル程前にいます。
戦況を見る為に五メートルほど高くした舞台を本陣にしていましたが、ここに、クザンとフォルスさん、そしてアズサの三人しかいません。

さすが敵軍師、リョウキさんですね。伏兵を置いていたようです。
でも、計略にかかったのは、どうやらあなた達の方ですよ。
だって、見て下さい、このフォルス君の悪い笑顔。
邪悪極まりないです。

「護衛も付けねえで一人になるとは、うかつだぜ!! 魔王!! 覚悟しろ!!!!」

ゾロゾロと緑の麦畑から二十人ほどの、少しくたびれた装備の者達があらわれた。
彼らの目は、クザンに向けられている。
まさか、アズサ姿の少女が魔王その人とは思っていないようだ。
フォルス姿のフォリスさんはここまで考えて、僕にアズサの姿をさせたのでしょうか。

「やれやれ、うかつなのはお前達だ。まんまと誘い出されやあがって。俺の姿が見えねえのか? 俺とその少女アズサちゃんが魔王の護衛だとわからねえのか!!」

「あーーはっはっはっ、馬鹿か小僧!! お前達子供二人でどうするつもりだ。俺たちはS級冒険者だぞ。魔王討伐、金貨二百万枚をいただこうと集まった、冒険者の中でも精鋭ぞろいだ。子供は許してやる! ママの所へ帰るんだな」

冒険者の中のリーダーのような人が言う。
筋肉が発達して、いかにも強そうだ。
無精髭が目立つが、精悍な男前だ。

「母は暴漢に殺されました。父も姉妹も皆殺しにされました」

「なっ、そ、それはすまなかった」

うーーん、憎めない、いい人のようです。

「悪いことは言いません、このまま帰って下さい」

フォルスさんの顔が悲しそうになっている。

「ごちゃごちゃうるせーー!! 待ちに待った大チャンスだ死ねー」

待ちきれなかったのか、悪党顔の冒険者がクザンに襲いかかった。
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