魔王

覧都

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第百九十二話 いったい何者

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翌朝、私はリョウキ様に呼び出され物見台に上った。
物見台からは、帆をたたんだ魔王軍の艦隊が見える。
バルビロ領兵の、各部隊の旗が微かに西風に揺れている。

「おはようございます。まだ、西風が吹いていますね。魔王軍は何故攻めてこないのでしょうか?」

私はリョウキ様にたずねました。
その質問を聞くと、リョウキ様とバルゼオ様が笑い出した。

「ふふふふふ、聞いてくださいライファ様。プッ」

何だか笑いがこらえきれない様子。
いったい何がそんなに面白いのでしょうか。

「があーっはっはっはっ、それが、それが……ぶはっ」

バルゼオ様が笑っています。
だから、なにがそんなに可笑しいのかそれが知りたいのです。
私は、少しイライラしています。

「す、済みません。笑いが収まらなくて。い、今説明します」

「はい、お願いします」

「じつは、魔王軍が……ぶはっ」

「もーー、いったい何があったのですかーー!!」

とうとう、私は、はやく聞きたくて声が大きくなりました。

「兵士が船酔いで、出航出来ないということです」

「えっ」

「ふふふ、早朝、魔王軍の状況が分かりました。魔王軍の兵士は激しい船酔いで行動不能と言うことです。そのため一週間かけて、兵士を船になれさせると言うことです。その間、船を桟橋に固定して揺れを少なくし、兵士を寝泊まりさせると報告がありました。船同士も固定すれば揺れが少なくなり、船になれやすいと密偵が提案したということです」

リョウキ様は、魔王軍に密偵を潜入させているということですが、かなり立場が上の人が密偵のようです。

「そ、それは……」

「さすがですね。ライファさんはもう気が付きましたか。ここから先は極秘です。誰が聞いているか分かりませんので、作戦室へ移動しましょう」

作戦室に移動すると、リョウキ様とバルゼオ様は、さっきまで笑っていた人とは思えない重苦しい雰囲気になり、私を見つめます。

「四日後、魔王軍の兵士が船になれた頃を見計らって、ヌルの差し入れをしようと考えています。そして、どんなに犠牲を払っても、五日後の深夜に火計を仕掛けます」

「それは、強く西風が吹いていてもと、いうことですか?」

「そうですね。天がもたらしてくれた好機です。見逃すことは出来ません。うまくすれば魔王軍を全滅させられます」

「出来れば気まぐれな東風が吹いてくれたら、ありがたいのだがな」

バルゼオ様がそう言うと、私を見つめます。
リョウキ様まで見つめます。

「どうか戦女神様、五日後の深夜東風をお願いします!」

「はーーーっ!!! や、やめてください!! なにをしているのですかーーー!!!」

嫌がる私を無視して、リョウキ様とバルゼオ様、二人だけで無く、この部屋にいる重臣の方々全員が私に手を合わせました。
こうして、バルビロ領兵は作戦開始までの間、交代で休暇を取ることになりました。

私は作戦室をあとにすると、自室に戻った。
私もこの休暇でゆっくり休みたいと思います。

「ライファ様」

ノックと共に私を呼ぶ声がします。

「はい」

「今日から護衛が入れ替わりますので、あいさつに来ました」

「あ、あなたは!」

「今日から、ライファ様の護衛を務めます、隊長のレノですよろしくお願いします」

先日、ヌルを持ってきてくれた女性兵士です。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「あ、あのー、ライファ様。少しお時間大丈夫でしょうか」

「は、はい。大丈夫ですが、何でしょうか」

「はい、私と是非手合わせをお願いします」

そういうと、レノさんは嫌な笑みを浮かべた。
これは私達聖騎士団四番隊を、いつも弱いと馬鹿にしてくる、王国騎士団の男達の笑いと同じ物だ。
久々に嫌な気持ちになった。

「分かりました。お手柔らかにお願いします」

私は、嫌な気持ちを隠し、笑顔で答え外に歩き出しました。
レノさんとは、いったい何者なのでしょう。
そして、どの位の実力なのでしょうか? 
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