魔王

覧都

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第百九十三話 悪女

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私の部屋の外には細い木で出来た粗末な柵があり、柵の内側に広い中庭がある。
私は外に出る前に、壁に置いてある訓練用の木剣を手に取り中庭の中央に立った。

「七人一殺のかまえ!!」

レノさんが声をかけると、六人の兵士が木剣を持ち私の前に走り出た。

――えっ、ちょっとまって、七対一で戦うの、それって卑怯じゃ無いかなー
まあ、七人一殺のかまえと言うことは、だいたい何を仕掛けてくるのか答えを言っている様な物です。
七人は、体の一番大きい兵士が先頭になり、縦に整列しました。
おかげで私からは先頭の兵士しか見えません。
ここから次々と死角から攻撃を繰り出すつもりでしょう。

「準備は出来ましたか? こちらはいつでも大丈夫です」

私は、余裕がある嫌な奴の振りをします。
剣を背中にまわし、なめた態度を取ります。
私の顔は、こういう時に便利です。吊り目で、きつい顔をしているので、顔を伏せて影を落とし、相手をにらみ付けニヤリと笑うだけです。

「くっ、かかれーー!!!」

レノさんのかけ声で先頭の兵士が飛び出しました。
剣を私の頭部めがけ突き出します。
刃先を立て眉間を狙っているようです。
相手は連続攻撃なので、体勢を崩せません。
私は体の大きい兵士の剣の腹を、少しだけ動かした頭で左に払いました。

体の大きな兵士は攻撃が失敗すると、そのまま私の横を走り抜けます。
二番手の邪魔にならないようにする為でしょう。
二番手はかがんでいました。
そして私の足首を地面すれすれで払ってきました。
良く出来た攻撃です。
私はその剣を上から踏みつけます。
さすがに飛んで避けるのは愚策ですから。

「ぐっ」

二番手は剣を動かすことが出来ず、手から剣を離しました。
そして横に体を転がるように移動させ次の攻撃の邪魔にならないようにしました。
三番目の攻撃は二人並んで、左右の胸に剣を突き刺そうと突っ込んできます。
さすがです、剣を寝かせ肋骨の隙間を狙ってきます。
飛んで避けていたら、避けきれないところでした。

しっかり体重の乗った攻撃を私は、剣から手を離し素手になり、両手の拳で剣の腹を下から突き上げます。

「うわあ!」

三番手、四番手は声を上げ万歳をしています。
本当は二人の剣の隙間が大きいので、隙間に体を入れて避けようと思いましたが、やめました。
こんな時に体勢を崩しては相手の思うつぼです。

五番手、六番手も同時攻撃です。
剣の刃を立て、首と腹を狙っています。
体勢を崩していたら、避けきれないところでした。
私はここで一歩踏み込み、剣の腹を体で押しました。

「きゃあ」

五番手、六番手は体勢を崩し私の横を通り過ぎます。
私は体を動かしたおかげで、少し体勢が崩れました。

「もらったーーー!!」

七番手はレノさんでした。
最後の一撃は見事な心臓への一撃です。

「……」

私の動きとレノさんの動きが止ります。

「やりましたーーー!!!」

六人の兵士が、声を上げ喜んでいます

「くそーーー、何なんだーー!! 何なんだよー! おまえはーー」

レノさんが叫びます。
私は右手の人差し指と親指で、レノさんの剣を体に触る直前で止めています。
それを見えない様に左腕を上にのせて隠しています。

「うふふ」

私は、極悪人のように余裕の笑いを浮かべます。

「く、くそーーっ! 全員でかかれーー!!」

レノさんのかけ声で、まわりにいた護衛の兵士まで参加して、私に攻撃を仕掛けます。

「ごぶうっ」

可哀想だけど全員の腹に拳を入れました。
レノさんだけは少しだけきつい一撃です。

「く、くそう。なんて強さだ。こんなに強いなんて……」

「バルレノ!! おろかですね。ライファ様に対する愚行の罪で死罪を申しつけます」

騒ぎを聞きつけ、リョウキ様が駆けつけたようです。

「バッ、バルレノ! まさか領主様の一族の方ですか」

「といっても、遠い親戚だ! 死罪は妥当だな」

バルゼオ様まで来ています。

「お待ち下さい。単なる訓練です。それに、ここは男子禁制です。男性はすぐに立ち去って下さい。レノさん大丈夫ですか?」

よほど自信のあった攻撃だったのでしょう。
悔しさで涙がでています……。
ち、違うかもしれません、胃の中の物を戻した時の涙かも。

「私は体を洗いたいと思います。レノさん手伝って頂けませんか?」

「な、なにーー。体を洗うだとーー」

バルゼオ様とリョウキ様が叫んでいます。何を興奮しているのだか!
何とか、死罪の件はうやむやに出来ました。
まあ、二人とも本気では無いのでしょうけど。



兵士の回復をまって、体を洗う準備をはじめました。
河で洗うと言いましたが、レノさんが大反対で、部屋に大きめの桶が用意され、水が張られました。
ここは、河が近いので水が豊富に用意出来るのはありがたいです。

「ここからは一人で大丈夫です」

「……」

私が人払いをすると素直に全員出て行ってくれました。
私が服を脱ぎはじめると、裸のレノさんが入ってきました。

「えっ!」

「ライファ様、申し訳ありません」

私が驚いているとレノさんがそれを無視して謝ります。

「どうしたのですか」

「は、はい。私はライファ様を誤解していました。実力も無いくせに、美し過ぎるその美貌で、バルゼオ様やリョウキ様を取り込み好き勝手やっている悪女だと思っていました」

「私はそんなに美人ではありません。それに弱いというのは言われなれています。謝る必要はありませんよ」

「どうか、バルビロ領にいる間だけでもおそばに置いてください。お願いします」

「はい、こちらこそお願いします」

私はこの領内で、悪女と思っている人がいるということを、忘れてはいけないようです。
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