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第五話 表情を無くした少女

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「ゲン、頼みがあるのだけど」

「テメー、デブ!!! ゲンさんを呼び捨てにするんじゃねえー!!」

 ダーと呼ばれた男が叫んだ。

「うるせー!!!」

 ゲンが、言った瞬間にダーを思い切り殴った。
 ガタガタ机にぶつかり床に倒れた。

「木田ちゃんは、呼び捨てで良いんだ。分かるだろう。テメーらとは違うんだよー!!」

 ダーさんは、口の血をふきながら、ヨロヨロ元の位置まで戻った。

「わりーな、木田ちゃん何の話しだ。続けてくれ」

「あ、うん。俺にここをくれないか」

「馬鹿じゃねえのか。なんでテメーに、ここがやれると思うんだ。ふざけるなー!!!」

 今度はポンさんが叫んだ。

「うるせーーー!!!!」

「ぐはあっ」

 ゲンは、ポンさんを思い切り殴った。
 ポンさんがよろけて机にぶつかって止った。

「木田ちゃんがほしいと言えば、やりゃあいいんだよ。文句あんのか! あーー!!」

「まて、まて、まってくれよ、ゲン。ここに何があるのか、教えてくれないか」

 ポンさんはゲンの顔を見た。
 ゲンは顔を左に少し動かした。
 説明しろと言っているようだ。

「ここの社長は、ギャンブルと薬で借金をしていた。その額一億だ。利息を含めると二億以上だ。今日土地と建物と会社を、借金のかたに取り上げたところだ。その権利書を渡して、俺たちは四千万の金をもらうと言うわけだ。だからここは元々俺たちの物じゃねえんだ」

「物じゃねえんだ。じゃねえ。踏み倒せそんなもん。権利書はこっちにあるんだろうがよー」

 もうゲンは滅茶苦茶だ。

「聞いてくれポンさん」

「なにーーーっ!!」

 何がゲンの逆鱗に触れたのか、ゲンが大声を出し怒っている。
 無表情なゲンが、少しだけ眉が上がっている。こえー。

「どどど、どうしました」

 いか――ん、動揺してしまった。

「ポンさんじゃねーんだ。俺を呼び捨てにして、ポンにさんはいらねーんだよー!!!!」

 そんなことかー。まあでも、確かにそうだな。
 じゃあ、しゃーないやり直そう。

「ポン、聞いてくれ」

「は、はあ」

「俺は、普通じゃねえんだ」

 俺は、自分の特殊能力を少し話す事にした。

「……」

 三人が無言で俺を見た。
 どんな特殊能力を言うのかと、関心は持ってくれたようだ。

「俺は、産業廃棄物を処理できる」

「ぎゃあーはっはっはっー」

 ダーとポンが笑い出した。
 ゲンは真顔のまま、無表情で言った。

「真剣な顔して何を言うのかと思ったらそんな事かよー。木田ちゃん、そんな事より、あんたが倒した、ここにいた六人はうちの最高幹部だ。あんたが心肺停止にした男は、腕っ節だけなら俺の次の強さだ。それだけの事が出来るのだから、普通じゃねえ事ぐれえは、十分わかっている」

 最初からここにいた六人は、最高幹部だったらしい。
 それをやっつけるという事は、ここの産業廃棄物を全部処理できる事より上と思っている様だ。
 俺からして見たら、あんな六人を倒す事の方が十倍はたやすいのだが。

「だから、俺はここでなら、大きな利益を生み出す事が出来る。どうだろうここを俺に任せてはもらえないだろうか。その代わり売り上げから、毎月ローンでお金を返していくから」

「話はわかった、俺から債権者には話してみよう」

 ポンが理解を示してくれた。

「だめだーー!!!」

 ゲンが声をあげた。

「!?」

 俺たちは驚いてゲンの方を見た。

「それじゃあ、俺の気が済まねえ。ここは木田ちゃんにやる。いいな」

 これで、ポンもダーも何も言えなくなった。
 だが、ポンとダーは、ハッとした顔をしてニヤリと笑った。
 恐い顔をした奴が、悪い笑顔をすると、嫌な予感しかしない。

 まあ、何にしてもあずさちゃんの、住み慣れた家を確保出来たのはありがたかった。





「いらっしゃいませ」

 俺はゲンに連れられて、あずさちゃんと高級中華料理店に連れてこられた。
 だが、俺はこんな店に入った事が無い。
 気後れして、ズカズカ入っていくゲン達から少しずつ遅れていた為、店に入った時には、三メートル程離れてしまった。

「あの、お客様」

 あー、これは入店拒否な奴だ。
 俺は、底辺豚おじさん、あずさちゃんとそろうと超みすぼらしい。
 この店にはふさわしくない客なのだろう。
 もっともだ、俺はこんなすごい店に来るとは思っていなかった。

「あずさちゃん、このお店入れないって、帰ろっか」

 最初から敷居が高いし、気乗りしないので、お店から逃げだそうとした。

「バカヤローー!!!!」

 ゲンがまた大声をだした。
 店の外まで響いていそうな声だ。
 また怒らしてしまったようだ。

「木田さんはゲンさんのお客さんだ!」

 ダーが店員に伝えた。

「す、すみません」

 店員さんがペコペコ頭を下げてくる。
 ゲンは、俺に切れていたわけではなさそうだ。
 店員さん、あなたは悪くありません。
 底辺の俺が来たのが悪いのです。心の中で謝罪した。

 細い廊下を進むと贅沢な内装の個室に案内された。
 VIP席という奴か。
 本物は、はじめて見た。
 映画とかで見た事がある奴だ。

 席は十席あったが、今日は欠席者が多い。
 半分の五席しか埋まらなかった。
 本当は幹部も来る予定だったのだろう。
 ゲンを中心に、両サイドをダーとポンが座りダーの横に俺、俺の横にあずさちゃんが座った。

 座ると早々に料理が運ばれて来る。
 どれも豪華な料理だ。
 一皿いくらぐらいするのだろうかと、浅ましい考えが頭をよぎる。

「うわあーすごーい!!」

 あずさちゃんが、感動している。
 でも、言葉とは裏腹、表情に一切変化がなかった。
 ゲンと同じような表情をしている。
 この少女はいったいどの様な生活をしてきたのだろうか。

 ゲンの表情はどうでもいいが、あずさちゃんの表情は取り戻してやりたいと思った。
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