35 / 428
第三十五話 二つの狂気
しおりを挟む
アンナメーダーマンが激豚メイルを完成し、それぞれに引き渡しをした日の深夜。
満月が首相官邸を明るく照らしている。
光が全くない都市にとって、満月の光は少し離れた人間の顔の表情まで認識する事が出来た。
「あなた達、こんな所にこんな時間何の用ですか?」
そう声をあげたのは、アンナメーダーマンとは正反対のやさしげな二十代前半の甘いマスクのイケメンだった。
その甘い顔からは、それを見たものを一瞬で震え上がらせる狂気がにじみ出ている。
月明かりに浮かんだその男の顔を見て、首相官邸に来た来客は。
「ヒッ」
短く悲鳴を上げていた。
「さ、桜木! 不審者だ撃て―」
パン、パン
銃声が響いた。
「やれやれですねー。いきなり撃ちますか。僕じゃなければ死んでいますよ」
右手の人差し指と親指で弾丸を二個つまんで、撃った桜木に見せている。
「嘘だろー。右手だけで弾丸を二発受け止めたのか」
少し太った六十歳位の悪人顔の男がつぶやいた。
だが、男は少し落ち着きを取り戻している。
弾丸を素手で受け止める事が出来るような男が、攻撃をしてこないなら、まずは敵意が無いと判断したのだろう。
「ほらっ」
甘い狂気をまとった男は、弾丸を桜木の足下に投げた。
コンコンと音をたて桜木の足下にころがった。
「こ、これは、お前がやったのか」
太った男は、まわりの死体を見て問いかけた。
「いいえ、僕も今来たばかりで驚いています。鈴木先生……ふふふ」
狂気をまとった男は、太った男のことを知っているようだ。
「お前は何者だ」
「僕は、阿藤治良(アトウハルヨシ)です。でも、今は邪神ハルラとお呼び下さい」
「か、神を名乗るのか。お前は」
「つぎ、お前呼ばわりしたら殺します」
ハルラと名乗った男は、ニヤニヤ笑いながら、言葉だけは怒った口調で言った。
「なっ」
「と、言ったところで、初めて見る若造に様付けは無理でしょう。奇跡をご覧に入れましょう」
ハルラが手をあげると、まわりに倒れている死体がユラユラと立ち上がった。
「な、何だと、死者が生き返った」
「ふふふ、さすがにそれは出来ません。それが出来たら本当の神様です。僕は邪神です。これは皆さん良くご存じのゾンビですよ」
「ゾ、ゾンビ!! そ、そんなことが……」
「簡単にできますよ、こんなことは。桜木さん少しこちらに来て下さい」
「うっ」
桜木は、鈴木のSPなのだろうか、体のがっしりした三十代の格闘家のような男だ。拳銃を所持しているところから、警察官なのだろう。
そんな男が、ハルラという自分より若くて線の細い男に恐怖している。
「早く来い。馬鹿め!!」
ハルラの口調が荒くなった。
恐らく地が出たのだろう。
桜木は恐る恐る近づく。
そして、ハルラの手の届く範囲につくと。
パーーーン!!
ハルラは桜木の頬を平手打ちした。
さっきの銃撃の仕返しだろうか。
「これであなたは、身体能力が2倍になりました。感じますか」
「!?」
桜木は驚いた顔をしている。
それは、不意に平手打ちをくらった驚きでは無いようだ。
ハルラは、相手に力を付与出来る能力があるようだ。
「左の頬を打たれたら、右の頬を出せ。確か言ったのは……誰だっけ?」
言い終わるとハルラは、桜木の右頬を平手打ちした。
「ぐっ!」
桜木はそれに耐えた。
「ふふふ、これで4倍です。試してください」
桜木はその場でジャンプをした。
軽くジャンプをしただけなのに四メートルくらい飛んでいる。
「なっ!」
飛んだ本人が一番驚いている。
軽いジャンプで、二階の軒先に飛び乗ることが出来る高さだ。
「ふふふ、あなた達も来てください」
鈴木の後ろにいる男達を呼び寄せた。
呼ばれた男達は、平手打ちに耐える為身構える。
「何をしているのですか、終りました。もう2倍になっていますよ」
「!?」
どうやら、平手打ちは必要無いようだ
「ですが、あなた達は2倍です。4倍は僕の役に立ってからです。言っておきますが僕が死んだら、あなた達の能力は消えます。憶えておいてください」
「はっ」
すでに男達は、取り込まれてしまったようだ。
「さて、鈴木先生。政治家は誰もが首相になりたがるというお話しを聞きましたが、あなたはどうなのでしょうか」
「……なにが、のぞみだ」
鈴木は返事をしないで、ハルラの条件を聞いた。
「ふふふ、僕の望みは、美味しいお酒と女です。あと食事は美味しい物はいりません、餌で良いですよ」
「なっ!!」
鈴木は驚いている。
それでこの国を自由に出来るのなら安い物だと思っている顔だ。
「わかった。用意しよう」
「話しがはやい人で良かった。そこに首相の死体が転がっています。今、ゾンビにします。拇印でもサインでも、何でもさせますから、書類を作って下さい」
「そうだな、では暫定政府の指揮でもとらせてもらうとしよう。ふふふ」
鈴木が恐ろしい笑顔になった。
まるで、昔見た時代劇の悪代官のような悪い笑顔だった。
「鈴木先生の地元はどこですか」
「私の地元か、大阪だ」
「そうですか、じゃあ関東は必要無いですね。関東の死体は全部ゾンビにかえましょう。まずは江戸城でも襲わせますか」
「なっ!?」
鈴木は、すでに後悔した。
少しも安い買い物ではなかったのだ。
「知っていますか。僕は日本をのぞいた世界中の死体をすでにゾンビに変えました。ゾンビには、生きている者を殺せと命じています。ふふふ、楽しいでしょう」
月明かりに照らされた、ハルラという男の顔は狂気に満ちていた。
ニタニタ笑う口からとろりとよだれが一筋垂れる。
「桜木ー!! 生き残りが江戸城にいる。部下を連れゾンビと共に殲滅してこい!!」
――うわーー、何てことを言い出すんだ、この男!!
鈴木は頭を抱えた。
「ふふふ、鈴木、諦めろ。貴様と俺は一蓮托生だ。女は美女を集めろよ。ふふふ、楽しみだ。確かここには、高級ワインがあったはずだよな。案内しろ!!」
鈴木は、やっぱり、やめたいですと言いたかった。
強く後悔していた。
「はい、ハルラ様!!」
だが、それは、死を意味する。
従うしか無いと諦めた。
そして、諦めたら、笑いがこみ上げてきた。
「わあああはっはっはっは」
鈴木は気が付けば大声で笑っていた。
その顔にはハルラと同じ狂気が宿っていた。
「わあーはっはっはっはっはーー!!」
ハルラも笑いだし、満月を背に二人の狂人の顔があやしく歪み、そのしわの影が二人の顔に恐怖の模様を浮かび上がらせていた。
満月が首相官邸を明るく照らしている。
光が全くない都市にとって、満月の光は少し離れた人間の顔の表情まで認識する事が出来た。
「あなた達、こんな所にこんな時間何の用ですか?」
そう声をあげたのは、アンナメーダーマンとは正反対のやさしげな二十代前半の甘いマスクのイケメンだった。
その甘い顔からは、それを見たものを一瞬で震え上がらせる狂気がにじみ出ている。
月明かりに浮かんだその男の顔を見て、首相官邸に来た来客は。
「ヒッ」
短く悲鳴を上げていた。
「さ、桜木! 不審者だ撃て―」
パン、パン
銃声が響いた。
「やれやれですねー。いきなり撃ちますか。僕じゃなければ死んでいますよ」
右手の人差し指と親指で弾丸を二個つまんで、撃った桜木に見せている。
「嘘だろー。右手だけで弾丸を二発受け止めたのか」
少し太った六十歳位の悪人顔の男がつぶやいた。
だが、男は少し落ち着きを取り戻している。
弾丸を素手で受け止める事が出来るような男が、攻撃をしてこないなら、まずは敵意が無いと判断したのだろう。
「ほらっ」
甘い狂気をまとった男は、弾丸を桜木の足下に投げた。
コンコンと音をたて桜木の足下にころがった。
「こ、これは、お前がやったのか」
太った男は、まわりの死体を見て問いかけた。
「いいえ、僕も今来たばかりで驚いています。鈴木先生……ふふふ」
狂気をまとった男は、太った男のことを知っているようだ。
「お前は何者だ」
「僕は、阿藤治良(アトウハルヨシ)です。でも、今は邪神ハルラとお呼び下さい」
「か、神を名乗るのか。お前は」
「つぎ、お前呼ばわりしたら殺します」
ハルラと名乗った男は、ニヤニヤ笑いながら、言葉だけは怒った口調で言った。
「なっ」
「と、言ったところで、初めて見る若造に様付けは無理でしょう。奇跡をご覧に入れましょう」
ハルラが手をあげると、まわりに倒れている死体がユラユラと立ち上がった。
「な、何だと、死者が生き返った」
「ふふふ、さすがにそれは出来ません。それが出来たら本当の神様です。僕は邪神です。これは皆さん良くご存じのゾンビですよ」
「ゾ、ゾンビ!! そ、そんなことが……」
「簡単にできますよ、こんなことは。桜木さん少しこちらに来て下さい」
「うっ」
桜木は、鈴木のSPなのだろうか、体のがっしりした三十代の格闘家のような男だ。拳銃を所持しているところから、警察官なのだろう。
そんな男が、ハルラという自分より若くて線の細い男に恐怖している。
「早く来い。馬鹿め!!」
ハルラの口調が荒くなった。
恐らく地が出たのだろう。
桜木は恐る恐る近づく。
そして、ハルラの手の届く範囲につくと。
パーーーン!!
ハルラは桜木の頬を平手打ちした。
さっきの銃撃の仕返しだろうか。
「これであなたは、身体能力が2倍になりました。感じますか」
「!?」
桜木は驚いた顔をしている。
それは、不意に平手打ちをくらった驚きでは無いようだ。
ハルラは、相手に力を付与出来る能力があるようだ。
「左の頬を打たれたら、右の頬を出せ。確か言ったのは……誰だっけ?」
言い終わるとハルラは、桜木の右頬を平手打ちした。
「ぐっ!」
桜木はそれに耐えた。
「ふふふ、これで4倍です。試してください」
桜木はその場でジャンプをした。
軽くジャンプをしただけなのに四メートルくらい飛んでいる。
「なっ!」
飛んだ本人が一番驚いている。
軽いジャンプで、二階の軒先に飛び乗ることが出来る高さだ。
「ふふふ、あなた達も来てください」
鈴木の後ろにいる男達を呼び寄せた。
呼ばれた男達は、平手打ちに耐える為身構える。
「何をしているのですか、終りました。もう2倍になっていますよ」
「!?」
どうやら、平手打ちは必要無いようだ
「ですが、あなた達は2倍です。4倍は僕の役に立ってからです。言っておきますが僕が死んだら、あなた達の能力は消えます。憶えておいてください」
「はっ」
すでに男達は、取り込まれてしまったようだ。
「さて、鈴木先生。政治家は誰もが首相になりたがるというお話しを聞きましたが、あなたはどうなのでしょうか」
「……なにが、のぞみだ」
鈴木は返事をしないで、ハルラの条件を聞いた。
「ふふふ、僕の望みは、美味しいお酒と女です。あと食事は美味しい物はいりません、餌で良いですよ」
「なっ!!」
鈴木は驚いている。
それでこの国を自由に出来るのなら安い物だと思っている顔だ。
「わかった。用意しよう」
「話しがはやい人で良かった。そこに首相の死体が転がっています。今、ゾンビにします。拇印でもサインでも、何でもさせますから、書類を作って下さい」
「そうだな、では暫定政府の指揮でもとらせてもらうとしよう。ふふふ」
鈴木が恐ろしい笑顔になった。
まるで、昔見た時代劇の悪代官のような悪い笑顔だった。
「鈴木先生の地元はどこですか」
「私の地元か、大阪だ」
「そうですか、じゃあ関東は必要無いですね。関東の死体は全部ゾンビにかえましょう。まずは江戸城でも襲わせますか」
「なっ!?」
鈴木は、すでに後悔した。
少しも安い買い物ではなかったのだ。
「知っていますか。僕は日本をのぞいた世界中の死体をすでにゾンビに変えました。ゾンビには、生きている者を殺せと命じています。ふふふ、楽しいでしょう」
月明かりに照らされた、ハルラという男の顔は狂気に満ちていた。
ニタニタ笑う口からとろりとよだれが一筋垂れる。
「桜木ー!! 生き残りが江戸城にいる。部下を連れゾンビと共に殲滅してこい!!」
――うわーー、何てことを言い出すんだ、この男!!
鈴木は頭を抱えた。
「ふふふ、鈴木、諦めろ。貴様と俺は一蓮托生だ。女は美女を集めろよ。ふふふ、楽しみだ。確かここには、高級ワインがあったはずだよな。案内しろ!!」
鈴木は、やっぱり、やめたいですと言いたかった。
強く後悔していた。
「はい、ハルラ様!!」
だが、それは、死を意味する。
従うしか無いと諦めた。
そして、諦めたら、笑いがこみ上げてきた。
「わあああはっはっはっは」
鈴木は気が付けば大声で笑っていた。
その顔にはハルラと同じ狂気が宿っていた。
「わあーはっはっはっはっはーー!!」
ハルラも笑いだし、満月を背に二人の狂人の顔があやしく歪み、そのしわの影が二人の顔に恐怖の模様を浮かび上がらせていた。
10
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる