86 / 428
第八十六話 真田一家の過去
しおりを挟む
部屋は板張りで、一段高いところがある。
真田の殿は段の上にはのぼらず、俺達の前にそのまま座った。
俺達の事に気が付いているようだ。
御用商人、大田大商店の大田大の正体を木田家以外では、北条と今川しか知らないはず。
という事は、柳川の事に気が付いているのだろうか。
しかし、この部屋、時代劇の見過ぎだろう。
でも、この戦国時代の雰囲気は嫌いではない。日本人だからだろうか。
「少し、愚痴など聞いて貰ってもよろしいですか」
「はい」
俺は逆に何を言い出すのか興味津々になってしまった。
何を話してくれるのだろうか。
「隕石が落ちる予定日の六ヶ月前、世界の一部で暴動が始まりました。それをネットやテレビが面白おかしく、紹介していました」
確かにそうだ。
それを見て、俺は隕石を何とかしたいと思ったんだ。
「その暴動の足音は日本にも忍び寄っていました。一部の人間が少しずつ食料品を買い占めていました。そして、突然牙をむきます。まるであの時のマスクのように、店頭から食品が消えました。転売ヤーが百円の商品を千円で売り、すぐに五千円になりました。何故その時に買わなかったのかと後悔するのに一日かかりませんでした。翌日には十万円になっています」
そんな事になっていたのか。
俺なら、千円の段階で買えなくなっているなー。
「どこにも食料品が無くなると、日本でもさすがに食糧の奪い合いが始まります。暴動が始まると、じきに電気が使えなくなりました。当然のように水もガスも止まります。助けはどこからも来ません。人々の不安は頂点に達します。そんなとき、東京には政府があり、皆が豊かに暮らしていると噂が広がりました」
誰が流した噂かは分からないが、それを信じるしか無い人の気持ちが分かる気がする。
「最初は高速道路に車が殺到します。今も高速道路には、動けなくなった車が放置されています。人々は車を捨てて、重い荷物を背負い歩いて東京を目指しました。東京の事はよく分かりませんが、東京に避難した人は、帰って来ませんでした」
「東京では、背負っている物資を狙う者達に、皆、例外なく殺されました。酷いものでした」
柳川が顔をしかめた。
「そうですか……。それで東京には行くなと噂が流れたのですね。でも、残っていても食糧が無くなるのを待つだけです。その後も東京を目指す人は後を絶ちません。そんな中、武田一家を名乗る強盗集団がこの甲斐で暴れ始めます。それに続き馬場一家や甘利一家、武田家家臣団の名前を名乗り暴れ出すものが現れます。俺は仲間を守る為、真田を名乗り抗争を繰り返しました」
な、なんだって、この殿様、結構イケイケなのか。
見た目は優しそうな、優男に見えるのだが、見かけによらねえタイプなのだろうか。
俺と同じタイプという事か?
俺は、見た目は普通の豚だが、中身は駄目な豚だ。見かけによらねえだろー。いい意味で。
「抗争に勝つと、相手の物資を奪えます。最初はそれがありがたかった。次々抗争を繰り返すと、仕舞いには武器すら無くなりバットまで使い出す始末です。抗争を繰り返して、次々相手を滅ぼし、やっとこのまえ宿敵武田一家を滅亡させました。武田の物資はうちの持っている分より、はるかに少なかった。何の為の戦いだったのか。戦いの空しさを知りました。気が付けば、真田の手勢は三百人になっています。真田一家の女や子供を合わせても千人を切っています。恐らくこれが甲斐の総人口でしょう」
「……」
俺も柳川も言葉を無くした。
「そんな時でした。関東から、大量の物資を持って里帰りして来た者がいます。聞けば、ゲン一家を率いる木田家に助けられ、いただいた物資と言っていました。ゲン一家の名前はさすがに俺でも知っています。そして、ゲン一家には四天王と呼ばれる幹部がいる事も知っています。松田さん、松本さん、柳川さん、藤吉さんです」
真田の殿はそこで姿勢を正した。
両手を床につけて、柳川の目をジッと見つめた。
そして、ゆっくり頭を下げ、床につけた。
「柳川様、真田一家をゲン一家柳川様の配下の末席にお加え下さい」
「なっ」
柳川は、驚いた。
そして、今度は柳川が真田の殿を見つめている。
「お願いいたします」
真田の殿は再度お願いをする。
「その件を、私はここで即答出来ません」
柳川はそう言うと、真田の殿の耳に口を近づけコソコソ何か言っている。
真田の殿が目を見開き驚いている。
どうやら、俺の正体をばらしているようだ。
それならばと俺は、柳川の真似をして、真田の殿様の耳に口を近づけて話した。
「今日より、木田家真田一家を名乗る事を許します。そして、北条一家と協力して信州攻略を命じます。見事先陣を務め手柄をたてて下さい。但し、木田家では不殺攻略を目指してもらいます。同じ日本人、殺し合いは望みません。どうしても許せない人は仕方がありませんが、不殺を目指して下さい」
「はっ!」
「あー、でも、私は、大田大商店の大田です。よろしくお願いします」
耳から顔を離すと大きな声でそう言った。
「はっ! はっははああーー!!!」
いやいや、それじゃあ、バレちゃうよね。
この後、マグロの刺身の盛り合わせと、玉子、米、お酒などを渡し、料理は任せて宴会を始めた。
宴会が終り、皆が高いびきで眠ったのを確認し、外の駐車場に出た。
外はすっかり暗くなっている。
さて、始めるとしますか。
真田の殿は段の上にはのぼらず、俺達の前にそのまま座った。
俺達の事に気が付いているようだ。
御用商人、大田大商店の大田大の正体を木田家以外では、北条と今川しか知らないはず。
という事は、柳川の事に気が付いているのだろうか。
しかし、この部屋、時代劇の見過ぎだろう。
でも、この戦国時代の雰囲気は嫌いではない。日本人だからだろうか。
「少し、愚痴など聞いて貰ってもよろしいですか」
「はい」
俺は逆に何を言い出すのか興味津々になってしまった。
何を話してくれるのだろうか。
「隕石が落ちる予定日の六ヶ月前、世界の一部で暴動が始まりました。それをネットやテレビが面白おかしく、紹介していました」
確かにそうだ。
それを見て、俺は隕石を何とかしたいと思ったんだ。
「その暴動の足音は日本にも忍び寄っていました。一部の人間が少しずつ食料品を買い占めていました。そして、突然牙をむきます。まるであの時のマスクのように、店頭から食品が消えました。転売ヤーが百円の商品を千円で売り、すぐに五千円になりました。何故その時に買わなかったのかと後悔するのに一日かかりませんでした。翌日には十万円になっています」
そんな事になっていたのか。
俺なら、千円の段階で買えなくなっているなー。
「どこにも食料品が無くなると、日本でもさすがに食糧の奪い合いが始まります。暴動が始まると、じきに電気が使えなくなりました。当然のように水もガスも止まります。助けはどこからも来ません。人々の不安は頂点に達します。そんなとき、東京には政府があり、皆が豊かに暮らしていると噂が広がりました」
誰が流した噂かは分からないが、それを信じるしか無い人の気持ちが分かる気がする。
「最初は高速道路に車が殺到します。今も高速道路には、動けなくなった車が放置されています。人々は車を捨てて、重い荷物を背負い歩いて東京を目指しました。東京の事はよく分かりませんが、東京に避難した人は、帰って来ませんでした」
「東京では、背負っている物資を狙う者達に、皆、例外なく殺されました。酷いものでした」
柳川が顔をしかめた。
「そうですか……。それで東京には行くなと噂が流れたのですね。でも、残っていても食糧が無くなるのを待つだけです。その後も東京を目指す人は後を絶ちません。そんな中、武田一家を名乗る強盗集団がこの甲斐で暴れ始めます。それに続き馬場一家や甘利一家、武田家家臣団の名前を名乗り暴れ出すものが現れます。俺は仲間を守る為、真田を名乗り抗争を繰り返しました」
な、なんだって、この殿様、結構イケイケなのか。
見た目は優しそうな、優男に見えるのだが、見かけによらねえタイプなのだろうか。
俺と同じタイプという事か?
俺は、見た目は普通の豚だが、中身は駄目な豚だ。見かけによらねえだろー。いい意味で。
「抗争に勝つと、相手の物資を奪えます。最初はそれがありがたかった。次々抗争を繰り返すと、仕舞いには武器すら無くなりバットまで使い出す始末です。抗争を繰り返して、次々相手を滅ぼし、やっとこのまえ宿敵武田一家を滅亡させました。武田の物資はうちの持っている分より、はるかに少なかった。何の為の戦いだったのか。戦いの空しさを知りました。気が付けば、真田の手勢は三百人になっています。真田一家の女や子供を合わせても千人を切っています。恐らくこれが甲斐の総人口でしょう」
「……」
俺も柳川も言葉を無くした。
「そんな時でした。関東から、大量の物資を持って里帰りして来た者がいます。聞けば、ゲン一家を率いる木田家に助けられ、いただいた物資と言っていました。ゲン一家の名前はさすがに俺でも知っています。そして、ゲン一家には四天王と呼ばれる幹部がいる事も知っています。松田さん、松本さん、柳川さん、藤吉さんです」
真田の殿はそこで姿勢を正した。
両手を床につけて、柳川の目をジッと見つめた。
そして、ゆっくり頭を下げ、床につけた。
「柳川様、真田一家をゲン一家柳川様の配下の末席にお加え下さい」
「なっ」
柳川は、驚いた。
そして、今度は柳川が真田の殿を見つめている。
「お願いいたします」
真田の殿は再度お願いをする。
「その件を、私はここで即答出来ません」
柳川はそう言うと、真田の殿の耳に口を近づけコソコソ何か言っている。
真田の殿が目を見開き驚いている。
どうやら、俺の正体をばらしているようだ。
それならばと俺は、柳川の真似をして、真田の殿様の耳に口を近づけて話した。
「今日より、木田家真田一家を名乗る事を許します。そして、北条一家と協力して信州攻略を命じます。見事先陣を務め手柄をたてて下さい。但し、木田家では不殺攻略を目指してもらいます。同じ日本人、殺し合いは望みません。どうしても許せない人は仕方がありませんが、不殺を目指して下さい」
「はっ!」
「あー、でも、私は、大田大商店の大田です。よろしくお願いします」
耳から顔を離すと大きな声でそう言った。
「はっ! はっははああーー!!!」
いやいや、それじゃあ、バレちゃうよね。
この後、マグロの刺身の盛り合わせと、玉子、米、お酒などを渡し、料理は任せて宴会を始めた。
宴会が終り、皆が高いびきで眠ったのを確認し、外の駐車場に出た。
外はすっかり暗くなっている。
さて、始めるとしますか。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる