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第九十一話 罪を憎んで人を憎まず

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「よーし、次だー!! 次ーー!」

 松平の殿様がはしゃぐように、伊藤の手下を処刑台に運ばせる。

「うわあああーーー。な、何をする!!」

 松平の配下が、慌てている。
 サイコ伊藤の部下が、松平の配下を振り回し出した。

「伊藤さん、俺達の力が戻っています」

 俺は、俺の魔力で、サイコ伊藤達一味に身体能力向上の付与魔法をかけてみた。
 どうやら、うまくいったようだ。

「なにーーー!!!!」

 サイコ伊藤が叫ぶと、宙に浮かび血走った目で松平の殿様をにらみ付けた。
 そして、ニヤリと笑った。

「ぐわああああーーーーーー!!!!」

 松平の殿様は、サイコ伊藤の部下のように八つ裂きにされた。
 サイコ伊藤の念動力は、人、一人を造作も無く引き裂く程の力があるようだ。
 サイコ伊藤は、引き裂かれた松平の殿様の姿を見下ろすと、笑うでも無く無表情で見下ろしている。
 まるでゲンのようだ。

「アンナメーダーマン!!! いるのだろう!!」

 サイコ伊藤は、くるりと体を見物人の方に向けると叫んだ。
 その後、ゆっくり地上に降りてひざまずくと、頭を下げた。

「アンナメーダーマンだって?」

 見物人がザワザワしだした。
 浜松の人はアンナメーダーマンを知っているようだ。
 何で知っているんだ?
 見物人までが、サイコ伊藤のように地べたにひざまずいた。

 結果、立っているのが俺とあずさと、坂本さんとクザンだけになった。
 俺は、嫌な予感がして、黒いジャージとヘルメット、あずさもメイド服に仮面をつけている。

「おおお、教祖様から教えていただいた通りの姿だ」
「おおおお、あれが隕石を消したアンナメーダーマン様だ」
「ありがたや、ありがたや」

 仕舞いには、拝みだした。
 ミサの奴、信者に何を教えているんだー。

「やはりな、いると思った」

「せっかく力が戻ったんだ。逃げようとは思わ無いのか」

「ははは、あんたがいたんじゃあ、何をしても無駄だ。部下の敵討ちも終った。煮るなと焼くなと好きにしてくれ」

「うむ、あんた、なんだか別人の様になっているな。何があった」

「なにも無い。だが、そうだな、以前はハルラ様の魔力を体に感じていた。その時は、酒と女に乾いていた。それ以上に人殺しに乾いていた。そして、ハルラ様に強い忠誠心を感じていた。だが、今はハルラ様の魔力は感じ無い。アンナメーダーマン、あんたの魔力を強く感じる。同時にあんたに強い忠誠心を感じている。出来ればあんたの配下になりたかった」

 そう言うサイコ伊藤の顔は、以前は目の下に濃いくまがあり、頬がこけマッドサイエンティストのようだったが、今はくまが無くなり、少し頬がふっくらしている。人の良さそうな駄目な化学者のような顔になっている。
 だがその顔はもう生きる事をあきらめているようだ。
 自分のしでかした事の重大さを感じているようだ。

「お前達、何をしている。サイコ伊藤を引っ捕らえろ」

 松平の殿様の横に控えている四人の重臣が我に返り叫んだ。

「ま、待ってくれ! 俺はアンナメーダーマンだ。この男の身柄は俺に任せてくれないだろうか」

「し、しかし、我らの主君を殺した相手だ。そのままにはしては置けない」

「そうですか。じゃあ、お任せします」

 俺が言い終わると、伊藤は俺の意を読み取ったのか、ふわりと部下とともに宙に浮かんだ。
 体をグルグル巻きにしていた縄も、ふわふわ自然に緩み、パサッと地面に落ちた。
 腕を組み重臣を見下ろしている。
 そして、ゆっくり腕を重臣達の方に伸ばした。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

 重臣達は腰を抜かして、這いつくばって逃げ出す。
 以前のサイコ伊藤は、その力で多くの浜松の人を殺害している。

「コラコラ、伊藤! やめなさい」

「はっ、ははあーーっ」

 伊藤は、大げさに地面に降り立つと、俺の前にひざまずいた。
 俺は今、暗い顔をしていると思う。
 隣にいるあずさが、さっきから心配そうな顔をして俺の表情ばかり見ている。

 俺は、人殺しが嫌で怖い。
 今回も松平の殿様を、直接手を下さず伊藤にやらせてしまった。
 守ろうとすれば今の俺なら、伊藤の超能力から守ってやる事も出来たはずだ。
 その事が、心に重くのしかかっている。

 ――俺が殺したような物だ!

 それだけに、俺は罪の意識を強く感じている。

「罪を憎んで人を憎まず。サイコ伊藤は心を入れ替えたようだ。俺に身柄を預からせてはもらえないだろうか」

 おびえる重臣の中で、一番頭の良さそうな人の目を見て言った。

「は、はい。お、お任せしますー」

「それに、あんた達は新しい主君を決めないといかんだろう。今から教祖様を交えて、重臣の皆さんと話しがしたい。どうかな」

 重臣達四人は、お互いの顔を見合わせて、大きくうなずいた。

「アスラーマン、全員を教祖様の玄関の前へ」

「はい」



 俺達は一瞬で、ミサのいる屋敷の前に来た。

 ガラガラ

 俺は玄関の引き戸を開けて、あずさと坂本さんとクザンで、中に入った。
 そして中のふすまを開けた。

「うわああーー!!」

 中にミサが立って待っていた。

「な、何をしているんだー」

 ミサの姿を見て俺は驚いてしまった。
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