127 / 428
第百二十七話 聞き上手になろう
しおりを挟む
とうさんは、私の顔を無表情で見つめ、その場であぐらをかいて座りました。
名古屋城の天守は今、ガランとしています。
窓際に、観光用のコインを入れて遠くを見る双眼鏡だけが残されています。
私からすればゴミですが、とうさんは気に入っているみたいです。
その部屋のやや窓よりに座り込んでいます。
とうさんは私の表情を見て、反省していることをわかってくれたみたいです。
だったら私のする事は一つです。
ミサさんがとうさんの斜め後ろにいますが、気にしません。
今から独占します。
私はとうさんのヒザの上に座りました。
そして、上を向いてとうさんの顔を見ました。
やっぱり、少し驚いています。
なぜ驚くのですか、小さい時には、とうさんのヒザ以外に座ったことはありませんよ。
でも、私も久しぶりなのでドキドキしています。
そして、恥ずかしいです。
顔が真っ赤になるのがわかります。
「あのね、とうさん、加藤さんが……」
し、しまったー。
またやってしまいました。
大人は子供が、言い訳をする時、人の名前を言うと怒り出します。
理由も聞かないで頭ごなしに叱りつけます。「人のせいにするのではありませーーん」って、後はもう何も聞いてくれません。大人はそんなもんです。
「どうした? いいよ。続けて、続けて。全部聞くから慌てないでゆっくり聞かせてほしいな」
上を見てとうさんの顔を見ると、とうさんは赤い頬をして、笑うのを我慢しているような顔をしています。
そうでした。
とうさんがそんなことをする訳がありません。
みすぼらしい私を、大事に、大事にここまで育ててくれた人です。
私が最も尊敬する人です。
「加藤さんが、具足が不足していると相談にきました。きっととうさんに直接言い辛かったのだと思います。だから、代わりにとうさんを探して伝えようと思いました」
「なるほど、わかったぞ。でも、とうさんはそんなに頼み辛いかなー」
「皆さんは、とうさんを畏怖しています。でも、殿様だからしかたがないと思います」
「ふむ、そうか。それで、あずさはどこから俺を探したんだ?」
とうさんはさすがです。
言いフリです。私が話やすくしてくれました。
「はい、木田産業の昔の社長室からです。そして……」
私は、駿河公認アイドル、ピーツインの事や、列車に乗ったこと、浜松の名女優さんの事など、全部話しました。
とうさんは、じっくり笑顔で聞いてくれました。
いけない、とうさんが、じっくり聞いてくれるから、時間をかけて全部話してしまいました。
とうさんは、本当はまだまだやることが一杯残っている、忙しい人でした。
「そうか。実はとうさんも名古屋に来たのは、あずさに頼み事があったからなんだ」
「知っています。アダマンタイトとミスリルですね」
「そうだ。でも、名古屋に来た本当の理由は……」
「まってください! 先に私に言わせてください」
「えっ!?」
とうさんが驚いた顔をします。
「私がとうさんを探した本当の理由は……」
「とうさんに会いたかったからでーす!!」
「あずさに会いたかったからだー!!」
とうさんは、さすがです。
私が何を言おうとしたのか分かって、私の声にかぶせてきました。
だから、とうさんが何を言ったか分かりませんでした。
「あははははは」
でも、何を言ったのかは分かります。
とうさんも分かったみたいです。
可笑しくって二人で笑い合いました。
私はくるりと後ろを向いてとうさんにしがみつきました。
「うん、移動はやっぱりあずさに任そうかな。ミサをクビにしよう」
「はああーっ、何を言うの! あなたがあずさは勉強があるから、テレポートで助けてくれって言ったんでしょ!」
ミサさんが怒っています。
そうだったんだ。勉強の為……。
私、ずっと勉強をしていませんでした。
「とうさん、私は大丈夫です。二日に一回、少しだけ会えたら我慢が出来ます」
「良しわかった。二日に一回と言わずもう少し会いに来よう」
「あんたは馬鹿なの、それじゃあ毎日じゃない!」
「ふふふ」
ミサさんのナイス突っ込みに二人で笑い合いました。
その位会いたいと言う事です。
「あずさ、冗談は置いておいて、あずさのことをもう少し気にかけるようにする。放置しすぎてすまなかった」
とうさんが真剣な顔をして謝ってくれます。
「ううん……」
私はクビを振りました。
あーー、すごく、とうさんにチューがしたい。
やさしいとうさんの、ほっぺにチューをしたい。
でも、無理です。
だって、ドバドバ涙が出て、鼻水が滝の様に流れています。
いくら何でも、いまチューをしたら。
チューをしたのか、鼻水を擦りつけたのか分からなくなります。
とうさんは、この状況だと、なんで俺はあずさに鼻水を擦りつけられたんだ? ってなるに決まっています。
私は、余計に悲しくなって、余計に涙が出ました。
ついでに鼻水まで余計に出て来ました。
私は、チューをあきらめてハグにしました。
「うわーーーっ、あずさーー!! 鼻水がついたーー!!!」
あらあら、とうさんに抱きついたら、服に鼻水が付いてしまいました。
こうなったらとうさんの服に全部付けてしまいましょう。
顔を離したら、鼻水が糸を引きました。
横でミサさんが腹を抱えて笑っています。
私と、とうさんなんてこんなもんです。
とうさん! だーいすき! はーと!
名古屋城の天守は今、ガランとしています。
窓際に、観光用のコインを入れて遠くを見る双眼鏡だけが残されています。
私からすればゴミですが、とうさんは気に入っているみたいです。
その部屋のやや窓よりに座り込んでいます。
とうさんは私の表情を見て、反省していることをわかってくれたみたいです。
だったら私のする事は一つです。
ミサさんがとうさんの斜め後ろにいますが、気にしません。
今から独占します。
私はとうさんのヒザの上に座りました。
そして、上を向いてとうさんの顔を見ました。
やっぱり、少し驚いています。
なぜ驚くのですか、小さい時には、とうさんのヒザ以外に座ったことはありませんよ。
でも、私も久しぶりなのでドキドキしています。
そして、恥ずかしいです。
顔が真っ赤になるのがわかります。
「あのね、とうさん、加藤さんが……」
し、しまったー。
またやってしまいました。
大人は子供が、言い訳をする時、人の名前を言うと怒り出します。
理由も聞かないで頭ごなしに叱りつけます。「人のせいにするのではありませーーん」って、後はもう何も聞いてくれません。大人はそんなもんです。
「どうした? いいよ。続けて、続けて。全部聞くから慌てないでゆっくり聞かせてほしいな」
上を見てとうさんの顔を見ると、とうさんは赤い頬をして、笑うのを我慢しているような顔をしています。
そうでした。
とうさんがそんなことをする訳がありません。
みすぼらしい私を、大事に、大事にここまで育ててくれた人です。
私が最も尊敬する人です。
「加藤さんが、具足が不足していると相談にきました。きっととうさんに直接言い辛かったのだと思います。だから、代わりにとうさんを探して伝えようと思いました」
「なるほど、わかったぞ。でも、とうさんはそんなに頼み辛いかなー」
「皆さんは、とうさんを畏怖しています。でも、殿様だからしかたがないと思います」
「ふむ、そうか。それで、あずさはどこから俺を探したんだ?」
とうさんはさすがです。
言いフリです。私が話やすくしてくれました。
「はい、木田産業の昔の社長室からです。そして……」
私は、駿河公認アイドル、ピーツインの事や、列車に乗ったこと、浜松の名女優さんの事など、全部話しました。
とうさんは、じっくり笑顔で聞いてくれました。
いけない、とうさんが、じっくり聞いてくれるから、時間をかけて全部話してしまいました。
とうさんは、本当はまだまだやることが一杯残っている、忙しい人でした。
「そうか。実はとうさんも名古屋に来たのは、あずさに頼み事があったからなんだ」
「知っています。アダマンタイトとミスリルですね」
「そうだ。でも、名古屋に来た本当の理由は……」
「まってください! 先に私に言わせてください」
「えっ!?」
とうさんが驚いた顔をします。
「私がとうさんを探した本当の理由は……」
「とうさんに会いたかったからでーす!!」
「あずさに会いたかったからだー!!」
とうさんは、さすがです。
私が何を言おうとしたのか分かって、私の声にかぶせてきました。
だから、とうさんが何を言ったか分かりませんでした。
「あははははは」
でも、何を言ったのかは分かります。
とうさんも分かったみたいです。
可笑しくって二人で笑い合いました。
私はくるりと後ろを向いてとうさんにしがみつきました。
「うん、移動はやっぱりあずさに任そうかな。ミサをクビにしよう」
「はああーっ、何を言うの! あなたがあずさは勉強があるから、テレポートで助けてくれって言ったんでしょ!」
ミサさんが怒っています。
そうだったんだ。勉強の為……。
私、ずっと勉強をしていませんでした。
「とうさん、私は大丈夫です。二日に一回、少しだけ会えたら我慢が出来ます」
「良しわかった。二日に一回と言わずもう少し会いに来よう」
「あんたは馬鹿なの、それじゃあ毎日じゃない!」
「ふふふ」
ミサさんのナイス突っ込みに二人で笑い合いました。
その位会いたいと言う事です。
「あずさ、冗談は置いておいて、あずさのことをもう少し気にかけるようにする。放置しすぎてすまなかった」
とうさんが真剣な顔をして謝ってくれます。
「ううん……」
私はクビを振りました。
あーー、すごく、とうさんにチューがしたい。
やさしいとうさんの、ほっぺにチューをしたい。
でも、無理です。
だって、ドバドバ涙が出て、鼻水が滝の様に流れています。
いくら何でも、いまチューをしたら。
チューをしたのか、鼻水を擦りつけたのか分からなくなります。
とうさんは、この状況だと、なんで俺はあずさに鼻水を擦りつけられたんだ? ってなるに決まっています。
私は、余計に悲しくなって、余計に涙が出ました。
ついでに鼻水まで余計に出て来ました。
私は、チューをあきらめてハグにしました。
「うわーーーっ、あずさーー!! 鼻水がついたーー!!!」
あらあら、とうさんに抱きついたら、服に鼻水が付いてしまいました。
こうなったらとうさんの服に全部付けてしまいましょう。
顔を離したら、鼻水が糸を引きました。
横でミサさんが腹を抱えて笑っています。
私と、とうさんなんてこんなもんです。
とうさん! だーいすき! はーと!
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる