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第百四十三話 ダサさは強さ
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ホールの立派な玄関を出ると、外は暗くなっていた。
「明日は、来た人全員が楽しめるといいな」
「はい」
独り言のつもりだったが、後ろから付いてきたシュラが返事をしてくれた。
あずさの言葉を借りるなら、前日から祭りだ。
もう俺は今日で、充分祭りを楽しんだ。
明日は美術館に引きこもろうと考えている。
陽キャのイベントは俺には眩しすぎる。
美術館に近づくと、白い石柱が出迎えてくれる。
足下には、人工的な、いや美術的な小川が作られている。
前回来た時に、明かりを邪魔にならない程度にセットしておいた。
その光に照らされて、幻想的だ。
だがなんだか様子が変だ、すごく嫌な気配がする。
シュラも感じている様だ。
俺の腕にしがみついて来た。
シュラは、益々人間に近づいている気がする。
俺は、シュラの方を見た。
腕をつかんでいる距離なので、顔がすぐ横にある。
シュラの顔は目玉が無い。目のような金色の模様があるだけだ。
鼻と口は、おうとつだけで表現されている。
それでも、シュラから不安が伝わってくる。
俺は、シュラの頭をポンポンと二回優しく叩いた。
安心出来るように念を込めて。
それが伝わったのか、俺の顔を見つめてきた。
近いなー、恋人同士がチューをする距離だ。
まさか、俺にこんな日が来るとわ。
一生女性の半径二メートル以内には、近づけないと思っていたよ。
だが、シュラは娘だからな。ノーカンか。
「静かに行こう」
シュラは、こくりとうなずいた。
入り口の自動ドアが開け放たれている。
俺が出る時は、閉めたはずだ。
「うわあっ!!!」
静かに行こうと言った俺が真っ先に大声を出してしまった。
「おい!! 誰だよ美術館なんかに人は来ねえといった奴わ!! さっきから何人来たと思っているんだ。殺すぞ!!」
「ひゃあーはっはっはっはっはっ」
十人ぐらいの男が笑っている。
どうやら、こいつらが犯人のようだ。
大声を出したのは、俺が作った傑作、シュラのレプリカの服が引き裂かれて、ボロボロになっていたからだ。
ブラまで切り裂かれている。パンツは無事だった。
それだけじゃ無い。
美術品もぐちゃぐちゃにされている。
「何てことをするんだ」
「ふん、こんな物に、何の値打ちがあると言うんだ」
こ、こいつらは、本当にやべー奴だ。
狂気を感じる。
美術館から感じた嫌な予感は、こいつらが原因だったようだ。
昔の俺なら、近寄ってはいないだろう。
でも、今の俺はそれを感じたから来たのだ。
「なあ、あんたらは、何をしに来たんだ」
「ひっひっ、俺達は明日、祭り会場を爆破する」
「はあーーっ、な、なんでそんなことをするんだ」
「それが、俺達の祭りなんだよ。ひゃーーはっはっはっはっ」
これを聞いたと言う事は、俺達は逃がしてもらえる事は無いな。
良く見ると、ロビーの端に人の山がある。
今日会った、一緒に写真を撮ったオタクの姿もある。
服が血で真っ赤だ。
人の山の下には、血の池が出来上がっている。
「ひでえ事を、しやあがるぜ」
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
世の中には、人の痛みや苦痛、恐怖で快感を覚える人間がいる。
どうしても、湧いてくる。
どうしたら良いものか。
「なあ、あんたらには良心ってものはねえのか」
「馬鹿野郎あるに決まっているだろう!! 遅刻はいけねえ。痴漢や盗撮、あと泥棒もな」
「そうか、わかった」
言われて余計に聞くんじゃ無かったと思った。
普通の人なら真っ先に殺人が来るはずだ、それが入っていねえ。
「なあ、一つ聞いても良いか? 俺達は助けてもらえないだろうか?」
「馬鹿じゃねえのか。見ろ。あそこ行きだ」
男達のリーダーが指をさした。
それは、さっき見つけた死体の山だった。
そして、銃を構えた。
「オイサスト! シュヴァイン!」
誰も見ていないし、言う必要も無いのだが自然と口から出ていた。
俺は、黒のジャージとヘルメットを装備した。
――正義のヒーローに憧れていた。
男の子には、一度はあるのじゃ無いだろうか。
だが、本当にヒーローがいたとしたら、敵は怪人でも怪物でも無い。
人間なんだなーと思った。
警察があれば、捕まえて引き渡せば良いのだが今は無い。
パーン、パーン
俺が考え事をしているうちに、引き金を引いたようだ。
俺の頭と心臓を狙ったようだ。
弾丸は俺の手前で止まっている。
金色の糸が守ってくれた。
こんな奴らでも、人を殺す事しか考えない者の恐怖を教えてやりたい。
そして、人が殺される時に感じた恐怖や悲しみを知り、一ミリでも反省してもらいたい。
「だ、弾丸を止めただと! ありえねえ! てめーはいったい何者だ!」
「貴様ら程度に、名乗ってやるのも不快だが、俺の名は、正義のヒーロー、アンナメーダーマンだ!!」
「ぎゃーーはっはっー、見た目もだせーが、名前もだせー」
全員が笑っている。
「ふふふ、俺はなあ、ダサさが強さなんだよ」
俺は速力全開で狂気の男達を、掌底で飛ばしロビーの中央に集めた。
男達は、なす術も無くロビーの中央で倒れている。
「く、くそーー」
だいぶ手加減したので、無傷のはずだ。
「これで全員か」
「そうだ!!」
「お父さん、隠れていた二人を捕まえました」
シュラが二人の男を両手に抱えている。
「くそーーーーっ!!」
捕まった男達は元気だ。
足をばたつかせている。そして、シュラの細い腕に、あろうことかカブリとかみついた。
「ぎゃあああーーー、歯が折れたーーー」
「おいおい、歯が折れるほど強く女の子の手を、噛みつくもんじゃねえぜ! シュラ他には隠れていないか」
「ハイ、マスター! ……はい、お父さん」
狂気の男達は十二人いた。
さて、こいつらをどうしたものか。
おっ、一つ名案が思いついた。
「明日は、来た人全員が楽しめるといいな」
「はい」
独り言のつもりだったが、後ろから付いてきたシュラが返事をしてくれた。
あずさの言葉を借りるなら、前日から祭りだ。
もう俺は今日で、充分祭りを楽しんだ。
明日は美術館に引きこもろうと考えている。
陽キャのイベントは俺には眩しすぎる。
美術館に近づくと、白い石柱が出迎えてくれる。
足下には、人工的な、いや美術的な小川が作られている。
前回来た時に、明かりを邪魔にならない程度にセットしておいた。
その光に照らされて、幻想的だ。
だがなんだか様子が変だ、すごく嫌な気配がする。
シュラも感じている様だ。
俺の腕にしがみついて来た。
シュラは、益々人間に近づいている気がする。
俺は、シュラの方を見た。
腕をつかんでいる距離なので、顔がすぐ横にある。
シュラの顔は目玉が無い。目のような金色の模様があるだけだ。
鼻と口は、おうとつだけで表現されている。
それでも、シュラから不安が伝わってくる。
俺は、シュラの頭をポンポンと二回優しく叩いた。
安心出来るように念を込めて。
それが伝わったのか、俺の顔を見つめてきた。
近いなー、恋人同士がチューをする距離だ。
まさか、俺にこんな日が来るとわ。
一生女性の半径二メートル以内には、近づけないと思っていたよ。
だが、シュラは娘だからな。ノーカンか。
「静かに行こう」
シュラは、こくりとうなずいた。
入り口の自動ドアが開け放たれている。
俺が出る時は、閉めたはずだ。
「うわあっ!!!」
静かに行こうと言った俺が真っ先に大声を出してしまった。
「おい!! 誰だよ美術館なんかに人は来ねえといった奴わ!! さっきから何人来たと思っているんだ。殺すぞ!!」
「ひゃあーはっはっはっはっはっ」
十人ぐらいの男が笑っている。
どうやら、こいつらが犯人のようだ。
大声を出したのは、俺が作った傑作、シュラのレプリカの服が引き裂かれて、ボロボロになっていたからだ。
ブラまで切り裂かれている。パンツは無事だった。
それだけじゃ無い。
美術品もぐちゃぐちゃにされている。
「何てことをするんだ」
「ふん、こんな物に、何の値打ちがあると言うんだ」
こ、こいつらは、本当にやべー奴だ。
狂気を感じる。
美術館から感じた嫌な予感は、こいつらが原因だったようだ。
昔の俺なら、近寄ってはいないだろう。
でも、今の俺はそれを感じたから来たのだ。
「なあ、あんたらは、何をしに来たんだ」
「ひっひっ、俺達は明日、祭り会場を爆破する」
「はあーーっ、な、なんでそんなことをするんだ」
「それが、俺達の祭りなんだよ。ひゃーーはっはっはっはっ」
これを聞いたと言う事は、俺達は逃がしてもらえる事は無いな。
良く見ると、ロビーの端に人の山がある。
今日会った、一緒に写真を撮ったオタクの姿もある。
服が血で真っ赤だ。
人の山の下には、血の池が出来上がっている。
「ひでえ事を、しやあがるぜ」
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
世の中には、人の痛みや苦痛、恐怖で快感を覚える人間がいる。
どうしても、湧いてくる。
どうしたら良いものか。
「なあ、あんたらには良心ってものはねえのか」
「馬鹿野郎あるに決まっているだろう!! 遅刻はいけねえ。痴漢や盗撮、あと泥棒もな」
「そうか、わかった」
言われて余計に聞くんじゃ無かったと思った。
普通の人なら真っ先に殺人が来るはずだ、それが入っていねえ。
「なあ、一つ聞いても良いか? 俺達は助けてもらえないだろうか?」
「馬鹿じゃねえのか。見ろ。あそこ行きだ」
男達のリーダーが指をさした。
それは、さっき見つけた死体の山だった。
そして、銃を構えた。
「オイサスト! シュヴァイン!」
誰も見ていないし、言う必要も無いのだが自然と口から出ていた。
俺は、黒のジャージとヘルメットを装備した。
――正義のヒーローに憧れていた。
男の子には、一度はあるのじゃ無いだろうか。
だが、本当にヒーローがいたとしたら、敵は怪人でも怪物でも無い。
人間なんだなーと思った。
警察があれば、捕まえて引き渡せば良いのだが今は無い。
パーン、パーン
俺が考え事をしているうちに、引き金を引いたようだ。
俺の頭と心臓を狙ったようだ。
弾丸は俺の手前で止まっている。
金色の糸が守ってくれた。
こんな奴らでも、人を殺す事しか考えない者の恐怖を教えてやりたい。
そして、人が殺される時に感じた恐怖や悲しみを知り、一ミリでも反省してもらいたい。
「だ、弾丸を止めただと! ありえねえ! てめーはいったい何者だ!」
「貴様ら程度に、名乗ってやるのも不快だが、俺の名は、正義のヒーロー、アンナメーダーマンだ!!」
「ぎゃーーはっはっー、見た目もだせーが、名前もだせー」
全員が笑っている。
「ふふふ、俺はなあ、ダサさが強さなんだよ」
俺は速力全開で狂気の男達を、掌底で飛ばしロビーの中央に集めた。
男達は、なす術も無くロビーの中央で倒れている。
「く、くそーー」
だいぶ手加減したので、無傷のはずだ。
「これで全員か」
「そうだ!!」
「お父さん、隠れていた二人を捕まえました」
シュラが二人の男を両手に抱えている。
「くそーーーーっ!!」
捕まった男達は元気だ。
足をばたつかせている。そして、シュラの細い腕に、あろうことかカブリとかみついた。
「ぎゃあああーーー、歯が折れたーーー」
「おいおい、歯が折れるほど強く女の子の手を、噛みつくもんじゃねえぜ! シュラ他には隠れていないか」
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狂気の男達は十二人いた。
さて、こいつらをどうしたものか。
おっ、一つ名案が思いついた。
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