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第二百十五話 茶臼山

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「とうさん、やばいね。夜の海って恐すぎでした」

 日の出と共にあずさと海岸へ戻った。
 朝食の準備を済ますと、あずさを残してクザンとシュラとアドを連れて、俺はふたたび漁に出かけた。
 夜捕った分だけでは、越後のマグロ祭りの分には心細いので、もう一度出かける事にしたのだ。
 残った人には、ハワイ観光を楽しんでもらう為に自由時間とした。
 その翌日、フォード教授の牧場へ行き、牛と馬をもらってフォード教授と共に日本へ帰国した。

 アメリカから帰った俺は忙しかった。
 牧場の運営の手伝い。
 その後は、大和までの鉄道の開通、これは大和八木までの路線を使い名古屋から津を経由して開通させなくてはならない。
 当然勝手には出来ないので、大和解放軍との交渉をしなくてはならない。列車の製作から試運転までは、俺が担当しなくてはならない。



 あっ、という間に一月二十八日になってしまった。

「やあ、柴井隊長。すみません、全面協力してもらって」

「何を言われます! 協力するのは当たり前です。この戦いで救っていただく者達の中には、大和の人間も多くいるはずですからね」

「シュウさん!!」

「おう、元気そうだな」

 ノブとエマとライがやって来た。
 エマとライに両手を引っ張られて、平城宮跡の大和解放軍本部に案内された。

 すでに遠方の伊達と上杉は、到着していた。

「もう観光はしてきたのか。近くに古墳もあるぞ」

「ふふふ、色々案内していただきました」

 上杉が答えた。
 柴井隊長が、よくしてくれたようだ。

「柴井隊長、俺はノブと大阪の下見がしたい。お借りしてもよろしいですか?」

「そう言うと思っていました」

「ノブ、アンナメーダーマン、アクアブラックには慣れたか?」」

「もちろんさ、毎日、ライ様のライファとエマ姉のジェニファーと練習したからね」

「そうか、それならいい。じゃあ、スケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃん、行きましょうか」

「はい!!」

 お供五人と共に大阪入りした。
 下見がしたかった目的の場所は茶臼山だ。
 俺が二月一日に、本陣にしようと思っている場所だ。
 茶臼山と言うのは日本中に結構ある。
 愛知県の新城にもあって、ここは長篠合戦の時に織田信長が本陣にした場所でもある。

 大阪の茶臼山は、標高二十六メートル、大坂冬の陣の時に徳川家康が本陣にした場所である。
 そして、なんとここには美術館があるのだ。

「なるほど、丁度良いな」

「何がですか?」

 ノブが聞いて来た。

「うむ、大阪城のまわりは荒野になっているが、ここのまわりはまだ、冴子の破壊が終っていない。伏兵するのに丁度いいと言う事だ」

「でも、木が生い茂っていて、見晴らしはよくありませんね」

 響子さんが言った。
 確かに、遠景を見るには見晴らしが悪い。

「まあ、当日は櫓を頂上に建てるとしましょう。近くに通天閣があります。ちょっと寄って、少しふかんで見て見ましょうか」

 俺達六人は、目立たないように移動すると、通天閣もまだ壊されていなかった。
 通天閣を大阪城の反対側から、新政府軍に見つからないように登ると、すごい景色がひろがっていた。

「ひでーー、何にも無くなっている」

 ノブが声を上げた。
 俺が初めて見た時より拡がっている。
 冴子の奴真面目に頑張ったようだ。

「見晴らしが良いなあ。当日はここを本陣にする方が良さそうだな」

 俺は、二月一日はここで戦局を確認し、戦いの状況を見て、大阪城に入り込もうと考え直した。

「ノブ君、見えますか?」

 響子さんが大阪城の横を指さした。

「うん、あそこにシノさんがいるんだね」

「そうだ、当日はここで状況を見て、チャンスと見たら一気に救出作戦を実施する」

「……」

 五人は無言で大阪城を見つめた。
 ここから見た感じでは、数千人の女性の救出は困難を極めそうだ。
 普通に想像してみると、それほどの大勢が荒野を走れば、とても目立つ、近くに陣を作ってそこに、いったん逃げ込んでもらうようにしないと逃げ切ることは出来なさそうだ。

「あの川を渡ったあたりか。ノブ救出した人達と、川を越えてくれ、そこに陣を築く」

 俺は、大阪城の東の川を指さした。

「うん、わかった」

「五人で、しんがりを守ってくれ、陣から援軍を出し、守りながら川を越えるんだ」

「わかったよ」

 ノブが返事をすると、スケさん達も全員うなずいている。
 全員の顔に緊張が走り、顔が引きつっている。
 風は冷たかったが、五人の顔に一筋汗が流れた。

 俺は、この荒野に変わった都市の姿の中に、当日布陣した木田軍の姿を想像していた。

「よし、わかった。では、全員平城宮跡の大和解放軍本部へ帰ってくれ」

「えっ!? シュウさんはどうするのですか?」

 響子さんが聞いてくる。

「ああ、俺は美術館をちょっとのぞいてくる」

「では、我々も……」

 今度はスケさんが言った。

「いや、ここまで忙しかった。少し一人でのんびり美術館を歩いて見たいんだ」

「シュウさんを一人にしては……」

「大丈夫、俺が我がままを言ったと言えば、全員『ふーーん』で済ましてくれるはずだ」

「それは、いつもやっていると言う事ですね」

「ふふふ、そう言うことだ」

 五人は何度も振り返りながら、解放軍本部へ帰って行ってくれたようだ。
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