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第二百四十八話 木田軍総大将あずさ
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「おお、あずさちゃん久しぶりだな」
仙台市の元輸送会社の会議室で、ゲンおじ様は私達を迎えてくれました。
「久しぶりーー!!」
私達全員が緊張で固くなっている中、あずさちゃんはゲンおじ様に飛びつき胸に顔をうずめました。
ゲンおじ様は、にこりともせずにろう人形のように、表情を変えること無くあずさちゃんを見つめます。
あずさちゃん、ゲンおじ様は怒っていますよ。
これは絶対怒っています。
古賀さんもミサさんも、坂本さんも全員ゲンおじ様と同じ表情になっています。
「ほらーー!! ヒマリちゃんもーーー」
ひえー、わ、私を呼ばないで下さーい。
でも、ゲンおじ様は左手をあずさちゃんの腰から離し、私を迎え入れる姿勢になってくれました。
――行っても良いのかな?
えーーい、いっちゃえーー!!
「おじ様ー、お久しぶりです」
おじ様は私をふわりと抱きしめてくれました。
これだけで、おじ様の優しさが伝わってきます。
「ゲンおじ様、お願いがあります」
あずさちゃんが言った瞬間、おじ様の体がビクンと動きました。
これはあずさちゃんが、また突拍子も無いお願いをするのじゃ無いかと、身構えたのだと思います。
木田家の重鎮、押しも押されもせぬゲン一家のゲンおじ様を恐れさせる人は、天下広しといえどもあずさちゃんしかいません。
「ふむ」
それでも、落ち着いた返事をしました。
さすがです。
「和歌山に大勢の兵士に来てもらいたいのです」
「兵士? それだけではわからん。いったい、何があったのか、事情を聞かせてくれないか。おお、その前に全員座って、楽にしてくれ」
「あのね、うふふ」
あずさちゃんが、とても嬉しそうな顔になりました。
凄くかわいいです。
「なんだ、嬉しそうじゃねえか」
「はい、とうさんに仕事を任されました。信頼しているって。うふふ」
「そうか、それはよかったじゃねえか。で、どんな仕事なんだ?」
「和歌山城に立てこもる熊野衆を、降伏させるというお仕事です」
「なっ、なんだって!! きょ、兄弟は何を考えているんだ。こんな小さい子供のあずさちゃんに何て仕事を頼むんだー!」
「私は、木田家のあずさですよ。おじ様」
真面目な顔になったあずさちゃんの顔は、とてもりりしく大人に見えました。
「なるほどな。あずさちゃんもずいぶん良い顔をするようになった。あずさ総大将の元にいかほど兵士をお貸しすればよろしいのかな」
「そうですね。出来るだけたくさんでお願いします」
ようやく私にもわかりました。
あずさちゃんは、大勢の兵士で包囲して、降伏させようと考えているようです。
「今出せるのは、俺と伊達家合わせて五千程だがそれでいいのか」
「はい、ありがとうございます。五日後に大和まで来て下さい」
「わかった。列車で遅れないよう行かせよう」
「あー、その時は、身軽な普段着でお願いします」
「はっ!?、武装はいらないと?」
「はい」
「ふ、はあはっはっ。何をする気かはわからねえがわかった。言う通りにしよう」
何をする気かわかりませんが、わかりませんよ。私は!!
「間に合った!!!」
ドアを凄い勢いで開けて、目つきの悪い恐い痩せた男の人が入って来ました。
「あ、柳川さん」
あずさちゃんは手を少しだけ動かしてあいさつしました。
塩対応です。可哀想過ぎます。
「あれ、木田さんは?」
「うふふ、いませんよ。いつも私がとうさんと一緒だとは思わないで下さい」
急に、あずさちゃんが嬉しそうになりました。
「そうか、あずさちゃん。とうとう……」
「うん、うん」
「追い出されたのか? いつもいつも勉強しないで悪さばかりしているから」
「そうそう、いつも悪さばかり……してませーーん。お仕事を任されたのです」
「へー、それは、めでたい。今日はうな重だなあ」
「それ、柳川さんが食べたいだけでしょ。うふふ、用意します」
「う、うな重!!」
そう言うと、私達全員がツバをのみました。
あずさちゃんが、全員の前に二個づつ用意すると、すぐにゲンさんが食べ始めます。
美味しそうな香りが部屋中に充満します。
私も、おしとやかに食べ始めました。
あずさちゃんは、とても美しく聡明です。
一見すると非の打ち所の無いように見えますが、とても残念なところが幾つかあります。
その一つがこの食べ方です。
食べ物を口一杯に入れて、ほっぺたをあり得ないほど膨らまして、口を尖らせて食べます。
やれやれだぜ、です。
でも、このうな重は美味し過ぎます。
まさか、気が付いたら私のほっぺたも膨らんでいます。
とうとう、私もあずさちゃんの残念がうつってしまいました。
大きな重箱に入っていますが、二個があっという間に無くなります。
「さあ、ご飯を食べたら、次へ行きます。次は駿河です」
あずさちゃんは、ゲンさんと柳川さんにお別れのあいさつをすると、駿河に移動して、今川家から三千の兵を借り、尾張と伊勢で二千の兵士を借りると大和の平城宮跡の大和解放軍本部に入りました。
「やあ、あずさちゃん」
「ノブ君、柴井さんはいらっしゃいますか」
「こっちだ」
会議室に案内されると、柴井さんが待っていてくれました。
遅れて、エマさんとライちゃんが来ました。
「今日は、お願いがあって来ました」
「あずさ様が今回の総大将と聞きました。大和解放軍はあずさ様に全面的に協力します」
「ありがとうございます。五日後に木田軍が一万程列車でやって来ます。その後和歌山へ移動しますので、協力をお願いします」
「そこに、千人程大和解放軍もお加え下さい。指揮はエマとライとノブに任せますので、あずさ様ご指導お願いします」
「は、はい。エマさんライちゃん、そしてノブ君、五日後に。じゃあ、私達は和歌山へ急ぎましょう」
こうして、私達は和歌山市へ移動しました。
仙台市の元輸送会社の会議室で、ゲンおじ様は私達を迎えてくれました。
「久しぶりーー!!」
私達全員が緊張で固くなっている中、あずさちゃんはゲンおじ様に飛びつき胸に顔をうずめました。
ゲンおじ様は、にこりともせずにろう人形のように、表情を変えること無くあずさちゃんを見つめます。
あずさちゃん、ゲンおじ様は怒っていますよ。
これは絶対怒っています。
古賀さんもミサさんも、坂本さんも全員ゲンおじ様と同じ表情になっています。
「ほらーー!! ヒマリちゃんもーーー」
ひえー、わ、私を呼ばないで下さーい。
でも、ゲンおじ様は左手をあずさちゃんの腰から離し、私を迎え入れる姿勢になってくれました。
――行っても良いのかな?
えーーい、いっちゃえーー!!
「おじ様ー、お久しぶりです」
おじ様は私をふわりと抱きしめてくれました。
これだけで、おじ様の優しさが伝わってきます。
「ゲンおじ様、お願いがあります」
あずさちゃんが言った瞬間、おじ様の体がビクンと動きました。
これはあずさちゃんが、また突拍子も無いお願いをするのじゃ無いかと、身構えたのだと思います。
木田家の重鎮、押しも押されもせぬゲン一家のゲンおじ様を恐れさせる人は、天下広しといえどもあずさちゃんしかいません。
「ふむ」
それでも、落ち着いた返事をしました。
さすがです。
「和歌山に大勢の兵士に来てもらいたいのです」
「兵士? それだけではわからん。いったい、何があったのか、事情を聞かせてくれないか。おお、その前に全員座って、楽にしてくれ」
「あのね、うふふ」
あずさちゃんが、とても嬉しそうな顔になりました。
凄くかわいいです。
「なんだ、嬉しそうじゃねえか」
「はい、とうさんに仕事を任されました。信頼しているって。うふふ」
「そうか、それはよかったじゃねえか。で、どんな仕事なんだ?」
「和歌山城に立てこもる熊野衆を、降伏させるというお仕事です」
「なっ、なんだって!! きょ、兄弟は何を考えているんだ。こんな小さい子供のあずさちゃんに何て仕事を頼むんだー!」
「私は、木田家のあずさですよ。おじ様」
真面目な顔になったあずさちゃんの顔は、とてもりりしく大人に見えました。
「なるほどな。あずさちゃんもずいぶん良い顔をするようになった。あずさ総大将の元にいかほど兵士をお貸しすればよろしいのかな」
「そうですね。出来るだけたくさんでお願いします」
ようやく私にもわかりました。
あずさちゃんは、大勢の兵士で包囲して、降伏させようと考えているようです。
「今出せるのは、俺と伊達家合わせて五千程だがそれでいいのか」
「はい、ありがとうございます。五日後に大和まで来て下さい」
「わかった。列車で遅れないよう行かせよう」
「あー、その時は、身軽な普段着でお願いします」
「はっ!?、武装はいらないと?」
「はい」
「ふ、はあはっはっ。何をする気かはわからねえがわかった。言う通りにしよう」
何をする気かわかりませんが、わかりませんよ。私は!!
「間に合った!!!」
ドアを凄い勢いで開けて、目つきの悪い恐い痩せた男の人が入って来ました。
「あ、柳川さん」
あずさちゃんは手を少しだけ動かしてあいさつしました。
塩対応です。可哀想過ぎます。
「あれ、木田さんは?」
「うふふ、いませんよ。いつも私がとうさんと一緒だとは思わないで下さい」
急に、あずさちゃんが嬉しそうになりました。
「そうか、あずさちゃん。とうとう……」
「うん、うん」
「追い出されたのか? いつもいつも勉強しないで悪さばかりしているから」
「そうそう、いつも悪さばかり……してませーーん。お仕事を任されたのです」
「へー、それは、めでたい。今日はうな重だなあ」
「それ、柳川さんが食べたいだけでしょ。うふふ、用意します」
「う、うな重!!」
そう言うと、私達全員がツバをのみました。
あずさちゃんが、全員の前に二個づつ用意すると、すぐにゲンさんが食べ始めます。
美味しそうな香りが部屋中に充満します。
私も、おしとやかに食べ始めました。
あずさちゃんは、とても美しく聡明です。
一見すると非の打ち所の無いように見えますが、とても残念なところが幾つかあります。
その一つがこの食べ方です。
食べ物を口一杯に入れて、ほっぺたをあり得ないほど膨らまして、口を尖らせて食べます。
やれやれだぜ、です。
でも、このうな重は美味し過ぎます。
まさか、気が付いたら私のほっぺたも膨らんでいます。
とうとう、私もあずさちゃんの残念がうつってしまいました。
大きな重箱に入っていますが、二個があっという間に無くなります。
「さあ、ご飯を食べたら、次へ行きます。次は駿河です」
あずさちゃんは、ゲンさんと柳川さんにお別れのあいさつをすると、駿河に移動して、今川家から三千の兵を借り、尾張と伊勢で二千の兵士を借りると大和の平城宮跡の大和解放軍本部に入りました。
「やあ、あずさちゃん」
「ノブ君、柴井さんはいらっしゃいますか」
「こっちだ」
会議室に案内されると、柴井さんが待っていてくれました。
遅れて、エマさんとライちゃんが来ました。
「今日は、お願いがあって来ました」
「あずさ様が今回の総大将と聞きました。大和解放軍はあずさ様に全面的に協力します」
「ありがとうございます。五日後に木田軍が一万程列車でやって来ます。その後和歌山へ移動しますので、協力をお願いします」
「そこに、千人程大和解放軍もお加え下さい。指揮はエマとライとノブに任せますので、あずさ様ご指導お願いします」
「は、はい。エマさんライちゃん、そしてノブ君、五日後に。じゃあ、私達は和歌山へ急ぎましょう」
こうして、私達は和歌山市へ移動しました。
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